僕は夢を見た(63) リズの旅立ち
王都の屋敷で目覚める僕。
よしひろう:「……」
周囲を見渡し、自分の居る場所を確認する。
ここはエリーから借りた屋敷の寝室だ。
微睡んでいると、ドアノッカーを打ち鳴らす音が階下から聞こえてきた。
腹と背中をボリボリと掻きながら玄関に立つ僕。
よしひろう:「ふぁ~い(アクビ)、どちら様ですか~?」
召し使い:「エリー様の使いで来ました。」
玄関を開けるとエリー付きの召し使いが立っていた。
僕を見て顔を赤らめながら背ける召し使い。
召し使い:「そのお姿はちょっと…」
よしひろう:「あ、ごめんね…」
僕の着ている物は肌着のみだったのだ。
召し使い:「エリザベート様がお呼びです。」
召し使い:「あの…着替えたらお城まで来てくださいまし。」
よしひろう:「はい。すぐに伺います。」
部屋に戻り服を忍者スーツに着替える。
剣と刀を腰の左側に携えて準備完了。
そういえばエリーに会いに行く際には自分も誘えとエルマが言っていたのを思い出した。
エルマの屋敷のドアノッカーを打つ。
グーテ家の召し使い:「はい。どちら様でしょうか?」
よしひろう:「よしひろうです。エルマ居ますか?」
グーテ家の召し使い:「少々お待ちください。」
しばらくするとエルマが現れた。
エルマ:「おはよう。どうしたの?」
よしひろう:「おはよう。エリーからお呼びが掛かったんだけど。」
よしひろう:「エルマも行くかなと思って声を掛けてみた。」
エルマ:「ありがとう。行くわ。」
エルマ:「ついでに朝食食べていかない?」
よしひろう:「ありがとう。いただきます!」
朝食を食べ終わり、屋敷の前に立つ。
よしひろう:「さあ、行こうか。」
エルマ:「ええ。行きましょう。」
エルマ:「えっと…私はどうすればいい?どこにしがみつけばいいかしら?」
よしひろう:「ん?これで行こう(笑)」
エルマをお姫様抱っこをしてそのまま飛翔する僕。
エルマ:「キャッ」
と驚いて可愛い悲鳴を上げるエルマ。
よしひろう:「こういうのも悪くないだろ?」
エルマ:「ええ。」
少し顔を赤らめながら頷くエルマ。
アッという間にエリーの住む王城の門までたどり着く。
守衛と話をし、エリーの部屋の待合室まで通してもらう。
エリーの部屋の待合室に着くと、白金の胸当てに白いマントを羽織った女性騎士が居た。
よしひろう:「セナ?」
セナ:「よしひろうじゃない!お久しぶりね!!」
満身の笑顔で迎えてくれるセナ。
よしひろう:「もう、こっちに転属になったんだ。」
セナ:「ええ。昨日からよ。」
セナの白いマントの裏地のロイヤルブルーが白金の胸当てとマッチして壮麗な雰囲気を醸し出していた。
思わず見とれてしまう。
そんな僕の脇腹を小突くエルマ。
エルマ:「ヒロ、この美人さんは誰?」
よしひろう:「セナ、紹介するよ。」
よしひろう:「こちらはラクサーシャの地下迷宮に一緒に潜った「エルマ・グーテ」」
セナ:「エルマさん、初めまして。」
右手を差し出すセナ。
よしひろう:「エルマ、こちらが新しくエリー付きの騎士となった「セナ・ウェハース」」
よしひろう:「エアリスで僕が大変お世話になった方だ。」
エルマ:「セナさん、よろしくお願いします。」
エルマも右手を出し、握手する二人。
挨拶をしているとエリーが現れた。
エリー:「ヒロ、おはよう。」
「おはよう」と挨拶する僕とエルマ。
そのまま部屋の中へと通される。
セナにバイバイをしながら部屋の中へと入って行く僕。
エルマ:「エリー、卒業式の件だけど。」
エルマ:「ヒロが出席してくれるって。」
エリー:「良かったじゃない!」
エリー:「巷で噂のヒロが同伴とは、楽しみじゃ(笑)」
