予感6
「あの人は、俺も親父も到底敵わないよ。それぐらい強いんだ。だから、俺がいくら勉強したって無理だ。ただ、占えない日も多くてね。だから、あの人の場合は有名にはなれないかもな」
「そう?」
「テレビにも出ることはしないだろうし、有名にもなりたがらない。いくら雑誌の紹介があっても、全部断っていた。でも、すごい人だよ」
「そう」
「お前を遠くから見て、危ないってさ。何か起こるといけないと言われて、心配になって」
「え?」
「ああ、大丈夫だよ。そばにいるから。今は弱っているからな。お前、そういうときは無理しなくてもいい」
「ごめん」
「いいよ、俺だって心細くなったことがあるからな。母親が出て行った日にね」
「え?」
「気にするな」と頭をなでられてしまった。
母は広大おじさんと話しがあるからと、さっきまで別行動していたけれど、待っていたら、やがてやってきて、
「悪いわね、わざわざ来てもらって良かったわ。真珠のそばについていてもらって。本当なら輝子がするべきなのにね」
「意外と優しいね。来てくれるとは思わなかった」東条さんに言ったら、
「お前はこういうときにも憎まれ口か」と呆れていた。広大おじさんとは結局、それほど話せなかった。母がなんだか深刻そうにおじさんに相談していて、
「お父さんはもういないんだね」と思わず言ってしまってから、「ごめん」と謝った。
「輝子が来ないから、おじさんが呆れていたわ。あの子は駄目ね。合コンの約束より父親を優先しないのね。困った子」と言ったので、
「仕事じゃないの?」と聞いた。そう聞いていたからだ。
「仕事だと言ったけれど、その後、合コンだと思うわ。私に嘘をついても無理よ」母も勘がいいのでそういう嘘は見抜いてしまうところがある。
「親子、似てますね」と、東条さんに言われてしまい、
「髪をもう少し伸ばして、お化粧したら似ているだろうな」と言われてしまい、
「真珠もそろそろ髪型を変えてもいいかもしれないわね」と、母に言われてしまい、東条さんが、
「それは」とさっきのことを思い出したのか心配そうに見ていて、
「お父さんに許可を取ってから」とだけ言って目をつぶった。