リサーチ3
「元気がないねえ」とおばさんに言われてしまった。近所に住んでいるおばさんで、子供が結婚するので、それを占ってもらいに来ていた。
「ごめんなさい。向こうに行ってます」と言ったら、
「いいよ。お茶を入れてあげるから、元気出しなさいよ。うちの娘もそういうときがあってねえ」と優しく言ってくれて、
「すみません。私が入れないといけないのに」とため息をついて座っていた。今日は元気がなくて、掃除をしながら何度もため息をついてしまい、師匠が心配してくれて、
「やらなくていいよ、無理しなくても」と言うのも聞こえなかったぐらいだった。
「真珠ちゃんが元気がないと、橋添さんも元気なくなるでしょ」と師匠に聞いていた。
「そうだね。色々やってくれるから助かってね」
「部屋が片付いているものね」と言って、お茶を出してくれて、頭を下げた。
師匠が占いの続きをしだして、
「うーん、そうだねえ。向こうの家では反対してるだろう?」と聞いていた。
「そうなのよねえ。困っちゃって。家の格がどうとか、うるさいことを言ってきてね。息子さんは娘を気に入ってくれても、親はもっといい家の娘を、と思っていたらしいのよ」
「そうかあ。困ったなあ」と言って、相談にのっていた。
「カードと内容が違っていてもいいんでしょうか?」お客さんが帰ってから、かなり経ってから、そう言えば占い結果がカードと違っていたのを後で聞こうと思い出して、聞いてみた。
「ああ、あれねえ。そうだね。相手にとっては一番心配な部分があるだろう? だから、拡大解釈して相手にとって一番いいと思える言葉に変えただけだからね」
「どうしてですか?」
「占いも大事だけど、相談所みたいなものだからね。だから、相手の話を聞いてあげる必要があるんだよ。自分でも迷っていたり、でも、自分一人で考えるには気が重いことだってあるだろう? そういうときに誰かに聞いてもらって楽になりたいと思うからね。だから、今日の話も内緒だからね」守秘義務のことは何度も注意されていた。
「分かりました」
「真珠ちゃんは言うような子じゃないと分かってるけどね。でも、お客さんはうちを信用して来てくれているからね」
「お金をもらって相談に乗る以上、ちゃんとしないといけないってことですね」と言った後に考えていた。
「それより、元気がないね」
「初恋が実らないと言われてしまったんです」
「うーん、そうか。僕も実らなかったし、そう言われたら、そばにいた人のほとんどが実ってないかもね」そう言われたら、そうかもしれない。厳密に言えば、前にもあこがれた人はいたことはいた。ただ、すぐに気に入らないと言うか、駄目な部分が見えて、熱が冷めたものばかりだった。長続きしたのは初めてだったので、初恋と言えなくはないなと思った。
「自分からいかないと駄目でしょうか?」
「女の子から行くのもいいとは思うけどね。できる?」と聞かれて首を振った。
「そうだね。自分がしたいと思えるなら、してもいいね。でも、無理はしない。僕はそうやって奨めているよ」
「そうですか。なんだか、言えなくて。相手は大学生で頭も良くて優しくて、完璧なんです」と言ったら、笑われてしまった。
「完璧な人なんてこの世にいないと思うけど」
「でも、すごいんです。国立大学に行っているのに偉ぶらないで、私のことも優しく接してくれて、学校の男子と大違いで」
「年齢が上だからかもしれないな」
「でも、同じ年齢でも失礼な人もいますよ」東条さんを思い出して、首を振った。思い出したくない。
「そうだね。精神年齢と実年齢が合わない人は大勢いるね」
「私も低いからなあ。恋愛年齢が小学生だと言われることがあって」
「そう? 好きな人はいるんだろう?」
「友達がデートした数が多いから、それで言われてしまって。私はゼロだから」
「そうなんだ。一度、デートしてみるとか?」
「友人に薦められた相手は友達としか見えなくて」
「そうか。じゃあ、無理しなくてもいいんじゃないかなあ」
「先生は恋愛に悩んだことはありますか?」
「うーん、それなりにあったけどねえ。何しろ、昔のことだし」
「昔ですか」
「僕も一度だけ結婚したことはあるけどねえ。逃げられちゃったし」
「逃げた?」と言ってから、
「すみません」とうつむいた。
「いや、お客さんもこの辺りの人もみんな知ってるからいいよ」
「そうですか」自分の家のことを思い出した。それだと色々言われるだろうなあ。
「色々あるかもしれないけど、真珠ちゃんは真珠ちゃんらしくしていればいいと思うよ」
「私らしくですか」うーん、難しいなあ。人の恋愛を占ってばかりいて、友達のデートや喧嘩話はいっぱい聞いてるけど、自分のこととなると。
「やっぱり無理ですね。よく分からないし」
「明るくしてなさい」と言われて、うなずいた。