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続・夢の中だけ勇者さま?  作者: 菅原よしひろう
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僕は夢を見た(60) マイホーム協奏曲

エアリスの街の城門前に立つ僕。

さっそく昨日教えてもらった能力を試すが何も起こす事ができずにいた。

現世の巫女の言葉も気になってはいたが、どうもモヤモヤして理解できない。

いくら洋子の真似をしてもレーザービームは出ないし、山も吹き飛ばせない。

雨すら降らすことができない自分に腹が立ってくる。

小一時間も繰り返すと何だか馬鹿らしくなった。


よしひろう:「よし!明日頑張ろう。」


そう自分に言い聞かし、街の中心部へ向けて歩き始める。

途中、八百屋でリズに出くわした。


よしひろう:「おはよー。」

リズ:「おはよう、兄ちゃん。久しぶりだな。」

よしひろう:「ほんと久しぶりだ。」

よしひろう:「親父さんは?」

リズ:「用事があるって出掛けていった。で、ウチがお留守番。」

よしひろう:「へぇー。珍しいな。」

よしひろう:「もう俺と一緒に仕事はしないのか?」

リズ:「え?いいの?じゃ、今度探しとく。」

よしひろう:「虫退治以外のを頼むぞ!」

リズ:「はーい。」

リズ:「そうそう、エリーから手紙が届いてさ。」

よしひろう:「うん?」

リズ:「王都に来ないか?って書いてあったんだ。」

リズ:「王都の学校に通わないかって。」

よしひろう:「ほぉ!良い話じゃないか。」

リズ:「王都ってどんな所?」

よしひろう:「大きくて人がいっぱいいて賑やかな所かな。」

リズ:「そうなんだ。でも、王都に行くと兄ちゃんに会えなくなるな。」


少し寂しそうな顔をするリズ。


よしひろう:「そんな事はないさ。これからも王都へは遊びに行くつもりだし。」

よしひろう:「王都へ行ったら一人で生活するのか?」

リズ:「寮ってのがあるらしくて、そこで沢山の人と暮らすんだってさ。」

よしひろう:「へぇー。寮か。学校行って勉強できるのだから、ほんと良い話じゃないか。」

リズ:「父ちゃんもそう言ってた。」

よしひろう:「行く日が決まったら教えてくれよ。送っていってあげるから。」

リズ:「ほんとに!?ありがとう!」

よしひろう:「それじゃ、またな。」

リズ:「またねー。」


八百屋を通りすぎ、街の中心の広場に到着した。

求人板で何か面白そうな依頼はないかを確認する。

よく見てみると売家の情報も何件か書き込まれていた。

価格が手頃なら買うのも悪くない。

街の南門付近で平屋一戸建てが500万Gか…

求人板を難しい顔をしながら眺めていると後ろから僕を呼ぶ声がした。


セナ:「よしひろう。おはよう。」

よしひろう:「おはよう。」


セナを見ると何だか嬉しそうな顔をしている。


よしひろう:「セナ?何か良いことでもあったの?」

セナ:「聞いてくれ!エリザベート様付きの騎士になるようにと辞令が下ったんだ!」

よしひろう:「姫様付きの騎士!?凄い出世じゃん!」

セナ:「でしょ!」

よしひろう:「で、いつから王都へ?」

セナ:「来月からなの。」

よしひろう:「そっかぁ、けっこう急な話だなぁ…」

セナ:「まあね。でも、こんなチャンスは滅多に無いからね!」

よしひろう:「おめでとう!」


親指を立ててグーをする僕。

そう言いながらも僕はなんだか寂しい気持ちになっていた。

リズもセナも王都へ行ってしまうと話し相手がいなくなるからだ。

そうなると、エアリスの街に住む意味が無い。

楽しくないからだ。

アスター隊長には悪いが僕も王都に行こうかな?…という風に考えが変わってきた。

これは急いで王都に行って、借家を探さなければ。

セナと別れると急いで騎士宿舎に向かった。

ロッカールームで忍者スーツに着替える僕。

普段着を雑嚢に積め込んだ。

ロッカールームを出ようとした時にたまたまアスター隊長と出会した。


アスター隊長:「お!よしひろう。」

よしひろう:「アスター隊長、おはようございます。」

アスター隊長:「おはよう。ちょうど良かった。君宛にエリザベート様から手紙が届いたぞ。」

アスター隊長:「今から渡しに行こうかと思っていたところだ。」


と、僕に一通の手紙を差し出した。

それを受けとる僕。

手紙の裏を見ると蝋で王家の紋章の封印がされていた。

レギオナのダガーで封印を切り、中の手紙を取り出す。


ーーーーーーーー

親愛なるヒロへ

エルマからヒロが借家を探していると聞きました。

王都で良ければ今は使っていない私の別邸があります。

それを貸してさしあげますが、いかがでしょうか。

一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。

エリーより。

ーーーーーーーー


なんてタイミングが良いんだ!

というか、エリー優しすぎるぞ!!

