僕は夢を見た(89) 純白の巨人
僕は夢を見た。
エアリスの街の入り口にある大きな石にレギオナと二人で座りくつろいでいると、
後ろの方から僕の名を呼ぶ声がした。
???:「よしひろーう」
よしひろう:「(誰だ?変なところを伸ばして呼ぶヤツは。)」
振り返って見ると、そこにはスーツ姿の女性が立っていた。
よしひろう:「現世の巫女様じゃないですか!」
現世の巫女:「お久しぶり。ウフフ。」
優し気に微笑む現世の巫女。
現世の巫女:「可愛い娘と一緒だなんて幸せいっぱいだな、君。」
よしひろう:「いや、あの、これは…」
顔が火照って来るのが自分でも分かる。
現世の巫女:「ウフフ。初心ね。」
レギオナが僕の腕に抱き着いて来る。
現世の巫女:「娘さん、大丈夫。あなたの大事な人を奪う気はないわ」
レギオナ:「……」
現世の巫女:「ところで、私の姉様にお世話になったと聞いたのだけれど。」
よしひろう:「はい。危うく命を落とすところを助けてもらいました。」
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現世の巫女がすまなさそうに肩を落とした。
現世の巫女:「そう…。ごめんささいね。本来なら私がちゃんとサポートしなければいけないのに。」
よしひろう:「いえいえ。そのお言葉だけで十分です。不甲斐なくてすいません。」
僕は立って頭を下げる。
顔を上げると、現世の巫女が腕を組んで何やら考え事をしていた。
僕はその姿を見て訝しんだ。
現世の巫女:「うーん…。君は新しい力を得たいかい?」
新しい力とは何だろうか?
すごく興味を惹かれる。
もちろん答えは一つ。「YES」だ。
よしひろう:「はい!すごく欲しいです!!」
現世の巫女がほほ笑む。
現世の巫女:「そうか、そうか。」
現世の巫女:「では、私に着いて来てくれるかい?」
現世の巫女はそう言うと、目の前に光輝くゲートを開いた。
僕が一歩足を踏み出すと、腰の辺りを引っ張る力を感じた。
振り返ると心配そうな顔でレギオナが僕を見つめている。
よしひろう:「レギオナ、大丈夫だよ。すぐに戻って来るから。」
頭を横にフルフルとするレギオナ。
現世の巫女:「よしひろう?」
よしひろう:「はい?」
現世の巫女:「その娘も一緒に行きましょう。」
僕は驚いた。
というか、僕が勝手に勘違いしていたのかもしれな。
これまで、僕は僕自身でしか他の世界へ行った事が無かったからだ。
よしひろう:「連れて行っていいんですか?」
現世の巫女はあっさりと了承する。
現世の巫女:「もちろん。その娘には君のボディーガードをしてもらわなきゃね。」
よしひろう:「え?はい?……」
ボディーガードが必要って事は…荒事か?
何か嫌な予感しかしないんだが。
「新しい力」って何!?と少し胸騒ぎ。
考えてても埒が開かない。
ええいままよとレギオナの手を握りそのゲートに向かって歩き始める。
眩い程の光の中に入る。
眩しすぎて目を閉じる。
現世の巫女:「着いたわ。さあ見て!」
巫女の言葉を聞き目を開けると、そこはオレンジ色の世界だった。
夕焼けのようなオレンジ色の空。
だけど、お日様が無い。
上を見ると遥か上空に長く伸びた軸のような物があり、そこからオレンジ色の照明が世界を照らしていた。
その軸の向こう側には反対向きの世界が広がる。
よしひろう:「え?えええぇぇぇ!?」
両腕を大きく天にかざし、うっとりとした表情の巫女。
僕は正直なところ、腰が抜けそうなくらい驚いていた。。
よしひろう:「マジっすか?……」
今までに見たこともないような風景が広がる。
よしひろう:「こ、ここって、どこなんです?」
巫女は言葉を選びながら言葉を発した。
現世の巫女:「うーん…。ぶっちゃけた話、技術革新が進んだ遠い未来と言ってもいい世界…かな?」
よしひろう:「…(「かな?」で済んじゃうところがまた何とも…)」
よしひろう:「…(「てへペロ」?)」
現世の巫女がこの世界について語りだす。
現世の巫女:「ここは宇宙空間に作られたコロニーと呼ばれる所。その内部ね。」
現世の巫女:「今はちょうど夕暮れ時。」
現世の巫女:「同じ時間軸でもこんな世界もあるんだよ。まずはそこから理解してね。」
僕は「なるほど」と理解した…もとい、出来ない!出来るワケがない。
出来るワケが無いんだけれども…このSFっぽい感じが僕の中二的な何かを擽る。
よしひろう:「そっか…、エアリス…僕の世界が中世じみているように、文明が進んでいる世界もあるってことか…」
現世の巫女:「ご名答ー。」
ニコニコと笑いながら小さく拍手をする現世の巫女。
よしひろう:「マジかー(棒)」
時に妖艶であり、時に子供じみた仕草をする。
時にお姉さんのようであり、時に妹のような。
僕は現世の巫女を見ながら、「うわぁー。めっちゃタイプなんだけどな。この人。」と思った。
鼻の下を伸ばす僕の顔を見て、腹の辺りのお肉をギューと抓るレギオナ。
よしひろう:「…(うぐぅ!?)痛っ!!」
現世の巫女:「???」
顔を少し傾けながら僕を見つめる巫女。
現世の巫女:「で、君の新しい力の話なんだけどね。」
手を下に振って座るよう促された。
よしひろう:「はい!」
僕はこれぞとばかりに巫女の顔に自分の顔をめっちゃ近づける。
花の香りがする~~。
うっとり。
現世の巫女:「君、聞いてる?」
よしひろう:「え!?何か言いました?」
現世の巫女:「まったく。真面目な話をする時はもっと真剣にならないとダメだぞ?」
よしひろう:「す、すいません。」
巫女は地面に地図を描きながら説明した。
現世の巫女;「そこに柵があるだろ?それがここだ。」
地面の地図のある一点をグルグルと指す。
現世の巫女:「ここから2キロほど行った所に倉庫がある。たくさん。」
よしひろう:「はい。」
現世の巫女:「その倉庫の中には…戦車とか戦う兵器がいっぱいあるんだけどね。」
僕はふむふむと相槌を打つ。
現世の巫女:「そんなのはどうでもいいんだ。」
よしひろう:「んんん?」
現世の巫女:「その倉庫のどこかに、真っ白い人型ロボットが1機だけある。」
現世の巫女:「いいかい?人型ロボットもたくさんあるけれど、狙いは一つ。白いヤツだ。」
よしひろう:「はい…」
現世の巫女:「それをだね…」
よしひろう:「(ゴクリ)」
現世の巫女:「くすねてきて。」
よしひろう:「はい!!?」
僕も人型兵器には興味がある。男のロマンだ。
だけど、いきなり乗って、盗んでこいだって!?
