逃がしたクジラ?3
「父があなたを傷つけたのなら謝ります。父はきっと、一生謝ることはできない人ですから」
「あなたは違うのね?」
「僕は謝ることは悪いことじゃないと思う。父は変なプライドがあるみたいです。僕には理解はできません。見栄を張るより、気持ちよく過ごすために、謝ることも必要だと思ってます。どちらも悪いってこともいくらでもあるし。僕が謝れば向こうも謝る。そういうことも多いですから」
「そう。意外と柔軟性ありって、わけね」母が東条さんを見ていた。東条さんが笑って、
「じゃあ、そういうことでよろしく」と言ってきた。
「テレビって、この間の人たちみたいなことはないの?」
「うーん、程度の差かな。視聴率のためなら、色々見ていられないことは見えてしまうかもしれないな」
「えー、また、幻滅しそうだね」
「テレビに出ている人の意外な素顔は見えてしまうかもしれないけれど、そういうのも知っておいた方がいいかもしれないからな」
「でも、まあ、面白そうだね」
「そう言うと思った」と東条さんが笑っていた。
その後、電話があり、母がやり取りをしていて、カフェスペースでコーヒーを飲んで東条さんに、ここの活用方法を聞いていた途中だったので、
「なんだったの?」と戻って来た母に聞いたら、
「蒲生って男、自供し始めたそうよ」
「やっとなんだ?」
「最初は頑なだったようだけれど、雑談の合間に相手の事情を聞いてね、それで少しずつだけれど、話してくれているそうよ。それから、あそこの家に家宅捜索に入って。お父さんの荷物が見つかったそうだから」
「え、あったの?」
「だから、これから話してくれるかもしれないわ。警察はそこまでは教えてくれなかったけれど」
「そう」
「荷物の引取りは?」と東条さんが聞いた。
「そうね。おじさんに預かってもらって、そのうち、私が行くわ。明日もイベントがあるから」
「僕も出ることになっているんです」と東条さんが言った。
「あなたもなんだ?」
「あちこちから頼まれるからね。俺も駆り出されるだけ。若い女性が多いところに回される」
「はいはい」
「お父さんのこともちゃんと話してくれるといいけれど」
「どうだろうな。とにかく、何かあったら連絡しろよ。宮城に行きたいなら付き合ってやるから」
「マメだね」
「愛のなせる業だろ」
「美少女とどうぞ」
「お前、根に持ち過ぎ」
「うるさいの。あなたは一言余分なのよ」
「いいじゃないか。分かりやすくするために具体的なことを教えただけで」
「ああいう時ぐらい、『かわいいので、その可能性もあります』ぐらい言っておけばいいでしょう」
「嘘はいけないだろ」と言ったので思わず叩いた。
「ほらな。美少女だったら、叩かない。お前は態度が駄目。もう少し大人になれよ」
「うるさいの」
「呆れる二人ね。子供みたいよ、あなたたち」
「お母さんもなんとか言ってよ。娘は美少女ですって」
「あら、これから美少女になればいいじゃない」
「お母さん」と睨んだら、東条さんが笑っていた。