逃がしたクジラ?1
神宮寺に誘われて、初もうでに行き、おじさんの家に行った話をした。蒲生さんの母親の話もしたら、
「そうか、大変だったな」
「警察から連絡がないの」
「難しいかもな。そういう母親がそばにいると、話をしたくなくなるかも」
「え?」
「俺がその人の息子だったら、そうする。何を言っても無駄な気がする」
「疲れるからだろうね」
「真珠が無事でよかったよ」と言われて、東条さんを思い出した。
「わざわざ来てくれた」
「え?」
「東条さん」
「マメだな」
「そうだね」
「真珠、あいつと付き合うつもりか?」
「うーん」としか言えなかった。
「俺さ、誘われている」と言ったので、神宮司の顔を見た。
「好きなの?」
「まだ、分からない。でも、かわいい子だとは思うよ」
「そうか」と言って、
「遠慮しなくていいよ」とだけ告げた。
「でも、俺とお前はそれでも友達だから。ま、うまくいかなかったら、隣を空けて待っていてくれ」
「えー!! 待ちの女なの? 嫌だ」
「やっと笑った。そのほうがいいぞ」
「もう、冗談を言うんだから」
「お前も言えよ。好きだって」
「え?」
「好きな相手に好きだと伝えておけるうちに、伝えておかないとさ」
「そうだね」お父さんに謝れなかった。伝えられる相手がそばにいるうちに伝えておかないと後悔するかもしれない。でも……。
「ま、お前に振られた俺が言うのも、なんだけどな」
「え、振ったの? わたしが?」神宮寺が笑った。
「お前の態度を見て決めたから」
「ごめん」
「友達のままでいようってことなんだと思うことにした。と、新年早々、言うことでもないか」
「そうだよ」
「ま、いいじゃないか。もし、俺が駄目で戻ってきたら、優しく慰めてくれ。友達としても、女としても」
「うーん、まだまだ、私も駄目だからなあ。友達として牛丼を奢らせてもらう」
「良し、それで大目にみてやるよ」
「もう。どっちが悪いのよ」
「お前。逃がした魚は大きいと思ってもらえるようにがんばらないとな」
「鯛? ヒラメ?」
「いや、せめて、まぐろかハマチにしてくれ。サメじゃないけどな」
「サメは逃がしても惜しいと思わないよ。食べられないもの。サーモンか、あとは」
「お前、すしネタで考えるなよ。魚の大きさで考えろよ」
「だったらクジラ?」
「クジラは魚だったか?」
「さあね、どっちでもいいよ」
「おおざっぱな奴」と神宮寺が笑っていた。