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大衆学芸会

 秋の森の奥では

 

 夜な夜な大衆学芸会が開かれるらしい

 

 毎日毎日、大騒ぎだけど

 

 まわりに人はいないから

 

 どこからも苦情は入らないらしい

 

 

 大衆学芸会は何でも見られるらしい

 

 「自民党総裁選」とか「キングオブコント」とか「ノーベル賞授賞式」とか

 

 色々な出し物があるのだそうな

 

 演者になりたい人も豊富で

 

 楽屋裏には列を作っている

 

 早く演者になれないと怒って

 

 列の前を撃ち殺す奴だっている

 

 

 大衆学芸会ではお客様は神様らしい

 

 金を払えば宇宙の真理から、女のあそこまで

 

 何だって見られるらしい

 

 だけどほんとの事を言うと嫌がられるから

 

 気持ちのいい嘘をつく奴が人気なんだって

 

 

 大衆学芸会は物凄いスピードで

 

 次々に出し物を入れ替えていく

 

 その間に死ぬ観客だっているけど

 

 みんなに見えないようにこっそり埋葬される

 

 

 最近じゃあみんな飽きてきたので

 

 ちょっとやそっとでは驚いたりはしない

 

 無名の奴が壇上で首を吊っても

 

 「ネタだよ」って呟いて 次のショーをぼんやりと待つ

 

 

 自分の頭で考えられない観客は

 

 ぼうっと口を開けて目の前のショーを見る

 

 ショーの中に全てがあるから

 

 それ以外に言及するのはご法度だとさ

 

 

 だけど、そろそろみんな飽きてきたのかなぁ

 

 最近じゃあ、観客同士の殴り合いも多くて

 

 演者に物投げるのも流行りだしてきちゃった

 

 

 オーナーいわく

 

 「観客が観客である事に我慢できなくて

 

 演者に成り代わろうとしているんです

 

 今や見物席が舞台に成ろうとしている

 

 もう全てがメチャクチャです」

 

 …だそうです

 

 

 演者が舞台の上で

 

 首吊ったり人刺したりしているのを見てるだけじゃ我慢できなくて

 

 自分でも刺したり殺したりしてみたくなる

 

 「俺達だって自分達の権利がある」

 

 そう、その通り おかげで

 

 無知がそのまま一つの権利を手に入れた

 

 地球は人によっては三角形だったり四角形だったりするらしい

  

 

 地球が三角形だと信じている観客には三角形だという証明をしてみせる

 

 地球が四角形だと信じている観客には四角形だという証明をしてみせる

 

 それが結局の所正しい方法

 

 今の時代にあった正しいやり方なんだって

 

 

 そんな興行ばかり続けてきて

 

 次第に内部は荒廃してきた

 

 演者と観客の区別がつかなくなって

 

 夢と現実の区別がつかなくなって

 

 みんな夢の中にいるような顔で隣の人間を引っ掴みだした

 

 何もせず席に座ってただけど

 

 自分がこの世で一番尊い人間だって本気で信じて

 

 互いに食い合いを始めた

 

 それ自体もカメラで写して

 

 ショーとして晒し上げて

 

 観客の興味を引っ張っているけど それもいつまで続く事やら

 

 

 「もうこんな劇場燃やした方がいいんじゃないか」って

 

 誰かが暗い顔で言う

 

 僕は「それはひどいよ」って言うけど

 

 内心相当うんざりしている

 

 

 昔は人は神の前でドラマを演じていたけど

 

 今や人は人の前でドラマを演じるようになった

 

 その為に全てが低劣になってしまった

 

 僕は昔を懐かしく思い出しながら

 

 見物席の端で一人静かに朽ちていく

 

 みんなの大騒ぎを心地よいBGMにしながら

 

 静かに静かに世界から消えていく

 

 枯れて大地の養分になる植物のように

 

 

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