縛り2
帰るときに、先生に声を掛けられた。
「大丈夫か? 気分は?」と聞かれて、
「大丈夫です。この間は家まで送っていただきましてありがとうございました」
「お前の様子があまりにおかしいからなあ。何かあったら言いなさい」と言ってくれて頭を下げた。そばにいた神宮寺が、
「無理するなよ」と言ってくれて、
「大丈夫」とだけ告げた。こっちを見ながらひそひそ話をする女子が一部にはいたけれど、今はもう、それもなくなった。男子は直接聞いてくるような無神経なタイプは鴻上さんに怒られて、怜奈ちゃんに愛想よく追い返されて、今はそういうこともしてこなくなった。
「なんだか、気が抜けちゃったな」
「大丈夫か?」
「大丈夫」
「真珠は無理するからな。何かあったら言えよ」と言ってくれてうなずきながら、歩いていた。校門を出たら、東条さんが立っていた。
「なに?」
「心配だからに決まってるだろ。また、倒れるといけないから送ってやるよ」
「あなたに何度か送ってもらったから、誤解されちゃったの」
「なんだよ、それ」大学生が迎えに来るというのはうらやましいらしい。そのせいで、何度か聞かれたし、色々言われてしまう。恋人が学校外にいたとしても、学校近くでは待ち合わせない。後でうるさいかららしい。この間、先生に送ってもらったのも特別扱いだと言われたようで、先生は、私の親のことを知っていたために心配してくれて、あの日だけ特別にそうしてくれたようだ。
「大丈夫だから、心配しないで」
「その顔で言われても説得力ないな」
「送ってもらえ」珍しく神宮寺がそう言ったので、
「え?」と驚いた。
「こいつには借りがあるからな、特別だ」
「そういう借りの返し方はおかしいだろ」と東条さんが抗議していたけれど、
「真珠を頼む」と神宮寺に背中を押されて、東条さんに促されて車に乗った。シートベルトを締めたときに、ふと気になったことを思い出した。
「車」と、言ったら、突然言ったために、
「なんだ?」と驚いていた。
「車かもしれない」
「なにがだよ?」
「あの人に会ったときに、その光景が浮かんだから。『車に気をつけて』と言いたかったんだと思うけど。違うかな」
「あの人って?」
「灰田さん」
「灰野」と訂正されてしまい、そうだ、あの人に触れたとき車が見えた。何で、車なんだろう……と考えてしまった。あの時は余裕がなくて、考えもしなかったけれど、
「車ねえ。そう言われても、難しいだろ。いくらでも、その辺を走っているんだから。あまり気にするなよ」
「そうだけど」
「あの人、強いからなあ。だから、不思議な気を感じただけかもしれないし」
「そう? そうなのかな」
「今は気にするな」
「そうだね」