よしひろう:「噂って何ですか?(苦笑)」
エリー:「噂は噂じゃ。」
エルマ:「ウフフ」
と曖昧な言葉ではぐらかす。
エリー:「あ!」
と思い出したかのように声をあげるエリー。
エリー:「ヒロは暇か?」
よしひろう:「ええ。」
エリー:「リズを迎えに行って欲しいんじゃがのう。」
よしひろう:「はい、行きますよ。僕も約束しているので。」
よしひろう:「いつ迎えに行けばいいのか分かりますか?」
エリー:「リズの方は準備が出来ていると手紙には書いてあったからの。」
エリー:「例えば今日とか?」
よしひろう:「今日!?えらく急ですね。」
エリー:「早いに越したことはないじゃろ?(笑)」
そう言って地図を召し使いに持って来させた。
地図にある学校の寮を指差した。
エリー:「学校には話は済んでおるからの。」
エリー:「寮に連れて行って貰えれば、後は学校が全部用意するわ。」
よしひろう:「分かりました。それじゃ、今から行ってきます。」
そう言うとエリーの部屋のテラスから空へ舞い上がり一路エアリスへと向かう。
エリー:「いってらっしゃーい。」
手を振って見送ってくれるエリーとエルマ。
エアリスまでは片道2時間弱だ。
このまま行けば正午頃には到着する。
問題はリズの親父さんだ。
すんなりリズと離れるとは思えなかった。
別れを惜しむのに何時間かかることやら…
そんな事を考えつつ空を飛ぶこと1時間。
山賊街道と呼ばれる山賊の出やすい峠に差し掛かった。
眼下を見ると山賊とおぼしき一行が隊商を襲撃しようと待ち構えているのが見えた。
今から襲われようとしている無垢な人達を見捨てる事など出来ようはずがない。
隊商一行の前に降り立つ僕。
よしひろう:「止まれー!」
隊商の男が剣を抜き僕の方に向かって身構えた。
隊商の男:「お前、何者だ!?」
よしひろう:「只の冒険者だ。」
よしひろう:「忠告しに来た。」
よしひろう:「この先に山賊が待ち構えている。」
隊商の男:「そ、そんな…」
隊商の男たちに動揺が広がる。
見ると隊商一行には女子供も多数含まれていた。
この者達を救いたいという気持ちが湧いてくる。
隊商の男:「相手は何人ぐらいだ?」
よしひろう:「ざっと数えて30人くらいだ。」
隊商の男:「30人!?」
男たちの顔が強張るのが分かった。
隊商の男達の一人が僕の首から下がった金の指輪を目敏く見つけた。
隊商の男:「あんた、金の指輪の持ち主か!」
隊商の男:「あんたを雇うから山賊から救って欲しい!」
以前の僕なら怖くて断っていただろう。
でも、今の僕は違う。
数々の修羅場を生き抜いてきたという自負が少しだけある。
よしひろう:「分かった。受けよう、その依頼。」
よしひろう:「僕から離れるなよ!」
隊商の皆が頷き僕の言葉に従った。
僕は隊商の一番前を進み先導した。
300mほど進むと両側からワラワラと武器を手にした男たちが出てきた。
山賊の頭:「皆殺しにされたくなかったら積荷と女を置いていけ!!」
よしひろう:「断る!!」
即答で返す僕。
よしひろう:「命が惜しい者は去れ!!」
山賊の頭:「うるせえ!皆殺しだ!女以外は殺せ!!」
山賊の頭の命令を待ってましたとばかりに隊商に襲いかかる山賊達。
隊商の男達も武器を構えたが腰が引けている。
僕はマントを祓い刀に手を掛ける。
そして意識を刀に集中させる。
よしひろう:「今の僕なら出来るハズだ!」
カタカタと刀が鳴り始めた。
横一文字に一気に抜刀する。
よしひろう:「烈風斬!」
僕に襲いかかろうとした数人を一気に斬り伏せる。
山賊の頭:「れ、烈風斬だと!?てめえ何者だ!?」
慌てた様子で尻込みをする山賊達に向け次なる手を打つ。
