第四十七話 壊していったのは
第四十七話です。戦闘シーンが続きますのですこし過激な描写が増えると思います。苦手な方は遠目でも見て下さると嬉しいです。無理はなさらず、楽しんで頂けると幸いです。
いつも見て下さる方々に感謝を。最近日々のPVが増えていることに私、驚き嬉し感謝でございます。
闇の中、二人だけの空間は暗く目の前にいるというのに顔も見えない。透明な仕切りに遮られた距離は、見かけよりも遠かった。ケースの外から手を這わせる。彼女?彼?が決めた距離感の中、二人は話す。
「君のおかげだ。邪魔ものに対抗することが出来る。」
「大丈夫?失敗すれば未来は暗いよ。」
顔に刻印が施された男は、向かった人物と話を交わす。人間では無いそれの顔は肌色に染まり、表情どころか目も鼻も耳も口も無い。何も無い肌色の球体が首とつながっている。どこから声が出ているのだろうか、共鳴するのは不気味な音。単調に紡がれる言葉は高くも低くも無い。
「未来、君に会うまで不定形の不確実な存在だった。心配ない。片方には【セカンド】、そしてもう片方には…」
「なるほど彼を向かわせているんだね。」
「ああ。」
彼。誰なのか、言わずとも知れた存在はこの船を統べる彼にも底を見せていない。いつも傍にいて役に立たなかったことは無い。
「君の見る未来は絶対だ。今までも、これからも。君の予言通りに進めばこれからのことも全て上手くいく。一人も逃がしはしない。完璧な存在なのだ、【オリジン】は。」
眼の前に座る人物の予言は絶対だ。この者がいたからこそ【覇人】という最強を手に入れた。この者の言うとおりにしていたから、商品を無事に競売へと掛けられる。幾度回数を重ねようと、一度として失敗や外れは無かった。
透明な壁に額を付けて笑った男。噛むように挙げた声が暗い中に響く。余程の自身、それに加えて決定した未来。
「楽しそうだね。」
眼の前、仕切りを越えた先。手の届かない彼が心底嬉しそうに笑った。この先、君は未来を手中に収めたと思っているのだろう?
「ははっ…掌を見れば有象無象が躍っているのだ。これより面白おかしいことは無いよ。」
恍惚と目を見開いた彼。だけど一つ忘れているよ?
私は人形じゃあ無いんだよ。君の命令を忠実に守る部下でもない。
君は知らなだろう…嘘、虚実というのはね、とても甘美なものさ。
「ん?どうしたんだい?」
何でもないよ、そう返し笑みを胸にしまう。待ちきれないよ、姫は此処さ。囚われのか弱い少女を助ける騎士は語らない未来に出ている。
さあ早く。早く来て、リョウマ。
暗く、狭い通路。薄闇の中対峙する二対一。目を離せないでいる先には、黒一色が占領する吸い込まれそうな暗い瞳。
「君がここにいる…それが何を意味しているのか。分からない気が付かない私じゃあないよ。」
カンッ
地面に突いた杖が鳴る。口角を上げているのに笑っている気がしないのは単調に変わることの無い雰囲気のせいか。それとも肌を刺激している冷たい殺気のせいか。
「そこをどいてくれ、【セカンド】。」
「いや、いやいや?【セカンド】なんて呼んでくれるなよ。たった今私は、【ファースト】だ。」
嘲り見下すような目線。そんな目で見られるのは初めてだった。
「腑抜けたなあ元一番。閣下が言っていたよ、君は不完全だと。感情なんていう醜く邪魔な存在を残してしまった君は、失敗作だって。」
「何が言いたい。」
「だから、私を見てごらんよ。くふふふっ!素晴らしき…完成品さ。」
彼女の姿が消えた。隣にいたベルフィーナを押し飛ばし左右に跳ぶ。
「龍貴!!」
受身をとったベルフィーナが龍貴を見る。間一髪避けた彼の元居た場所で空を切った杖の突き。彼の反応が少しでも遅ければ、どちらかの身体に穴が開いていただろう。
「彼女を庇っていては君に勝ち目はないよ。ほら、今その錘を取り払ってあげよう。」
ブンッと音を立てて瞬間移動した彼女が、ベルフィーナに迫る。
ガキィィイインッッ
ぶつかり合う鋼が火花を散らし、鋭い覇気が辺りに充満する。
「私が、枷だとでも思っているのか?舐める、な!!!」
思った以上の重い斬撃に身体が吹き飛ぶ。疾走する彼女が暇を与えまいと迫り、未だ滞空する身体に追撃を繰り出した。
「ぐうっ…く、ふふふ!強いな、君ぃ!!」
杖を地面に突き出しその衝撃で壁へ飛んだ【ファースト】は、自らが誇る速さで壁地面関係なく跳び回る。
「龍貴、構えろ!」
「ああ。」
