十一日目 嘘吐きの村
十一日目 嘘吐きの村 です。いつも見てくださりありがとうございます。またまた遅くなってしまい申し訳ありません。そしておそらく過去最長となってしまいました本分、とても長くなっておりますが是非最後まで読んで頂けると嬉しいです。
辺りを囲んでいた霧が晴れていくにつれそこが元の場所とは姿を変えてしまったことを理解していく。
「歓迎します。リビアン様…。」
その細い声が呼んだのは此処に居る誰でも無く、素手に誑かされた宮廷の庭師であった。なるほどどうやら歓迎とは名ばかりの襲撃は一度招かれたものが対象らしい。
完全に霧が晴れて現れた松明の炎、そして小さな木造の民家。先ほどまで目の前に続いて森が消え、そこには小さな村があった。
「ははは。これは幻か、それともどこかへと飛ばされたか。」
「いやそれは無い。」
マクベルの言葉を否定した龍馬の目線を二人が追うと、そこには休憩時に腰を預けていた切り株が。転移系魔法の類では無い。ここは迷いの森、やはり小さな村の方からやって来たと考えるのが妥当だろう。
そうこう考えている内にギリギリと弓が引かれる音が鳴る。どうやら話し合いをする気は無いようで、その生気も殺気も纏わない水晶のような瞳が不気味さを着ている。
「壊そうか。」
「ちょちょっ!待って待って、うちらの目的は調査ですから!…それに壊すって、」
問いかけを途中に、龍馬とマクベルの立つ僅かな隙間をぬって飛んだ矢。マクベルが咄嗟に摘まんで事なきを得たがその矢は的確にラフグラッドだけを狙って来ていた。
「手荒い歓迎もあったものだ。」
「あっぶなぁ…っとにかく!二人ともこちらへ!」
腰抜けたラフグラッドは強引に二人の服を掴み太い木の後ろへと隠れ射線を切った。
少し顔を出して様子を伺うがどうやら見えていなければ追撃は無いようで、一先ずの安心を得た三人は作戦会議を始める。
「回りくどい、全て破壊してしまえば良いというのに。」
「調査なんですから全員殺してから何も無かった、では取り返しがつかないんですよ?」
溜息交じりに出て行こうとしたマクベルをまた座らせ捲し立てたラフグラッド。
そ・れ・に、と腰に手を当てて説教するように龍馬とマクベルを見下ろす。二人はいつの間にやら正座させられており、据わった目つきの彼女の言葉を黙って聞いている。
「…あの方がそんな報告に耳を傾けるとお思いで?」
その言葉はなによりも説得力のあるものだった。彼女、というのは勿論あの暴の君。常に退屈を噛み殺し玉座で眠る彼女が更に退屈な言葉など受け付けるはずが無いのは付き合いの短い龍馬でさえ。
「分かった…それで?」
「ふむ、僕と龍馬には良き案が思いついているのだがね。」
顔を合わせて頷く二人に何のことやらと首を傾げたラフグラッド。村から敵視されているのが彼女だけと分かってから既に思いついていた案。残りは本人の了解だけなのだが。
「え、いやいやそれはむりっすよぉ。たはは…いやマジ無理っすよ!?」
両の手で自分を抱いて蹲ったラフグラッドが上目遣いで請う。提案は勿論彼女が狙われている隙に残りの二人が村に押し入るというもの。しかし命の危険を身に持って感じた彼女は冗談ですよね、と言いたげな瞳。二人はじっと見下ろして溜息交じりに冗談だと告げた。
「とりあえずうちは此処で待ってますので…。」
「丸投げか。」
ね、と苦笑いをした彼女は結局ここで待つようだ。まあリスクを考えればそれが一番だが…心配なのは龍馬もマクベルもどちらかと言えば二人自身のこと。
もし二人だけでいる時に敵意をぶつけられた場合二人とも反撃しないなんてことは無い。殺意を見逃してやれるほど甘い世界では生きていないのだから当然ではあるが、そうなれば調査任務は失敗に近づくだろう。
「では、頼みますよ二人ともっ。くれぐれも荒事は避けるように!」