まず、どうやって操縦するんだよ!
掴まったら最低でも銃殺案件じゃねーか!!
言いたいことが山のように膨らんで、言葉として発しようとした瞬間、巫女の柔らかい
人差し指が僕の口をそっと塞ぐ。
現世の巫女:「大丈夫。」
よしひろう:「は?」
現世の巫女はニッコリとした笑顔で答えた。
現世の巫女:「君は選ばれし者なんだから。」
現世の巫女:「とりあえず、これを使って潜入ね。」
僕はお札を二枚手渡された。
よしひろう:「このお札は何なんですか?」
現世の巫女:「透明になるオ・フ・ダ(ハート)。」
僕の額から冷や汗がタラリと一筋流れ落ちる。
同時刻、よしひろうの潜入先となる格納庫内では。
整備員が忙しく動いている。
その中央には人型兵器が3機並んでいた。
手前から白い機体、ダークグリーンを基調とした機体、グレーの機体。
ダークグリーンの機体の前で整備員が手で持って合図をする。
その合図の先はダークグリーンの機体の腹部に座ったパイロット。
インカムのマイクで話す。
整備員:「どうだ?いけそうか?」
パイロット:「ああ、仕上げは上々!明日のデモが楽しみだ!これならいけるぞ!」
整備員:「よし!頼みますよ!」
グレーの機体の方でも同様の事が成されていた。
整備員:「大尉、どんな感じですか?」
パイロット:「ペダルとスロットルが少し重いな。」
整備員:「了解です。調整しにそっちに行きます。」
パイロット:「頼む。」
ハンガーに設けられたエレベーターを使い腹部コックピットへと上る整備員。
整備員:「ちょっとお邪魔しますよ。」
パイロット:「いよいよ明日だな。新型の選定試験。」
整備員:「ええ、こっちも負けていられませんよ!」
パイロット;「プレッシャーを感じるな。」
整備員:「大尉なら大丈夫ですって。相手は緑野郎だけですし。」
パイロット;「もう一機あるだろう。」
整備員:「あの白い木偶の坊ですか?(笑)」
一方、白い機体の方では…
整備員A:「パイロットのバイタルに異常を検出!!」
整備員B:「マズイっすよ!!!!」
整備員がモニターを離れ、コックピットに向けて手でバツの字を表す。
整備員A:「ダウンロード中止!!」
復唱する整備員。
整備員B:「ダウンロード中止!!」
一瞬で倉庫内が静まり返った。
整備員A:「医療班を呼べ!」
整備員:「メディーーック!!」
白い機体のコックピットからパイロットが一人、担架で運ばれていった。
そのパイロットは鼻から血を流し、意識が混濁しているようだった。
整備員がコックピット脇の女性を呼んだ。
整備員:「少尉殿!少尉殿!」
呼ばれてコックピット脇のモニター席から降りて来る。
整備員が小声でその女性に話しかける。
整備員:「蔡少尉、もうこれで3人目ですよ。」
蔡少尉:「ああ。」
整備員:「明日のデモンストレーション、どうするつもりですか?」
整備員:「パイロットがいなくちゃ動かせないでしょ。」
整備員:「もう代わりになるパイロットはいないんですよ?」
蔡少尉:「その時は私が乗る。それで文句はないな?」
整備員:「う……」
整備員は返答に困る。
整備員:「でも機体の調整とかどうするんですか?」
整備員:「パイロットに合わせなきゃ…」
蔡少尉:「マニュアル通りの標準パターンで調整をお願い。」
整備員:「えっと…りょ、了解しました。」
担架で運ばれるパイロットを倉庫内の多くの整備員とテストパイロットが静かに見守る。
グレーの機体のパイロットがボソリと呟いた。
パイロット(大尉):「アレに当たった日にゃ病院送りかよ。怖え怖え。」
蔡少尉と呼ばれる女性は親指の爪を噛みながら不機嫌そうにしていた。
顔に悔しさを滲ませながら。
蔡少尉:「クソッ!」
整備班班長:「よーし、終わったところから解散だー。お疲れさん!!」
整備員達:「了解!!」
整備員が分担された作業を終えると、各々が解散していった。
格納庫で最後の一人となった蔡少尉は自分の作り上げた白い機体をただ見つめるだけだった。
同時刻、コロニーの外でも別の動きがあった。
強襲揚陸艦の艦橋内にて。
オペレーター:「潜入部隊よりレーザー通信入りました。」
艦長:「よし、読め。」
オペレーター:「フクロウは野兎を見つけた。フクロウは野兎を見つけた。」
艦長は顎髭を暫く弄った後に命令を下す。
艦長:「艦長より通達、これより第一級戦闘態勢へ移行。」
オペレーターA:「第一級戦闘態勢に移行します。ブリッジを格納。」
ブリッジが艦内へと格納され、照明が全て赤色へと変わった。
オペレーターB:「艦首をコロニーに向け固定。」
オペレーターB:「レーダー波吸収装置に異常無し。オールグリーン。」
オペレーターC:「機兵隊各機に告げる。発信準備急げ。発信準備急げ。」
艦橋全面に設置されたモニターに各機兵のコックピット内が映しだされた。
艦長:「よーしお前ら、ブリーフィング通りにやればどうって事はない。いいか!」
パイロット一同:「了解!!」
艦長:「フクロウが無事に野兎を捕まえたら大成功なんだがな…」
オペレーター;「コロニーに停泊中の敵艦艇に動きは無し。数は2、軽巡洋艦クラスと思われます。」
艦長:「油断するなよ。少しの変化の見逃すな!」
その頃、僕とレギオナは透明になるお札を体に貼り付けて森林の上を飛んでいた。
辺りは暗く、すっかり夜になっていた。
まあ、コロニー内で夜になるというのも少し不思議な感覚。
夜になる必要があるのか?などとくだらない妄想に浸る僕。
途中、数両の戦車、対空砲、そして、カーキグリーンの人型兵器を見た。
森に隠れるように巧みに配置している…のだろうか?
