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混沌に染まる  作者: 式 神楽
第三章 オークション
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第三十九話 酷く腐った嘘つきは

第三十九話です。第三章もまだまだ序盤、これからでございます。楽しみに待ってくださる方がいるだけで幸せでございます。私頑張りますので応援していただけると幸いです。

ブクマや評価なんかも…ちらっ

 暗闇を光が照らす。見下ろしたステージにいるのは真っ白で統一された男。

 「よー--うこそぉ!!紳士淑女の皆々様ぁ!今年も始まります、仮面舞踏会ぃ!」

 競売人の男が、魔法で増幅された声で会場を沸かせる。熱狂の渦に飲まれた参加者は腕を掲げて叫んでいる。奴隷競売が今、始まりを告げた。


 「まずはこちらぁ!一品目の登場です!」

 大きなと共にどでかい透明なケースが運ばれてくる。太った大男二人が車輪を外してステージに下ろす。

 感嘆の声が上がって、下卑た視線が集まった。透明なケースの中で絶望の表情を浮かべた少女が一人。たすけを求めて必死に中から声を上げるが、その悲鳴すらも参加者を沸かせるだけ。


 開会を告げる宣言に鳴りやまない指笛と絶叫が数十秒続いただろうか、競売人が手を掲げると同時に静寂が襲う。ぴたり、水を打ったように止んだ喚声。しかし熱く火照った興奮はそのままに、今奴隷競売(オークション)が始まった。


 「うっ…」

 「サクラ様、大丈夫ですか?」

 心配そうに顔を除いたレティシアに目で答える。吐き気を催すのも当然。一品目と紹介された、透明のケースの中で泣く彼女はまだ小さい子供なのだ。目を反らしても何も変わらないが、目を向けていることが出来ない。


「性別は女、種族は人間、年齢は……」

 遠く、ステージ上で読み上げられる商品の詳細を聞く。増幅する気持ちの悪さ、人間の扱いをされていない少女の初期価格は、一生を支配するにはあまりに安過ぎた。

 参加者が札を挙げ、彼女の値段を釣り上げていく。最初の商品だからか皆高揚した様子。笑いながら、遊んでいるようなその光景。


 カンカンッッ

 「決まりました、百五十二番……で落札です!!」

 感嘆の声が上がり、落札者と最終価格が決まった。最初より高くなったとはいえ、それでもまだ人一人の値段とは考えられない。


 「あ、あの子はどうなるんですか…」

 桜は恐る恐る、黙ったままステージ上を眺めているゼアリスに声をかける。想像は容易に出来た、しかしそれでもまだ認めたくない自分がいて、まだ残っているはずの希望にかけた桜の眉は険しく歪んでいる。


 「落札者は…下級貴族か。ふんっ、下卑た奴だ。ああいいうのは質が悪いぞ。良くて性奴隷か壊れるまでの玩具だな。」

 「そ、それのどこが…っ!」

 胸を締め付ける憎悪を抑えながら食い掛る桜。ゼアリスは感情を表に出さず、ただステージから運ばれていく透明なケースを目で追った。


 「悪くて。悪くて生きたまま嬲られて、最後は愛玩動物の餌だな。人間と扱われなくとも生きていれば…いやそれは違うか。死にたくても死ねない、どちらにしても待つのは地獄さ。」

 彼女は淡々とした口調で言う。しかしそこには憐みの感情が籠っていた。


 全ての奴隷がそうではない、ただこの船上の競売に集まるのはろくでもない者が多いのだ。世界中で扱いが認められている奴隷は、厳しく制限がかけられている。持ち主は奴隷への衣食住を義務付けられ、暴行・尊厳の剥奪などはもっての他。