「なに、二・三壊すのは許容の内だろう。」
口端を三日月のように広げて形だけの笑顔をつくっためくベルが立ち上がり言う。黒手袋をキチッと締めていざと木の陰から出ていった。
「全くあの人…あのリョウマさん。」
「なんだ。心配すんな約束は守るさ。」
龍馬の言葉を疑うような顔をするラフグラッド。そこまで言ってもまだ不安かと思えばどうやらそれだけでは無いようで、彼女は何か歯切れの悪い顔で龍馬を見る。
「さっきから壊すって。」
人相手に使う言葉では無いと彼女は言う。龍馬もマクベルも、決して殺すと言わないのには理由が在った。なんだそんな事かと鼻で返した龍馬は身を正し、背中を見せて言う。
「人間じゃあ無いからな。あれは、ただのつくりもんさ。」
「危害を加える気は無いよ。僕も、そして彼もね。」
黒の両手を空に掲げ敵意が無いのを表したマクベル。彼に続いて龍馬も仕方なしと無害の証明を示した。どうやらラフグラッド相手とは違いいきなり弓を構えて来るような気配は見えない。
「…。」
村人は誰一人としてマクベルの声に答えようとしない。目だった動き、それどころか瞬き一つ。風が木々を揺らす音と遠く獣の鳴き声だけが夜の森に溶けていた。
「口無、か。どうする龍馬。」
「…何もしてこないなら丁度良い。こっちも賊じゃあ無い、用を済ませてさっさと帰ろう。」
それだけ言うと龍馬は村人たちの方へと歩き出した。両手を下ろし、ユラユラと。しかし身体の芯はぶれず、揺れているのは龍馬を覆う周りの空気。
「違いない。」
ここは不気味だ。居心地の悪い、霧のせいか心に嫌な靄がかかる。
それに、この村の空気は反吐の味がする。侮辱の味だ。生と死への凌辱の味がする。
龍馬が纏う覇気に反応したのか弓を持った女だけでなく、村人が次々に手鎌や鍬などの得物を手にしだした。やると言うなら構わない。マクベルは先ほどよりも感情の乗った笑みを後ろで隠れるラフグラッドへ見せた。
「お止めなさい。」
その時だ。人首の向こう村の奥から一触即発の場を正す声が聞こえて来た。
大きくは無く小さくは無い。男性か女性か、それすらも分からない抑揚の孕まない声は黒の君と似ていた。人波が割れて姿が露わになる。擦り切れた服には他に無い僅かな装飾と、汚れの隙間に見える鮮やかな色。一目で村の長と分かるそれは眼に紫水晶と紅宝石の異色を光らせている美しい女だった。
「武器を下ろし、皆家へと戻るのです。」
鶴の一声とはこのこと、村長らしき女の声に従い村人は皆大人しく村の中へと帰って行った。
「そこの、木の後ろに隠れているお方。」
そう言った彼女は一直線にラフグラッドの隠れている木の方を向いている。木の後ろではラフグラッドの驚いた様子が見なくても分かった。
「…出て来ても大丈夫だぞ。」
龍馬の声でようやく出て来た彼女は苦笑いを浮かべて恐る恐るといった様子。三人は並んで村長の前に立ち、ここへ来て初めて丁寧な話をする機会を得た。
「帝国からのお客人、ようこそスヴァルカ村へ。」
「え、あ、はい。うち…じゃなくてワタシ達は皇帝ゼアリス・グリード・ガヴェインが命の下、この村の調査をしに参りました。」
「皇帝の……それはとても。私はこの村で長をしています、ミゼルバと。どうぞこちらへ。」
ラフグラッドの言葉に少しの沈黙を帰した彼女はそう名乗ると、表情の無い顔を伏せて三人を村へと招き入れた。
山麓と迷い森の間に在るスヴァルカ村は、起伏のある地形をそのままに生かして小さな木造の家が点々としていた。とは言っても既に滅びたとされる村、畑も家畜用の柵の中も草で荒れて空っぽだ。
何百年と放置され、木々に侵食されていた場所。舗装されていたであろう道を通る三人は足首に当たる確かな草を踏みしめる。今見ているものが幻なのか現実なのか、松明の火が揺らめくのを見詰めていると分からなくなる。
