縛り1
学校に行ったら、神宮寺が心配そうに寄って来て、
「大丈夫」とだけ言った。怜奈ちゃんもそばに寄ってきて、
「おい、月野、お前の父親さあ」と無神経に声をかけてくる男子に、愛想よく、
「ごめん、その話はしないであげてくれるかな」と止めてくれていて、怜奈ちゃんのかわいい顔で言われて、男子は鼻の下を伸ばしながら行ってしまい、
「困ったやつらよね」と怒ってくれて、
「大丈夫」とだけ言った。
昼休みに東条さんがわざわざ来てくれたことを怜奈ちゃんに報告したら、
「ああ、電話をもらったよ。かなり心配してた。優しい人じゃない。そういうときに一人にしておけないって言ってたよ」
「え?」
「『一人だと変なことを考えてしまうから、気を紛らわしてやるぐらいしかできなかったけれど』と言ってた。意外といい人かもね。真珠と色々あっても、そういう部分は評価できると思うよ」
「そうかな?」
「あのね、いくらマメな男でも、そこまで尽くさないよ。神宮寺だって行かなかったでしょ。そう言うところに気が回るのがすごいとは思うけど」
「そう言われても」
「でも、きっと、心から心配しているから行ったんだと思う。東条さんはいい人だとは思うけどね。真珠のことを心から心配してくれる人は中々いないよ。身内だって、そこまで気が回らないかもね。親戚でも親でもないし、恋人にもなってないのに、来てくれるなんてね」母親が出て行った日……あの時、東条さんがボロッと漏らした言葉をふと思い出した。日頃明るくしているのに、時々、ああいうことをサラッという。あの人はどういう人なんだろうなと考えてしまった。