響きの館~毒を呷った姉妹~
あら、いらっしゃい。お久しぶりね。いえ、貴方はそうでもなかったかしら。こんな場所で、お茶も出せないけれど、どうぞゆっくりしていってくださいな。
さて、今日のお話は題して『毒を呷った姉妹』。
時は少し昔のこと。ある町の裕福な家に双子の姉妹がいた。裕福とは言うけれど、この時代の裕福というのは、食べるのには困らないという程度の意味よ。大人しく気立ての良い姉のローザ。いつも笑顔で活発な妹のリーリヤ。性格は正反対ながら、二人はお互いを半身のように思っていたわ。
ローザ:いつも元気なリーリヤが大好きだよ。
リーリヤ:私も、いつも優しいローザが大好き。
そう言って憚らなかった二人の仲の良さは町でも評判で、その微笑ましい姿は住民達を笑顔にしたそうよ。そんな二人が行事で披露するローザのヴィオラ、それに合わせたリーリヤの舞いは町でもたいそう人気だった。いつか二人でもっと大きな舞台に立とう。人々に舞いを披露する度、そう語り合った。その時の二人にとってそれは幸せで当然のことであったでしょうね。
しかし、人生とはままならぬもの。階段で足を滑らせたローザを庇い、リーリヤが怪我をしてしまったの。動かなくなった足を見て、彼女は何を思ったのかしら。ローザもリーリヤを元気付けようとしたけれど、上手くいかなかった。
そんな折にローザは一人の商人から一本の薬を手にしたそうよ。その薬とはこう言われるもの。互いを想い会う二人が真にそれを望んだならば、互いの体を入れ替えることができる。ただし、嫉妬があったならば、ただ不幸が訪れるだろう、と。
ローザはすぐにリーリヤと話をしたわ。二人が何を話したのかはわからない。それからいくらか経ったあと、車椅子に乗るリーリヤがヴィオラを持ち、舞いを披露するローザの姿があった。町の住民達は二人の元気そうな姿に喜びました。二人が披露する舞いに以前と違った趣があったとて、とやかく言う者は多くなかったそうよ。
お話はここでおしまい。一見よくあるようなこのお話、貴方はどう解釈するかしら。
二人は望むとおりになれたのかしら。二人は本当に入れ替わったのかしら。そして、何かを乗り越えたのでかしら。
明確な答えはないわ。貴方の胸の内に存するそれが答えであり、貴方自身よ。さて、貴方は……。