僕は夢を見た(65) エルマの卒業式
今日はエルマの卒業式だ。
エルマの家で朝食を頂き、誘われるままエルマと共に街を歩く僕。
よしひろう:「ついて来てってさぁ、どこに行くんだよ?」
エルマ:「もうすぐそこよ。」
僕の肩から担いだ雑嚢の中には子猫のレナが入っている。
エルマが一緒に連れていくと言ったからだ。
そして着いた先は婦人用の防具屋さんだった。
よしひろう:「おおお!?」
エルマ:「どうしたの?」
よしひろう:「僕にここに入れというのか?お前は!?」
エルマ:「貴様に「お前」呼ばわりされる覚えはない!と言いたいとこだけど…」
エルマ:「ヒロにも見て欲しいの。」
エルマ:「その…似合ってるかどうかを…」
両手の人差し指をツンツン合わせながら恥ずかしそうに上目使いをするエルマ。
その可愛い仕草に鼻の下を伸ばす僕。
よしひろう:「あ…ああ、そういう事ならまかしとけ!」
レギオナ:「(主殿はチョロイですね。ウフフ。)」
よしひろう:「(うるさいぞ、レギオナ。)」
エルマに促され婦人用防具屋に入る。
エルマ:「頼んでいた物はできていますか?」
防具屋の女主:「あら、エルマ様、いらっしゃいませ。」
防具屋の女主:「出来ておりますわ。さぁこちらに。」
そう言うと衣装の入った箱を幾つも用意する女主。
そして試着室にエルマと共に入っていく。
カーテンが閉じられ、待つこと数分。
再びカーテンが開かれた時、そこには見間違う程に美しく着飾ったエルマの姿があった。
エルマ:「ど、どうだろうか?」
薄い黄色のパールがかった膝丈までの白いドレスに、肩からはみ出る程の大きい肩当て。
肩当ては華奢な体には少し大き過ぎる感じもするが…
その肩当てはロイヤルブルーに金色のモールドが施してある。
肩当てからはドッレスと同じ薄黄色のパールがかった白いマントがその身を包むように垂れ下がっている。
ヘルムは僕のヘルムとよく似た形をしており、鳥のくちばしの形をした金色のモールドがある。
胸当てもロイヤルブルーの地に金色の飾りが付いていた。
よしひろう:「………」
圧倒されて言葉が出ない。
何かに似ているんだが…
パッと見、Ξガン○ムに似ているかな?
エルマ:「ヒロ?」
よしひろう:「………」
エルマ:「ヒロ!」
よしひろう:「はい!」
よしひろう:「凄く綺麗だよ!」
エルマ:「よかった。」
少し照れ臭そうにするエルマ。
エルマ:「これがこれからの私の装備よ。」
大切そうに胸に手を当てるエルマ。
よしひろう:「本当に綺麗だよ。」
エルマ:「これね、実は地下迷宮でサイクロプスを倒した時の魔封石を換金して買ったの。」
エルマ:「ヒロに内緒にしててごめんなさい。」
よしひろう:「何かと思えば…水臭いこと言うなよ。」
よしひろう:「それを着て卒業式に出るんだろ?」
エルマ:「そのつもりよ?」
よしひろう:「間違いなく男達が寄ってくるぞ。」
エルマ:「ヒロが守ってくれるんでしょ?」
よしひろう:「俺でいいのならな(苦笑)」
レギオナ:「(やっぱり主殿はチョロかった(笑))」
よしひろう:「これを見て惚れない男はいないだろ?」
いかん、レギオナの突っ込みの返事をつい口に出して言ってしまった。
エルマ:「え?」
と顔を赤くしてモジモジし始めるエルマ。
釣られて僕の顔も赤くなるのが自身で分かった。
「若いっていいわねー」と冷やかしてくる防具屋の女主。
よしひろう:「か、帰ろうか?…」
エルマ:「うん…」
二人並んで帰路につく。
家に着くまでに何人の男がエルマのその姿に振り返った事か…
レギオナ:「(ヤキモチ妬きですね(クスクス))」
よしひろう:「(レギオナも妬いてないか?)」
レギオナ:「(もちろん妬いてますわよ?)」
