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アイドル歌手と苦労が絶えない高校生マネージャー  作者: ともP
♠ イベントライブと転校生
15/34

014. 転校生は夢見る女優(4)

 私は家に帰って、すぐにベッドの上に寝転がる。天井を眺めながら、さっきまでいた芸能事務所のことを考えていた。


 こんなにも簡単に女優に復帰できるとは思っていなかった。あの時は勢いで飛び込んでしまったけれど……、これから先のことを考えると少し怖くなってしまう。

 でも……、もう後には引けない。二度目の失敗は許されない。ここで頑張らないと……、きっと二度とチャンスは来ない。


 笹川ゆきは一度挫折し、逃げ出した。だから、もう一度立ち上がらないといけない。

 以前所属していた事務所は大手ではなかったし、業界での知名度も低かった。それでも、所属しているタレントはみんな可愛くて、実力のある子たちばかりだった。

 だからこそ、事務所の雰囲気はあまり良いものではなかったし、私自身もその雰囲気に染まりかけていた。


 嫉妬、羨望、焦燥感、劣等感、様々な感情が入り乱れていた。あの芸能事務所にいた頃の笹川は……、本当に毎日が苦痛だった。

 売れている役者は、売れていない役者のことを見下す。売れている役者は、売れていない役者の努力不足だと非難する。

 マネージャーは売れている役者ばかりを優遇して、売れていない役者のことは相手にしない。事務所の社長はそんな周りの状況に何も言わず、ただ自分の利益だけを追求する。


 私のことを応援してくれる人は誰もいなかった。私が売れるために協力してくれる人もいない。

 そして、一番辛かったのは事務所の他の人たちとの格差だった。同期で入所した女の子たちはどんどん売れていき、いつの間にか笹川だけが取り残された。

 それでも、いつかは自分も売れて、人気者になれると信じていた。だけど、現実は残酷で、笹川の夢は叶うことがなく、気が付いた時には中学生も終わりを迎えようとしていた。


 そして、私は逃げてしまった。


 あんなに情熱を注いでいた役者を辞めて、モデルの道を選んだ。モデルの道には進んで良かったと思った。モデルの仕事は楽しかった。

 雑誌のモデル、イベント、色々な経験をさせてもらった。同世代の女の子たちが輝いている世界で、自分もキラキラとした輝きを放っているような錯覚を覚えた。

 それでも、心の奥底にはどこか満たされない気持ちがあった。


(女優を諦めきれない……)


 その思いは自分がモデルとして売れていくにつれて大きくなっていった。だから、今回の復帰劇に迷いはなかった。迷う必要なんてない。一度、全てを失ったからこそ、私は今度こそ夢を全力で掴む。

 どんなに険しい道だろうと……、今度こそは絶対に諦めたりなんてしない。


☆・゜*。・★・゜*。・☆・゜*。・★・゜*。・☆・゜*。・★・゜*。・☆


 笹川ゆきが元々通っていた私立堀口高等学校は芸能人を多く輩出した自称進学校である。彼女が入学した当時も、多くの芸能関係者が在籍しており、芸能活動をしながら進学を目指す生徒たちも多くいた。

 堀口高等学校は一般科と芸能科でクラス分けされており、芸能科の生徒の中には、元子役や現役のアイドルなども在籍している。


 在籍していたのは、芸能科1年F組。このクラスの担任は堀口高校出身であり、芸能活動をやめ教職課程を経て教員免許を取得した新任教師であった。


 この学校には問題が色々と多かった。

 芸能科があり、甚だしい実績があるのとは裏腹に偏差値は高くない。生徒の質というのはピンキリだが、この学校の芸能科含め一般科の生徒は全体的に低学力な傾向にあった。


 この学校で問題になっていたことがもう一つある。

 恋愛禁止、髪染め禁止、ピアス禁止、制服の着崩し禁止など、校則がとにかく厳しいこと。

 

 世間では『ブラック校則』などと言われる時代遅れの規則が今もなお残っており、それを守っていない生徒は厳しい指導の対象となっていた。

 特に問題視されているのが交際関係。この高校では異性間の交際が禁止されている。


 芸能人に会うのを夢見て入学する生徒は、そもそも芸能人に会うどころか恋愛も許されず、失望する者が続出した。しかも、そのせいで退学者が後を絶たなかった。

 また、その厳しすぎる校則は、一部の生徒から反発の声が上がり、実際に暴力事件に発展したこともあった。

 これらの問題に対して、教育委員会からの指導が入ったものの改善されることはなく、今でも校則違反に対する処分が行われている。


 芸能科があるという理由だけで私はここに入学したが、正直、嫌なことを思い出すことが多くてあまりいい思い出はない。

 在学時に芸能活動等で忙しく補講を受けられない状態であれば、学校側の判断により全く出席しなくても進級・卒業できるケースがこの学校にはある。


 つまり、芸能科は学校に来ている人間は売れていない人間、という認識だ。事実ではあるが……。

 厳しい校則は生徒の雰囲気を悪くし、それがいじめの原因となっている。いじめが起きても、学校は対処せず、放置されたままになっている。


 いじめの発端は突発的に起こることが多いため、学校側も把握しきれていないのだ。それに、いじめられている側は大抵の場合、周りに相談できないタイプが多い。

 私も実際に同級生にイジメられていたが、そのことを誰にも相談できなかった。学校を辞めた原因はそれが大きく影響していたと思う。


 笹川ゆきはいじめを受けていたが、周囲の目を気にして親にも先生にもいじめのことを言えなかった。だから、自分で解決しようとした……。

 でも、結局は何も変わらなかった。


 何も変わらないまま学校を辞め、編入試験を受け、西宮プロのオーディションを受けて合格をもらって女優への復帰を捥ぎ取った。


 あの時の苦しみはもう二度と味わいたくない。だから、私は必死に努力する。


 これからはもう逃げない。立ち止まらない。

 私はもう二度と折れたりなんかしないと心の中で誓って夢を追い続ける。

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