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カルテジアンの小説劇場  作者: 神崎 月桂
第一幕 魔法が使えない世界最強の魔法使い
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Section1-0

 おや、客人とは珍しい。こんにちは。いや、こんばんはだろうか? それともおはようかい?



 すまないね、この部屋には時計を置いていないから時間がわからないんだよ。窓は全部本棚で塞がれてるしね。


 まあ、とりあえずそんなことは置いておいて、君がここに訪れたことを喜ぼう。私はなぜここに君が来たのかは知らないが、このことにはきっとなにかの縁があることだろう。


 とりあえず、紅茶でもどうだい? アッサムもニルギリも、セイロンもダージリンも。基本的なものなら揃っている……。ああ、要らなかったか。すまない。


 ここに人が来るのはいくらか久しぶりでね。少し興奮気味になってしまっていたよ。



 ここはどこなのかって? ここは私の書斎だよ。壁を見てごらん、本がたくさんあるだろう? 私が世界中から集めたものだ。


 ああ、言い忘れていたが、そこいらに置いてある段ボール箱は蹴らないように気をつけてくれ。いや、蹴られてまずいものは入っていないんだが中身には本が詰まっているもんでね、この間私も蹴ってしまったんだが、本が詰まっているのがそんなに重いのか、相当に痛かったと記憶している。


 しかし、段ボール箱というのは便利でね、本棚がぎっちり詰まってしまって置く場所がなくなって途方に暮れていたときに私の友人が教えてくれたんだが、これほどまでに収納に適しているものがあるなんて驚いたよ。しかし、これは……。おっと、話がずれてしまっていた。


 はて、なんの話をしていたのかを忘れてしまったようだ。しばらく思い出させてくれ。……ああ、段ボール箱を蹴らないように気をつけれてれ。という話だな。本当に気をつけてくれよ。痛いから。



 ほう、本を読んでもいいかと? ああ、別に構わないが読むなら本棚から取るといい。なぜかって? それはな、段ボール箱は収納には便利だが、中身を見るのにはいかんせん不向きでね。だから読むことがあまりない本を入れているものだから、あまり面白くないものが多く入っている。あくまで私個人の感想でしかないから別に強制はしないがね。


 ほう、この本を読んでもいいかって? いったいどの本なんだい? ああ、もちろんいい――おっと、たしかに本棚とは言ったがそのあたりに置いてある本ははダメだ。なぜダメかと? いや、それはな。



 私はね、余った時間に本は読んでいたんだが、そのうち新しく読む本も無くなってしまって。それで、あんまりにも暇になってしまったから、それなら自分で書いてみようかと思ってね。


 しかし、そうは思って書いてみたものの、あまり上手くは書けなくてね。けれど、自分の思い通りに話が進められるというのもなかなかに楽しくて。まあ、その勢いでついでに製本までしてしまったのさ。


 まあ、自分で楽しむ用しか作ってないからそれぞれ1冊ずつしか作っていない。いわばオンリーワンというものか。まあ、そんないいものでもないのだがな。



 なに、読んでも構わないが、素人の書いたものだ。面白くはないだろう。それでも読みたいというのなら、止めはしないがね。


 そうか、読むのか。いや、悪いわけではないんだが、なんというか、自分の書いたものを読まれるというのは、なんともむず痒いものだな。しかし、悪い気はしない。


 他人の物語を読むのは茶飯事だが、自分のを読まれるのは初めてなんだ。私は随分とここに独りでいるからね。さっきの友人だって、最後に来たのはいったいいつだったかわからないくらいなんだよ。



 まあ、私のことなど気にせずに好きなのを1冊選ぶといい。なに、別に1冊だけしか読んではいけないわけじゃないが、別に本が逃げるわけでもあるまい。読み終わってからまた次を探せばいいさ。


 決まったのか。おお、それを読むのかい? それは、私が3番目に書いたものでね。おっと、心配しなくてもいい。私が書いているのは全て1冊で完結しているからね、読む順番だってむちゃくちゃだってなんら問題はないはずだ。


