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カルテジアンの小説劇場  作者: 神崎 月桂
第一幕 魔法が使えない世界最強の魔法使い
7/11

Section1-6

「ねえ、この固っ苦しい話し方ってやめちゃだめなの?」


「陛下、一応は儀の場なのですから、そういう発言はお控えください」


 拍子抜けした。驚いたことにこの軽っぽい発言は、陛下の口から出てきたものだった。

 まあ、よく考えてみたらこの場でそんな発言できるのは陛下しかいないか。


「えー、エーミルのケチ。うーん、それじゃあ儀はここまでということで」


「陛下!」


 思わず失笑してしまいそうになる。なんとかすんでのところで堪える。


「ね、これでいいでしょ? あー、あのガチガチに固い喋り方疲れるのよね」


「全く……陛下はいつもいつも…………」


「エーミル閣下、いつものことでしょう、諦めましょう」


「エレウシス、しかし…………」


 なにやらとんでもなく疲れた表情が見て取れる。


「ほら、みんな、そんな敬語とかめんどくさいのは置いといて、一緒におしゃべりしましょう?」


「陛下っ! せめて、せめて敬語は……敬語だけは…………!」


 うん、もうなんというかお疲れさまですとしか言えそうにない。


 あ、忘れていた。横にいるレインのことを見てみると、案の定放心しているようだった。

 まあ、僕も放心しかけているんだけれども。


「して、アランとレインと言いましたね」


「あっ、はい!」


 突然名前を呼ばれて、少し動揺する。


「あなた方は、この先どうするつもりなのですか?」


「この先…………ですか?」


 突然に言われて、たじろぐ。これからのことなんて、あまり考えていなかった。


「可能な限りのことは私どもの方から援助を行いたいのですが」


「そのことなんですが、陛下」


 割り込んだのは、エレウシスさん。


「彼女を研究室より呼んでは頂けませんか?」


「どういうことでしょうか、エレウシス」


 訝しげな表情の陛下。エレウシスさんは続ける。


「この2人に純魔力爆発について、それからおそらく学校で習いきれていない範囲について教えてあげてほしいのです」


「それは構いませんが…………そう簡単に彼女が動くでしょうか?」


「それについてはこう伝えていただければおそらく来ていただけるかと。第1位に匹敵、あるいは凌ぐ純魔力爆発を観測した、と」


 その言葉にアナスタシア陛下とエーミル閣下、2人の顔から血の気が引く。


「わかりました、彼女を呼びましょう。しばらく待ってください」





「うぃーっす」


 陛下以上に緩い口調が聞こえた。頭をポリポリと掻きながら、白衣の女性が謁見の間へと入ってきた。


「ドロシア、口調を改めよ」


「よいではありませんか、エーミル。ドロシア、わざわざありがとうございます」


 陛下の対応にやはり閣下は「そうは言いましても」と反論しようとするが、まあ聞いていない様子の陛下だった。

 心労、凄そうだなあ。他人事みたくそう思った。


「そんで、第1位と同等の純魔力爆発ってのは、どういうことっすか?」


「ドロシア博士、それについては、これを見ていただきたい。私の部下のリテリバルより受け取った、今日の魔力線の動きの記録です」


 開かれたのは、1枚の地図。その上にはたくさんの線が立体映像ホログラムとして映し出され、動いていた。


「赤いポイントがついている場所、ここが今回襲撃のあった、カルテル村です。そして、純魔力爆発の中心です。間もなく起こります」


 すると今まで互い互いが無作為に乱雑に意味もなさげに動いていた線が突然に歪んだ。

 まるで水が穴に飲み込まれるようにある一点、カルテル村へと向かっていった。

 そうしてすべて穴に飲み込まれたのか、地図から一切の線がなくなった。


「光ります、閃光に注意してください」


 突然言われ、咄嗟に目を瞑る。まだ余裕がありそうだったので手で目を覆う。

 直後、まばゆい光が感じられた。目を瞑り、手で覆ったにも関わらず、それでもなおまぶしい光が。


「もう大丈夫です」


 エレウシスさんがそう言った。目を開くと、線の様子は随分と変わっていて。

