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カルテジアンの小説劇場  作者: 神崎 月桂
第一幕 魔法が使えない世界最強の魔法使い
6/11

Section1-5

「君たち2名は、現刻をもって我々騎士団の監視下に置かれることとなった。すまないがこれは決定事項だ、変えられない」


 淡々と、そう告げられた。

 衝撃的だったかと聞かれればイエスだろう。が、以外だったかと聞かれれば別段そうというわけではない。

 エレウシスさんは僕らのことを「生き残り」と呼んだが、この惨事に生存者が2人、おそらく純魔力爆発なる魔法が使われた痕跡がある。


 惨事を招いた原因が僕ら2人にあると言われても仕方ない状況ではある(実際付近に出現している裸地は僕らのせい)。


「大丈夫です、覚悟はしてますし、抵抗するつもりもありません」


 そう答えると、目をまんまるに丸めてエレウシスさんがこちらを見てきた。

 フフフッと笑った。なにかおかしかったのだろうか。


「いやいや、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。いや、そう思われても仕方ないか。先にこっちを言うべきだったな」


 エレウシスさんは空いている手で頭を軽く掻いて困った表情をしていた。


「君たちを監視下に入れるというのは形式上の話で、実質的には保護をするだけだ。少し状況に厄介事が絡んでいるからあくまで形式上として、だ」






 ガラガラガラガラ…………ガタンッ……ガラガラガラ……


 時折車輪を跳ねさせながら馬車は街道を走る。

 カルテル村はそこまで王都から遠くはないのだが、そもそも物資の大規模な運搬も人の大移動もそこまで頻繁に行われることがないので街道はあってもあるだけ。整備は相当に適当なもので悪路、馬車が通るにはあまり向かない。


 あの後、エレウシスさんは王都に連絡して馬車を1台呼び付けてくれた。今はそれに乗っている。

 隣には未だ目を覚まさないレインが寝ている。車輪の音でなかなかうるさいが、耳をすませば寝息が聞こえてくる。


 兵士の人たちが村を全力で捜査してくれた。メルトたちはもちろん、敵はもう残っていないのか。

 そして、生き残りがまだ残っていないのか。

 結果は双方とも否だった。


 村には僕ら以外には誰もいなかった。その事実に安堵している僕もいたし、ひどく喪失感に襲われている僕もいた。


「レイン……どうしてこんなことになっちゃったんだろうね……」


 彼女からの返答はない。ただ小さな寝息を立てるのみ。


 布を通して入ってくる光。車内はそれなりに薄暗かった。

 仄かめいたその明かりが虚しさを一層強調する。



 みんな、本当に死んだんだ。



 やっと、その事実を飲み込めた。飲み込みたくはなかったけど、飲み込めた。






 しばらく前にはきちんと舗装された大きな道に入ったようだった。揺れが大幅に軽減された。

 正直若干酔いかけていたので助かった。

 レインも途中で目を覚ましていた。とはいえかなり意識は朦朧としているようで、起きてから時間はそれなりに経っているにも関わらず、いまだ焦点が定まっていない。会話もままならない。


 なんでも、魔力欠乏症にはよくある魔力障害らしかった。

 そもそも魔力欠乏症は、魔力を著しく体外に排出することによりその反動に体が耐えきれず、また、名前の通り体内にある魔力量が極めて少なくなることにより発症する。

 魔力量自体は自然に回復する。これにより意識自体は回復する。が、反動による体への負荷、主に節々の痛みや怠さ。それに加え意識障害などは魔力が回復したからどうと言うわけではないので主だって長引く。

 これらは、純粋に休むことでしか治せない。


(それに加え、精神面の辛さもあるんだろう……)