 そうだ、もののついでだ。簡単にその世界のことについて説明しておこう。いや、安心してくれ。重大なネタバレをするつもりはない。ただ、うまく説明できているか微妙な箇所があってね、そこについて補足させて欲しいだけなんだ。私だって1人の物語を好む者だ。ネタバレの重大さについては理解しているつもりだよ。


 了解してくれたか、ありがとう。それでは説明させて貰うとしようか。




 その物語の世界には「能力」という概念があってね。まあ、能力と言っても、たとえばなにもないところに火をおこせるとか、なにもないところから水を生み出すとか。俗に言う魔法に近いようなものなんだ。まあ、火をおこすとか水を生み出すとかは、そういったものは普通の人にもなんなくこなせる。こういった能力を一般能力と言い、そうでない能力のことを特殊能力と呼ぶ。


 特殊能力は誰にでも使えるわけではなく、適正がないと扱うことができないんだ。また、どのような能力なのかは使い手によって変わる。


 そして、適正の有無、また強弱は検査で調べることができ、その結果を数値化したものを適正値と言ってね。これが0で無ければ特殊能力が使える。それが、たとえ微々たる量であっても。


 この主人公も、たしかに0では無かった。しかし、彼は特殊能力を使えなかった。それどころか一般能力さえ使うことがままならなかったのだ。



 まあ、先ほど言った「特殊能力を使えない」というのは語弊がある。正しくは「特殊能力が使えていない」だ。


 彼の適正値は不明。使えていないのだから、もちろんながら特殊能力の内容も不明。しかし、0では無いため、学校では特殊能力が使える人たち――特殊能力者のクラスに入れられていた。


 特殊能力者のクラスにいるくせに、一般能力すら使えない。いじめるのにおあつらえ向き。ピッタリすぎるいいような理由を持った彼はカモがネギをしょってきたが同然。それが原因となって昔はよくいじめられていた。今ではもう止んでいるがね。


 まあ、こんな人物の能力なんてものは大抵は強力なものというのが定石で、特に主人公なんてものはさらにだ。もちろん、この主人公についても例外ではなくそうだった。


 ただし、「ある意味」においてのみである。そしてある日、この少年に……。




 おっと、興奮してかなりしゃべってしまっていた。重大なネタバレはしていないと思うが気を悪くしていたならすまない。


 さて。それにしても、随分と引き留めてしまってすまないね。これ以上うっかりとネタバレをしてしまうのもなかなかに怖いし、そろそろその本を読むといい。


 読む前に1つ質問をいいかと? ああ、いいよ。私の答えられることならなんでも答えよう。……名前? 題名なら表紙に書いてあるだろう? ええ、そういうことではない、と?



 ああ、なるほど。本の名前ではなくではなく私の名前か。間違えてしまってすまない。


 しかし……。そうだな、人と会うこともなくなって、名乗るような名前なんて随分と昔になくしてしまったんだが、今は人がいるわけだから、呼び方が無いのもたしかに不便か。


 なら、暫定的にカルテジアンとでも呼んでくれ。まあ、私の名前が物語にどうこう関わることは無いから忘れてくれても構わない。



 ああ、それから最後に。……っと、さっきから同じようにこうして延ばしてしまって悪いね。計画性がないとはよく言われるんだよ。ああ、そんなことはどうでもいいから早く本を読みたいだろう。重ね重ね、すまない。


 最後に、この本を読んだあとで、もしよければ感想を欲しい。さっきも言った通り、私が書いた物語を読まれるというのは初めての経験でね、他の人から見るとどう見えているのかということについてはかなり興味があるんだよ。まあ、もしよければ。でいいんだがね。



 それでは本当に随分と長い間引き留めてしまったが、そろそろ第一幕目の開演時間ということにしようか。物語の世界へ出発の時間だ。


 だから、しばらくの間だけ別れることとしよう。



 次に会うのは、エピローグで――。

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