 だが仮面舞踏会と銘打った船上の奴隷競売は、そう言った束縛を無視した違法取引を見逃している。つまり落札された奴隷がどんな扱いを受けようが、誰にも文句を言われない。


 吐き気が、涙が止まらない。どうにかしたいと思うほどに何もできない自分が憎い。目を反らすことしか出来なくて、それをしても何も変わらないことが更に胸を苦しめる。

 「少し外の空気を吸ってくると良い。ベルフィーナ。」

 気分が悪そうに蹲る桜を見かねたゼアリスは、ベルフィーナを呼んで耳打ちする。頷いた彼女は隣に座ったレティシアに断ると、桜背中をさすりながら二人会場を抜けた。


 「何を話されたのですか?」

 耳打ちの内容が気になったレティシアの問いに、心配そうな顔を向けたゼアリス。杞憂だとは思いつつもこの競売の名物を気にしないではいられない。

 「毎回、この競売では参加者から一人二人商品として出すという最悪の恒例行事があるのだ。だから皆競売中は外に出ない、会場にいれば安全だからな。」

 息を飲んだレティシアは腰を浮かすが今更遅い。それに自分が行っても余計足手纏いになるだろう。不安はあれど護衛としてベルフィーナは優秀な騎士だ、彼女の事を信用して待つしかない。


 漫ろな気持ちなレティシアに反して、競売は恙なく進んで行った。隣で笑う、彼女の顔が歪んでいたことなど誰も気が付かないままに。


 

 「すみません、大分落ち着きました…」

 静かな夜、海の波に心を預けながら目を瞑っていた桜。ずっと背中を温めていたベルフィーナに礼を言って寄り掛かった身体を起こす。外の空気は澄んでいて、競売会場の淀んだ空気と華やかな灯りとは一転静かに凪いでいた。


 「いえ、無理なさる必要はありません。私も、あの場に長いこといるのには耐えがたい…」

 拳を握りしめたベルフィーナの顔は怒りと憎しみに染まっていた。甲板には二人、こうして気分を紛らわせようとする人間は一人もいない。自分達がおかしいのか、皆狂っている。


 「風邪をひく前に部屋へ戻りましょう。海風は冷えますから。」

 ベルフィーナは桜の肩を抱き、二人甲板から船内へと戻ろうと振り返った。


 魔法灯だけが淡く光る中で、そいつは居た。一言も離さずに、影のかかった顔の表情は見えない。

 ミシリッ

 音が鳴った甲板の上を進む。向かってくるそいつに目を合わせてはいけない、直感が危険だと告げている。まだ距離があるそいつは横に避けた二人に合わせて正面に立つ。


 「サクラ様、私の後ろに。」

 何が起きているのか分からない桜は言われた通り背中に隠れる。背後から見えたベルフィーナの顔は焦りを隠せていなかった。


 「何用だ…そこをどいてくれるか?」

 大きめな声で訪ねても返答は無い。夜の暗さに顔も見えないそいつは、ベルフィーナを優に越した身長に彼女の足より屈強な腕、服の上からでも分かる身体の厚みが語るのは見た目だけでない強さ。男だ。頑強な胸筋は姿を見せて、浅黒い皮膚を盛り上げている。


 大きな一歩、右足が甲板を軋ませる。来る、そう思い身構えたベルフィーナは剣の柄に手を掛けた。

 燃えるような赤髪を見たのは自分の身体が叩きつけられた後だった。

 「かっ…」

 ミシミシと悲鳴を上げた肋骨は数本折れて、正常な息をすることを阻害する。確かに防御したはずなのにと、甲板に這いつくばったベルフィーナは男の方を見る。裏拳を繰り出した左手をそのままに一瞥もくれないそいつはジッと桜を見下ろしていた。


 あの瞬間、男の身体が動くのを感じ取ったベルフィーナは剣を抜いて防御しようとしたのだ。刃の面を肘で支えて奴の裏拳の一撃を。しかし遥かに予想を上回った重さに、減り込んだ肘が肋骨を砕いて身体を吹き飛ばした。

 逃げろと叫ぶが思うように声が出ない。助けなければ、そう思ってサクラの顔を見たベルフィーナ。怯えて声も出せないと思っていた、しかし彼女は震えながらも強い瞳を向けていたのだ。


