プロローグ
思い付きで書き始めたので更新不定期です。
結城晃という人間を一言で表すなら才能の塊だろう。天は二物を与えないというが彼を見れば誰もがそんな格言を信じなくなる。
テストの点数はいつも百点近く。
スポーツをすれば専門でやっている人と肩を並べるほど。
性格は気さくで、男子たちとバカやるような協調性も持ち合わせており。
それでいて芯は強く、まっすぐとした瞳は誰もを引き付ける。
また容姿も優れており、筋肉質な身体と爽やかイケメン顔が女性によくモテる。
男女ともに彼を認め、彼に嫉妬する人はいても彼を嫌うような人間はいない。まさに、完璧超人。
だからこそ、彼の突然の失踪には誰もが驚いた。
何か事件に巻き込まれたのではないか————付近を探してみるも見当たらず。
彼のその日の様子は————いつもと変わらなかったはずだ。
自殺をほのめかすようなことも言っていなかった。家出をするような人間でもない。そもそも家出をする理由もない。
いったい、どうして。
そして誰もが思う。事件に巻き込まれた説が濃厚だ、と。
警察が防犯カメラまで見て、付近の賢明な捜索までしたにもかかわらずなぜそう思うのか。理由は簡単。彼と同じくして、もう一人の女子生徒が失踪しているからだ。
彼女の名前は小倉佐紀。結城晃の隣に住んでいる彼の幼馴染で、テストの成績は常に晃の下、スポーツも女性にしてはできる方で容姿に至っては誰もがいったん惚れるほどの可愛さ。茶髪の髪をサイドに止めていて、非常に明るい印象を受ける女の子だ。
しかし彼女を明るくて可愛い女の子だと評する人間は少ない。いや、普通にしていればそう評する人は多い、むしろ全員だと言っても過言ではないだろう。ではなぜ異なる評価を得ているのか。
それは彼女が俗にいうヤンデレ女子だからだ。佐紀は晃のことが好きである。それはもう、彼女が物心ついたときから。
そんな彼女は晃に付く女性(佐紀の言葉で表現するなら悪い虫)を悉く排除してきた。どんな手段でも用いてきた。時には犯罪すれすれのことすらあった。
晃が関係することになると突如かかわってはいけない人間へと豹変する、それが小倉佐紀なのだ。
故に今回の失踪、佐紀が晃を愛するあまり監禁したのではないか。そんな荒唐無稽な、物語のようなことが校内では実しやかに囁かれたのである。
それでは実際のところではあるが、そんな話はただの噂話、荒唐無稽な物語の中での話でしかなかった。いくら佐紀がヤンデレとは言え、法律の及ぶようなことはしない。
「……………………佐紀、ずっと一緒にいよう」
だからまあ、晃が嫌そうに、本当に嫌そうにではあるがプロポーズのような言葉を口にしているのも彼の意思なのである。まあ言葉に関しては若干誘導されてはいたが。
そして当然、佐紀の答えは一択である。
「うん、ずっと一緒!ずっと一緒だよ、晃!!」
頬を紅潮させながら満面の笑みでその言葉が間違いではないと確認するかのように「ずっと一緒」を繰り返す佐紀を見て、晃はため息を吐かずにはいられなかった。