勘の強い人1
東条さんから電話があり、一緒に出掛けようと誘われて、
「あまり出かけたくない」と言ったら、
「一緒に来てほしいところがあってね。連絡があったから」
「え?」と驚いた。
「迎えに行くから」と言われて、それ以上は言わなかった。
車に乗ってから、
「あの人のところに行くの?」と聞いた。
「あの人って?」
「灰野さん」とぼんやりしながら言ったら、ちょっと息を飲んでいるように見えたけれど、かなり経ってから、
「お前は似てるのかもな」とゆっくり言われてしまった。
「誰に?」
「彼女にだよ。何も言わなかったのに、そうやって、まるで見えているかのように言ってくる。そういう部分が似てる」
「はあ」言っている言葉をぼんやり考えてしまった。あれ以来、頭の回転が鈍くなる時が多い。呼ばれても気づかない時があって、「真珠? 呼んでるのに」と何度か怒られてしまった。
「そういう部分は面白くないけど」
「はあ」
「ま、いいや。あの人が東京に来てるから、一緒に行こうと思ってね」
「どこに?」
「今は別の占い師の元でやってる。親父は面白くないかもな」
「どういう意味?」
「あの人の才能が怖いんだろ。でも、認めたくないってことだろ。だから、追い出した」
「追い出したの?」
「弟子のほうが優れているのを親父は認めたくないんだろうな。俺は違うけど」
「え、なんで?」
「霊感の強い人のそばにいたほうが俺も刺激されて、占いの勘がよくなるかもしれないだろ」
「あいかわらずだね、あなた」
「ああいう人には敬服するしかないよ。逆立ちしたって敵いっこない。そういう人だ。あの人の霊感が落ちるぐらいじゃないと、俺や親父には追いつけないレベル。そういう人だ」
「そんなに素晴らしいのなら、そのままプロキオンに」
「ああ、ダメだよ。今、言っただろ。親父が苦手なんだよ。怖いんだと思う。しかも、怖がっているのを認めたくないし、表に出さないように気を付けている。そういう状態でプロキオンに置いておいたら、辛くなるだけだ」
「そういうものなんだ。へえ、よくわからない。霊感が強い人がいたほうが、ほかの占い師にも刺激になっていいと思うけど」
「それはおおらかなお前だから言えることだ。親父は上昇志向が強いタイプだからな。自分よりも出来がいい占い師がそばにいてみろよ。うっとうしくてしょうがないんだろうな。だから、『今日は占えません』そういう日がある灰野さんは、わがままだという形で追い出したんだから。俺には灰野さんのほうが普通だと思うけど」
「え?」