刀を左から右へスライドさせると、薄黄色の光の膜のようなものが現れ、山賊一人一人をロックオンしていく。
そして突きの構えをし、山賊達めがけて一気に気を解き放つ。
剣先から光の矢が数十本放たれた。
その全てが山賊達に突き刺さる。
血反吐を吐いて倒れ行く山賊達。
残るは山賊の頭のみ。
山賊の頭:「ば、化け物か!?」
山賊の頭が剣を振り上げた瞬間、瞬時に間合いを詰め、その腹を切り裂く。
言葉を発する事もなく絶命する山賊の頭。
この間、わずか数分の出来事だった。
「フーッ」と息を吐き僕は刀を鞘に収めた。
隊商の男:「これが金の指輪の実力か!」
愕然とする隊商の一行。
よしひろう:「ここから先は大丈夫でしょう。」
隊商の男:「ありがとうございました。」
隊商の男:「謝礼はいかほど支払えばよろしいでしょうか?」
僕は首を横に振った。
よしひろう:「謝礼は無用!良い旅を!!」
そう一言言うと再び空へと舞い上がり、エアリスに向けて飛行する。
その姿に熱い視線を送る者が居たことも知らずに…
エアリスに到着したのは予定より少し遅れて正午過ぎだった。
リズの親父さんの八百屋前に降り立つ。
待ってましたとばかりに駆け寄って抱き付いてくるリズ。
リズ:「兄ちゃん、待ってたぞ!」
よしひろう:「遅くなってごめんよ。」
リズ:「ううん。迎えに来てくれてありがとう!」
店の奥から涙で顔をクシャクシャにしたリズの親父さんが現れた。
こんな親父さんを見るのはリズが誘拐された時以来だ。
よしひろう:「親父さん、大丈夫っすか?(苦笑)」
リズの親父さん:「娘のためだ!大丈夫だ!!」
泣きながらそう答えるリズの親父さん。
リズのお母さんも店先に出てきた。
リズのお母さんと会うのは初めてだ。
リズのお母さん:「娘の事をよろしくお願いします。」
と、丁寧にお辞儀をするリズのお母さん。
よしひろう:「お任せください!」
よしひろう:「で、リズ?荷物は?」
とリズに聞くと、リズは一旦店の奥に戻り、大きなリュックを背負って出てきた。
なんか、鍋やらヤカンやらがぶら下がっているが…
さすがにそれは要らないだろうと思いつつも…
そこは突っ込まないでおこう。
リズのお母さん:「着いたら手紙を頂戴ね。」
リズ:「うん!」
リズの親父さん:「欲しい物があったら言うんだぞ、送ってやるからな(涙)」
リズ:「泣くなよ。みっともない(苦笑)」
親子の別れの挨拶も終わり、いよいよ飛び立つ時が来た。
屈んでリズを背負う僕。
よしひろう:「それじゃ、行ってきます!」
リズの親父さん:「頼んだぞ!兄ちゃん!!」
「はい!」と頷き、リズを背負って空へと舞い上がる。
手を振って別れを惜しむリズの親父さんとお母さん
。
リズも両親が見えなくなるまで手を振っていた。
よしひろう:「空を飛ぶの、怖くないか?」
リズ:「怖くないよ。兄ちゃんと一緒だからかな?」
よしひろう:「新しい生活が始まるけど大丈夫か?」
リズ:「エリーもいるから大丈夫だよっ」
このリズの楽天的なところは見習わないとなと思う。
しばらく飛ぶと、先程助けてやった隊商が王都への道を順調に進んでいるのが見えた。
リズ:「あの人達も王都に向かってるのかな?」
よしひろう:「ああ。きっとそうだよ。」
リズ:「みんな新しい一歩を歩いているんだね…」
よしひろう:「リズもな…」
リズ:「うん!」
よしひろう:「何かあったら助け合おうな!」
リズ:「うん!!」
王都に到着し、挨拶代わりにエリーの部屋の周りを数周旋回した。
エリーとエルマがそれに気づいて手を振ってくれる。
リズも手を振ってそれに応える。
一人の少女の小さくて大きな一歩を祝おうではないか。
それが良い旅でありますように。
僕は心からそう願うのであった。