 「わ、我は天啓に導かれし聖なる者なり…我の声を聞き、我を守りたまえ、【聖盾(せいじゅん)】!」

 バチバチッッ

 伸ばされた手を弾いた光、夜の闇に輝く金色は聖女である桜に許された力。彼女の身体を覆った金色の光は全てを弾き、主を守る絶対の盾。【聖盾】、それは【聖姫巫女見聞録】に記された聖女だけに許された特別な力の一つ。役に立ちたいと願った彼女が必死で見につけた数少ないものだった。


 「我は天啓に導かれし者なり!我の声を聞き…」

 次は何を、そう思った男は素早く身を引いて距離をとる。しかしそれも桜は予想していた。両手を男に向け、狙いを定める。

 「愚者に聖なる光の声を!【牙天(がてん)咆哮(ほうこう)】!!」

 一瞬大きな光が桜の両手を覆い、ふっと消えた。音も無く、何が起きたのか分からないベルフィーナと男の二人。失敗に思われたその攻撃。怯えて距離をとった男はいらつきながら桜に飛び掛かった。

 その時、小さく淡い光が男の腹の前に灯った。


 パンッッッ

 短い破裂音と釣り合わない程の衝撃が男を襲う。空中に飛び上がった身体を後方に大きく吹き飛ばし、壁に叩きつけ罅を作った。

 【聖盾】が守の力なら、【牙天の咆哮】は攻の力。天に牙を立てる愚かな闇を照らし、滅する強力な一撃。まだ未熟な桜では滅するまでの威力を出せないが、人一人を吹き飛ばすなど軽いことだった。


 「はあ、はあ、大丈夫ですか!?」

 這って顔だけを上げたベルフィーナに駆け寄った桜。折れた肋骨は運よくどこにも刺さることなく、なんとか意識を保てていた。

 「す、すみません…」

 護衛を任されていながら不甲斐ない、その気持ちで心が裂けそうなベルフィーナ。守るはずの自分が守られて、こうして地面に伏せっている。


 「喋っちゃだめです。お願い、治って【巫女の光】…」

 身体を縮ませて苦しんでいるベルフィーナは血を吐き出して額に汗を浮かべている。脇腹の辺りに両手を翳した桜は、攻守の力よりも訓練を重ねた癒しの力。自分を守ることよりも、敵を傷つけることよりも優先したかった。いつも自分の代わりに戦って傷ついて帰ってくる彼を、治したいがために…


 それは優しい光だった。アルフレッドの命を吹き返した時と似た、淡くも眩しい治癒の灯が桜の掌からベルフィーナへと移っていく。小さくて丸いフワフワした光がポツポツと、彼女の脇腹に集まっていった。


 「ぐぅっ、?あれ、痛みが…」

 鈍く響いていた痛みの一切が消えたことに驚いたベルフィーナ。素早く立ち上がり自分の脇腹を摩るが違和感の欠片も無い。唯一残るとすれば甲板に染み付いた血反吐くらいだろうか。


 「情けないことです…サクラ様ありがとうございます。」

 「ううん!私も、守られてばかりじゃいられないから。」

 肩を落とすベルフィーナを慰め、二人は立ち上がった。目を向けた先、気絶していた男が起き上がる。願わくば逃げたかったが、もう遅い。


 感じる威圧が大きくなった。逆立った赤髪がツンツンと天を衝いている。ゆらりと踏み出した巨躯の男は、無表情ながら少し苛ついた様子。まるで百獣を屈服させて支配する、獅子のような顔をしていた。


 「来ますっ!!」

 先ほどとは違いゆっくりと歩き出した男。ゴキゴキと鳴らす指で作った拳を握りこむ。殺気だった気配に射られた二人は、止まらない生唾を飲み込んだ。

見て頂き本当にありがとうございます。これからも頑張っていきますので応援よろしくお願いしますね!!!

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