蒲生さん2
「好きな相手のために、わざわざ車であそこまで」
「真珠、あの人のこと、大切にしてあげなさい。友達としてでも、同業者としてでもいいわ」
「え、前と言っていることがちが」と言いかけたら、
「あの人は真珠のことを大切にしてくれる。そこだけは真実だから。ただ、これからもそうだとは限らないので、気を許してはだめよ」
「言ってることに矛盾がある」
「そうね、つい、あの人と比べてしまう」
「お父さんと結婚して、幸せだったでしょ?」
「そう。お父さんは、それも知っていて、支えてくれた人よ」
「え?」
「知り合ったのはそのころなの。あの人は優しく慰めてくれた。二人で暮らし始めて、そのまま結婚してね。楽しかったわ。お金はなかったけれど、二人でいられることがとても幸せだった。結婚に憧れていたのもあるからね」
「え、どうして?」
「両親に囲まれて暮らしている友達がうらやましかっただけ。だから、早く、そんな家庭を作りたかった。でも、別れて正解だったと思う。東条圭吾と結婚していたら、私も離婚していたと思う。確実に」
「え、どうして?」
「相手に対しての思いやりはないもの。誠実なのは見せかけだけ。表面だけは誠実な人だったわ。口は誠実、でも、中身は違った。そういう人だったから、長くは続かないわね。あなたたちも苦労させてしまったと思う」
「そう? お姉ちゃんなら、お金をせびっていたと思う」
「あら、あの人が成功したのは、結婚した相手に援助してもらったからよ。若い男に援助したいと思っている実業家を捕まえて、のし上がったの。そういう男よ」
「え、そうなの?」
「業界の噂で知っていると思った」
「そういう生臭い話は私にはしないでしょ」
「まあ、そうね」
「お母さん、幸枝さんとおじさん、結婚しないままなんだね」
「そうね、そのことはおじさんが考えていくことだから」
「なんだか悪くて」
「あら、どうして?」
「私が警察沙汰にしてしまったから、あの人、困った顔をしていたから」
「あら、そうなの? それは困ったわね。こちらから、何か送っておくわ」
「ああ、そうじゃなくて、えっと、そうじゃなくて、あの人自身が昔……」母は黙っていたけれど、
「迷惑をかけたんだから、贈っておきましょう。東条さんのところは新年が明けたら、行きましょう」
「お母さん、営業で忙しくなるでしょう?」
「向こうも同じでしょう。テレビに出るかもしれないから、そうしたらチャンネルを変えるわ」と強く言ったので笑った。