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混沌に染まる  作者: 式 神楽
第二章 本の虫
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第十八話 絶対の瞳

第十八話です。遅くなりましたこと、本当に申しわけありません!!!急いで書きましたので誤字等ございましたら気兼ねなく!章始まりは登場人物の紹介になってしまいますねどうしても。ここから面白く展開出来ればと思っておりますので是非!!!!

 国主に謁見を賜るのはこれで二度目だというのに、重厚な扉を前にして緊張が全身を強張らせる。

 「ベルフィーナは外に、私とサクラ様が入ります。」

 「はい。」

 比べて二人はいつもと変わらない。ゴクリと生唾を飲む音に恥ずかしさを感じる。


 古く大きい音を上げながら開かれた扉、足元には黒い絨毯が続く。一歩足を踏み入れ極力前を見ないように歩く。キョロキョロと回りを見渡すが、両横には誰も控えていない。一度も玉座に目を合わせることなく跪いた桜は王女の横で肩を縮こまらせた。


 中は広い、というのに気配は自分たちを含めてたったの四つだけ。一つは皇帝、そして傍に控えた騎士のもの。二人が放つ威圧感に飲み込まれてしまいそうで、今見下ろされていると思うだけで背筋が伸びる。それほどの圧迫感があった。


 「久しいなミルバーナの姫。」

 寒声が静寂を穿つ。美しく囁かれた声は女性のものだった。

 「ミルバーナ王国が第一王女レティシア、皇帝ゼアリス・グリード・ガヴェインへ絶対を。」

 「ぜ、絶対を!」

 王女の言うまま、桜も真似をして宣誓するが声が上ずってしまう。


 「く、ふふ…そう揶揄うな。顔を見せてくれ…隣の君は見ない顔だな。名は?」

 「桜と!も、申します…」

 笑う声も仕草の全てが美しい。顔を上げた桜が名乗ると、彼女はまじまじと顔を見たまま動かない。顎にやった手は白く陶器のような滑らかさを持っていた。シミの一つもない、処女雪のような肌。触れたら壊れてしまいそうに儚い、だというのに彼女の放つ圧は触れずとも全てを屈服させるよう。


 「それで、レティシア。サクラを連れたお前は何をしに来たのだ。」

 まるで何もかもを知っている、そんな風に光る瞳に睨まれた。硬直した身体に締まった喉、大きく息を吐いたが震えている。隣のレティシアは何ともないのかと、彼女を見るが小刻みに震える指を隠している。

 彼女の額の汗が、言葉を違うことは出来ないことを告げていた。笑ってはいるがガヴェインとミルバーナは同盟を結んだ国ではない。常に頭の中を占める最悪がレティシアの震えを大きくしていた。


 「こちらへは旅の途中、挨拶だけでもと参じました。決して深い、」

 「くっふふ…私を、謀るか?」

 ブワッッと全身の毛が逆立った。体中至る所から冷たい汗が噴き出して、それが一瞬で乾いてしまうほどの凍える笑顔。

 クツクツと心底楽しそうに笑う皇帝ゼアリスの、瞳の中から逃げられない。謀るなどとんでもない、秘密を貫くには目の前の彼女は恐ろしすぎた。


 この国が必死に隠すものを探しに来たと、まるで蛆虫のように内側から食い破ろうとしていることを、吐いてしまえば楽かも知れない。しかしどんな結果が待っているかなど生まれた赤ん坊でも想像できるだろう。

 

 「このゼアリスの腸を掻きまわしに来た…なんて度胸を語るわけではあるまいな?」

 なんと非道な言葉を吐くのだろう。そうなんです、と叫びたい。蛮勇でも愚かな空威張りでもいいから、しかし蹲ったままの桜は目を伏せることしか出来ない。


 ガヴェイン皇帝がこんなにも恐ろしい人間だとは知らなかった。レティシアは知っていた、しかし桜を心配させないようにと黙っていたのだろう。いや、彼女も緊張でそれどころでは無かったのかもしれない。

