勘の強い人3
灰野さんが占っているという場所に連れて行かれた。看板が小さくて、通りすがりの人が気付かないかもしれない、というところだった。古びたビルの2階に上がっていき、ドアを開けて、私の家よりも雑然としていて驚いた。あちこちに物が置かれている。衝立の向こうに椅子が置いてあって、その隣にソファがある。本棚にはファイルらしきものが並んでいる。私たちが見回していたら、灰野さんがやってきた。
「あれ、一人ですか?」と東条さんが聞いた。
「ここの占い師は今日は別の場所でやっているの。その間、私がお留守番」
「え、灰野さんも看板出してるんでしょ?」と東条さんが聞いたら、灰野さんはほほ笑んでいただけで、
「灰野さんが本気で募集したら、予約が増えると思うけど」
「そこまでは無理よ。それより、よく来てくれたわね」
「連絡をくれて、驚きましたよ」
「ほかの皆さんも元気なんでしょう?」
「ああ、無理。あれからも何人かやめてます。結構、人気があった人もいたのに、入れ替えてしまって。結局、下はかなり入れ替わってますよ。上は相変わらずです。人気はあるけれど、だれも灰野さんには追いつけませんよ」
「お世辞はいいわ」
「お世辞じゃなくて、無理でしょうね。灰野さんに追いつける占い師は、そうそう見つからないのかもしれない」
「尚毅君なら」
「ああ、無理。知ってるでしょう? 僕は親父と同じだ。霊感はさほど強くない。ただ、女性心理はかなり勉強しましたよ」灰野さんが促して、東条さんが椅子を引いてくれて、私が座ったら、彼もそばに置いてあった椅子を持ってきて座っていた。
「ソファのほうは使わないんですか?」と聞いた。隣にソファがあったからだ。
「ええ、緊張感があったほうがいいからと、ここの先生の好みよ」と言った。
「はい」と言って灰野さんに言われて、タロットカードを広げていて、
「あの?」と驚いた。
「なんだか、ちょっと、困った事態になりそうだから」と言われて驚いた。