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Fortune-teller  作者: marimo
4.弟子志願
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弟子志願1

 秋さんにプロキオンでのことを相談した。

「経験を積むのは賛成だけど、誰かの弟子になるにしろ、中途半端では困るわよ。まだ、学生だし、卒業してからでも」

「学生しながらだと無理かなあ」

「そうねえ」と、考えていた。

「忙しい人だと直接は教えてはもらえないわね。プロキオンがそうだから、先輩の指導はあるらしいけれど、個人で腕を磨いていくと聞いたことがあるわ。人気があるところだから首にしても次の人がすぐに見つかるから、丁寧に指導はしてくれるわけじゃないらしいの。そういうところも多い。占い教室だとお金はかかるしね」

「そうだよね。お金なんて払えそうもないから、自力しか無理かな」

「ただ」

「なに?」

「昔、お金もなしにそばで勉強させてもらえたケースがあったようだけど」

「その人、誰?」

「それが、実はちょっと良く分からない人なのよ。評判はいいと言う人もいれば、偏屈だと言う人もいる」

「え、それだとちょっと」

「でも、占い師の腕は確かだと弟子入りした人が言ってたわ。ただね、かなり頼み込んだ末の渋々だったみたいだし、その人、男だったからね」

「そこ、教えて。とにかく行ってみる。それから考える」

「真珠ちゃんはそういうところは前向きね」

「でも、行ってみてから考えたほうがいいでしょ」

「そうね。ここでの経験だけでは中々上手にならないでしょうね」東条さんの言ったとおり、お客様に必要とされてなければ、お金なんて払ってもらえないし、指名なんてされないだろう。悔しいけれど、あいつのほうが上だ。

「見た目がいいとお客様って指名が多いのかな」

「見た目だけじゃないと思うわよ。それより中身ね。話し上手、聞き上手な人のほうがいいでしょうし」

「そこまで考えてなかったな」

「学生なんだから、そこまで考えて占う必要がなかっただけでしょう。でも、真珠ちゃんは占い師になるより、固い職業のほうがいいのかもしれないわよ。意外と大変なんだからね」

「分かってるけど」

「ここは常連さんが多いから、苦情が少ないけど、何人かは理不尽な要求をされたそうだから」

「なにを?」

「『彼氏とよりを戻せるように占って』と言われたらしくて」

「絶対無理でしょ。それにそれはその人自身が努力していかないといけないって思うけど」

「それをそのまま伝えたら怒られるからね。やんわりと納得できるようにしていかないと」

「どういう意味?」

「相手にそのままの言葉を伝えたって、怒る人もいるってことよ。中にはいるから気をつけてね。言葉を言い換える必要もあるから。相手に合わせてね」あいつが言っていたことと同じことを言う。

「相手に合わせるか。私、そういうことまで考えてなかった」

「そういうことにも気を使う必要は出てくるわよ。お金をもらって占っているわけだからね」と諭すように言われて、うなずいた。

「負けたくないな。あいつには」

「勝ち負けの問題じゃないでしょ」

「わかってる。でも、言われっぱなしじゃ面白くないの」と言ったら笑われてしまった。


 秋さんに教えられたところに行った。でも、それらしい建物が見当たらない。

「どこ?」思わず口に出して見回していた。

「あんた、何か探してるの?」近所のおばさんらしい人が寄ってきて聞いてくれて、探している場所の名前、「エッグシェル」はどこかを聞いた。

「ああ、あの偏屈のじいさん」と言ったので、ちょっと驚いたけど、

「そこだよ」指差されたところを見て唖然とした。綺麗とは言いがたいところだった。昔、別の商売をしていただろうなと言う作りになっていた。食堂か何かだろうなと思ったけど、

「そこに出てるだろ。看板が」

「看板?」探して見たけれど、見つからず、指差して、

「それだって」と言われてみたら、「橋添」と書かれた表札の下の小さな木のボードがあって、「エッグシェル」と書かれていた。でも、汚い字だった。

「はあ」行くのをやめようかなと思ったけど、その人が見ているので御礼を言って、そちらに向かった。チャイムを探したけど見つからず、仕方なく入り口を叩いた。

「ごめんください」かなり時間が経ってから出てきた男の人は、くたびれた雰囲気の人で、

「どちらさん」と聞かれて、説明をした。

「ああ、無理。うちはそういうのはやってないから」

「でも、経験を積みたいので」

「他に行きなさい」

「お金がないから」と正直に言ったら、

「だからって、何もここに来なくても」と自分で言ったので、

「知り合いの人に聞いたんです」と説明をした。

「ああ、あの子ねえ、辞めちゃったんだよね」

「え、どうして?」

「この商売はね。お客さんがつくかどうかで決まるからね。あの子はそれなりに熱心だったが、占い研究好きだっただけでねえ。それでお客さんを怒らせてばかりいたからね。見たところ、君は学生さんだろう。悪いことは言わない。やめておいたほうがいい。おしゃれで儲かる商売だと勘違いするんだよね。近くにあるところと勘違いするからね」

「近く?」

「あっち」と指差していた。

「でも、経験を積みたいんです。そばに置いてください」

「君、いくつ?」

「17です」

「若いから他の職業のほうがいいよ」

「母もそう言ったけど」

「お母さんのほうが正しいよ」

「母も占い師なんです。今は母の手伝いをしていますけど」

「へえ、だったら、その人に教わりなさい」

「母は気が散るからと私がそばにいると嫌がるので、それなりしか見れないし」

「まあ、そういう人も要るだろうなあ。俺は気にしないけど」

「お願いします。見習いで一週間でもいいから置いてください。お金は払えないけど、手伝いぐらいはできます」

「無理だよ。若い子はそういうことは今時やらないだろ。家事もしたことがない子が大勢いるからねえ」

「いえ、してますけど」と言ったら、相手が驚いていて、しばらく考えた後、

「一週間だけだよ」と言ってくれて、

「ありがとうございます」と頭を下げた。

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