アスター隊長に手紙を届けてもらった礼を言い、外に飛び出す僕。


よしひろう:「よっしゃー!」


騎士宿舎を出ると一気に飛翔して王都へと向かう。

2時間後にはエリーの部屋の横にある待合室に到着した。

待合室で待つこと数分、エリーが現れた。


エリー:「いつもながら動きが早いですわね(笑)」

よしひろう:「手紙を読んで、飛んできましたよ(笑)」


エリーの部屋に入る二人。

召し使いが王都の地図を持ってきて、テーブルに広げた。


エリー:「場所はこの辺りになりますの。」

よしひろう:「お城からそう遠くない場所ですね…(地図を見ると、何やら見覚えがあるような、無いような…)」

エリー:「お隣はエルマの実家ですの。」

よしひろう:「あー!だから見覚えがあるんだ!」


と、エルマから貰った地図を取り出した。


よしひろう:「なるほどー。」

よしひろう:「借りるとすると、お家賃はいかほどになりますか?」

エリー:「家賃はとらないわよ(笑)」


僕の言葉を笑い飛ばすエリー。


エリー:「お友達でしょ?お金は取らないわ。」

エリー:「ただ、たまに私が遊びに行くことを許して欲しいの。」

よしひろう:「もちろんですとも!いつでもいらしてください。」

エリー:「まずは実物を見に行ってからの話ですわね。」


そう言うと鍵をポケットから取り出した。


よしひろう:「そうですね。テラスから飛んで行っても構いませんか?」

エリー:「ええ。構いませんわ。」

エリー:「あ!!」

よしひろう:「え!?」


エリーの突然の声にビックリする僕。

エリーを見るとニッコリ笑って自身を指差している。

エリーの召し使いが慌てて止めに入る。


召し使い:「姫様、いけません!警護も付けずに城外に出るなど、もっての他です!!」

エリー:「じゃ、あなたも付いて来て。」

召し使い:「え!?私もですか!?」


エリーの言葉にその場で凍りつく召し使い。


エリー:「それなら少なくとも1人は警護が付く訳でしょ?」


頭痛がするのか、召し使いは掌を額に当ててクラッとした。


エリー:「それでもダメって言うのなら、私は1人ででも行きますわよ?(笑)」


召し使いは暫く考えた後、深いため息を一つ吐き、自分が一緒に行くという事で了承した。

テラスに出る僕とエリーと召し使い。

エリーに両手を開かせて後ろから右腕で胸の辺りをしっかりと抱える。

僕の背後から召し使いが両腕を僕の首に回してくるので少し腰を下げ、左腕を召し使いの腰の辺りを抱えた。


よしひろう:「二人ともいいですか?」

エリー:「ええ!行くのじゃ!」

召し使い:「ゆっくりでお願いします。」


二人を抱え空に舞い上がる。

召し使いの袖の中に何か固い物があるのか、それが喉に当たって痛い。


よしひろう:「召し使いさん、腕に何か仕込んでますか?」

召し使い:「あの…もしもの時のために武器を仕込んでますが…痛いですか?」

よしひろう:「大丈夫。了解です。」


エリーの指し示方角に向けて飛行する三人。


エリー:「あれじゃ!」


エリーが指差す方向に三階建ての屋敷が見えて来た。

一人で住むにはもったいない位の大きなお屋敷。


よしひろう:「デカッ!!」


エリーの指差す屋敷の門扉の前に舞い降りた。

エリーが降り立つと、すかさず召し使いに問いかけた。


エリー:「どうじゃ?楽しかったじゃろ?」

召し使い:「はい!とっても!!」


