僕は夢を見た(61) 神様からの贈り物
気がつくと目の前で巫女装束の女性が刀を持ち、演舞していた。
左から右へと刀身を流し、そのまま突きの構えを取り、前へ一突き。
一歩前へ出て上段の構えから一振り。
そのまま下段の構えを取り、刀身を振り上げる。
その姿は美しくしなやかで力強かった。
よしひろう:「なんて綺麗なんだろう。」
刀身の美しさもさるものながら、それを扱う巫女のなんと美しい事。
しばらくその美しい舞に見とれてしまった。
演舞が終わったのか巫女装束の女がこちらに向かって来た。
巫女:「そなたが「よしひろう」か?」
よしひろう:「はい。」
うんうんそうかと頷き、僕に微笑みかける巫女。
巫女:「私は金屋子神。」
金屋子神:「皆からは金屋子様と呼ばれておる。」
よしひろう:「金屋子様?ですか?」
金屋子神:「ま、神様はよっけおるからの(沢山いるからの)。分からんでもしょうがない(分からなくても仕方がない)。八百万の神の一人じゃ。」
神様と知って生唾を飲み込む僕。
よしひろう:「あの…何の神様でしょうか?」
金屋子神:「鍛冶じゃ。」
そう言うと手に持つ刀を僕に渡してきた。
金子屋神:「どうじゃ?抜いてみよ。」
言われるがまま渡された刀を抜いてみる。
ズシリと重く刀身が薄く輝いていた。
片手で持つには僕には重すぎるようだ。
両手で持つとなんとか振り下ろせた。
金子屋神:「やはりそなたにも重いか。」
よしひろう:「はい。重いです。」
僕の返事にうんうんと頷く金子屋様。
刀を鞘に納め返却する。
金屋子神:「今日、そなたをここへ呼んだのは、他でもないそなたの助力をするためじゃ。」
よしひろう:「助力ですか?」
金屋子神:「実は現世の巫女に頼まれてな。」
金屋子神:「そなたに相当苦労しとると聞いておるぞ?(苦笑)」
よしひろう:「えっと…」
返事に困る僕。
金屋子神:「そんな風には見えんがのう?(笑)」
よしひろう:「現世の巫女様からは色々と教えて頂いたのですが…」
よしひろう:「上手く力を出せずに困ってます。」
と正直に答える。
僕の返事に優しい顔で頷く金屋子様。
金屋子神:「ちと、こちへこちへ(少し、こちらへこちらへ)」
と横に建つ屋敷へ僕を招き入れる金屋子様。
屋敷の中からはキンコンカンと鉄を打つような音が聞こえてきた。
中では男が数人いて刀を打っている真っ最中のようだ。
そこへ現れた金屋子様に男の一人が問いかけた。
男:「その一振りはいかがでございましょう?」
金屋子様:「ちと重いな(少し重いな)。」
男:「そうでござったか。今さら修正はきかぬので、いかがなさいますか?」
金屋子様:「これは、このままで良い。」
男:「分かり申した。」
と相槌を打つ男。
男との話が終わると金屋子様は僕の方を向き、白い布でくるまれた一振りの裸の刀身を見せてきた。
金屋子様:「これをそなたにしんぜようと思う。」
よしひろう:「この刀をですか!?」
金屋子様:「そうじゃ。」
金屋子様:「ちと待っておれ(少し待っておれ)」
と言うと男の一人に何やら話をしている。
男は頷くと作業台の上に刀身を置き、作業を始めた。
男がその刀身の根本に梵字のような僕には読めない文字を刻んでいく。
文字の刻み終わった刀身を再び僕の前に差し出す金屋子様。
金屋子神:「これでこの刀はそなたにしか扱えぬ。」
金屋子様:「そなたが必要とする時に力を貸してくれるはずじゃ。」
よしひろう:「はい。(ゴクリと生唾を飲む)」
見れば見るほど美しく吸い込まれそうになるその刀身を前に体が硬直してしまう。
金子屋神:「一つ言っておくが、くれぐれも刀に頼りきる事の無いようにな?」
金子屋神:「刀に振り回されぬように気をつけるんじゃぞ?」
よしひろう:「………」
金屋子神:「どうしたのじゃ?受け取らぬのかえ?」
ハッと我に返り両手を差し出してその裸の刀身を受けとる僕。
よしひろう:「あの…金屋子様?」
金屋子様:「なんじゃ?」
よしひろう:「鞘とか…鍔とか…柄が有りませんが?」
金屋子様:「そこはほれ、各々に趣味嗜好というものがあるのでな。」
金子屋様:「好きなように付けるが良い(笑)」
よしひろう:「はぁ…はい…(苦笑)」
金屋子様:「頃合いが来れば、またそなたに相応しい刀をしんぜようぞ。」
そう言うと金屋子様は僕の頭に手を乗せ何やら呟いた。
意識が遠退いていく…
そして目が覚めた。