縛り3
「お母さんはどうだ?」
「いつもと変わらないように振舞ってる。でも、気落ちしてると思う。お姉ちゃんとは正反対」
「お姉さん、どうして、一緒に行かなかったんだ? 普通なら合コンより仕事より家族を優先しそうだ」
「お姉ちゃん、嫌いなの。お父さんのことが」
「え、そうなのか?」
「将来性がある人、お金を持っている人が好きだから、お父さん、それには当てはまらないから」
「逆だろう? 父親のそういう部分を認められないから、そっちに走ってる。お金持ちが好きというより、今の生活が嫌いに見える。でも、先立つ物がないから一緒に生活してるってところじゃないか、ああ、ごめん。お前の姉なのにな」
「いいの、本当のことだから」
「普段なら言わないけど、俺も呆れてるからかもな。いくらなんでもちょっと冷たすぎる」
「『お母さんのような結婚だけはしたくない』って昔から言ってた。お父さんのことも否定してるところがあるみたい。でも、お父さんも強く言わないの。だから、姉はよけいにきついことを私や父に言う。言いたい放題で」
「家族を嫌ってるのか? だったら、一人暮らししても良さそうに思えるけど」
「家事ができないのに? と言うより、面倒だからしたくないって。家事をしなくてもいい結婚相手を見つけるのに、お肌の手入れとかプロポーションを保つとか、そういう方面に時間を割きたいのかもね」
「困った性格だな。お前が父親にぼやきたくなるのは、それだと俺も分かる。たとえ、父親が悪くなくても父親に強く言ってもらいたくなるかもな。妹の意見なんて聞き入れもしなさそうだし、でも、ちゃっかり妹は利用するってことか。ああ悪い、また言い過ぎた」
「いいよ、今日は。なんだか、疲れちゃった。姉に家事をしてくれと強く言えなくなったのも、あの喧嘩が原因だったの。父に言わなければよかったと後ろめたさがあったから、姉に抗議するのをやめた。諦めたからね」
「そうか」
「でも、姉のことは、今度のことで諦めた。無理だよね。父親が見つかっても行かないなんて。なんだか、疲れちゃったな」
「お前は縛るのをやめろ。髪も伸ばしたっていいと思う」
「そうだね、もう縛る必要は無いね。そう思った。お父さんと別れた時の髪型を維持しないといけないような、どこかで自分を縛っていたところがあるのかも。なんだか、悪くて。髪型も変えてみるよ。旅行代が無駄になってしまったし」
「行けばいいだろ。そのほうがいいぞ。ただし、俺と」と言ったので、むせてしまった。
「なんで、あなたと?」
「危ないからな。今のお前は一番危ない。あの時よりも更にね。でも、けじめをつけたらいい。お母さんと暮らしていくにしろ、気持ちなんて、中々整理できないものだろ。でも、そういうセレモニーは必要かもしれないな。だから、一緒に行ってやるよ」
「え、困る。あなたとは別に」
「一人にしておくと危ないからな」と言われて、東条さんを見た。
「あなたも似たような経験があるの?」と聞いたけれど、答えてくれなかった。