姉が言う理由1
「なにしてんのよ」姉に言われて振り返った。
「あ、えっと」
「邪魔よ」と言われて、
「えっと」としか言えなかった。
「輝子、やめなさい」と母が止めてくれた。旅行の準備をしていたけれど、家の片づけもついでにやっていた。父が戻ってこないと言う現実を受け止められず、家事はおろそかだったので、ゆっくりとやっていた。
「妹に全部家事をやらせて、それで邪魔とはなんですか」
「あら、おかあさんもやってないじゃない」平然と言い返されて、母が黙ってしまった。
「いいのよ。この子なんて、これぐらいしか取り柄がないじゃない。私みたいに綺麗に生まれていたら違っていたのに。苦労するわね」と言われて、あぜんとした。いつも言われている言葉だったけれど、
「輝子、やめなさい」
「ふん」姉はふてくされながら行ってしまった。
「お姉ちゃん、容赦がないね」母は姉を見ながら、
「余裕がないわね、あの子」とあきれていた。
「お母さん、お父さんの物、すぐに片づけなくてもいいよね」と聞いた。母が黙っていた。
「それはゆっくり考えましょう。今は、まだね」
「そうだね」としか言えなかった。
食事の後に、足りないものがあり、ぼんやり買い物をしていたら、誰かにぶつかった。
「元気ないな、お前」東条さんだった。
「バイトはしなくてもいいの?」
「終わったから、様子を見に来ただけ」
「あまり来なくてもいいよ」
「帰りが遅いから心配していたぞ、お母さんが」
「そう」
スーパーから帰りながら、姉の様子がおかしくて、八つ当たり気味なので困ると話したら、
「なかったことにしたいのかもな」と言われてしまった。
「なにを?」
「お父さんのこと」意味が分からなくて、ぼんやりしていた。
「ああいう人は冷たいところがあるからな」
「良くわからない。私のことも、綺麗じゃないとか、言われて」
「ああ、それは違うぞ」
「なにが?」
「駄目だしする前に、原因のほうが大事なんだよ」
「え、でも」
「あらさがしするタイプって、人のことは平気で言うからな。でも、言われる方は自分に問題があると感じて、気にしてしまう。俺、それは違うと思うからな」
「どういう意味?」
「あらさがしで指摘された欠点は重要ではないってこと」
「え?」