第五十二話 隣で明るく笑うのは
第五十二話です。実は本日、四話目を書き上げたところです!一度に投稿してしまいたい気持ちを何とか抑え、ストックを作ることに決めました…早く皆様に見て欲しい、その思いをなんとか抑えています。
改めて日頃見て頂けることへの感謝を、ありがとうございます!!!
魔法灯の照らした長い廊下、笑顔で迎えたのは銀髪の子供が壁に背を持たれながら手を挙げた。
「妬けちゃうな、あんなに想ってもらえるなんてさ。」
後ろで手を組んだアディラが頬を膨らませて近寄ってくる。少年のように無邪気ステップで、少し不満気をこぼした。
「でも、ぼくのものだぁ~~。」
ぎゅぅぅっと効果音が聞こえるほどの熱い抱擁。無抵抗の龍馬を満足するまで抱きしめたアディラが上目遣いで口づけを迫る。
「仕方なく、だよ。」
溜息を吐いた龍馬は近づいた顔を押さえつけ、掌で唇を遮る。抱き着いた手が背中で固く締められていて、剝がそうにも強烈な力。
「でもでも、リョウマはぼくのだからね!」
嬉しそうに破顔したアディラが片手を離したのを好機に、ぐいっと押し退けた手に僅かな膨らみの感触。驚愕に飛び退いた龍馬が頬を朱に染めて口を開けた。
「お、おい…お前女だったのか?」
「え、うん?ぼく男だって言ったっけか。」
開いた口が塞がらない。一人称に言動からら勝手に男だと思い込んでいた。確かに中性的な顔立ちに、身長も150そこら。肩ほどで切り揃えられた艶髪に細い首元は見れば見るほど女性に見えて来る。
「ほら。」
固まっていいる龍馬の手を自分の胸に当て、上から卑猥な手つきで揉みしだかせる。唖然、再び硬直した龍馬は数十秒その柔らかさを堪能していた。
はっとした龍馬が手を振り払い、決して自分は悪くないが何故だか自然に詫びてしまう。
「いいんだよ?リョウマはぼくのだし、ぼくもリョウマのものだから。」
そう言って顔を覆ったアディラはすっかり少女の様。あんなに大胆な行動は出来るのに、言葉にするのを恥じるのはどういうことなのか。
「と…とりあえず、後にしよう。」
少し上ずった声を正して言い直す。今一番優先すべきは桜の保護。いつの間にか胸に頭を擦り付けているアディラをなんとか引き剥がした龍馬は駆け出した。
「まあ、なんだ。アディラ、ありがとうな。」
疾走する中、風に消える位の小さい声で感謝を述べる。それでも彼女は聞こえていたようで、隣で満面の笑みを浮かべた。
ステージの裏手、回り込んだそこには大きな透明のケースと競売人の姿が。遅くなってしまったからか、もう既に他の取引は終わっている様子。
「お待ちしておりました。」
深く頭を下げた男は姿勢を正し、ケースの裏へと案内する。黒い刻印に手を翳すとケース全体が淡く光り輝いた。ふっと消える障壁、未だ眠ったままの桜の姿が明瞭になる。
金のことはアディラに任せて、横たわる彼女を優しく抱き上げた龍馬。顔に掛かった髪を落とし、忘れる事の出来ない顔を見詰めた。
「待たせてすまん…」
そう囁いて立ち上がり、アディラに声をかける。取引は終わり、競売人の見送りを受ける。腸が煮えくり返る気持ちはあるが、今は無事彼女が手元に戻ったことを優先しよう。
外で待っていた龍貴とベルフィーナ、そしてレティシア。加えて知らない姿の四人が見える。
「あんたは?」
「おれは、ガラーシュです。」
しゃがれ声の男が頭を下げた。手甲を取った彼と握手を交わす。とても良い奴だと熱弁する龍貴の言葉に少し恥ずかしそうな仕草。布に覆われて表情は見えないが、悪い奴ではなさそうだ。
「サクラ様は無事ですか?」
心配そうなレティシアが腕の中で眠る桜を覗き込む。寝息を立てた彼女の姿を見てほっと安堵の息をこぼした。
ふと、ベルフィーナが腰の辺りを凝視しているのに気が付いた龍馬。目線を追うとしがみついたアディラが幸せそうに笑っていた。皆それを気にしていたようで、すっかり変わってしまったアディラの姿を説明してくれという目が痛い。
「あーアディラさん。おーい。」