素人の僕には分からないけど。
で、それらは僕たちの姿は全く見えてないらしく、何の問題も無く突破できた。
よしひろう:「(なんでこんなにも厳重に警備されてるんだろう?)」
レギオナ:「主殿、前。」
よしひろう:「前?」
目の前に迫る巨木。
よしひろう:「うぉぉぉぉぉぉ!?」
何とか回避できたけど…メチャクチャ大きな声を上げてしまった。
よしひろう:「なあ、レギオナ?」
レギオナ:「はい。」
よしひろう:「もうちょっとさ、早く教えてくれないかな?」
レギオナ:「努力します。」
よしひろう:「(えっと…僕のお願いって努力しなきゃ出来ないようなことかな…)」
レギオナ:「前。」
レギオナの言葉に咄嗟に前を向き身構える僕。
心臓がバクバクしている。
でも、今度は大木では無かった。小さなビルが2棟。格納庫、倉庫らしき建物が十数棟。
明かりはほぼ全てけされていて、全体としては真っ暗闇状態。
ビルの方からはカーテンの隙間からちょっとだけ光が漏れている程度。
よしひろう:「うわぁ…何かのホラー映画っぽいな。このシチュエーション。」
僕の居る場所から一番近い格納庫から調べる事にした。
非常用の小さな扉が見えるが、間違いなく監視カメラが設置されているだろう。
よしひろう:「レギオナ、スルーを使って侵入するぞ。」
レギオナ:「承知。」
そういうとレギオナは僕の手を握る。
レンガ造りっぽい壁に手をかざし、意識を集中しつつ呟く。
よしひろう:「スルー…」
スーっと僕とレギオナは格納庫の中へと侵入した。
1つ目の格納庫は空だった。
たぶん、今、哨戒中の人型兵器用のものなのだろう。
2つ目の格納庫には、先ほど森林内で見たのと同じ形の人型兵器が3機格納されていた。
目当ての白い機体ではない。
ただ、あらためて眺めるとかなり迫力がある。
よしひろう:「かっこいい~。」
レギオナ:「そお?」
よしひろう:「レギオナはこういうのを見て、かっこいいとか思わない?」
レギオナ:「私の一番は主殿ですので。(照れっ)」
よしひろう:「……(返す言葉に困るんだが!)」
ここにも現世の巫女が言っていた白い機体は無かった。
次の格納庫へと向かおう。
よしひろう:「スルー。」
能力を使って外へ出たちょうどその時、眩しい光が目に差し込んできた。
よしひろう:「まぶ…」
思わず「まぶしい」と叫びかけた僕の口をレギオナが塞ぐ。
兵士A:「誰だ!?」
兵士二人が懐中電灯を左右に振って周囲を確認する。
幸い、僕とレギオナは巫女の札のお陰で見えていないようだ。
よしひろう:「(あー、びっくりした…)」
まさか歩哨に出くわすとは。
兵士A:「おい、今、声が聞こえたよな?」
兵士B:「ああ…俺にも聞こえた。」
兵士が装備したインカムで連絡を取る。
兵士A:「こちら、哨A-3。哨A-3。どうぞ。」
???:「マルほ。哨A-3,どうした?」
兵士A:「重点地区にて不審者らしき声を確認。現在、哨戒中も発見できず。」
???:「マルほ。了解した。追加で哨を2つ送る。哨戒継続。戦隊出動準備。どうぞ。」
兵士A:「哨A-3。了解。」
兵士B:「いきなり戦隊出撃準備かよ…」
兵士A:「それだけ重要だって事だ。応援が来るまで探すぞ。」
兵士B:「了解。」
銃を構えながら慎重に歩みを進める歩哨2人。
僕とレギオナは足音を立てないようソローリと次の格納庫へと侵入する。
よしひろう:「(スルー)」
3つ目の格納庫へ入ると緊張が緩み大きく息を吸う事が出来た。
よしひろう:「(スゥーーーーーハァーーーーーーーー)」。
基地指令室に基地司令が上着のボタンをはめながら現れた。
基地司令:「状況は?どうなっている?」
オペレーター:「試作機格納庫付近にて不審者の情報がありました。」
基地司令:「見たのか?」
オペレーター:「いえ。ただ、声が聞こえたと。」
基地司令:「そうか。」
基地司令は少し考えた後に新たに指示をだす。
基地司令:「現在哨戒中の機兵はグレイス隊だったな?」
オペレーター:「はい。」
基地司令:「オリバー隊に出撃準備命令を出せ。静かに迅速に準備しろ。相手にこちらの動きを察知されるな!」
オペレーター:「了解。」
オペレーター:「オリバー隊、出動準備。オリバー隊、出動準備。以降待機願います。以降待機願います。」
別の格納庫では赤い非常灯が点灯する中、人型兵器の出動準備が行われていた。
オリバー大尉に続き2人の男が現れ、パイロットスーツへと着替える。
そしてハンガーデッキの昇降機に乗り、それぞれの機体へと乗り込んでいく。
整備員が腕を上げ、指を大きくクルクル回す仕草をした。
パイロットが「イグニッションスタート」と書かれたボタンを押す。
静かな倉庫内に「フィーーーン」という小さな音が鳴り始めた。
「ヴン」という音と共に人型兵器の目に光が入る。
兵の宿舎でも動きが有った。
各部屋の扉が開かれ、暗黙の裡に兵員が出動準備に入る。
銃のハンドルを引き「カシャッ」っと弾の装填を確認する者。弾倉を腰のベルトに装着する者。
そのさなか、部隊長が現れた。
部隊長:「戦う準備はできたか?」
隊員達:「イエッサー!」
コロニーの港湾施設近くに宇宙ボートが4艇着岸し、ハッチを開けて重武装の兵士がなだれ込む。
手で合図をしながら周囲の安全確認をした。
ボートから最後に降りてきたのは部隊の隊長であろうか。
地図を見ながら各部隊に指示をだす。
隊長:「あらためて作戦内容を確認するぞ。」
隊長:「Aチーム、Bチームはコロニー中心軸を進み、連合の新型を奪取。」
隊長:「Cチームは陽動だ。基地入口を襲撃し、時間が来たら撤退だ。」
