第四十五話 壊れていくのは
第四十五話です、今回は繋ぎの回となっております、ですがどうか見て頂くことをお勧めします!
いつもありがとうございます。またまた評価が増えており本当に感謝感激でございます。
最後の商品の落札者が決まったのは、深夜二の刻を過ぎた頃。最終日を考えてだろう彼女を含んで皆、どれだけ渋れるかの闘いだった。初日ということもあってか、それほど魅力のある商品が無かったのだろう。どれも通常では考えられない程の安値で落札されていくのを、壁にもたれて退屈そうな彼女はただ見つめていた。
「欲の深い生き物だ全く…」
「人を言えた口か?」
隣、空になった酒瓶に栓をしながら言ったベルべ・モンテテイロー。彼も既に購入を済ませ、一息ついていた身分。自分含めてというだろう、欲求の為ならば悪魔の皮をも喜んで被る。人間というの生き物は快楽に忠実で、その業は海よりも深い。
「…しかし、遅いな。」
競売が始まってすぐにいなくなったサクラとベルフィーナがまだ戻らないでいる。取引の間外していたレティシアも不安の限界に近いようで、今すぐにでも探しに行きたい様子だ。
「今更ですか、何時間経ったと…いえ、なんでもありません。」
レティシアが怒りを向けるのも無理は無い。ゼアリスは終始別のことに気を取られている様子で、二人のことなどほんの僅かも気にしていなかったのだから。
ベルべという鍛冶師と話し始めてからは、今初めてレティシアに顔を向けたほど。
初日の奴隷競売が終わりの宣言を受けて開かれた。解き放たれた仮面の人間たちが一斉に波を作る。最後の一人まで見送ったゼアリス一行は静かになった会場に残った。
「じゃあな、おいらも行くぜ。仕事のことは心配するな、明日の夜にでも仕上げてやるさ。」
豪快に笑いながら手をひらひら振ったベルべが会場から消える。大金と躱した契約は、船にいる間に魔杖の制作を済ませ納品すること。かなり無茶な要求だがそれに見合うほどを積んである。
再びシンと静まり返った場内、ソワソワとするレティシアの僅かな衣擦れもが響いてしまうほどの静寂は長くは続かなかった。
扉が開かれ入って来た人物が声を上げる。
「ご無事でしたか!」
駆け寄ったベルフィーナの心配と安堵の声を聞き、駆け寄ったレティシアが彼女を抱き留める。
「遅い!…っサクラ様は!?」
ベルフィーナの胸の中泣きそうな声を発したレティシア。しかし違和感に慌てて見渡すと、彼女がいない事に気が付いた。取り乱すのを落ち着けて、これまであったこと、そしてこれからのことを一から説明し始めた。
「そんな…」
攫われた旨を聞き震え声を上げたレティシア。流石のゼアリスも難しそうに眉を顰めている。この競売の目玉である参加者奴隷、それがまさか連れの人間に起ころうとは思いもしなかった。
「リョウマ、勝算はあるのだろうな。」
「ある。それになくてもやるさ。」
決意に満ちた表情の彼には愚問だったようだ。
失敗すればサクラは奴隷、それはゼアリスの計画にも悪影響を与えかねない。しかし購入するにもアリアンナに使う以外に金は無い。そうなった場合切り捨てるのは当然、サクラの方だった。
「許せません…」
レティシアは怒りに震えていた、それは桜を攫った者に加え何も出来ずにいる自分に対してだった。失敗は許されない、この計画を成功させるのに最善は自分は傍観していることだという事実が苦しめる。
「私も出来得る限りは協力すると約束しよう。」
「ああ、一先ず今日は身体を休めよう。ベルフィーナも…あれだ、身体を流した方がいい。」
「…リョウマそれは言っちゃあだめだよ。」
小声で諭したアディラ。ベルフィーナは龍馬の言葉の意味を理解するのに数十秒、腕を髪を嗅ぎ顔を真赤に染める。恥ずかしさの籠った鉄拳が龍馬の肩を襲った。
皆は客間へと戻った。途中別れるアディラが龍馬と離れるのを惜しんで擦り寄ったが、鬱陶しがられて渋々帰っていった。
各々部屋で過ごす最初の夜、とても濃密な一日に終わりを告げた。
