蒲生さん1
東京に戻り、姉は、
「あーあ、クリスマス、全滅なのよ」とぼやいて、あいかわらずだった。
「相手のなんとかって男からお金もらえないの?」と母にぼやく始末で、
「やめなさい」と母が止めていた。
電話が掛かってきて、母は誰かと喧嘩をしていて、
「とにかくですね、そのことは警察に任せてありますから。はい、ですから、それが事実なんでしょう」とすごい剣幕だった。
「なに?」と母に聞いた。あの男性は、蒲生俊夫と言い、埼玉に住んでいたけれど、東北の大学に進み、そのまま向こうに住んでいると言う。両親は埼玉にまだいると言う。
「その母親が変なことを言ってきただけよ」
「何を?」
「『うちの俊夫ちゃんの前途ある未来をつぶしてくれて、どう責任取るんですか?』ですってよ。あきれるわね。何かの間違いだとか、でっち上げだとか、責任のがれの発言で、あの親ではああいう息子ができても、当然ね」
「お母さん、言い過ぎ」
「言いたくなるわよ。聞いていられない。謝罪もなしで、言いがかりばかり付けてきて、もしも、あの息子が犯罪を犯していたのがはっきりしたら、今度はなんて言いがかりをつけてくるんでしょうね」
「え、謝ってくるんじゃないの?」
「あら、謝ってくるわけはないわね。普通はね、ああいう場合は、こちらに連絡してくるにしても、もう少し早くしてくるわ。それなのに、電話でこうやって言いがかりをつけてきて」
「忙しかったのかもしれないよ」
「だとしても、あの車はカメラに映っているのだし、そのあとに、あなたを襲った。それで関係がないとは言い切れないでしょう」
「証拠は出てないの?」
「時間が経っているからね。もう少し早く分かっていたら」
「お父さん、私に知らせてくれたんだろうね。あの場所を」母が黙った。
「お父さんの気を強く感じた気がしたの」
「真珠、その話は友達やほかの人にはしては駄目よ」
「分かってる。身内に対する、何かの知らせみたいなものだって。虫の知らせって、あるんだって。雪人さんに教えてもらった」
「そう、あの人に」
「不思議だね。言語以外のコミュニケーションの話をしてもらった」
「そう言えば、あの人と、東条さんの息子さんがケンカをしていたらしいわ。近所の人が目撃していたらしくて」
「え、なんで?」
「内容まではね。でも、東条さんもあなたのことが心配だったのよ、きっとね」
「あの人……わざわざ来てくれたね。二度も」
「好きなのよ、あなたのことが」
「それで、あそこまでするものなの?」母が黙った。