 赤い点、カルテル村より放射状に線が伸びていた。 


「なるほど、確かに純魔力爆発があったようっすね。ただ、単に第1位が使っただけとかそういうわけじゃ?」


「純魔力爆発のあと、第9位まで確認をとりました。が、誰1人カルテル村にはいないとのことで」


 魔力線による場所確認も行いましたが、全員全く違う場所でした。と、なにを言っているのか全く理解できない。


「場所確認の正確性は?」


「純魔力爆発発生後の特性で残留魔力線は比較的晴れる。相当の正確性はあるかと」


「なるほど、たしかにそうっすね」


 ドロシア博士と呼ばれた女性は口元に手を当てて、なにか考えている様子だった。


「要するに、その純魔力爆発を使ったのが、この男子ってことっすか?」


「ん? いや、使ったのはこちらのレインくんだ」


「ふぁっ!? いや、あんたらなに言ってんすか」


 頭を掻くスピードを格段に上げ、ドロシア博士は言った。


「あー、じゃあやりましょーや、ここで。適正値測定」


 そう言うと、ドロシアさんはどこかへ行ってしまった。


「エレウシス、ドロシアはなにを言っているのでしょうか?」


「私にもわかりかねますが、とりあえずは彼女の言うことを聞きましょう。こういうことにおいては私達では彼女に敵いません」




 ガラガラガラ、台車が押されて来た。上には大きな機械が乗っていた。

 見覚えのあるもの、幼少期に触った覚えのある、特殊能力者か否かを見極め、またその強弱をも概算的に見極める、適正値測定機。


 柱のような本体の上には半透明の珠、ここに手をかざして魔力を流し込むことで特殊能力の有無がわかる。


「さあて、とりあえずやってもらいましょーか。とりあえずそこの女子」


「あっはい!」


 レインは慌てて返事をして機械へと近づいた。緊張しているのか、動きがぎこちない。まあ、僕が言えた話じゃないけど。


 手をかざしてしばらく、珠はパアアッと青白く光る。そして備え付けのディスプレイには「756」と数字が浮かび上がる。


「756っすか。まあ、平均よりちとばかし上っすが、第一位どころか純魔力爆発にも届かないっすね」


「あの、その純魔力爆発っていうのは一体…………?」


 恐る恐る聞いてみる。さっきから何度も出ているのに、一度も説明がない。エレウシスさんとエミール陛下との会話を聞く限りはこの人から説明があるはずなんだけど。


「なんだ、知らないっすか? ってそういえば説明して欲しいとも言われてっすね。まあいいや、後で説明してやるっす」


 なんか、すごい適当な人だなあ。そういえばレインの適正値を測ったのだから、次は僕か。


「じゃあ次――エレウシス、よろしくっす」


「はい?」


 ドロシア博士を除く、その場の全員から、腑抜けた声が聞こえた。


「ほらほら、早くやるっすよ」


「あ、ああ。わかった」


 エレウシスさんは戸惑いながらも機械に近づき、手をかざした。しばらくして現れた数字に、思わず目をひん剥く。


「さんぜんななひゃっ……!?」


 ディスプレイに映し出されたのは3784という数字。この検査で4桁なぞ、出たところを見たことがない。同年代で1番高かったリリョウですら980台だった。


「とまー、属性の問題とか性質の問題とかあるけど、まあ指標としてはあの女子から見て大体5倍ってところっすかね。まあ、これでも純魔力爆発には届かないっす」


 なぜだろうか。さっきからドロシア博士がとても楽しそうに見える。まるで、初めて見るおもちゃを手にした子供のような、そんな無邪気さ。


「さあて、じゃあ次は、まあ結果はわかってるけどエーミル、どぞどぞっす」


「なっ、なぜ私がっ!? それに結果がわかっているのならばやらなくてもよいのでは!?」


「念の為っす、念の為。それとも、陛下にやってもらいますか? 私的には特殊能力者でなければ誰でもいいんです」


 ニヤリと笑ったドロシア博士。閣下はなにかに耐えるような表情をして、ため息をついた。

 まあ、そうだろう。陛下の性格がこんな感じなのだと知った今、僕だってこの状況で陛下が自分からやろうとすることくらい予想がつく。


 心労は、相変わらず降り積もっていそうだった。

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