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混沌に染まる  作者: 式 神楽
第三章 オークション
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第三十五話 吹き曝しの無慈悲な風に

第三十五話です。日に日に書く時間が遅くなっていきます。しかし皆さまが応援して下さる限りかんばりますので、楽しみにしていただけると嬉しいです。

これからもどうかよろしくお願いします。

 帽子を被った男は道具を詰め込んだバッグを手に提げて店の鍵を閉める。爽やかな笑顔に細めた目は少しの胡散臭さを纏っていた。もう片方の手には徹夜で作業し終えた四つと彼女に見合う特別性の、合わせて五つの仮面が。


 「良い風だね、楽しい航海になりそうだ。」

 「さすが職人、出来上がっているな。」

 ルカッドを待っていた六人、鉄面を被る長身の騎士ビンを除いた五人に仮面を渡していく。新しく作り上げた物を順に、最後に皇帝へと特別性を渡した。


 「おおー…」

 皆同様に感嘆の声を漏らす。どれも独創性の高い奇抜な意匠。手触りも色も拘ってある本革製の仮面は、彼が職人として一目置かれる理由の全てが詰まっていた。しかし、一人だけ考え込んで仮面を見るゼアリス。彼女の手には同じく派手な仮面が握られている。


 仮面作成を頼んだ際、ゼアリスの分だけはもう出来ているとルカッドは言っていた。数年前、最初で最後の鉄面を作らせたあの時にはもう作成済みだった彼女の分。見た目には分からないが、他の仮面とは手触りが違うどこか高級感のある滑らかさ。


 ちらりと彼の目を見ると、細めた目を更に伸ばして微笑んだ。

 「…ありがとうな、礼の方は期待していてくれ。」

 「おお、それは楽しみな。」

 何か言おうとしたゼアリスは言葉を飲み込んで、感謝だけを述べる。引っかかったことが何なのか他の四人には分からなかったが、特に気にする者はいなかった。



 待ち人がいるというルカッドと分かれ、六人は出航時刻の迫る大型船へと足早に向かった。

 乗り場付近は厳しい警備状態が敷かれ、乗船手続きを行う者は皆仮面を着用していた。既に鉄面を着けているビンを除く五人は物陰で仮面を着けると乗り場へと並んだ。


 「次の方!」

 十分ほどが過ぎて呼ばれた一行は係りの人間へ招待状を渡そうと進んだ。しかしそんな時、横から勢いよく入り込んだ誰かにぶつかった。

 「っとお!わりぃね、兄ちゃん。」

 割り込んだのは小柄な銀髪少女、いや少年だろうか。声に仮面から出た鼻から下は中性的で性別が分からない。ジャラジャラと音を鳴らした大量の耳飾り、全く反省をしてなさそうに出した舌にも三つ黒い飾りをつけている。背には大きな筒を背負ったその子は無邪気な様子で両手を頭の後ろで組んだ。


 笑う口元に八重歯が輝かせた元気なその子は、龍馬に軽い詫びを入れると何も無かったかのように招待状を出した。

 「あの、非常識では?」

 眉を顰めたレティシアが招待状を渡そうとする手を掴み上げる。服が捲れたその腕には様々な模様のタトゥーが刻まれていた。


 「っつぅー!姉ちゃん力つっよいなあ。それ兄ちゃんに渡してな、んじゃあまたね!」

 悪戯に笑うその子は掴まれていたはずの右手を掲げて走り去ってしまう。レティシアは驚いて自分の手を見ると、長方形の封筒が掴まされていた。


 招待状を渡したゼアリスに続き、大型船に掛かる橋を上る。仮面を着けたまま、案内された部屋まで一直線に進んで行く。

 扉を開けたそこはまるで大きな一軒家のような広さがあった。部屋も人数分あり、キッチンにトイレ、シャワールームを完備していた。


 部屋の広さに驚くのも束の間、円卓を囲むように椅子に座った。卓上には先ほどの封筒が。

 「その紋章…見覚えがあるな。レティシア、開いてみろ。」

 封蝋に記された紋を見た彼女はレティシアに小さなナイフを差し出した。戸惑いながら蝋を跳ね上げ、中から一枚の紙を取り出す。

  

