僕は夢を見た(64) その愛しい子猫の名前
王都の屋敷で目覚める僕。
目はまだ瞑ったまま。
温かくて柔らかな感触が心地良い。
それにとてもいい香りがする。
鼻から大きく息を吸い込みながら頬擦りする。
こんなに心地良い気分なのは久方ぶりだ。
優しく僕の頭を撫でる手…撫でる手…手…
よしひろう:「……手!?」
僕が慌てて起き上がろうとすると、額の上に人差し指を当て、それを阻まれた。
目を開けると薄く透けて見えるドレスを着た銀色の長い髪、赤い目をした少女がそこに居た。
というか、その少女に膝枕をされていた。
寝起きのせいか、意識がまだハッキリとしない。
よしひろう:「誰?」
少女:「もう忘れたの?」
と僕を覗き込み優しく微笑みかける少女。
どこかで見たような見なかったような…
記憶を探る僕。
よしひろう:「うーん……」
記憶がマッチした途端、血の気が失せる僕。
よしひろう:「レ、レ、レ…」
体が硬直して動かない。
よしひろう:「レギオナ!?」
レギオナ:「やっと思い出した?(笑)」
僕の頭に冷や汗が溢れるのが分かった。
殺されるんじゃないかという恐怖感からの冷や汗。
よしひろう:「どうやってここへ!?」
よしひろう:「死んだんじゃなかったのか!?」
レギオナ:「死んだわ。ええ、死んだわよ。」
レギオナ:「でも、その後にあなたの吐いた血で復活したの。」
レギオナ:「驚いた?」
よしひろう:「俺の血で!?」
レギオナ:「ええ、その時にあなたの記憶、想い、そして優しさが私に流れ込んできたの。」
レギオナ:「あなたがこの世界の者ではないことも理解したし、選ばれた者だということも理解したわ。」
レギオナ:「そして内なる力の存在も。」
よしひろう:「内なる力?」
レギオナは話を続けた。
レギオナ:「ヒロ、あなたには私など足元にも及ばない程の力を持っているわね。」
レギオナ:「私はその力を持つヒロの血で蘇った。」
レギオナ:「そのおかげで日の光を浴びても滅びないし魔神の呪縛からも解放された。」
レギオナ:「血の渇きすら無いわ…」
よしひろう:「俺の事、恨んでいるんじゃないのか?」
レギオナ:「恨む?何故?今の私は感動に打ち震えているのに?」
レギオナ:「あの薄暗くジメジメした世界から解放してくれた。」
レギオナ:「長かった。とても言い切れない程長く辛かった…」
レギオナ:「そんな私に新しい生き方を与えてくれたのはあなた。恨んだりしてないわ。」
レギオナ:「むしろ感謝しているくらいよ。」
レギオナ:「ありがとう…本当にありがとう…」
そう言って僕の頭を優しく撫でるレギオナ。
レギオナの目に涙が溢れていた。
レギオナ:「今の私の望みはたった一つ。」
レギオナ:「あなたと共にこれからを歩みたい…」
レギオナ:「あなたの剣となり盾となる事を誓うわ。この命を捧げてもいい。」
レギオナ:「どうか私をあなたと共に歩ませてください。」
レギオナの涙が僕の頬を濡らす。
地下迷宮で永劫とも思える長い時間をたった一人で生きてきたレギオナ。
その辛さは僕ごときでは理解できないだろう。
だからこそ、そのたった一つの願いを叶えてあげたいと僕は思った。
よしひろう:「いいよ。」
泣き顔だったレギオナの顔が笑顔になる。
涙をドレスの袖で吹きながら安堵したのか深呼吸するレギオナ。
僕も命を狙われたんじゃないと理解し、安堵と共に目を瞑る。
よしひろう:「!?」
レギオナが突然唇を重ねてきた。
よしひろう:「今のは?」
レギオナ:「契約の証しよ。」
レギオナ:「これで私はヒロの忠実な僕。」
と嬉しそうに微笑む。
上体をお越し胡座をかく僕。
目の前にチョコンと座るレギオナ。
地下迷宮での戦いの際にはこうしてゆっくりと眺める暇が無かったが、あらためてその容姿を確認すると、絶世の美少女と言っても過言ではなかった。
透けて見える挑発的なドレス…
ついつい視線が胸の辺りに釘付けになる。
レギオナもそれに気がついたようで悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
レギオナ:「ねぇ…」
と僕の両手を掴み、自分の方へと引き寄せる。
バランスを崩しレギオナを押し倒すような格好で引き倒される僕。
僕の右手がレギオナの左胸に触れる。
レギオナ:「もっとイイことしましょうか?」
「フフッ」と笑いながらレギオナは両手を首の後ろに回し僕の顔を引き寄せた。
再びキスをする二人。
僕の心臓が喉から飛び出るほどバクバクしている。
童貞の僕にとって、この誘惑には抗い切れなかった。
じゃれ合うこの瞬間がとても幸せに思える。
今度は自分の意思でキスをしようと顔をレギオナに近づける。
「ガチャリ」とドアノブを回す音がした。
よしひろう:「!?」
体が硬直し、顔だけドアの方へ向ける。
部屋に入ってきたのはエルマだった。
エルマ:「ヒロ!何度もノックしたのよ!何で出て来ないのよ!」
よしひろう:「えっと…そ、それは…」
と返答に窮してレギオナの方を見るとレギオナの姿は消えていた。
エルマ:「変な格好をしてるけど、何してたのよ?」
エルマ:「あら?おチビちゃん、こんなところで何してたの?」
エルマ:「探してたんでちゅよー。」
と、エルマが手に取ったのは真っ白いあの子猫だった。
エルマ:「この子の名前決まったの?決められないのなら私が決めちゃうわよ?」
よしひろう:「え、えっと…「レ」…」
エルマ:「れ?」
よしひろう:「「レナ」にしようと思うんだ。」
エルマ:「いいんじゃない?ねー?レナちゃん。」
レギオナ:「(主殿、レナが新しい名前ですか?(笑))」
僕の心の中に語りかけてくるレギオナ。
よしひろう:「(猫でいる間は「レナ」で頼む)」
よしひろう:「(ていうか、バレたら今みたく可愛がってもらえなくなるぞ?)」
レギオナ:「(それは困りますわ。)」
よしひろう:「(暫くはエルマを守ってやっててくれ。)」
心の中でレギオナと会話する。
レギオナ:「(御意)」
よしひろう:「エルマ?今日はどうしたの?」
エルマ:「どうしたもこうしたも無いわ。いつもの朝食のお誘いよ。」
よしひろう:「あー…。いつもありがとう。」
エルマ:「それじゃ、行きましょう。」
よしひろう:「はい。」
エルマの家に向かうエルマと僕とレナ。