「村の者が手荒な真似をしたようで、お怪我はございませんか。」
「え、ええ。」
前を歩くミゼルバは振り返ることもせず心配を口にする。ただ言葉を吐いたと言うべきそれに思わずマクベルが嘲笑を浮かべた。
「ここが私の家です。さあ。」
案内されたのは村人のものより二回りほど大きな家だった。外見は他と同じように年期が入っており、隙間風が通るには快適な綻びも見える。
促されるままに三人は出された茶を前に椅子へ腰を落ち着けた。ティーカップはやはり庭師のリビアンが持っていたものと同じ様相、彼女もここでもてなしを受けたのだろうか。
「もし。単刀直入に聞こう。」
僅かな沈黙の間を許さないようにとミゼルバが座るのを見計らってマクベルが切り出した。そして間に龍馬との間に肩を竦めて茶に伸ばそうとしたラフグラッドの手を軽く叩き、彼女のカバンからリビアンの土産を取り出し見せる。
「ここへ一度招いた女、庭師のリビアンと言えば分かるだろう。彼女、殺す気だったのだろう?数百年と続けて来たように、今夜。」
決して捲し立てることはせず、静かな口調で問いただす。そこに疑問は無く、確信を持った断言をした彼はまた覚えたばかりの薄気味悪い笑顔を見せた。
「これは通行証、そして的へ付けた印か。こんな、形だけのもてなしも見え透いた歓迎ごっこはさぞ楽しいだろう。愚かな帝国人を誑かし、腹の中では笑っているのだろう?まあもっとも、企む腸も笑う表情も君達には幻のようだ、がぁ。」
ラフグラッドに出された茶を見せつけるように地面へ捨てる。腹の底に着いた厭らしさを舐めとったような笑い。滑稽、と嘲る彼の顔は素敵に苛立たしい表情を貼り付けていた。
「何を。私は迷い込んだあなた方を快く歓迎し、そして朝には無事お返しすると約束します。」
「うちのお茶がぁ……。」
癪に障るほど平然に当たり前だと言葉を吐くミゼルバ、その異色の眼は瞼に隠れることなくマクベルを見詰めている。
「マクベル、ここはお前に任せよう。俺はラフグラッドと外を見て来る。」
「ここから出るのは止めておいた方がよろしいですよ。」
「脅しは相手を見てやるのが吉だ。彼にするなど凶の内も大、と言っても君の眼は飾りだ仕方無い。」
行け、と手振りで龍馬を送るマクベルはミゼルバを見射貫いたまま。彼の楽しみの邪魔をするまいと、龍馬は座るラフグラッドを立たせて早々玄関を出た。
「よろしいので。私とは違い村の者はあなた方を良く思わない、無事に戻れることを願っていますが…それに先ほど言ったようにあなたが聞きたいことは何も、少し落ち着いて話をしましょう。」
「フフフ。急くのは愚策か、では質問を変えるとしよう。ここは何のために存在し、何のために姿を隠す。現実と断ずるには不明瞭、幻と逃げるには真が混じりすぎている。」
いきなり事の芯を突こうとするのは会話・交渉を行う上で真実を遠ざける行為だ。まずは外堀、なんでもない事実から聞き出すのが上策だ。
「皇帝陛下のため、全て正直に話しましょう。」
それで良い、とティースプーンで茶色の液体をかき混ぜる。マクベルがカップに口付けたのを見た彼女は淡々と話しを始めた。
「ここスヴァルカ村は救いの村と呼ばれていました。」
数百と昔、時の皇帝は迷いの森を抜けたこの場所へ小さな村を興すことを命じた。急な発展を遂げた帝国についていくことが困難となったあぶれ者への救済として、山と森自然豊かな中で静かに暮らせるようにと。名をスヴァルカ、貧困に喘ぐ大人子供の移住先として恵の多いこの場所は最適であった。
「私は初代村長としてこの村の発展を見守ることを皇帝陛下直々に。」
迷い森は魔物や獰猛な獣ですら行先を見失う程、村を襲いに獣がやってくるのは月に一度あるかないか。少ない村人は協力し、日々に確かな意味を持ちながら暮らしていた。