隊長:「Dチームは港の管制室を押さえろ。その後は我々からの連絡を待て。」
隊長:「いいな。ちょっとしたピクニックみたいなものだ。完遂して帰還するぞ。」
隊長は腕時計を見詰めていた。
秒針が刻々と進む。丁度 AM 01:00 を差した。
隊長:「作戦開始。」
各隊が作戦行動に移る。
同時刻、無人の格納庫内にて。
僕は見つけた。
現世の巫女の言っていた白い機体の人型兵器。
よしひろう:「これだ…」
下から見上げると随分と大きく見える。
頭部のV型のアンテナ?角?が見えた。
よしひろう:「これ、メチャクチャかっこいいじゃん。」
レギオナ:「ふーん。主殿はこういうのが好きだったのですか?」
よしひろう:「そりゃあそうだよ。全国の男の子の夢だからな。」
レギオナ:「もう子供と呼べる歳ではないでしょうに。」
と僕の背後から手を回し、ギューっと抱きしめて来る。
よしひろう:「な、レギオナ、乗ってみよう!」
「つれないのね」と少し寂しそうなレギオナの手を引き、昇降機でコックピットへと昇ってみた。
よしひろう:「えーっと…開閉ボタン?レバー?はどこだ?」
薄暗く見辛い中やっとそれを見つけた。
よしひろう:「あ…あった。」
ボタンを押すと「パシュー」とコックピットのハッチが開く。
よしひろう:「おぉ………」
確かに座席は有った。何やらよくわからないレバー。踏んでよいのかも分からないペダル。
両掌を置く部分にある無数のボタン。ヘッドセットらしき物。
よしひろう:「いや…、いやいや…。こんなん動かせるワケ無いっしょ…」
レギオナ:「主殿、パッと盗んで、さっさと帰りましょうよ。」
レギオナはこの人型兵器には全く興味がないようで。
僕はよく分からないながらも操縦席に座ってみる。
よしひろう:「(とりあえず…エンジンスタートボタンとか、システム起動ボタンとか、無いか?)」
と周囲をじっくりと探してみる。
「イグニッションスタート」と書かれたボタンが有った。
よしひろう:「これかな?(ポチっと)」
足元にあった跳ね上げ式のモニターが起き上がり文字が点滅していた。
「MANUAL DOWNLOAD Yes/No ?」
よしひろう:「ほほう!………えっと……マニュアル?今から読んで覚えろって事か!?」
よしひろう:「とりあえず、イエスだ。」
モニターに表示されている「Yes」ボタンを押してみる。
すると頭上に有ったヘッドセットのような物が降りて来て、僕の頭に被さった。
これから何が起きるのか?という期待と不安が入り混じった不思議な感覚。
次の瞬間、僕の頭の中に大量の情報が流れ込んで来る。
よしひろう:「ぐはっ!」
思わずのけ反る僕。
レギオナ:「?」
技術士官、蔡少尉の部屋にて。
蔡少尉は制服から部屋着に着替え、ベッドに横たわり照明へと両手をかざす。
蔡少尉:「あーぁ…。結局私が操縦するしかないのか…はぁ(ため息)」
蔡少尉:「性能はダンチ(段違い)のハズなのに…付いて来れる者が誰もいない…ってとんだ茶番だわ(苦笑)」
蔡少尉は周囲からの苦言を思い出していた。
会長:「美玲、お前の思うように、好きなように作ってみなさい。私はそれを見てみたい。」
と優しく語りかけてくれた御祖父様。
「会長の孫娘だからって5兆円も使うか!?お、お前は会社を潰す気か!!」
怒り狂う雇われ社長。
「お姉さま!このシステム革新的じゃないですか!!」
と褒めてくれた後輩ちゃん。
蔡美玲:「ちょっと盛りすぎたかしら……」
蔡美玲:「明日のテストで選ばれさえすれば、正式採用さえされれば……」
蔡美玲:「あー、胃が痛い。」
何気にテーブルに置いたタブレットに目をやると、画面に点滅している箇所が有った。
蔡美玲:「ん?もう何よ~、こんな夜中に…」
だるそうにタブレットを手にして画面を見る…と、そこには今回の計画名「プロメテウス計画」と書かれており、
その下に様々なステータスが表示されている。
蔡美玲の視線はある一点のみを見ていた。
「MANUAL DOWNLOAD [[[[[[[[67%]...」
蔡美玲:「だ、誰よ!!死ぬ気!?」
蔡少尉は慌てて制服に着替え、タブレットを手に部屋を出る。
蔡少尉は走りながらこれまでの事を思い出していた。
ダウンロード30%で気絶した一人目のテストパイロット。
ダウンロード70%で心肺停止して死にかけた二人目のパイロット。
ダウンロード60%で精神に異常をきたした三人目のパイロット。
タブレットに目をやるとダウンロードが80%を差している。
蔡少尉:「(私のせいで人が死ぬなんて!止めなきゃ!)」
誰もいない廊下に蔡少尉の靴音だけが鳴り響く。
息を切らしながら、やっとの思いで試作機の格納庫にたどり着いた時、タブレットの数値は100%と表示していた。
その右には「COMPLETE」の文字。
蔡少尉:「嘘?まさか…」
格納庫の鍵を開け、格納庫に入る。
白い機体を見ると、確かにコックピットのハッチが開いていた。
蔡少尉:「誰?」
ハイヒールを脱ぎ、そぉーっと足音を立てずに白い機体の足元へと近づく。
僕はハンガーデッキの昇降機が動いたことすら気付かないほど衝撃を受けていた。
さっきの大量の情報の流入はいったい何だったのか。
呆然自失。
コックピットの外から一人の女性(蔡少尉)が現れ僕に拳銃を向ける。
蔡少尉:「動くな!!…っと、無事か!?」
しかし、そこには誰もいない…
蔡少尉:「え?」
僕は姿を現して良いものか暫く考えた。
意を決して現世の巫女から貰った隠れ身の札を外した。
僕の姿が蔡少尉にも見えるようになる。