壁を走る彼女が並行になるほど低い姿勢で突っ込んで来る。目で追えない程の速さ、その勢いで迫る杖の先が衝撃波を纏っている。
ドンンッッッッ
掌で受け止めた龍貴の身体が何メートルも後方へと吹き飛んで行く。しかし杖の先は離さぬまま、踏ん張って彼女の身体を壁に叩きつけた。
パラパラと落ちる破片。壁に減り込ませた彼女は赤い血を吐いて蹲る。
「かはっ、かはぁっ…なるほど、まずいな。」
冷静に状況を把握した彼女は、今のままでは勝てないことを悟る。しかし同時に彼女の中に残っていた、最後の制限が外れる音がした。
跳ね起きた彼女が宙を一回転して降り立った。杖を振るい、中から出て来た刃に手を翳す。それが仕込み杖であることを初めて知ったのは、長く共にいた龍貴だけでは無く【ファースト】もまたそうだった。
反射する刃に鋭い歯が映る。閉じた目をゆっくりと開いた彼女の瞳、真黒のそれがグルンッと真白に反転した。吸い込まれるような闇では無い、感情全て拒絶する捕食者の眼。
「名前を与えられて腑抜けたお前は、普通に成れたとでも思ったのか?笑えるなあ…まったく、この笑みを止めてくれよ!!!」
音も無く振るわれた突き、龍貴の鋼のような肉体を貫通した刃は止まることなく何度も何度も肉を貫いていく。一瞬、ほんの僅かな時の中。無数に空いた小さな穴から鮮血の飛沫が噴き出した。
「ベルフィーナ、逃げてくれ…」
糸が絡まったように、隙間の無い斬撃の雨が降り注ぐ。真白の瞳には何も映ることは無く、ただ只管に肉を切り刻む冷酷な本能だけが灯っていた。一撃の重さは微々たるものだった、しかしそれが一瞬で何十にも増えていく。掠れ声と血を吐き出した龍貴はベルフィーナに手を伸ばした。
「終わ、」
カチッと、時が止まる音がした。素早く立て直した身体で渾身の一撃を腹に入れる。再び動き出した時間は何も無かったかのように正常で、ただ有り得ない程の衝撃を受けた【ファースト】の身体が薄闇に飛んでいった。
「はあ、はあ…大丈夫か、龍貴。」
「ぐっ…ああ、まだまだ浅いさ。」
強靭な肉体故か無数の斬撃は命にまでは届くこと無く、肉を裂いたところで止まっている。しかし出血が酷い、先の戦いから時間は立っているとはいえど龍貴が経っていられるほどの血は既に流れてしまっていた。
「ごぷふっっ…」
ヒタヒタと足音が聞こえてくる。仕込み杖を引き摺る音が耳障りだ。口元を真赤に染めた彼女は、不可視の回避不能な一撃によってのもの。痛みという感情が無かったのは幸いだったのだろう、内臓が破裂し骨も砕けている。
「な、なにをしだぁ…っ!」
しかしそんなもので止まることは無かった。先ほどより落ちたとはいえ、ものすごい速さで迫る【ファースト】。標的をベルフィーナに代えて細切れにしようと杖を振るう。
「くっ…」
防戦一方、既に強化魔法は掛けているというのに追いつくのが精一杯だった。鋼のぶつかり合う音が通路に響く。
「お前は危険、危険だぁ。排除しなければ…っ。」
渾身の突きを見せた【ファースト】、しかし何故か自分の身体が宙に飛ぶ。遅れて感じる腹への衝撃に吐いた血が地面を汚す。
「はあ、はあ、はあ…」
(息が、持たない。)
時を止めるなどという人知を超えた能力を持つベルフィーナが優性かに見えた。しかし代償は大きく、短く二度止めただけだというのに激痛と眩暈が止まらない。尋常じゃない疲労感と頭から全身に広がる痛みに悶絶したベルフィーナは、膝を着き血混じりの胃液を吐いた。
しかも、こんな時に。最悪というのは連鎖する。
通路の奥、闇の中から殺気が音も無く近づいて来たのだ。
「は、ははっ…」
その正体を知っているのだろう【ファースト】が勝ち誇ったように笑う。
キンッキンッ
刃を擦り合わせたような音が鳴る。
赤い布で顔から全身を覆った、背を丸めたその姿。隙間から尖った歯がカチカチと音を立てる。長い髪を三つに分けて長い腕の先には鋼鉄の手甲。
「反撃開始だな。」
立ち上がり赤い唾を吐いた【ファースト】が、蹲るベルフィーナを見下ろす。白く濁った瞳は罠にかかった獲物を見る、狩人のような冷徹さを持っていた。
今回も見て頂きありがとうございます!!!
いやあ第四章も一番の盛り上がりを見せてきましたね。ここでなんですが、近々番外編が上がるかもしれません。前にも言ったようにとある騎士のお話です。しかし問題なのが今の連番を崩したく無いことですかね。もしかしたら別の小説としての扱いで投稿するかもしれません。その時は本編の後書きでも告知致しますのでしばらくお待ちください。




