眠れる獅子
今も昔も、企業家って個性がすごいと思います
影ばかりで暗く冷たい階段を、今にも転落してしまいそうになりながら、必死に、壁伝いに駆け下り、そのままの勢いで保健室のドアを開け放った。
その瞬間、薬品を混ぜこぜにした鼻を突く匂いが広がる。
「す……すみませ……」
言葉は荒い呼吸に掻き消された。頭の中を手でかき回されるような苦しさのあまり、口も何もうまく動かない。右手で頭を鷲掴みにして、何とか混乱を抑え込もうとすることしかできない。
自立しておられず、左手はどこかに掴まろうと空中でさ迷っていた。
猫背になりながらやっとの思いで立っていても、白衣姿の広岡先生は、「空いてるから寝とけば?」と言わんばかりに、ベッドの方を指差すだけ。
端から見れば異常だろう。いや、俺だってこれが普通とは思わないが――。
慣れていやがる……俺も含めて。
今にも血反吐を吐きそうに、かつ薄笑いを浮かべ、いつも通り軽く頷くと、ほとんど気絶するようにベッドへ倒れ込んだ。
目を、耳を塞いでも、その嫌な記憶は脳内で掻き立てられ、否応なしに、鮮明に、次から次へと流れていく。逃げられない。
まぶたが閉じるその刹那、影が視界を横切ったように見えたら、苦しみは嘘のように過ぎ去った。