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Fortune-teller  作者: marimo
3.プロキオン
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プロキオン1

 朝、あこがれの雪人さんが出てくる時間に合わせて、私はゴミだしを日課にしていた。

「ああ、真珠ちゃん。朝から大変だね。お疲れ様」優しく穏やかに微笑んでいて、

「雪人さん、おはようございます」とびっきりの笑顔を作って挨拶した。国立大学に通っている大学生で、昨日会った男とはあまりに違いすぎるなと思った。年も同じなのに、全然違う。少なくとも雪人さんは女性と遊んでいるようなところを見たところがない。毎日遅くまで大学に残って研究をしていると聞いている。

「毎日、大変ですね」

「お互いにね。がんばろうね」と優しく言ってくれて、とてもうれしかった。

 雪人さんが行ってしまった後に、

「あれでは、将来苦労するだろうからやめておいたら」と冷めた声がした。姉がそばにいて、

「何してるの、お姉ちゃん」と聞いた。

「早朝デート」

「こんな朝早くに?」

「だって、アピールしないと困るからね。今日だけね」言っている意味が分からなくて、

「じゃあねえ」と、会社に行ってしまった。姉は親戚に頼って就職した。親戚と言っても母の両親は早くに事故で亡くなっているし、父はいないので、母のおじさんの知り合い筋に頼んだ。

「お姉ちゃん、珍しく朝が早いよ」家に入って母にぼやいたら、

「ほっときなさい」と気がなさそうだった。母は朝が弱い。知り合いに誘われて飲みに行く機会も多いため、朝は遅く起きる。食事のしたくも苦手らしく、お弁当も作らない人なので、今は私が作っている。その前までは父か、一緒に住んでいた大叔父さんが作ってくれた。父がいなくなる前は占いカフェをしていたけれど、母は家事は苦手なためにカフェの運営はできそうもないので、今は占いだけをしている。占いスペースは作ってあるけれど、カフェだったころの名残が部屋のあちこちに残っている状態だ。内装を作り変えるお金なんて、家にはなかった。昨日の男の家とは違いすぎる。価値観が違って当然かもねえと思いながら、台所に行った。


プロキオンの見学に怜奈ちゃんを誘った。

「ねえ、一度行ったんでしょ」と怜奈ちゃんに聞かれて、前の会場はプロキオンではなくて、別の場所だったと教えた。

「ふうん。まあ、いいや、暇つぶしに一緒に行くのも面白いね」

「怜奈ちゃん、相談ごとってあるの?」

「ないかも。あれこれ人に指図されたくないし」そうだった。怜奈ちゃんは、結構しっかり者で、さっぱりしていて、でも、かわいいために初対面の男子にはその性格はバレないことが多い。

「怜奈ちゃん、モテるし、成績は気にしてないし、結婚相手に苦労しそうもないものね。見た目って、大事?」

「当然でしょ。真珠もかわいいほうなんだから、頑張りなよ」

「そう言われても、おこづかいなんて限られているし、バイト許可も家でのものだけだし。そういう方面に回るお金がない」学校の規則でバイトをする場合は許可がいることになっている。内緒でしている子も多いけど。

「ふうん。うちは禁止されてるからなあ」怜奈ちゃんの家はそれなりに厳しいことを言われるらしい。お父さんがかなり心配しているようで、「変な男がいたら、どうする?」と言われるらしい。かわいいからそれで心配なようだ。実際に誰かに尾行されたこともあるようで、

「怜奈ちゃん、その分、おこづかいもらえるならいいじゃない」

「無理。門限も厳しいし、連絡しないとうるさい。知り合いの娘が駆け落ち同棲したからって、それが私に何の関係がある」

「それで厳しくなるって言うのが、いまいち分からないんだよね」親は厳しくはなかった。母は大雑把で家事も苦手で、父が色々と家事をしてくれて、カフェの運営もしていた。父のほうが私の世話をしてくれて、会話も多かった。母は社交的で外に出て飲みに行くことも多くて、姉は母に似ていて家事一切をしない。掃除すらしたこともない。結婚相手はお金持ちだと決め込んでいるので「必要がない」と言い切っている。でも、今のところ、念願のお金持ち、将来性有望彼氏と長く続くようなことはないらしい。