蔡少尉:「な、な、な!?」
僕はとりあえず両手を上げる。
蔡少尉:「あなた、無事?というか、今の何?」
よしひろう:「なんとか無事です。」
蔡少尉:「でも、鼻血出てるわよ?」
よしひろう:「へ?」
指で拭うと確かに血が出ていた。
よしひろう:「あ、ほんとにゃ。」
蔡少尉:「にゃ?」
よしひろう:「すいません。噛みました。」
蔡少尉が堪えきれずに噴出した。
蔡少尉:「あははは。面白い人ね。」
構えていた拳銃を下す。
よく見ると拳銃かと思ったそれは三角定規だった。
蔡少尉;「ねえ。」
よしひろう:「はい?」
蔡少尉は喉元を指さしながら言った。
蔡少尉:「このナイフをしまってもらえないかしら?」
見るとレギオナが蔡少尉の背後からナイフを当てている。
よしひろう:「レギオナ、大丈夫だから。」
レギオナはうんと頷きナイフを鞘にしまう。
蔡少尉:「ふぅ…あー、ビックリした。」
蔡少尉:「私、蔡美玲。連合軍の技術士官で官位は少尉。この機体のトータルプロデューサーってとこかな。あなたは?」
よしひろう:「僕は菅原よしひろう。えーっと、旅人です。」
蔡少尉:「旅人?もしかして私をからかっている?」
よしひろう:「話せば長くなるので…」
蔡少尉:「そっか…、ま、いいわ。」
蔡少尉:「話を変えるけど、今の体調はどう?大丈夫?」
僕は指先や四肢、首を動かしてみた。
よしひろう:「大丈夫っぽいです。」
蔡少尉:「そう。それなら良し。」
蔡少尉:「じゃ、この機兵の操作方法は全て理解できているわよね?」
よしひろう:「ん?んんん?」
操縦レバーを掴み、何かをしようとすると、その方法が記憶の箱から自動的に出て来る感覚。
よしひろう:「マジか。」
蔡少尉:「マジね。」
蔡少尉がほほ笑んでいる。
蔡少尉:「で、コレ(白い機体)をどうするつもりだったの?」
よしひろう:「盗もうかな?なんて(苦笑)」
蔡少尉:「冗談でしょ?」
よしひろう:「マジです。」
蔡少尉:「マジかよ…」
蔡少尉はこめかみに手を当て、何やら悩んでいる素振りをした。
蔡少尉:「私のお願いを聞いてくれないかしら?うまくいけばこの機体を君に譲るって事で。」
その時、格納庫外から銃声が聞こえた。
「タタタタン、タタタタン!」
基地入口の方向からだ。
蔡少尉:「え?なんで銃声がするのよ…」
コロニーに侵入した部隊の行動は、部隊長のタブレットと強襲揚陸艦の艦橋モニターに映し出されていた。
隊長:「Cチーム作戦開始を確認。」
各部隊長が任務を達成したらチェックを入れる仕組みのようだ。」
隊長:「Dチーム、港湾施設の制圧完了。」
隊長:「Aチーム、Bチーム、作戦開始せよ。」
Aチームリーダー:「降下開始します。」
Bチームリーダー:「降下開始!」
コロニー中心軸から外周の地面に向けて降下を開始するAチーム、Bチーム。
その頃、基地司令部では基地入口周辺での騒乱に混乱していた。
オペレーター:「基地入口で侵入者!所属は不明。応援の要請が来ています。」
基地司令:「おおかた連邦の特殊部隊だろうさ。これは陽動だ!真の目標は試作機だ。」
基地司令:「待機している部隊を試作機格納庫周辺に展開。」
オペレーターが待機中の部隊に基地司令の命令を伝える。
宿舎から出て、物音を立てずに格納庫へと一列となって進む守備隊。
Aチーム、Bチームは試作機格納庫前の更地に次々と降りてきた。
手早くパラシュートをたたみ、周囲を警戒する。
基地守備隊はそれをジッと見ていた。
守備隊隊長:「報告。所属不明の侵入部隊、格納庫へ移動を開始。」
オペレーター:「了解。照明を点灯する。掃討を開始、掃討を開始」
守備隊隊長:「了解。」
基地内の全ての照明が突然点灯した。
同時に鳴り響くサイレン音。
守備隊が攻撃を開始する。
一斉に火を噴く銃口。
Aチーム隊員:「待ち伏せです!!隊長!!」
Bチーム隊員:「囲まれています!!」
Aチーム隊員:「応戦しろー!応戦ーー------(プツ)」
あっという間だった。あっという間に試作機奪取部隊は殲滅された。
隊長:「……プランAからBへと移行。」
隊長:「Cチームは撤退し、Dチームと合流。」
Cチーム:「(ザァー、ザザァー)解了解。」
隊長:「くそっ!!」
隊長は手に持つ通信端末を地面に投げつける。
それを副隊長が拾い、無念そうな顔で隊長へと差し出した。
副隊長:「作戦はまだまだ続きます。」
隊長:「取り乱してすまなかった。」
隊長:「だが、なぜ待ち伏せされたんだ?」
副隊長:「裏で通じている者がいるとでも?」
隊長:「かもな…」
隊長は端末を受け取る。
よしひろうが歩哨に見つかった事が作戦の失敗に繋がったとは誰も知らない。
歴史の教科書に載らない、不幸なエピソードの1つになるだろう。
強襲揚陸艦の艦橋がにわかに慌ただしくなっていた。
艦橋内に設置のステップフローがプランBへと表示が変わる。
艦長:「よーし、機兵部隊を発進させろ。」
オペレーター:「傘を閉じます。」
艦首に展開していた対光学望遠用の漆黒の傘が閉じられる。
オペレーター:「各機発進。各機発進。」
艦橋横のカタパルトデッキから次々と発進していく黒い機兵。
連邦軍機兵部隊隊長:「よーし、各機バーニアを使うな!このまま慣性力でコロニーまで行く。」
連邦軍機兵部隊隊長:「レーザー通信を切れ。見つかるなよ!」
発進した黒い機兵は6機。
コロニーの港の外に連合軍ロサンゼルス級軽巡洋艦二隻が停泊していた。
連合軍オペレーター:「副艦長、コロニー内で戦闘行為が発生したとの報告あり。」
連合軍副艦長:「どの辺りか?」