 僕にとってカルテル村での事実が受け入れ辛かったのと同じで、レインにとってもそうだった。

 非自己な所で行われる逃避は、無意識化で行われる彼女の防衛本能なのだろう。

 きっと、今思い出そうものなら彼女は壊れる。

 だからこそ、彼女が目を覚まして「ここはどこ?」と定まらない言葉で尋ねられたときに「あとで教えるから、今は休んだほうがいいよ」と伝えた。


 ただまあ、どのみち幾らか時間が経てば目的地はわかるのだろうけれど。






 だんだんと馬車の動きが鈍くなってきていた。馬の蹄の音もゆっくりになる。ついには止まる。

 靴の音が近づいてきたと思うと、幕がバッと開かれる。現れた日差しは暗い車内に慣れていた目に暴力的に差し込む。


「長旅、というほどの距離でもないが、お疲れ様。王都セルディカに到着だ」


 逆光で見にくかったが、そこにいたのはエレウシスさんだった。


 全く把握できていないレインは、更に追加された初対面の人に余計混乱したのか、呆然として座ったままでいた。


「とりあえず、降りようか」


 僕は彼女の手を取って軽く引っ張る。

 立ち上がった彼女を誘導しつつ、馬車から降りる。


「…………すごい」


 降りてすぐに目に入る景色は、初めて生で見る王都だった。

 写真や動画なんかでは見たことはあったけど、実物はもっとすごかった。

 様々な彫刻が刻まれた絢爛な外壁、その上から覗いてくる厳かな王城。


 その荘厳さゆえか、どこか威圧感がある。


「おやおや、もう怖気づいてしまったのかい? これから謁見するというのに」


 エレウシスさんがクスリと笑いながらそう言った。僕は咄嗟にそんなことはないと否定をしようとしたが、ふと気づいた。

 謁見…………誰に?


「ほら、君はそのまま彼女の手を引いて来てくれ。これから王城へ向かう」


 頭が全く働かない。

 僕はとりあえず言われるがままにレインの手を引き、スタスタと歩いていくエレウシスさんの後をついて行った。






「………………」


 脚がガタガタと震える。見上げる首は非常に痛い。

 王城のそのすぐ手前、いわゆる正門の前に立っていた。

 正門ですぐに重厚な感じのある扉が侵入を阻むようにそびえていた。


「私だ、開けてくれ」


 エレウシスさんがひとことそう告げる。するとたちまちゴゴゴ……と鈍い音を立てながら扉が開く。

 3、4人が並んで通れる程度の隙間が空いたところでエレウシスさんは歩き始める。僕もそれを見て歩き始めた。

 未だ手を引かれているレインも歩き始めるが、彼女の意識はまだハッキリとしていないようだった。


 扉を抜けた先は、それは見事な庭園だった。普通に過ごしていれば到底見られなかったであろうその美しい風景に息を呑む。

 きっと専属の庭師がいて、丁寧な手入れを施されているのだろう。観光に来たのならゆっくりと鑑賞していきたいところだが、そうもいかない。

 僕は、なぜだかこれから王城に入り、謁見しなければならないのだという。

 だからか、美しいはずの景色さえも、いや、むしろ美しく整っているがゆえに存在する威圧感に。

 とりあえずレインを連れてついて行っていた。レインはこの状況にどんなことを思っているのだろうか。

 ふと、そんなことを思った。




 そこには、酷く張り詰めた空気が流れていた。

 部屋の中にいる人数とは不釣り合いすぎるほどにだだっ広い部屋。キラキラと光り輝いていてどうも落ち着かない。


「王立騎士団団長エレウシス、ただいま帰参致しました」


「ご苦労様ですエレウシス。報告を……と言いたいところなのですが、その2人はどうしたのですか? 初めて見る方ですが」


「あ、えっと、僕はアランって言います。その、カルテル村の生き残りです。で、こっちがレインで、同じく生き残りです」


 慌ててそう言ったけれど、失礼はなかっただろうか? それだけが気がかりだった。

 謁見、と言われていたからどんな身分の高い人と話をするのだろうかと思っていたら。まさか、

 まさか、女王陛下だったとは。

 髪の毛の先の先までガチガチに緊張しながら僕はそこに立っていた。


「そうですか、説明ありがとう、アラン」


 ニコッと笑って陛下はそう言ったが、どうも僕にはそれに対してどう反応すればいいのかがさっぱりわからなかった。

 それにしても、やはりプレッシャーだろうか、威厳に満ちた空気の圧力は、グイグイと僕を押し潰そうとしてくる。


 そろそろ逃げ出したくも思えてきた(けれど逃げ出そうものなら大事になるのでもちろんそんなことできない)ころだった。


「それにしても」


 誰かが、そう口火を切った。

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