父の足跡1
設定は昔の考えました。当時と地形などは違っています。
お父さんの手帳をコピーしたものを持ってきて、おじさんに地名を聞いた。ドライブしながら、
「たぶん、角館のほうまで足を伸ばすつもりだったんだろうな。ただ、どこで」と言って言葉を切った。どこで行方不明になったのかは結局わからなかった。今度の旅行は泊まる場所を決めていなかったようだ。現地で決めることもあるらしく、決まった時点で連絡してくれる。それがなかった。だから、どこにいたかさえ把握できない状態だった。
お父さんが見つかった場所に行き、おじさんと二人で手を合わせた。幸枝さんは遠慮したのか一緒には来なかった。
「ここじゃない」
「ん?」おじさんがこっちを見た。
「ここじゃないね。お父さんが亡くなった場所」
「そうか、そうかもしれないとは俺も思っていた。あの後、来たからね」おじさんも母や私に似て、勘がいいところがある。
「どこだろう。ここじゃない気がする」
「そうなのか?」
「なんとなく、そう思えるの」
「お前がそう思うのなら、そうかもしれないな」
「おじさん」と広大おじさんを見た。
「お父さんって、どういう人だった?」
「優しい人だったよ」
「違うの。私、お父さんのこと、何も知らない。お父さんがどこで生まれて、どんな育ちをして、お母さんとどういう出会いをして結婚したのか。お母さんが話してくれた話は、同棲していたとか、ケンカしていたとか、そういう話ばかりで、お父さんがどこのだれで、どこの出身なのかを知らないよ」と聞いたら、困った顔をした後、
「お前のお父さんは、そうだな、そういう話は少ししか聞いていない。ただ、私から言うのは困るから、いつか時期が来たら、お前たち姉妹にもお母さんから話があると思う」
「そう。結局、葬儀もしてないから。身内だけでお経をあげてもらって、それしかしてなくて、お姉ちゃんが何度か聞いてた。お父さんの身内って誰なのかって」
「藍子があきれていた。輝子は財産とかそういうことばかり気にすると。幸枝のこともいろいろ言っていたようだけれど」
「ああ、そう言えば、ごめんなさい。私、知らなくて、幸枝さんのこと、どういう話題をしたらいいのか、わからなくて。家庭の話とかしてはいけないような気がして」おじさんが困った顔をした後、
「輝子には言わないでくれ」と前置きをしてから、知り合った時からあまり幸せではなかったこと。結婚はしていなかったけれど、家庭で苦労をしていて、問題があって、それで入籍をしていないと言う。
「そう、ごめんなさい。知らなかったから。変なことを言ってしまったかも」
「それはしょうがないだろう。藍子には、少しだけ説明をしてある。幸枝は籍を入れたくないと言っている。だから、輝子はそんなことを気にしなくてもいいと言うのに、それに財産なら」と言いかけてやめていて、
「私は、輝子が気にするようなお金なんて、ほとんどないからな。輝子も困ったものだ」
「お姉ちゃん、この頃八つ当たりするような、きつい口調が増えた」
「会社に知られたくなかったからだろう」お父さんの死体が山林で発見されたニュースは、新聞に小さく出ていた。
「お父さんのことが嫌いだったのかな?」
「だとしても、あの子の態度は問題だな。妹を気遣うどころか八つ当たりしているようでは」
「お母さんから聞いたの?」おじさんがうなずいていた。そうか、それで、会ったときにああ言うことを言っていたんだ。