響きの館~小鳥の行方~
こんなお話を知っているかしら。幸せから逃げ出したある小鳥のお話。
あるところに一羽の小鳥が飼われていたの。本当に大事に、大事にされていたわ。だからこそ、飼い主はその小鳥を決して鳥籠から外には出さなかったんですって。
でも、外に出さなかったとはいえ、鳥籠の上から黒い布を掛けたりはしなかったわ。それはそうよね。真っ暗な中に置いたら、小鳥が怯えてしまってかわいそうだもの。せめて小鳥が退屈しないように、鳥籠は外がよく見える窓際に置かれていた。聞く人によっては、それこそ残酷だなんて言うかもしれないわね。ただ承知してあげてほしいのは、その気持ちはきっと本物だった。
小鳥は飼い主と過ごす時間以外、いつも窓から外の世界を眺めていたわ。窓から見える青い空、そこを羽ばたく楽しげな番の鳥たちを。
ああ、自分はああして飛ぶこともなくここで一生を終えるんだろうな。少しの憧れを覚えながら、鎖に繋がれた自分の足と見比べて、それでも彼女は幸せだった。だって、ご飯に困ることはないし、飼い主さんは本当に可愛がってくれたんですもの。小鳥は籠の外に出してくれない飼い主の意図をちゃんと理解していたのね。
でも、彼女は恋をしたの。ある日窓枠に止まったその鳥は彼女よりとても大きな鳥だった。始めはその大きな鳥も彼女を眺めているだけだったし、彼女も目の前の大きな影に怯えていた。
そして、しばらく小鳥を見つめていた彼はこう鳴いたの。一緒に飛ばないか、と。それは優しく、綺麗で、とても魅力的に聞こえたの。怯えていたはずの彼女はその声に惹かれてしまったのね。彼女は声を出すことはできなかったけれど、その影に目を合わせてみることにした。
さて、その鳥は彼女の目にどう映ったのかしら。とても色鮮やかな虹色だったのか、単色の、例えば青い鳥だったのか。はたまた、もしかしたらファンタジックな魔法の鳥だったのかもしれないわね。
ただ彼女はこう思った。あなたと一緒に飛べるならきっと、もっと素晴らしい世界に私を連れ出してくれるのだと。そう、あなたならーー。
それから大きな鳥は何度も窓枠に訪れた。その度、彼はその魅惑的な鳴き声で語ってみせ、彼女は徐々に引き込まれていった。青空も番で飛ぶ鳥たちも背景になり、輪郭はぼやけていった。そんな逢瀬がしばらく続いて……、その日窓枠に止まった彼は黒い鳥だった。そして言った。さあ一緒に飛ぼう、と。
飼い主が見つけたとき、そこにはただ二つの血痕が残されていたそうよ。
お話はここで終わり。彼女が何を選択して、何処に行ったのか。あなたはどう思うかしら。
さあ、この欠片はあげるわ。また来てちょうだいね。