連合軍オペレーター:「基地内です。」
連合軍副館長:「支援要請は?」
連合軍オペレーター:「いえ、ありません。」
連合軍副館長:「なら放っておけ…」
と言いながら艦首の方向を見た副館長が絶句する。
至近距離から銃口を艦橋に向ける黒い機兵。
「ダン、ダン、ダン」と艦橋に発砲。
炎に包まれ艦橋から艦首、艦尾へと炎が繋がり、軽巡洋艦2隻は轟沈した。
連邦軍機兵部隊隊長:「よし、第一小隊は中へ。第二小隊は港を確保するぞ!」
連邦軍第一小隊:「了解。突入します。」
基地司令:「港の方からは何か連絡は無いか?」
オペレーター:「いえ。ありません。」
オペレーター:「あれ?コールしても誰も出ませんね…」
オペレーターB:「光学レーダーが移動体を検知!港から何かが侵入!!」
基地司令:「画像をミニターに出せ!」
大型モニターにコロニー内へと侵入する黒い機兵が三体写し出された。
基地司令:「どこの機兵か分かるか?」
オペレーター:「連邦のコサッカII かと。機体が黒いので特殊部隊仕様です。」
基地司令:「3世代機か!最新型とはな。オリバーとレイズにも伝えろ。」
オリバー大尉:「聞こえていましたよ。」
オリバー大尉:「オリバー隊出る。格納庫を開けてくれ。」
オペレーター:「了解。」
基地司令:「アホーチニチヤ・サバーカ…黒い猟犬とはな。買い被られたものだ。」
オペレーターからの指示が整備兵へと伝えられた。
整備兵:「よーし!格納庫を開けろー!!」
整備兵:「危ないぞー!道を開けろー!」
オリバー大尉の乗る機兵が「ウィーユ、ウィーユ」とモーター音を出しながら出て来る。
僚機2機もそれに続く。
足が地面に着く度にズズンと重い音が響く。
オリバーは機兵を前進させながらセンターパネルのスイッチを操作する。
オリバー大尉:「レイズ、聞こえるか?」
レイズ中尉:「おう!どうした?寂しいのか?」
オリバー大尉:「ああ、そうだ。後でケツ貸せよな。じゃなくて!俺のケツを頼む!掘られたくないんでな(笑)」
レイズ中尉:「まかせとけ。」
オペレーター:「レイズ隊はオリバー隊の支援をお願いします。」
レイズ中尉:「あいよー!」
基地司令がジッとモニターを見ながら思考を巡らせている。
オペレーター:「司令、どうかしましたか?」
基地司令:「奴らの狙いは何だと思う?」
オペレーター:「試作機の奪取、もしくは破壊でしょうか?」
と言いながらオペレーターはハッと気づく。
基地司令:「よし!試作機に発進準備をさせろ!!今すぐだ!!!」
オペレーター:「司令部より通達。試作機発進準備。試作機発進準備。」
「カッ!!」という音とともに試作機の格納庫の照明が付く。
僕と蔡少尉は体を「ビクッ」とさせ驚いて下を見る。
整備兵、パイロットが続々と格納庫入り口から入って来ていた。
整備兵:「よーし、みんな聞いてくれ。敵の狙いはこの試作機だ。」
整備兵:「奪取もしくは破壊が目的だろう。」
整備兵:「試作機を出すぞ!」
整備兵が慌ただしく動き、出撃準備をしていく。
試作機の2号機、3号機パイロットが乗り込み、機体に火が入る。
「ヴン」という音とともに、頭部のセンサーが点灯。
整備兵:「2号機、スミス大尉!行けますか?」
スミス大尉は無言でOKのサインを出し、ハッチを閉めた。
整備兵:「3号機、アナン中尉!行けますか?」
アナン中尉:「おぅ!行ける!」
スミス大尉:「アナン、俺らは基地守備隊の援護と機体の確保が目的だからな。」
スミス大尉:「あまりはしゃぎすぎるなよ?」
アナン中尉:「了解です!」
整備兵:「よーし、道を開けて格納庫を開けー。試作機を出すぞー!」
試作2号機と3号機が格納庫より出て、オリバー隊の援護に向かう。
整備兵がふと1号機を見る。
整備兵:「蔡少尉?何をしてるんですか?」
整備兵:「1号機は動かせないでしょ、放っといて避難してください!」
その言葉にカチンときた蔡少尉は反論する。
蔡少尉:「今から動かすからよーく見ておけ!!」
蔡少尉は僕に静かに語りかける。
蔡少尉:「君は戦闘経験はある?」
よひひろう:「いやいやいや、これに乗って戦った事は無いかな…」
蔡少尉:「生身では?」
よしひろう:「有ります。」
蔡少尉:「言い難い事だが重要な事を聞く。…人を殺したことはあるか?」
よしひろう:「……有ります。」
蔡少尉はニコリと優しい微笑みを僕に向け、僕の肩をポンポンとたたく。
蔡少尉は整備兵に向けて大きな声で指示をだす。
蔡少尉:「1号機を出すぞー!道を開けてくれー!」
蔡少尉:「君、補助席を出してくれ。」
よしひろう:「了解です。」
何かをしようと思うと自然と操作方法が脳裏によぎり、体が動く。
この感覚を一言で言い表すとすれば「人馬一体」というか、体そのものを動かしているような感覚。
蔡少尉は補助席に座り、シートベルトを締める。
レギオナは透明になるお札を貼ったまま、僕の膝元で三角座りをしているようだ。
蔡少尉:「君もベルトを付けなよ。」
よしひろう:「はい。」
蔡少尉は一つ一つ注意点を指摘する。
蔡少尉:「まずは、右のハンガーに掛けてあるライフルを忘れずに持つ。いいかい?」
よしひろう:「了解。」
蔡少尉次に左のハンガーに掛けてあるシールドを付ける。
よしひろう:「了解。」
蔡少尉:「あとは…背中のハンガーに有るのが成層圏での飛行ユニットなんだけど…
蔡少尉:「コロニー内だから要らないわね。」
よしひろう:「了解!」
蔡少尉がそっと僕に手を重ねてきた。
蔡少尉:「最初はそぉーっと、ね。」
よしひろう:「はい!」
インカム越しに発信を告げる僕。