 リョウマ様

   依頼の際はご連絡を

     アディラ・デロ・セントグレン


 「な!?」

 手紙にはそう簡潔に書かれていた。たった二行の文を読み上げたレティシアの手から、手紙をひったくるように奪い取った。

 「セントグレン…私聞いたことがあります、確か、」

 「唯一表舞台に名の上がる、最強の暗殺者セントグレンだ…」

 レティシアの声を遮り説明するゼアリスの顔は驚愕に硬直する。何のことだか分かっていない龍馬と桜は話しに入れずにいる。


 「名前は当然知っていますが…」

 後ろから手紙を覗き込んだベルフィーナも詳しく説明は出来ないようで、この中で唯一ゼアリスだけがセントグレンという存在を一から全て知っていた。


 暗殺者。それは決して表舞台に上がらない裏の人間。殺しの依頼を受ければ必ず遂行し、達成を絶対とされる職業だ。その名は知られなければ知られないほど、存在が闇に包まれているほど価値が高いとされる。


 普通暗殺者は集まり、独自の組合を作ることで仕事を管理している。そして代々続く暗殺者の家計は生まれた子供に術を叩き込み、血筋と家を広げていく。

 しかしセントグレン家は特別、家と暗殺術を継ぐのは代々一人だけ。しかも正室・側室関係なく当主の血を引く子供は物心ついてすぐ暗殺術を教え込まれ、ある程度育った途端生き残りをかけた殺し合いを強いられる。歳にばらつきがあろうと、男か女かも関係ない。一子と末子が十離れていたとしてもだ。


 「で、では…」

 「ああ、先ほどの子供は唯一の生き残りだよ。」

 ゴクリと言葉と唾を飲み込んだ。垂れる冷や汗が背中を伝って服を濡らした。


 セントグレンに一般的な暗殺者の考えは当てはまらない。隠れてこそこそ、そんなものは弱者の考えだと。報復に怯えず、自らの力を誇示するようなセントグレンは最も有名な暗殺者であった。


 「主に受ける依頼は大貴族以上からのみ。これまで長い歴史でただの一つも失敗が無いとされる最強の暗殺者だ。」

 最強、その二文字に震える龍馬。彼も気づかないうちに口角が上がる。しかしそれだけでは終わらなかった。

 そして、と続けたゼアリスの言葉に皆戦慄することとなる。


 「彼らが継承式と呼ぶ兄弟での殺し合い。長子の歳は二十、末の子以外は皆十を超えていたらしい。式はほんの数十分、双子も含めて十を超えた兄妹を皆殺しにしたのは当時僅か()()だった末の子だった。」

 水を打ったような静寂が支配する。五歳の子供が、十以上も離れた大人を瞬殺などと信じられる訳が無い。人の気配を探るのが得意なベルフィーナも、龍馬でさえあの子が纏う雰囲気に強さを感じなかった。

 しかし、あの子がセントグレン家の現当主であることは間違いないだろう。そう確信できるのは名を偽り語ることなど誰にも許されないからであった。


 「アディラ・デロ・セントグレン。暗殺者として神の領域に片足を踏み入れたあの子は、継承式の伝説から畏怖を持った二つ名が付けられた。【鏖殺(おうさつ)】のアディラと。」



 塵芥、全て残らず貪り殺す。継承式、まるで天使のような笑顔を浮かべたアディラは銀の髪を隙間なく赤黒く染めた。その場にいた兄も姉も慄き震えていた側室達の全てを地に伏せ、残った父と母の前に長子に首を落としてこう言った。


 「ぼくね、みんなだーいすき。」

 純真無垢なアディラの笑顔。天使を殺し剥いだ皮を被った悪魔が覗く。それを見て確信した時の当主は全てを注いで育てあげた。完成した【鏖殺】は十五になり暗殺術の全てを教わると、当主を殺し家督を受け継ぐ。


 「さてさて、今年は何が起きるかな…」

 仮面の下、満面で笑う。スキップを踏んだ無邪気な子供は、船に揺られて声を上げた。

船に乗ったことはありませんが、風が気持ちよさそうですね。出航した船内で何が起きるのか、オークションとどんなものなのか。面白く進めていけるよう頑張りますね。いつも見て頂き本当にありがとうございます。

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