レギオナ:「(私だって着飾って主殿に褒めてもらいたいですもの。)」
よしひろう:「(そういうものか?)」
レギオナ:「(そういうものですわ。)」
エルマの家に着くと、妹のタチアナが駆け寄ってきた。
タチアナ:「姉様、綺麗です。」
タチアナ:「今夜の卒業式が楽しみですわ。」
エルマの装備を見て目を輝かせるタチアナ。
タチアナ:「これでヒロのハートも鷲掴みですねっ」
エルマ:「こらっ!」
と怒る仕草をするエルマ。
タチアナの言う通り、既にハートを鷲掴みされてる僕。
よしひろう:「それじゃ、僕も着替えるよ。」
よしひろう:「出発の準備が出来たら呼びに来てくれる?」
エルマ:「ええ。わかったわ。また後でね。」
お互い手を振って別れる。
丁度同じ頃、とある廃屋にて。
男A:「言われた通りに仕掛けたんだろうな?」
男B:「ああ、抜かりはない。」
男B:「これが招待状代わりのリターンの巻物だ。」
リターンの巻物を受け取りニヤつく男。
男B:「俺の依頼を忘れるなよ?」
男A:「ああ、大丈夫だ。上手くやるから大人しく待ってなって!」
男B:「失敗しても俺の名は出すなよ!」
男A:「分かってる分かってるって。それ以上しつこいと殺しちゃうよ?」
その言葉に押し黙る男B。
僕は自室へと戻ると早速着替え始めた。
レギオナが猫の姿から元の姿へと戻る。
相変わらず挑発的なドレスだ。
よしひろう:「レギオナ?今度、服を買ってやるよ。」
レギオナ:「まあ!嬉しい!」
よしひろう:「その姿じゃ、目のやり場に困るからな(苦笑)」
レギオナ:「それだけ私が魅力的って事ですか?(笑)」
よしひろう:「そういう事だよ。」
レギオナの言う事は間違っちゃいない。
忍者スーツを着て刀と剣を腰の左に装着する。
三面鏡で自身の姿を確認する。
これならエルマと並んでも恥ずかしくは無いだろう。
ヘルメットの形が似ているのである意味「光」と「影」と言えなくもない。
光とはもちろんエルマの事だ。
表裏一体のお揃いの格好。
悪い気はしない。
しばらくするとエルマが僕を呼びに来た。
ドアノッカーを打ち鳴らす音がする。
よしひろう:「レギオナ、行くぞ!」
レギオナ:「はい。主殿。」
猫に、姿を変え雑嚢に潜り込むレギオナ。
扉を開けエルマと合流する。
よしひろう:「あれ?ご両親とタチアナは?」
エルマ:「先に出発したわ。もう着く頃じゃないかしら。」
よしひろう:「それじゃ、僕たちも行こうか?」
エルマ:「ええ。」
頷くエルマを見るとうっすら薄化粧をしていた。
薄いピンクの口紅が愛らしさを際立たせている。
「これでいいか?」とエルマをお姫様抱っこをする僕。
うんと頷くエルマ。
エルマの顔に近づくとほんのり良い香りがする。
よしひろう:「飛翔!」
エルマを抱き、空へと舞い上がる。
目指すは王立魔法学校。
学校は街の中央にある王城の横に建っていた。
眼下を見渡すと続々と学校に人が集まって来ている。
この卒業式は王都の一大イベントみたいなものらしい。
僕は学校の入り口に降り立つ。
受け付けを済まし学校内へと入る。
学校の思っていた以上の大きさに驚く僕。
講堂へ入るとエリー達王家の者やそれを護衛するセナや騎士達が正装をして席に着いている。
エルマは生徒側の席に行き、僕は来賓側に座るよう促された。
僕を見かけたエリックさんが僕の横に座る。
エリック:「よしひろうさん、聞きましたよ。」
よしひろう:「エリックさん。お久しぶりです。」
エリック:「ヴァンパイアを倒したそうじゃないですか!」
エリック:「エルマ様の手に持ってらっしゃる赤い魔封石!あれは凄いですね!」
エリック:「今年の卒業式ではダントツの1番ですよ!」