今日も今日とて始まった、顔を隠した外道の集う最悪の宴。初日を超えて止まない狂乱は、競売人の登場で更に熱を帯びた。埋まりに埋まった会場を支配する吐き気を催す邪悪な愉悦。
進むに連れ増して行く勢いも、中盤を過ぎた頃少しの落ち着きを取り戻した。昨夜と同じく、消費を抑えるためにあまり吊り上がらない落札額。思わしくない結果に肩を落とす競売人は、隠れてにやりと笑った。
その商品の登場は会場の興味と、冷め始めた狂気の炎を再び盛らせた。増える蔑むような視線は皆透明なケースに向けられて、一度食いついた獣の欲は止まることなく求め始めた。
「さあさ盛り上がってまいりました、今宵も恒例あの企画…の前に、皆様特別な商品の登場です!!こちら性別は男。年齢を十三。驚くのはーその種族ぅ!こちらの少年…のように見える子は、あの高潔な天使族なのです!!」
天使族。それは空の上、誰も知らぬ天界と呼ばれた浮遊都市に存在するというとても珍しい種族である。両性具有の彼らはとても高潔、そして傲慢な性格の持ち主で、いつも全てを見下していた。
そんな彼らの存在が何故知られているのか、それはある掟による天界の追放によるものだった。それを犯した天使は、真白の羽を毟り取られて蹴落とされるという重罰に処されるのだ。
そこまでの重罪、それは…
「それは恋!天の者でありながら地上の人間に思いを抱いたこの咎人を、さあ。悲恋の主人公、手に入れるのは果たしてえー-……誰だぁあ!!」
ものすごい勢いで吊り上がっていく落札額。最早最終日の大目玉を諦めた人間による闘いで、今回の競売で昨夜あわせ最高記録を優に超して止まらない。
喧騒は鳴りやまず、皆少しずつ少しずつ値を吊り上げていく。後に残る目玉商品を想いながらも目の前のお宝に手を伸ばさないわけにはいかなかった。
両性具有な堕天の子は幼過ぎた。何が起こっているのか分かっていないのか中性的な顔で呆けている。羽も無い、仮面を着けた大人たち。蹴落とされて間もない子供は物珍しさに輝く瞳を向けていた。
そんな熱狂の渦中にあった会場に静寂が。競売人の一言に参加者の全てが一瞬口を噤み、そして沸騰したような喧騒が再び襲う。
この競売の落札額を決めるのは口頭による宣言では無く、手の挙げ方によるものだった。初めに決められた額からいくら上げるのかは指を何本立てているか、手は開いているのか閉じているのか、その仕草で全てが決まる。
最低額ずつ上がっていった天使族の落札額を一気に吊り上げたのは足を組んで微笑んだ男。彼の手は、前に二倍の意を示していた。
「ちょっと…」
隣に座った女が囁き、男の掲げた手を下ろさせようと窘めるが応じようとしない。笑顔は時間が経つにつれて深まっていく。負けじと他の参加者がずつ吊り上げるが、圧倒的な余裕で再び引き離す。
「くっ…」
「なんだ、あいつは。」
悔しそうに歯噛みした他の参加者の視線をまるで気にしない、男は仮面から見える眼を細めて笑う。
カンカンッッ
落札を決める高い音が静かな会場に響いた。恍惚に息を吐いた男は透明な檻に捕らわれた天使を射ると嬉しそうに白目を剥いた。
「ああ、最高の素材が手に入った…」
クツクツと声を挙げた男は精巧な仮面の下を歪ませた。
「気は済んだか【フェイス】、まったく無駄遣いを。」
「無駄ぁ?分かってないなあ。見ろよあの顔を、怯えも知らぬ純粋無垢な表情を。紛れもない逸材だ、まさしく傑作の予感…っ!」
呼ばれた男は未来の楽しみを想いながら隣の女を嘲った。舌打ちをした女は今夜にもう用はないのか、男に何か言い残すと足早に発つ。
「【チェイサー】、首尾はどう?」
「問題ない、後は保管庫の場所が分かれば終わりだ。」
「そう。」
どこからか現れた痩せぎすな影は一瞬女の隣に立って姿を消した。闇を投影するような真黒の瞳、深遠が見通す先には濃い暗闇が宿っていた。
見て頂きありがとうございます。少し退屈だったかもしれません今回は裏で進むお話でございます。
これからも面白く展開できるよう頑張りますので応援よろしくお願いします!!




