予感5
父の遺体は、まだ警察が調べないといけないらしくて、しばらく掛かるからと帰る事になった。母は切符を手配してくるからと先に行ってしまい、私は元気がなくて、東条さんの隣を歩いていたら、
「灰野さん」と言ったので、東条さんを見た。東条さんが誰かを見つけたらしくて、
「灰野さんでしょう?」と呼びかけていた。少し離れたところで、髪が腰まである細い女性がいて、東条さんのほうを見てから、驚いた顔をしていた。東条さんが寄って行き、そのままで待っていた。東条さんがやがて戻ってきて、そばに女性がいて、
「注意しろってさ」と言ったので、驚いて二人を見た。すごく神秘的な目をしていた。吸い込まれそうな深い瞳の色。とても印象的な人だった。線が細くて折れそうなぐらい。腰まである髪はさらさらで、揺れるたびに音がしそうなくらいだった。
「あなた、弱っているわね」と言われてしまい、
「あ、それは」と東条さんが止めていた。
「気をつけなさい。そうね、」と言いながら、その女性が私の腕に触れたとたんに、ビクっとなった。お互いに見合って、
「強いわね。初めての気」と言われて、どういう意味だろう?……と思ったときに、
「あ」と思わず声が出た。
「あなた、弱っているみたいだから、気をつけてね。尚毅君のお友達?」と聞かれて、「そうです」と答える前に、
「いえ、恋人です」と東条さんが訂正していて、元気がなかったはずなのに、思わず条件反射なのか体が動き、東条さんをつねってしまっていた。
「痛いなあ。本当になるからいいだろ、時間の問題だから」
「ないでしょう」と言い合っていたら、その女性に笑われてしまった。
「あいかわらず自信家ね。私にも似たようなことを言ったわね。『いつか、恋人になりましょう』って」
「あ、あれは冗談で」と東条さんが慌てていて、
「違うぞ、それは誤解だからな」と私の方に言ったけれど、
「はいはい、いくらでも付き合ってきたんでしょ」と呆れていたら、
「あら違うわよ。尚毅君、いくらモテてもね、私とは合わないわ」と笑っていた。
「灰野さん。突然やめちゃうから、まさか会えると思ってなかったよ。今はここで営業しているんですか?」
「月一で東京よ。今はその帰り」
「そうなんだ、知らなかった。まだ、東京にいると思ってました」
「尚毅君はあいかわらず元気ね。彼女のことも守ってあげなさい」
「そうですね」
「じゃあ、これで」と行ってしまった。後姿を見ていたら、
「不思議な人だよな。あの人、誰も本名も知らないから」
「え、どうして?」
「親父のところに一時期いてね。本名は明かせないと言っていたよ。親父以外は知らないと思う。でも、当たるから特別に雇っていたよ。俺もよく教えてもらった。あの人は師匠みたいなものかな」
「そう、強そうだものね」
「実際そうだ。あの人、前に言わなかったっけ? すごく当たると評判だった。当たりすぎて怖いぐらいだった。でも、占いに波があるために、多くの人を一日に占えるような人じゃなったために、交代制でやっていた。でも、親父はそれも不満でね」
「もったいない。当たるならいいじゃない」
「怖かったんだと思う」
「どういう意味?」
「弟子の方が優れているのは怖いんだろうな」
「え?」