リサーチ4
帰える途中で東条さんの車が止まっていて、嫌だったので駆け出したら、慌てて東条さんが降りてきて追いかけられてしまった。早めに走ったつもりだったのにすぐに追いつかれ、
「意外と早いな」と言いながら、それほど息も切れていなかった。私は、「はあはあ」言いながら、
「離してよ」腕をもたれていたので払ったら、
「何、怒ってるんだ?」と驚いていた。
「無神経にもほどがある。……昨日、何したのか覚えてないとでも……言うの」息も絶え絶えになんとかそう言ったら、
「ああ、あれ」と軽く言ったので、
「何で、あの人の目の前でああいうことをするのよ」
「別にいいだろ。それぐらい」
「そ、それぐらいってねえ」呆れてものが言えない。
「あなたと違って、こっちはそれぐらいじゃないの」
「ふーん、そういうのを大事にしてるんだな」
「あなたはそれほどじゃないかも知れないけど、私にとっては大事なの」
「ひょっとして初めてなのか?」と聞かれて、思いっきりにらんだ。
「ふーん、それは知らなかった。その年だと経験済みが多いと思ってたからな」
「あなたとは違う」
「俺は小学生だったし。しかも、何人にもせがまれて」
「はあ?」
「それぐらい普通だろ」
「おかしい。あなたは絶対におかしい」と言い合っていたら、そばを通り過ぎる人がこちらをちらちらと見ていたので恥ずかしくなった。
「送ってやるよ。ここで話すのもおかしいからな」と言われて、辺りを見回したら、何人かこちらを見ていた。
渋々送ってもらいながら、しばらく無言だった。
「それで?」東条さんに聞かれても窓の外を見ていた。
「反応は?」
「怒ってるわよ」
「それはお前だろ。あの男はどうだった? 俺が見たところ、無反応だったからな。だから、あの後も」と言われて、怜奈ちゃんと同じことを聞くんだなと思ったけど、
「抱きしめてくれていただけ」
「あいつが? ありえないだろ。そういうところに気を使わないタイプだな。勉強以外にそれほど興味がないだろうし、およそデートもほとんどしてないタイプだろうな。うちの学校にもいるから、ああいうタイプ」
「あなた、どこの学校よ」
「宝陽」
「お金持ちの行く学校ね。見栄っ張りなあなたにぴったり」
「見栄ねえ。確かにな。親のエゴも関係あるかもな」
「エゴ?」
「父親は特にそういう部分を気にする。ああ、母親も同じだったな」
「過去形ですか」
「うちも離婚してるから」
「『も』? 私のところは違う」
「だって、今はいないんだろ」と聞かれて、悲しくなって横を向いた。しばらくしてから、
「ごめん」と東条さんが謝ってくれたけれど、説明するのも嫌だった。
「雪人さんとは違うね。あの人は、国立だから」
「東大か?」と聞かれて黙った。
「じゃあ、別のところだ。H大って雰囲気じゃないな。T工大か、T農工大?」と聞かれても黙っていたら、
「当たりだ」と笑っていた。
「別にいいでしょ」
「ふーん、なるほどな。そういう感じではあったな。でも、諦めろ」
「なんでよ」
「お前に脈アリなら、それなりに反応するだろ。でも、ノーリアクションだったから。お前の気持ちにすら気づいてないかもよ」
「え?」
「そういうタイプもいるさ。お前がいくら好きだと言う目線で相手を見ていても、それに鈍感なタイプもいるから。あの人はお前がはっきり意思表示しないと分からないタイプだろうなあ」うーん。
「でも、お前にはそこまで無理そうだ。俺にしておけ」
「やだ」
「即答するな」
「あなたのコレクションに加えられるのは、嫌。いくらでもいるでしょ。デート相手」
「ああ、あれね。デートと言えばデートだけど営業もあるし」
「営業なの?」
「半々かな」
「ホストみたいだね」
「お前、何か勘違いしてないか?」
「家まで迎えに行って、食事をおごって、相手をほめて、その気にさせて、家まで送っていけば、誤解されるでしょ」
「ああ、そこまではしないよ。ほとんどは女性の奢りだから」
「それはひどくない?」と聞いた。