意外と優しい4
東条さんは、帰ると言うので、外まで見送ることにした。改めて、
「ごめんね」と謝った。
「泊まってやりたいけれど、俺を待っている女性たちがいるために、泣く泣く帰らないといけない」
「はあ? 懲りてないね、あなた」おじさんがいなかったので、
「お前、あの人にちゃんと言えよ」
「なにを?」
「好きだと。付き合ってほしいと」と言われて、驚いた。
「どうして、そんなことを言うの?」
「あきらめきれるのか?」と聞かれて、
「良く分からない」と答えた。
「なんだよ、それ」
「高根の花だと思っていたから、付き合いたいとか、そういうことも考えないで、とにかく憧れだけで見てた。優しくって、頭が良くって、顔も良くて」
「俺の方がいいだろう」と言い切ったので、
「うぬぼれが強いね。それは好みの問題 雪人さんのほうが素敵」
「そうか? 運動ができなさそうだけれど。世渡りも下手だろうし」
「え?」
「相変わらず、相手を美化して、ちゃんと分かってないな。あの人のこと。ちゃんと見ろよ。それで、俺とどちらがいいか選べ」と言われて驚いた。
「え、でも」
「ちゃんと考えておけよ。宿題だ」
「えー、嫌だ」
「うるさい。お前はそれぐらい言わないとはっきりさせないだろうから。それだと俺が困る」
「別に困らなくても、その間に、あちらの美女、こちらの美少女と遊べばいいでしょ。いたずらや痴漢に遭いそうな美女と」
「お前、根に持ってるだろ」
「ああいうときに本音が出るよね。警察の人にそこまで説明する?」
「いや、分かりやすく言ったほうが」
「懲りないわね」と言ってから、東条さんの服を見た。
「え、これ?」東条さんが困った顔をしたあと、
「かすり傷だ」服の一部が破れていた。上着で隠れて見えにくくなってはいたけれど、
「言わなかったじゃない。警察の人にちゃんと言わないと」
「いいよ、これぐらいは」
「この服、高いんでしょ?」
「いや、大丈夫だから」東条さんの顔を見た。笑っていて、
「笑い事じゃないよ。もし、刺されていたらどうなっていたか」
「大丈夫。ちゃんと避けただろ」
「馬鹿。そういう問題じゃないでしょ。あなたは無茶よ。相手はナイフを持ってたんだよ。いくら貧弱な体形の男性だったとしても」
「お前も結構、相手に失礼なことを言ってるぞ」と笑っていて、東条さんにしがみついた。
「お、おい」と東条さんが珍しく慌てていて、
「ごめん」としがみついたまま言った。
「どうした?」と優しい声がした。
「ごめん、私のために。東条さん、怪我しなくて良かったよ」
「大丈夫。真珠がついていてくれるから」
「でも、怪我してたら」
「大丈夫。真珠が無事だったことのほうがうれしい」と言ってくれたので驚いた。
「じゃあ、良い子でいい夢を見ろよ。東京で会おう」と言いながら、頬にキスされてしまい、
「あー!!」と怒った。
「さ、退散」と離れてしまい、
「もう、要領がいいんだから」とにらんだけれど、それほど嫌ではなかった。前はあれだけ嫌だったのに。東条さんはさっさと車に乗り込んで行ってしまい、
「ま、いいか。減るもんじゃないし」と言ってから、おじさんのところに戻った。