よしひろう:「1号機出ます!」
よしひろう:「で、この機体って名前はあるんですか?」
蔡少尉:「うーん。しいて言えばだけど、これは連合軍のプロメテウス計画の1号機だから…」
蔡少尉:「プロメテウス1(ワン)でいいんじゃないかしら。」
よしひろう:「あらためて…プロメテウス・ワン出ます!!」
基地オペレーター:「試作1号機が発進すると言って来ています!」
基地司令:「はぁ?あの木偶の坊が発進できるのか?パイロットは誰だ?」
基地オペレーター:「ちょっと待ってください。機体情報によると…菅原よしひろう!?」
基地司令:「誰だ?そんなパイロット聞いたこともないぞ!!」
最初は慣れるまで蔡少尉の指示通りゆっくりと歩みを進める。
コックピット内に「ピロロロロ、ピロロロ」という警告音が鳴る。
視界360度のモニターのある一点にヘックス状の赤い印が現れた。
蔡少尉:「避けろ!」
僕は咄嗟にバックステップしていた。
敵の放った実弾が足元に着弾し爆発。
「ビビビビ!」と警報が鳴る。ダメージはゼロ。
よしひろう:「あ、危なかった!!」
蔡少尉:「油断するな!次弾来るぞ!!」
次弾は1号機の盾のど真ん中に着弾する。
機体が大きく揺れる。
蔡少尉:「今ので敵の居場所は分かったな?」
よしひろう:「はい!!」
蔡少尉:「それじゃあ行こうじゃないか!」
先行したオリバー隊はコロニー内での空中戦に苦戦していた。
オリバー大尉:「当たらねえ!!」
僚機:「隊長!コサッカIIが2機しか見当たりません!」
オリバー大尉:「目の前の敵に集中しろ!!」
僚機のうち一機が背中に直撃弾を受け動きを止める。
オリバー大尉:「おいおい!止まるな!!」
次の瞬間、トドメの一撃を食らい落下、爆発する僚機。
オリバー大尉:「チッ!」
オリバー機のコックピット内でもロックオン警報が鳴り響く。
「ピロロロ、ピロロロ。」
オリバー大尉:「後ろか!!各機退避運動を取れ!」
オリバー機の真横を弾がかすめた。
オリバー大尉:「危っぶねぇ!」
オリバー大尉:「目の前のヤツは囮役か!クソッ!!」
僕は機兵を地上で全力疾走させながらその光景を見ていた。
蔡少尉:「あのロングレンジのヤツから仕留めに行って。」
よしひろう:「了解!!」
本来なら上下に激しく揺れているであろうコックピットはほとんど衝撃もなく、素晴らしい安定性を確保していた。
よしひろう:「揺れないんですね。」
蔡少尉:「それもこの機体のウリの一つさね(笑)」
スミス大尉とアナン中尉がオリバー機に追いついた。
スミス大尉:「遅くなってすまん!」
オリバー大尉:「気を付けろ!奴さん強いぞ!」
スミス大尉の乗る試作2号機をもってしても五分五分の戦いとなった。
バーニアを吹かし激しく中距離~近距離の戦いを繰り広げる。
敵の放った弾、味方の放った弾の流れ弾が居住地で爆発し、コロニー内は混乱の度を深めていく。
蔡少尉:「バーニアは吹かすんじゃないよ!熱探知されるからな。ギリギリまで走っていく!」
よしひろう:「了解!」
僕は自分の乗る機体の武装を確認した。
通常弾、レールガン、荷電粒子砲、この3つが今持っているライフルの主な装備。
腰には両側に一本ずつのビームサーベル。胸部には高速なガトリング砲2門。
頭部バルカン2門。
近接戦闘用のナックルガードが両腕に装備…
モニターに映し出される様々な武装。
よしひろう:「(こいつ、殴り合いも出来るのかよ!!すげぇな!)」
蔡少尉がモニターを見ながら注意点を何点か教えてくれた。
蔡少尉:「レールガンと荷電粒子砲はコロニー内では使わないで。」
蔡少尉:「威力が強すぎてコロニーにダメージを与えるから。」
蔡少尉:「ライフルの武装の切り替え方法は覚えているわね?」
よしひろう:「はい。」
グリップのロールスイッチを切り替えると、ライフルの銃身が回転し切り替わる仕組みだ。
蔡少尉:「設定は3点バースト。」
よしひろう:「はい!設定完了!」
蔡少尉:「光学センサー以外使わないで。察知されるわ。」
蔡少尉:「目の前のヘックスサイトを見て。そこに照準を合わせるの。出来る?」
基地の周りの森の中の道を抜け、市街地へと入る。
よしひろう:「ビルが!!」
僕は無意識にバーニアを噴出し、空を飛ぶ。
黒い機兵内ではセンサーが熱源を探知し、けたたましく警告音を鳴らしていた。
黒い機兵のパイロット:「どこから出やがった!?」
僕は機兵の銃の引き金を引く。三点バーストの銃声が「ダダダ!!」と響く
だが、一瞬遅かった。黒い機兵はバーニアでバックステップをしながら応戦してきた。
僕のコックピット内が赤く光り、ロックオン警告を発する。
よしひろう:「うぉぉぉぉ!」
敵の弾を盾で防ぎながら一気に間合いを詰める。
黒い機兵のパイロット:「なんなんだ!こいつ!!」
盾ごと黒い機兵に体当たりし、バランスを崩したところを胸部ガトリングで一斉射。
「ヴゥーーーン」という響く音がコックピット内にも伝わってきた。
無数にバラバラと排出される薬莢。
頭部と脚部が破壊され、ゆっくりと地上へと落ちていく黒い機兵。
蔡少尉:「まだよ!とどめ!」
よしひろう:「はい!」
黒い機兵の腹部へレーザー照準を合わせ、右手のライフルの引き金を引く。
「ダダダッ!」
腹部を貫通し、地上に落ちる前に爆発した。
僕はこの数秒の出来事に心拍数が爆上げ状態になった。
よしひろう:「(ハァハァ…)マジかよ…」
僕は死んでも夢から目覚めるだけで済むだろう。
だけど、蔡少尉は?レギオナはどうなる?
そう考えると、絶対に殺られるわけにはいかない!