エリック:「私らも一緒に戦っていれば金の指輪持ちになれたものを。チクショー!」
そう言って少し悔しそうではあるが、エルマと僕を誉めるエリック。
そうこうしているうちにざわついていた会場が段々と静まってきた。
式が始まったのだ。
魔法学校の校長先生の祝辞が終わり、次に生徒代表の挨拶になる。
司会:「生徒代表「ロイ・ラドフォード」」
ロイ:「はい!」
大きく返事をし、壇上に上がるロイ。
代表が卒業試験で一番成績の良かったエルマじゃ無い事に少し不満があったが耳を傾ける。
生徒代表の挨拶が終わると次に卒業生一人一人が校長先生から名前を呼ばれ、壇上に上がり卒業証書を受け取っていった。
校長先生:「エルマ・グーテ」
エルマ:「はい!」
堂々と壇上に上がり卒業証書を受けとり、校長先生に一礼、王家の方々に一礼、来賓席に向かって一礼し、席に戻る。
卒業生の数が十数名と言うこともあり、そう時間もかからずに式が進行していく。
国王が最後に長い祝辞を述べる。
国王:「このアークランド発展のため力を尽くして欲しい。云々…」
国王:「おめでとう!諸君!」
と言うやいなや周囲からワッとするような歓声が上がる。
式が終わりそのまま立食パーティー形式の晩餐会に移行する。
サッと椅子が取り払われ、豪華な食べ物がテーブルに乗せられて運ばれてくる。
その様子に圧倒されて固まっているところにエルマが現れた。
エルマ:「ヒロ、今日はありがとう。」
よしひろう:「おめでとう、エルマ。」
よしひろう:「明日から新しい一日が始まるんだな。本当におめでとう。」
街を囲む城壁から「ドーン!」と打ち上げ花火が上がる。
花火を背景に美味しい料理を食べる僕とエルマ。
そこへエリーも駆けつけてきた。
エリー:「エルマ!おめでとう!」
エルマ:「ありがとう、エリー。」
エリー:「ヒロもおめでとう!」
よしひろう:「僕におめでとうってどういう意味?(笑)」
エリー:「とにかく皆おめでとうなのじゃ!」
エリーに付き添われてきた一人の少女に目をやる。
よしひろう:「お前、リズか?」
リズ:「おぅ!兄ちゃん。ど、どうかな?」
と言って僕の前でクルリと一回転するリズ。
エリーに誘われて卒業式に参加したものの、借りて初めて着たドレスに戸惑っているようだ。
よしひろう:「すげぇ似合ってるぞ!」
リズ:「そ?そうか!?」
よしひろう:「親父さんにも見せてあげたいくらいだ!」
そう言われて顔を少し赤らめるリズ。
そうこうしていると向こう側から僕を呼ぶ声がした。
エナ:「おーい!ヒロ!!」
エナが無理矢理女性を一人引っ張って来た。
迫力満点なナイスバディな女性を。
よしひろう:「エ、エナ?この方は?」
エナ:「私の姉様の「フリージア」よ。」
エナ:「私とエリーはジア姉って呼んでるわ。」
フリージア:「あの…フリージアです…どうぞお見知りおきを…」
恥ずかしそうに挨拶をするフリージア。
よしひろう:「あの、と言う事は、第一皇女様ですか!?」
フリージア:「あの…はい…」
もじもじしながら答えるフリージア。
エナ:「ヒロ。ジアって呼んであげて構わないわよ!」
よしひろう:「えっと…いいんですか?」
フリージア:「はい…」
蚊の鳴くような小さな声で答えるフリージア。
エナ:「ヒロ!ジア姉を連れて空を飛んであげて!」
ジア:「あの…その…(モジモジ)」
エナ:「ジア姉も!ほら!飛んでみたいって言ってたでしょ?」
ジア:「でも…(モジモジ)」
エナは無理矢理ジアの両腕を上げさせ、僕の腕をジアの胸に抱きつかせる。
エナ:「さぁ!行ってらっしゃい!!」
僕のお尻を蹴り飛ばすエナ。
その勢いで、窓から外へと飛び出す二人。
よしひろう:「ジア様、その…ほんとに良かったのですか?」