 自分のことで手いっぱいだった桜はレティシアの震える唇も、怯え揺れる声にも気がつかなかった。


 でも、今は違う。段々息の荒くなっていくレティシアに目をやる。このまま無言ではいられない。無力の殻を脱ぎ捨て立ち上がったのは桜だった。もう泣いてしまいそうな気持で、引けた腰に揺れる膝を抑える。

 「わ、わたしはっ!聖女です!!この国に来た目的は苦しむ人々を救うため、決して貴女を陥れるためではありません!!」

 言い終わる前には涙がこぼれていた。それは突如立ち上がった桜の眼前に鋭い剣が突き付けられたからであった。あと少しで目を抉ろうかという刃は、皇帝ゼアリスの隣で静観していた騎士のもの。凄まじい速さで迫った闘気を真に受けた桜は、言い終わると同時に気を失って膝から崩れ落ちる。


 「ビンっ!」

 そう呼ばれた騎士はすぐに剣を納めると倒れかかった桜を抱き留める。それを見たレティシアが立ち上がろうとするが睨まれて制される。


 「…理由は、分かったよレティシア。君達の滞在を認めよう。」

 玉座に深くもたれかかった皇帝ゼアリスは満足そうに息を吐いた。サクラの言の全てが真実ではないと、そんなことはすぐに分かった。しかし、自分でも認識するほどにわざと放った威圧の中、彼女は怖気ずに立ち上がった。それに、人々を救いたいという気持ちに嘘は無かった。

 (騙される…それも悪くない。)

 誰にも見えないよう、天井に向けて深く笑う。


 「二人と、外で待つ護衛の身はこの私が預からせていただく、良いなレティシア?」

 「仰せのままに。」

 一先ず、場を乗り切ったことに安堵の息を漏らしたレティシアは、騎士に担がれるサクラに深く巨大な感謝の念を飛ばした。彼女の顔には涙の跡がくっきりとしている。 


 「ビン、丁重にな。彼女は国賓の一人だ。」

 騎士は言葉なく頷いて返す。軽く手を上げ見送った皇帝ゼアリスに一旦の別れを告げ、謁見の間を後にした。待っていたベルフィーナが担がれたサクラを受け継ぎ、騎士の後ろ黙って歩く三人。


 ビン、と呼ばれた護衛騎士を見る。髪は肩ほど、切りっぱなしでバラバラの毛先が彼方此方に跳ねている。鉄の面が目と鼻を覆い、剥き出しの口元は端正で男女の区別がつきにくい。

 背のほどはベルフィーナを軽く見下ろして、肩幅は広く僅かに露出した腕は逞しく美しい。


 頭の先から足元に目を這わせる。とても異様な格好だ、目出しの僅かな隙間さえ無い鉄面には、黒く大きな単眼の紋。革製の軽装に身を包むその上から、太い鎖が巻き付き背中の錠で締め付けている。腕にも足にも細い鎖が螺旋に交差して、手足首にひとつづつこれまた錠のついた鉄枷が。


 一言も喋らないビンの案内は、絢爛たる装飾が施された金の扉まで続いた。開かれた客間は扉に見劣りすることなく豪華で、テーブルには既に湯気を上げたティーカップが準備されている。

 「ありがとうございます。」

 レティシアの感謝に無言で頷いたビンは部屋を出る、と同時に襲う酷い疲れに膝が笑い始めた。


 「殿下…」

 「先ほどは、サクラ様のおかげで助かりました…」

 心配そうな顔のベルフィーナ。レティシアはティーカップを握り、その温かさに一つ息をつく。

 恐怖からの解放は彼女に最高の安堵を与えた。少しだけ、と目を瞑る。数秒だけ、そう言った彼女は既に夢の中へと旅立っていた。 

見て頂きありがとうございますこれからも応援よろしくお願いします。

ブックマークや評価が増えていくことが日々の励みになっております。勿論見てくださるだけで最高に嬉しいです!!いつもありがとうございます。

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