プロキオン3
姉の占いは、良くも悪くも半々だったけど、姉は、
「お金持ちと結婚したいんですよ」と何度も言っていた。今の相手はどうかってことが一番重要だったようで、身を乗り出していた。勢いが違うなあと思いながら、
「かなり努力をされているようですね。そうですね、努力しだいでは叶うかもしれないですね。がんばってくださいね」東条さんがあの顔で優しく言ったために、姉はうれしそうだった。私には目もくれず、うれしそうに帰って行き、
「残念な結果になるだろうな」冷めた声で東条さんが言ったので、
「二重人格にもほどがある」と呆れた。
「相談者がそばにいたらどうするのよ」
「足音が聞こえただろ。もう、帰ったから言える。それにそばに人がいると分かる体質だから」変な体質。
「お前は分からないのか?」
「さあ、感じたことない」
「ふーん、俺の誤解だったか」と言ったので、
「なにが?」と聞いた。
「お前、強い気がしたからな」
「何が強いのよ」
「気が強いって言いたいけど、意外ともろいのはこの間、見たしな」と笑ったので、
「あなたの二重人格には負ける」
「誰でも裏表はあるだろ」
「そう? ない人だっているでしょ」
「お前が知らないか、見えてないだけだろ。何だ、残念だな。やっと、見つけたと思ったのに」
「なにが?」
「勘の」と言いかけてから、
「お前も占ってやるよ。今ので最後だから」
「お姉ちゃんで最後なの。あ、会社帰りだったね。今、何時?」
「時計は置いてない。そういうものがあると気が散るだろうから」
「そう言われるとそうかもね」と言って、携帯で確かめた。
「あ、やば。そろそろ帰らないと」
「門限か?」
「ないよ。そうじゃなくて」
「あと少しだけ付き合えよ。お前を占うほうが先」
「なんで?」
「興味があるからな」意味不明だなと思ったけど、
「少しだけね」と言って、仕方なく座った。タロットで占ってくれたけど、かなり時間をかけていて、
「分かりづらいな、お前」と言われてしまった。
「言葉遣いを変えすぎだよ。お客さんと態度が違いすぎ」
「お前はタダだから、これぐらいでいいだろ」
「つくづく、二重人格だね。姉には調子のいいことを言っておいて」
「相手に合わせただけ。相手の満足感を優先したらああなった」
「意味不明」
「話しかけるな。ふーん、お前の人生って、色々あるだろ」
「そう? それなりだと思う」
「親の関係か? かなり苦労してないか?」
「そうでもないよ。母親はそれなりに育ててくれたし」
「父親は?」と聞かれて黙った。
「なにかあるのか?」
「いないから」
「ふーん、苦労はしてるんだな。それで読みづらい」
「カードにはそこまで出てないじゃない」
「ばか、相手に合わせるって言ってるだろ。相手のそれまでの考え方とか生き方も反映していかないと現実味がでないだろ」
「え?」とおどろいた。
「社会人と学生だと同じカードでも解釈が違うのは分かるだろ。相手の性格によっても違ってくる」
「性格はどうやって把握するの?」
「服装とか、態度や言葉遣いとかで大まかに判断するよ。そこまで分からないからな」
「なるほど」
「お前は相当経験不足だな。友達だけ占ってるから苦情とか出ないから努力しないだろ」
「そう言われたら、苦情を言われたのは2件ぐらいかなあ。後は思い出せない」
「ふーん、少ないな」
「『振られたのはどうしてくれる』って」
「それは怒るだろうな」
「当たったのに怒られたの、2件とも」
「ふーん」
「当たっても怒られるのが困ったけどね。『彼氏が二股』って言ったら怒られたし、『年上の女性に取られる』って言ったら怒られたし」と言ったら、東条さんが顔を上げた。でも、すぐに顔を戻した。