あれだけ反対していた召し使いも興奮冷めやらぬ状態になっていた。


エリー:「はい、鍵。」


と、僕に鍵を渡すエリー。

鍵を受け取り、門扉を開けて中へ入っていく。

木々に囲まれて庭もかなり広いようだ。

しばらく歩くと屋敷が見えてきた。

大きな玄関の扉の鍵穴に鍵を差し込み回す。

ガチャリという音がした。

扉を開くときギィィという音がした。

中は薄暗くてよく見えない。

召し使いが奥へと入って行き、カーテンをサッと開く。

しばらく使っていないと言いつつも、埃一つ無い見事な調度品で飾られたホールが目の前に広がっていた。

各部屋を案内してくれるエリー。

エリー:「ここがキッチン。」

エリー:「ここがトイレ。」

エリー:「ここが私が寝泊まりしていた部屋。」

エリー:「この私の部屋以外なら自由に使って構わないわ。」

よしひろう:「エナの部屋とかもあるんじゃないか?」

エリー:「ここは父様が私の為だけに建ててくれたお屋敷だから、エナ姉様の部屋は無いわよ。」

よしひろう:「しばらく使われていないのに埃一つ無いな。」

召し使い:「いつでも使えるよう週二回掃除していますので。」


と胸を張って答える召し使い。


エリー:「ヒロに貸し出した後もヒロが掃除する必要は無いわ。」

召し使い:「私供が掃除を行います。」


あまりのVIP対応に困惑する僕。


よしひろう:「ほんとに使っていいのですか?」

エリー:「ここまで来ておいてダメとは言わないわよ(笑)」

エリー:「これでいつでも会えるわね、ヒロ。」

よしひろう:「はい。ありがとう、エリー。」


ついでだから隣人に会っていこうとエリーが提案してきた。

隣人というのはもちろんエルマの事だ。


よしひろう:「さすがにお姫様が突然お邪魔するのはマズイんじゃないか?」

エリー:「私とエルマの仲じゃ、構わんじゃろ。」


そう言って門をくぐり屋敷の入り口の扉までやって来た。

躊躇する事もなくドアロッカーを打ち鳴らすエリー。

中から声がした。


女性の声:「はーい。」


出てきたのはグーテ家に仕えている召し使いだった。


召し使い:「どちら様でございましょうか?」

エリー:「エルマは居るか?エリーが来たと伝えてくれ。」

召し使い:「エルマ様ですね。少々お待ちください。」


そう言うと一旦扉を閉められた。

たぶん召し使いがエルマを呼びに行ったのだろう。

しばらくすると家の中が大騒ぎになっているようなドタバタ音がする。

待つこと数分。

再び扉が開かれた時には一家全員が左右に並んでいた。

まさに一家総出でのお迎え状態である。エルマとその父母姉妹が右側に。

召し使い全員が左側にずらっと並んでいる。


よしひろう:「ほら、大変な騒ぎになっちゃたじゃん…」

エリー:「おかしいのじゃ。もっと気楽な仲のはずなんじゃがのう…」

家長と思われるエルマの父が跪き挨拶を始める。

ライアン:「姫様にはご機嫌麗しゅうございます。」

エリー:「エ、エルマ?この騒ぎは何なのじゃ?」

エルマ:「エリーが突然来るから私の両親があらたまっちゃって…」


ため息をつくエルマ。


よしひろう:「ほらほら(苦笑)」


と言いながら肘でエリーを小突く僕。

まあ、普通はこうなるわな。


エリー:「今日はな。隣の私の屋敷に住む事になったヒロを紹介しに来ただけなんじゃが…」

エルマ:「え!?ヒロがお隣に?」

エリー:「うむ。」