「五年ほどでしょうか。村が大きくなり始めた頃、その日は突如やってきました。」
黒くて大きな体、黄色く光る二つの眼、二本の足に鋭い日本の大角。それまでに見た事の無い凶暴な獣は息を吸う間に村を破壊していった。
霧と血の臭いがたちまち森へと充満していった。迷い森に住む獣もその臭いを辿るだけ、辛うじて逃れた生き残りも無残に食い殺されていった。
「気が付けば私独り、この家の地下で蹲っていました。村人の魂は村の未来を想い、そのやるせなさが未練としてここに残っている。これがこの村が滅び、そして今も残っている理由です。」
「それで君は魂の入れ物を創ったというわけか。なるほど、これが全て。フフ、フフフ。空っぽだ。」
空っぽ。何が全てだ、今の話には中身の全てが欠けている。マクベルは不気味な笑い声をこぼしながら立ち上がり、家の中を歩き始めた。
なるほど嘘吐きの村、か。
「分かっていて黙っているのか。君は知っているのだろう、その獣の正体を。この村が滅んだ理由を。なあ?ミゼルバ・グリード・ガヴェイン。」
空気が硬直する。後ろから彼女の顔を覗き込んだマクベルは心底嬉しそうな表情を見せた。
知識とは蓄積だ。それは縦積みの不安定な瓦礫では無く、横並びにされた本棚である。
どこかで目にした情報が結びつき、一つの真実を浮かび上がらせるのは極上の喜びを与えてくれる。
ミゼルバという女性の名前。スヴァルカという村に起きた悲劇。異色の眼。霧の幻。黒い獣。帝国。皇帝。貧困者。救い。犠牲者。
「無理もない。君を宿す陶器の体には記憶も詰まっていないのだろうな。」
「何を。」
睨むように狭めた瞼。ミゼルバの光る両目がマクベルの背中を刺す。
「スヴァルカだ。書殿の本で見た名前だと記憶を捲っていたのだが、ようやく見つけてね。本にはこう記されていた。迷い森の村スヴァルカ、廃棄場とね。」
ガチャンッ
ティーカップが床にぶつかり破片を散らす。椅子を倒して立ち上がったミゼルバが不自然に整った顔でマクベルを睨みつける。
「不憫なものだ。死してなお復讐に縋りついて、醜く虚物の姿で彷徨う皇女。帝国の人間を幻惑で誘い殺すのも消えぬ恨み故、ある種呪いだ。」
「…皇帝は私を、この村を見捨てた。それを恨むなと言うのはあまりに非道。私にはこうするしかないのです、少しでも僅かでも皇帝が罪の意識に苛まれれば…。」
だから、夜の霧で人を攫い殺すのだと彼女は漏らす。だが可哀そうに、そんなことをしても何にもならないのだから。
「魂を解放してやれ。君のしている事に意味は無い。我が主に歴史の罪を被る気などさらさら無いのだから。一滴も、微塵もだ。」
辛いだろう、がただ事実。村の調査とは名ばかり、ラフグラッドにも悪いが彼女は初めからこの村など煩わしい過去の異物なのだ。
つまり龍馬とマクベルはこの村を全て葬りさるためにやって来たのだ。それをしなかったのは龍馬の慈悲、真実を知り納得の出来る結末をと。
「マクベル。」
話は終わったかと龍馬は玄関扉を開けた。村の外を見てくると言ったのは嘘、扉の向こうで全てを聞いていた二人。
「さて選ぶといい。君の意思でこの悪夢を終わらせるか、夢の殻を破壊されるか。」
龍馬とマクベルは家を後にした。彼女は少しの沈黙の後、自らで終わらせることを選択した。
ラフグラッドは悲しそうな顔で最後を見守ると言って残った。彼女に任せた二人は村の入り口へ歩く。
「フフ。釈然としないようだね。物事全てに解決があるわけでは無いのだ、答えがあればその靄は晴れるのかい?これが全てなのだよ。」
「ああ…だが一つだけ気になる。なんで彼女は、皇女の身で見捨てられたんだ。」
「時代、というやつだよ。彼女の恨むべきは皇帝では無く、生まれた時代なのさ。」
過ぎた時代、皇帝の娘として生まれた彼女は望まれた子では無かった。長年跡継ぎが出来ず悩みの末に出来たやっとの子が女の子、誰からも祝福されずそれは想像に耐えがたい仕打ちを受けていた。
