弟子志願3
「お客さんは?」
「今日は学生が多いからな。そうすると早くなるし」
「え、どういう意味?」
「学生割引なのは内容の濃さも関係あるからな」
「意味不明」
「それで、早めに終わるだけ」
「時間が決められているでしょ」
「人によって違うよ。一人占うだけでかなり疲れるから、休憩時間を大目に取る人がいるし。さっき帰った女子高生がお前が来てるって言うから降りてきただけ。絡まれなかったか?」と聞かれて、正直にうなずいたら、笑っていた。
「だと思った。気をつけろよ」と小声で言ってきた。
「何度か一緒にいたからうらまれているみたいで。俺にぼやかれたし。前もあったから」周りに気づかれないように教えてくれて、
「あなたが人前で話しかけなければ、即解決」
「無理。ああいうのは続くさ。親父も同じだったらしいから。だから、広く浅く付き合う必要があってね」
「ふーん、いいよ。それは」
「それで、何しに来た?」
「近くに来たから、また見学しに来たの。美人が多いみたいだね。あのおじさんが言ってたとおりだ」
「誰だよ」
「ルーカス」
「ああ、あそこね。見た目は重要だろ。占ってもらう人が神秘的なほうがいいと思うけど。庶民臭さがある人に占ってもらうよりね」
「そう? そこはそれほど関係ないでしょ。遊びなら分かるけど」
「遊び?」
「ファッション感覚。遊びに来てるって感じの子が多いね」と見回した。東条さんも見てから、
「それでもいいだろ。来やすさだって重要だ。お前のところも宣伝ぐらいしたら。ネットだけじゃなくて。営業したほうがいいぞ」
「営業?」
「テレビに出たほうが影響力があるね」
「一時的に人が増えるだけでしょ」
「固定客になっていくんだよ」そうかなあと見回した。
「不満そうだな」
「いいや、ありがとうございました。二度と会わないだろうけど、色々と勉強になりました」
「前もそう言ってただろ。でも、会った。縁があるんだよ」
「ない」
「俺はそう思ってる」
「あなたねえ」と言い合っていたら、
「迎えに来てくれたんですか?」大学生らしい割とかわいらしい人がやってきて、
「帰りに食事に行きましょうね。約束したんだから」と擦り寄って腕をつかんでいて、よくやるよと思いながら、頭を下げてその場を離れた。
「あ、お前」と言う声が聞こえたけど、そのまま振り返らなかった。あれが営業と言うならホストになったほうがいいかもねと思った。