エルマ:「お父さん、この方が「よしひろう」さんよ。地下迷宮でお世話になった。」

よしひろう:「よしひろうです。よろしくお願いします。」

ライアン:「私がエルマの父で「ライアン・グーテ」です。」

ライアン:「お噂は兼々聞き及んでおります。」


その噂とはどんな話だろうか凄く気になる…

自己紹介の後、僕の手を握り感謝の言葉を並べるライアン。

次に家族の紹介を始めるライアン。


ライアン:「妻のマーサに末娘のタチアナです。」

よしひろう:「よしひろうです。」


名を名乗りマーサとタチアナに握手をする僕。


ライアン:「姫様、どうぞ奥へお入りください。」

エリー:「うむ。」


応接間に通される僕とエリーとエリーの召し使い。

エリーと僕はソファに座ったがエリーの召し使いは座らず立ったままだった。

テーブルを挟んで反対側に座るエルマ。

ライアンや他の家族は気を使って別室に行ったようだ。


エルマ家の召し使いがケーキと紅茶を持ってくる。


エリー:「すまんのう、エルマ。」

エリー:「だいぶ気を使わせてしまったようで。」


少し困った顔を見せるエリー。


エルマ:「少しビックリしたけど、挨拶に来てくれて嬉しかったですわ。」

エルマ:「まさか隣にヒロが住むなんて(笑)」

よしひろう:「僕もこんな事になるとは思って無かったよ。」

よしひろう:「これからはお隣同士、仲良く頼むな(笑)」

エリー:「私も遊びに来るわよ。ヒロに頼んで飛んでくるのじゃ(笑)」


その話を聞いて困った顔で苦笑いするエリーの召し使い。

エリーとエルマは本当に仲が良く話が尽きなかった。


エルマ:「あ、もうこんな時間?」

エルマ:「夕食を食べて行く?」

エリー:「夕食!?」

エリーの召し使い:「あ!?」

よしひろう:「ん?」

エリー:「今日は晩餐会があったのじゃ!」

エリーの召し使い:「そうですよ!!」

エリー:「早よう帰らねば!」

エリーの召し使い:「よしひろう様!お願いします!!」

よしひろう:「はい!?えっと…い、急ぎましょう!」


慌ててエルマの家を出る僕とエリーと召し使い。

エリーと召し使いを連れてきた時と同じように抱き飛翔する。

エリーの部屋のテラスまで辿り着くのには数分とかからなかった。

急ぎ部屋の中へ入っていくエリーと召し使い。


よしひろう:「それじゃ、また。」

エリー:「またね!」


そう言うとエリーは服を脱ぎ、着替え始めた。

見ていたいという衝動があったが…

マジマジと見ているわけにもいかず、借りた屋敷に向かって空に舞い上がる僕。

日が沈みかけていた。

エリーに借りた家の前に降り立つ。

夕暮れ時に灯りの点いていない大きな屋敷の前に立つ。

結構、不気味だ。

ここにこれからここに一人で住むのかと思うと背筋がゾクゾクする。

エルマの家の方を見ると、明かりが灯っていた。


よしひろう:「今日だけでもあっちで寝たいんだが…」


と思いつつエリーの屋敷に入る。

蝋燭に火を灯し適当な部屋に入りベッドに横になる。

まあ、そのうち慣れるだろう。

慣れるしかない。

そう言えば、エルマから子猫を引き取るのを忘れていた。

子猫がいれば多少気が紛れるかもしれない。


よしひろう:「今日も忙しい一日だったな…」


目を瞑ると段々と意識が薄れてきた。

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