ペシペシと頭を軽く叩いて現実に引き戻す。自分で説明するより当人に任せた方が早いだろうと、名案だと思ったそれはすぐに間違いだと気づく。しかし時すでに遅し、口を覆ったのは爆弾を落とした後だった。
「ぼくの心を身体も全部、リョウマのものになったんだぁ…」
とろけるような彼女の言葉に絶句した四人。ただ一人、声を上げたのは腕の中。
「どういう、ことかな??」
目を覚ました桜が、笑みを凍らせていた。
仁王立ちする桜の前に正座した龍馬。横でベッドに腰掛けたアディラが鼻唄を歌いながら足をばたつかせている。
「一先ず、龍馬もアディラさんもありがとう。」
深々と感謝を込めて頭を下げた桜。いいよーと軽く手を挙げて返したアディラに、無言で頷き返す龍馬。客間に戻って来た一同はゼアリスとビンの二人と合流し、ここまでの出来事を話し合っていた。その傍ら、少女だと明かされたアディラの爆弾発言に言及する桜。
「えっと…」
「龍馬は後。アディラさん、本当に感謝しきれないけれど、貴女とリョウマはどんな関係なの?」
一番聞きたいのはそのこと、隠さずとも既に桜が龍馬を好いているのは周知の事実。恋仲では無い曖昧な関係を崩す突然の来訪者は、皆にとっても衝撃のことだった。
「どんな。うーんだからね、えへへ…リョウマはもうぼくのものなんだ。」
事実の明確にならない答えに頭を抱えた桜は、目線を龍馬に移す。口を開くことを許可された彼はアディラを一瞥する。彼女は言葉に出さずだーめ、と口を動かし笑った。
「…ま、そういうことだ。」
溜息を吐いて渋々認めた龍馬に涙目の桜が嫉妬の表情で項垂れた。彼女からしてみればこの短い期間に想い人がとられてしまったという悲観的な出来事で、それが自分の落ち度で介入出来なかったと思えば尚更辛い。
「否定しないのか?」
ニヤニヤと嫌な笑みで言葉を挟んだゼアリスは全てを知っているのだろう、悪戯にかき乱そうとする。
「ふー-ん…」
そしてジト目を向けたベルフィーナが不機嫌そうにそっぽを向いた。彼女の心に確かな嫉妬の炎が燃えているというのを、自覚するのはまだ先だった。いじけた彼女が悲しそうにぶつぶつと愚痴をこぼす。
「ふふっ、モテモテだね。」
レティシアに泣きついた桜にいじけたベルフィーナ、それを見て笑うゼアリスにあたふたするレティシア。賑やかな室内は皆が無事だったこと故の光景だ。それを見詰めて優し笑みを浮かべた龍馬に耳打ちをしたアディラは、自分の男が好かれているのが嬉しいのだろう。
「良いことか?」
「勿論だよっ。」
向いた彼女の横顔が近い。改めて見ると少しあどけないながらもとても整った顔立ちだ。あまり他人への関心が濃いわけではない龍馬も、可憐な少女を思わず見詰めてしまう。なるほど確かに好かれるのは良いことかも知れない。
そう、呆けていた龍馬。視線を感じたのか向き直ったアディラと目が合った。ほんの一瞬のこと、突然すぎて反応出来なかった。
「え、へへ…あげちゃったぁ。」
暗殺者であることを忘れてしまうほどに、真赤に染めた顔が視界を奪う。口を覆って囁いた、龍馬にだけ聞こえる声で初めての宣言。
言葉を出せなかった龍馬が最初にしたのは、連中に見られていないかの確認だった。ほっと一息ついた龍馬は熱くなる頬を隠すように背中を向ける。
「…」
終始見逃していなかった龍貴とガラーシュ。気まずそうに目線を泳がせた先、同じように見ていたであろうビンを見るが黙ったまま。
「見なかったことにしましょうか。」
「だな。」
ガラーシュの提案を受け入れた龍貴。二人の目線の先、ビンも頷いた。
「なにが?」
不思議そうにこちらを向いた桜がまん丸の黒い瞳で見詰めて来る。
「何もっ!」
今度は三人、深く頷いた。ばれたら龍馬は終わりだ、それは避けなければいけない。
詰めてくる彼女から目を反らした三人。部屋にはゼアリスの高笑いが響いていた。
今回も見て頂きありがとうございます。これまでの戦いから落ち着いた回でした。いろんな要素を込めながら第三章も最後に向けてスパートを。
いつも応援ありがとうございます。これからもずっと見て下さると嬉しいです!!!