「姉の努力なんて、すさまじいけど、どうしてうまくいかないんだろ。モテることはモテるんだって。ただし、金持ちじゃないと却下してるから、全滅だと言ってた」

「それはあるんじゃないの。相性の問題だから。真珠はそういう方面に詳しくないからねえ。もっと、恋愛に強くないと占い師として困らない?」この間の男にいわれたことを思い出してため息をついた。正直、行きたくはないけど、行ったほうがいいんだろうなと思いながら歩いていた。あいつの言ったとおり、私はあいつのことをとやかくは言えない。わざわざ連れて行ってもらったことも分かってなくて、悔しくて言い返していただけだったなと反省した。

「ま、いいや。開き直ろう」とわざと明るく言った。落ち込んだときの呪文だ。父がいなくなったときにもそう言って明るく振舞った。姉はそれほど変化はなかった。家事をしてくれる人がいなくなったぐらいで受け止めていたようで、明るいままだった。父との交流がほとんどなかった姉にとってはそういうものなのかもしれないなと今では思っているけれど、当時はかなり怒っていたけれど、そういうことは姉は軽く聞き流していた。母はかなり落ち込んでいて、しばらく占いができないほどで大叔父さんである、広大こうだいおじさんが何かと支えていた。おじさんは今は東北で暮らしている。時々、便りがある程度で行ったことはない。

「ここじゃない?」怜奈ちゃんが言ったので、そちらを見たらおしゃれな感じのガラス張りのビルだった。かなりの人数が並んでいる。整理券を配り終えたらしくて、

「今日の分は終わりましたから、明日、おいでください」と女性が謝っていて、

「えー、せっかく、来たのに」女子高生らしい女の子たちがぼやいていたけれど、慣れているらしくて、何度か謝った後、その人は行ってしまって、受付のほうに移動した。

「あの、見学をさせてもらえませんか」と頼んだ。本当は占ってもらいたかったけど、それもできそうもないので、そう頼んだ。

「は、見学ですか?」と相手が驚いていた。どう説明しようかなと考えていたら、

「きゃあ」と、悲鳴が上がった。そちらを見たら、東条さんが来ていて、背が高いので女子高生の合間から顔が見えた。

「なんだろ、あれ」と怜奈ちゃんに聞かれて、

「えっと、あれが例の」と言ったら、

「ふーん、あの人に頼めばいいんじゃないの?」と言われて、そう言われても声を掛けづらかった。でも、あいつがこちらを見て、

「ああ、来たのか?」と言う声が聞こえた。仕方なく頭を下げた。東条さんがそばに寄ってきて、

「なに、あの子?」そばに寄っていた女性たちがいっせいにぼやいていて、ちょっと嫌だったけど、

「見学しに来ただけ」と答えた。

「ふーん」

「お知り合いですか?」受付の女性が聞いて、

「ああ、俺と同じだよ。見習いなんだ」と答えていた。

「見学させてもらえませんか」嫌々ながらそう聞いたら、

「お前って、正直だな。顔に出すな」と笑われた。「あなた以外ならこんな表情にならないわよ」と言いたくても我慢をした。

「なら、お前も立ち会えよ。俺も占いするから」

「え? なんで?」

「見習い期間なんで、まだ、料金が低くめだけど予約客だけ受け付けてるからな。お前はやってないのか?」

「やらされてはいるけど、お情けで近所の人とか知り合いとかが頼んでくる。それで母が月に一度バイト代をくれる程度」と言ったら、東条さんが笑った。

「だから、駄目なんだよ。商売として成立させないと。相手がわざわざ相談に来るようにならないと商売にならない」そう言われて、

「友達には頼まれるけど」

「お金をもらってるか?」

「おごってもらう程度」

「じゃあ、駄目だね。そこまで必要とされてないってことだから」

「あなたは必要とされているって言うの?」面白くなくて、そう聞いたら、

「確かめてみたら」と笑った。

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