リサーチ5
「そういう相手しか受けてないよ。こっちが払う相手だとお金が続かないだろ。それに勘違いされない程度で抑えているし、家まで送らない。せいぜい、駅まで。迎えに行くことはしたこともないし」
「ふーん、でも、デートでしょ」
「デートと言えばそうかな。でも、リサーチをかねてるし」
「リサーチ?」
「女性との会話で色々と勉強中だからね」
「呆れた。それじゃあ、相手がかわいそうじゃない」
「喜んでるよ。相手はうれしそうに食事してるし、気分良く帰ってるし」
「次のデートでも?」
「ああ、合わないタイプ、会話しても底が見えるタイプは二度目はないよ。でも、続いても、せいぜい数回程度」
「とっかえひっかえになるわけだ」
「誘われると断れなくてね」
「評判が悪くなりそう」
「そうか、俺の周りも似たようなものだけど」
「宝陽って、遊び人のナンパ師が多いって聞いたことがある」
「誤解だな。俺は誘われたことはあっても、そこまで誘わないよ。深入りされると困るし」
「浅い付き合いなんだ」
「広く浅くがモットー。親父と同じ」
「お父さんに似たのね。うちの父親と大違い」
「お前の父親のタイプなら分かるな」
「知らないくせに。有名じゃなかったよ」
「有名?」
「画家だったの」
「ふーん。でも、分かるって言ったのは別の意味。雪人って人に似てるだろうな。性格か顔か、そういう部分が」と言われて驚いた。そう言われてみたら、確かに似ている部分があった。父も優しくて怒ったところを見たところがない。穏やかで海のような人だった。思い出して辛くなってうつむいてから、
「気にしない」と呪文を唱えた。
「なにが?」と聞かれても黙っていた。
「画家の娘にしては、趣味が悪いかもな」
「趣味?」
「受ける場所に合わせて服装を選んでこないからな」
「え、どういう意味?」
「普通はサバトを受験する前に、リサーチはするだろ。そこの有力者の好みの服装って言うのがあるだろうから、それに合わせて服装から髪型とか、色々変えてきてもいいと思うけど。お前は野暮ったかったから」
「失礼ねえ。普段着で行って何が悪いのよ」
「今度からそれぐらいは気を使えよ。占い以外にも気配りは必要だ」そこまで考えてなかったので、ちょっと落ち込んだけど、
「母子家庭だと無理だよ。あなたのようにおこづかいたっぷりじゃない。バイトも許可が要る学校だしね」
「家でバイトしろよ」
「プロキオンと違って、お客さんはそれほど来ないの」
「営業努力が足らないな」
「お坊ちゃまに言われたくない」
「俺は高校までは確かにおこづかいはもらってたけど、大学からは自力だ。だから、ずっとバイトしてるんだし。友達もあまりただでは占わないからな」
「え、そうなの?」
「母親がそうしたんだよ」
「お父さんがくれるんじゃないの?」
「父親は見栄っ張りだけど、車を買ってくれた程度。おこづかいとか生活費とか、そういうものは親父の秘書が管理していて、俺がもらえるのはお前と変わらない程度のおこづかいだけ。母親は気前は良かったけど、大学からは『自分で何とかしろ』って言われたからな」
「ふーん、でも、もらえるだけいいじゃない。お姉ちゃんなんて、学校に内緒でバイトして貯めてた」
「ふーん、しっかりしてるな」
「ある部分だけしっかりしてる」
「お金だろう?」と聞かれて、にらみたくなった。
「ああいうタイプは早めに終わらせたくてね」
「え、それで、早めに席を勧めていたの?」東条さんは姉だけは世間話は少なめで、早めに席を勧めて、早めに占っていたように感じた。
「ああ。相手に合わせるからな。せっかちな人には早めに、苦手なタイプはそれなりに、学生は毎回似たような相談だから、それで早めになるし」
「そう言えば、気になってた。学生割引と内容の濃さが関係あるってどういう意味?」
「だから、働いている人だとそれなりに悩みが深かったりするんだよ。学生だと成績や親、友達、恋愛が一番多いからな。それでそこまで時間は掛からないから早めになるだけ」
「料金に合わせて占ってるってこと?」
「そういうわけでもないけどな。働いている人だとじっくり占いを聞きたがる人もいるよ。それで時間が掛かる人が多いだけ。学生だとそこまで熱心なのは少なかったよ、俺はね」
「あなたの場合はファンが多そうね。雑談のほうが多くなるタイプでしょ」
「それも大切だろ。また、来てもらわないといけない。気分良く帰ってもらい、また、来たいなと思ってもらわないと。リピーターが多くないと成り立たないからな」
「商売上手だね」としか言えなかった。