続けて生まれたのが男の子であったのも彼女の居場所を失くす要因であった。村の発展とは名ばかり、当時まだ十五という嫁入り前の彼女を離れた森奥へと追いやった皇帝。事故に見せかけた村の破壊もそれによって自らの子が命を落とすのも全てが計画の内。
「呪われるのも無理は無い、か。」
話をする中次第に周りの霧が濃くなっていく。振り返ったそこは濃霧が包み、既に村の灯りは見えなかった。その向こうからはこちらを呼ぶ声がする。
「はぁ、はぁ。ちょっと置いてかないでくださいよ!」
「待っていただろう。見たところ無事に済んだようだな。」
霧が晴れたそこは深い森。足元には三つの切株、目の先のどこにも村の名残は無い。
「はいっ。」
笑顔の彼女が元気に答えた。幻は終わり、これから先霧に誑かされる人間はいなくなっただろう。
「いやあでも不思議な体験でしたね。ミゼルバさん、彼女の体が陶器で出来ていたなんて。」
「…ああ。」
三人は夜が明ける前に森を出た。迷い森には深い霧のかかる夜がある。けれどそこには何もない。
陶器村。白い肌に塗られた顔。空っぽの器には魂が宿る。
そこは帝国に見放され、棄てられたものが住んでいた。
投棄村。そこに救いは無い。
「ご苦労。」
全ての報告が終わり告げられた終わりに頭を下げる。満足そうな表情から、どうやら彼女を喜ばせるに足る話ではあったらしい。
「ラフは残れ。龍馬、マクベル。お前達には後程褒美をとらせよう。下がって良い。」
残る意味も無く素直謁見の間を後にする。マクベルに書殿へと誘われている龍馬は、跪いて首を垂れるラフグラッドを見送って大扉を閉めた。
「…さて。」
「はい陛下。」
言葉は要らない。彼女が求めているものを麻袋から丁重に取り出したラフは、今回の真の目的であるそれをゼアリスへと献上した。
「どちらもお望みの通り。魂篭の魔眼と強合の魔眼です。」
ラフの両手には紫の水晶と紅の宝石が輝いている。どちらも膨大な魔力を孕んだ、魔眼と呼ばれる特別な存在であった。
「よくやってくれたなラフ。棄てられた彼女は素直に手渡してきたか?ははっ。」
「いえ、幻を解くのに魔眼が傷ついてはと思い…。」
龍馬とマクベルの二人には外で待ってもらい、家の中には村長とラフグラッドだけ。
「最後を看取っていただけるのですか。私はあなたを殺そうと。」
「過ぎたことですから、現にうちは生きてますし。」
たはは、と頭に手をやって笑い飛ばすラフグラッド。彼女のその言葉に救われたと、ミゼルバ安堵の表情で夢に別れを告げる。
「村人の魂を解放し、私もこの森から立ち去ります。ご迷惑をお掛けしました、あの二人にも謝罪と…そして選択の余地を与えて下さったことへ感謝を。贈りの品が無いのが心苦しいですが、代わりにこの家の物は全て差し上げます。陶器製の器はそれなりの価値になるでしょう。」
「いえいえ、もらえませんよ!二人にもちゃあんと言葉は伝えますから、ご心配なく。あでも、その器とかの代わりにと言っては何ですが…。」
これも陛下の命令ですので。
そう言った彼女は両手の親指でミゼルバの両目を抉り出した。
「な、ぁ、あぁぁ。」
「おお綺麗。これ、貰っていきますねっ。」
バリバリッと音を立てながら崩れていく体。魂の抜けた入れ物が床にぶつかり砕け散る。それを見下ろす彼女の顔は笑みに歪んでいた。
「あ、ほんと。空っぽだ。」
最後まで読んで頂きありがとうございます。本編に直接関係ない物語ですが、再び彼を出すことが出来て私は嬉しいです。この物語の終わり方、好みでは無い方も多きと思います。救いの無い、ハッピーエンドでは無い話が好きな方には喜んでいただけるものとなっていれば嬉しいです。これからもよろしくお願いします。