ジア:「あの…ジアで構いませんわ。」
ジアを抱き、夜空に打ち上がる花火を見ながら空を飛ぶ僕。
こんなに目の前で花火を見るのは初めてだった。
正に大迫力。
よしひろう:「ジア?どうです?怖くはありませんか?」
ジア:「いいえ…全く…その…大丈夫です。」
ジアの横顔を見ると目を輝かせていた。
目の前で繰り広げられる光と音のショーを全身で感じているようだった。
ジア:「とても…素敵…」
レギオナ:「(主殿は女ったらしですわ。)」
よしひろう:「(なぜにそうなる!?)」
レギオナ:「(ほら、ここにも惚れかけてる女子が一人。)」
街を一周して魔法学校の講堂へと戻る。
エナ:「ジア姉っ、どうだった?」
ジア:「凄かったわ。まだ足が震えているの。」
ジア:「あの…私もヒロと呼んでよろしいでしょうか?」
よしひろう:「はい!どうぞそうお呼びください。」
ジア:「ヒロ、また一緒に飛んでいただけますか?」
よしひろう:「もちろんですとも!」
エリー:「次は私じゃ!」
そう言うと僕の腕を胸の辺りに巻き付かせるエリー。
次はエリーを連れて街を一周する。
エリー:「久しぶりなのじゃー!」
エリー:「花火が目の前で開いて凄いのう!」
エリー:「今夜の事は一生忘れないわ!」
窓から講堂へと舞い降りる。
するとエナが待ってましたとばかりに僕に抱きついてくる。
エナ:「ほらほら、次は私よ!」
エナを後ろから抱きしめ飛翔する。
今度はエナを連れて街を一周する。
エナ:「ジア姉の胸、大きかったでしょ?(笑)」
よしひろう:「は…はい!」
エナ:「私の胸とどっちがいい?(笑)」
よしひろう:「エナ様の方も捨てがたく…」
エナ:「あはは。正直でよろしい。」
エナ:「空から眺める花火も良いわね!」
エナ:「最高に気持ちいいわ!」
今日は遊覧飛行の大盤振る舞いだ。
次にリズ、その次にエルマをつれて街を一周する僕。
エルマ:「私、今日の事は一生忘れない。」
そう言うと、胸を抱きしめる僕の腕をギュッと握りしめた。
僕もエルマの体を少しだけ強く抱きしめる。
エルマの火照った体温が伝わって来る。
離れたくないという気持ちが湧いてきた。
何も言わずにもう一周する僕とエルマ。
そして講堂へと戻った。
エリー:「エルマだけ二周も回るとはズルいのじゃ!」
エナ:「こらこら焼きもちをやかないの。」
その様子を見て皆で笑っていると、一人の貴婦人が僕の前に現れた。
貴婦人:「フローラと申します。」
と丁寧に挨拶をする貴婦人。
エリー:「母様!」
よしひろう:「王妃様!?」
咄嗟に跪き頭を下げる僕。
僕の手を取り、上体を起こさせる王妃様。
そして背後から僕の両腕を胸の辺りに抱きつかせる。
よしひろう:「え?」
フローラ:「私も一度でいいから空を飛んでみたいと思ってたの。」
と、娘達の前で微笑んだ。
エリー:「母様、いってらっしゃい!」
エナ:「母様まで(笑)」
ジア:「あの…お気をつけて。」
よしひろう:「いいんですか!?」
フローラ:「さあ、早く。」
よしひろう:「はい…」
王妃様を連れて夜空に飛翔する。
まだ花火が盛大に打ち上がっている。
その大迫力な中空を飛ぶ僕と王妃様。
フローラ:「ねえ、ヒロ殿?」
よしひろう:「はい。何でございましょうか?」
フローラ:「私の娘三人のうち、選ぶとしたら誰になるかしら?」
聞かれた意味が分からず何も考えずに答えてしまう僕。
よしひろう:「えっと…エリザベート様でしょうか?」
フローラ:「ウフフ。考えておくわ。」
よしひろう:「???」
無事に周回を終え、講堂へと戻る二人。
大空を舞う事の楽しさを満喫し、満足そうに自席へと戻る王妃様。
王妃様は童心に戻ったかのような無邪気な笑顔で国王様と何やら話をしていた。