姉が言う理由2
「忠告による欠点指摘の場合は、考える必要もあるかもしれない。でも、あら捜しするタイプが、あれこれ指摘してくる欠点は、相手のほうに理由があるんだと思うけどなあ」
「はあ」
「あらさがしするタイプが集まると、その場にいない嫌いな人とか、嫌いな女性のタイプのあらさがしをして悪口を言い合ったりするだろう? 女性が多いと、そういうことが起こり得るからな」
「言ってる意味が分からない」
「お前に欠点があっても、親切心から指摘してるんじゃないんだよ。そうじゃなくて、自分が納得できないことがあって、相手の欠点を無理やり探して、相手のせいにしているというか、憂さを晴らす材料にしているというか、話をすり替えているというか」
「はあ、どういう意味?」
「お姉さんがお前の容姿のことをあれこれ言うのは、多分、ほかの理由からだ」
「理由ねえ」
「お姉さんは結婚相手を見つけたい。でも、結婚相手はなかなか見つからない。『これだけ綺麗なのに、どうして認めてくれないの、世間の男たちは見る目がないわ』なんて思っていそうだ。そういう憂さをお前の容姿を傷つけることで晴らしている」
「えー!!」
「驚くことはないと思うけど。それプラス、お父さんのことで受け止められない。お前と仲が良かった、お前と似ている父親のことをお前に当たり散らすことで晴らしてるのかもな。俺は好きにはなれないタイプだな」うーん、当たってるかも。
「自分の姉ではあるけれど、ちょっと、困るね、それって」
「無理だよ。女性が集まると、話の論点がずれていくからな。理性より感情重視、その場の勢いでどう話が転ぶかわからないし、俺は苦手だけど、よく相談を受けるし、巻き込まれやすいんだよな。フェミニストだから」
「八方美人な態度をするからじゃないの?」
「それもあるだろうな」と笑っていた。
「笑い事じゃないよ」
「どう言ったらいいんだろうな。たとえば、同じような欠点を持っていても、ある人は許せる、ある人は許せない。その基準が露骨だろうな。お前のお姉さんの場合だと特に」
「基準?」
「その場の勢いで変えそうだ」
「え、なんで?」
「友達が同じことをしていても許せる。気に入らないタイプがしていたら、『ありえない』って怒るってこと。つまり、お前と似たような容姿をしていたとしても、友達なら許せる。でも、気に入らない人なら、途端に駄目判定」
「はあ?」
「それぐらい露骨。だから、当てにならない。気にしてたらしょうがない。だって、基準があいまい。友達や自分に近い人なら許せる。気に入らない人は許せないってこと。欠点の問題じゃない。している人のことを、お姉さんがどう思っているかどうか、立ち位置によって意見がコロコロ変わる」
「なるほどね」と考えてしまった。そう言われると、そうなのかもしれないなあ。
「良くわからないよ。お姉ちゃんの感覚が」
「元気出せよ。今度ドライブでも行こうぜ」
「ごめん、その前に」
「聞いた。大丈夫か? 旅行なんてして」
「そうでもしないと、落ち着かないの。少しでもお父さんのそばに行きたくて」
「え、でも」父の遺体は引き取るように言われて、母が引き取りに行き、父のお骨は今は仏壇に飾ってある。
「お父さんの気持ちはあそこにない気がするの。あの地にある気がして」
「あの地?」
「東北に」
「そうか」
「だから、一度行っておこうと思って」
「一緒に行こうか?」と聞かれ、驚いた。
「え、でも、あなたとは」
「心配なんだ。なんだか」と言われて立ち止まった。
「そこまでしてもらうわけにはいかないよ」
「分かってる。でも、そばについていてやりたいだけだから」
「ごめん、そういうのはちょっと」
「神宮寺には任せておけないからな。お前の場合」
「どういう意味?」
「あいつは……」
「なによ?」
「いや、ちょっと頼りないと言うか」
「そう? いいやつだよ」
「友達としてはね。男としてはお前には向いてない。雪人さんと同じだ」
「え?」
「あの人も、お前向きじゃない。少なくとも今のお前には無理だ」
「えっと、でも」
「無理するなよ」と頭をポンとたたかれてしまった。