無線が入る。
オリバー大尉:「シーーット!尻に付かれた!!誰か!誰かいないか!!」
蔡少尉が360度モニターの一点を指さした。
グリーンの文字色で機体の位置情報が表示されていた。
よしひろう:「いっけぇぇぇ!」
バーニアをフルに吹かしてオリバー機に纏わり付く敵機へと向かう。
オリバー機のコックピット内が赤く点滅し、ロックオン警報が鳴り響く。
敵機の弾に当たり、左足が吹き飛ぶオリバー機。
敵の注意をこちらに向けさせるためロックオンし、威嚇射撃を行う。
三点バースト「ダダダッ!」
敵機とオリバー機の間を3つの光の筋が流れる。
敵機がこちらに顔を向けた。
よしひろう:「!!(どうする!?)」
僕の乗るコックピットが赤く光り警報を鳴らす。
敵機にロックオンされた。
よしひろう:「(アスター隊長との訓練を思い出せ!)」
よしひろう:「(レンジャーとの訓練を思い出せ!)」
瞬時に180度向き直し、バーニアを吹かしてバク転する。
自分の頭上を敵機のマシンガンの光跡が走った。
そして、敵機の真後ろに立つ。
黒い機兵:「何なんだこいつは!!」
敵機も僕の動きを追うように転向するが、こちらの機動力の方が上だ。
僕は何の感情も抱くことなく、銃の引き金を引いた。
「ダダダッ…」
全ての弾が腹部に命中し、爆散する黒い機兵。
この間、無意識に息を止めていた事に気付き大きく息を吸う僕。
よしひろう:「蔡少尉、今の見ててくれましたか?」
僕は少尉が褒めてくれると思い振り返って見ると、少尉は気を失っていた。
よしひろう:「……」
レギオナ:「主殿、先程の動きは人間には辛いかと思います。下手したら死んでますよ?」
よしひろう:「あの……ごめんなさい…」
レギオナ:「私に謝まられても…」
無線が入る。
スミス大尉:「こちらP2、機体に軽微な損傷を受けたが大丈夫だ。」
アナン中尉:「P3、敵を1機仕留めた。敵を1機仕留めた」
スミス大尉:「P1、そちらはどうか?」
よしひろう:「こ、こちらP1、敵機2機を撃破しました。」
オリバー大尉:「オリバー隊、2機を失った。当機も大破し操縦不能。救援求む!」
オペレーター:「了解。回収部隊を向かわせます。その場にて待機。」
オリバー大尉:「追伸、レイズ隊は全機消失。」
全滅の知らせに一同が暫く沈黙する。
オペレーター:「……了解しました。コロニー内に侵入した敵機兵は全て排除されました。」
オペレーター:「通達。守備隊から報告。港湾施設の奪還に成功。」
基地司令:「よーし、今のうちに整備と補給を行うぞ。」
基地司令:「港湾施設の守備部隊以外は帰投させよ!」
オペレーター:「敵残存勢力はコロニー外へ退却。機兵は全機帰投せよ。全機帰投せよ。」
オペレーター:「港湾守備隊以外は全部隊帰投せよ。」
僕は片足を失ったP2を支えながら基地へと帰投した。
P3もほぼ無傷なようだ。
整備兵:「P1パイロット、聞こえるか?」
よしひろう:「聞こえてます。」
整備兵:「P2をこのハンガーデッキに降ろしてくれ。」
よしひろう:「了解しました。」
P2の両肩と腰の部分を支持する型に合わせるようP2を降ろす。
整備兵:「お前、操縦上手いな!ありがとよ!!」
と右手を上げグゥサインを出す整備兵。
スミス大尉:「礼を言う。助かったよ。ありがとう。」
よしひろう:「はい!(ちょっと照れくさいな…)」
P3は大破したオリバー機を吊り下げての帰投だった。
整備兵:「オリバー大尉!ケガしてないですか?無事ですか?」
ボロボロになった機兵のコックピットが強制解放された。
パシューっという音と共にハッチが開く。
オリバー大尉:「メイン電源を切るからちょっと待ってくれ。」
ポチポチと前面パネルの操作をする。
クゥゥンという音がし、全ての電源が落とされた。
整備兵:「よくこれで爆発しませんでしたね…」
オリバー大尉:「悪運だけは強くてな(苦笑い)」
そう言いながらP1を見上げる。
オリバー大尉:「あいつに救われたよ。…素晴らしい機兵だ。いや、凄いのはパイロットか。」
P2担当の整備兵が忙しく動いている。
整備兵:「6時間だ!6時間以内にこいつを使えるようにするぞ!!」
それをP1のコックピットのモニター越しに見る僕。
下を眺めているとライフルを手にした数名の兵士と、どっから見ても偉い人らしき軍服を着た
おっさんがこちらに向かって来る。
整備兵:「おーい、P1!P1!ハンガーデッキに掛けろ。出来るだろ?」
よしひろう:「はい。出来ます!了解です。」
P1を後ろ向きに歩かせて固定器具にボディを引っかける。
機体が収まったと同時に昇降エレベーターでP1コックピットに向かって上がってくる偉い人と兵士。
よしひろう:「え!?」
絶句する僕の口を柔らかな手が塞いだ。
ビックリして後ろを向こうとしたが、口を塞いだ手がそれを阻止する。
蔡少尉:「よく聞いて。ハッチが開いたら、両手を上げて降伏するの。いい?」
蔡少尉:「なあに、悪いようにはしないさ。私に任せて。ね?」
口を塞がれていたので、頭を縦に振って蔡少尉の提案に同意した。
基地司令:「よーし!コックピットを開けろ!開けないなら強制解放するぞ!」
僕はコックピットを開くボタンを押す。
基地司令:「出てこい!!」
ベルトを外し、外に出ようとする僕を制止し、蔡少尉が外へ出た。
基地司令:「蔡少尉!コックピット内の男をこちらに渡してもらおう。」
蔡少尉:「なぜ?この子は私たちのために命を懸けて戦ってくれたのよ?」
基地司令:「スパイかもしれんのだぞ!?」
蔡少尉:「ありえません(キッパリ)」
蔡少尉:「この子は私が雇いました。以後、私の部下です。司令!」
基地司令:「な?…こいつのDNAはどこの国にも登録されていないのだぞ!?」
基地司令:「この時代にそんな奴がいる訳がな!」
基地司令の言葉を蔡少尉が遮った。
蔡少尉:「彼のおかげで今があるのでしょ!彼がいなければ全滅していたのはこちら側です!」
蔡少尉:「敵の残存兵力の事も考えたら、彼に頼るしか手はないのですよ!!」
それを聞き、肩を落とす基地司令。
基地司令:「う……だがなぁ…少尉。皆の手前もあるし、わしの面子も考えてくれ。」
基地司令:「銃は使わせんから、せめて独居房に…」
蔡少尉はキッとした目で基地司令を睨む。
基地司令はモゴモゴしながら指を腹の辺りでくるくる回している。
基地司令:「分かった。独居房は無しだ。貴賓室に連れて行け!」
兵士:「ハッ!」
基地司令に敬礼をし、僕に手を差し伸べる銃を持つ兵士。
兵士:「どうぞ、こちらへ。蔡少尉もご同行ください。」
蔡少尉はニッコリと僕に笑いかける。
蔡少尉:「そこの見えない娘はお留守番しててね。」
レギオナが黙って頷いたように感じた。
貴賓室に通される僕と蔡少尉。
基地司令:「ひとまずここでくつろいでいてくれ。わしも忙しくてな。すまん。」
基地司令と兵士が部屋から去る。
よしひろう:「あの…」
と言いかけた僕に口を閉じるようにしーっという仕草をした。
僕の耳元で囁く。
蔡少尉:「ここは間違いなく盗聴されているわ。言動には気を付けて。」
よしひろう:「はい。」
蔡少尉:「どうだった?私のプロメテウス1は。」
よしひろう:「最高でした!あんなに大きな機体を自由自在に操られるなんて夢のようです!」
蔡少尉:「でしょー?(笑)でもね、今アレを動かせるのは私と君だけなんだ。貴重なパイロット君。」
蔡少尉:「あ、そうそう。パイロット登録した時の名前は本名?」
よしひろう:「はい、本名です。」
蔡少尉:「ふーん…菅原よしひろう君。ふむふむ。名前からして日本人みたいだけど合ってる?」
よしひろう:「はい。日本人です。蔡さんは?」
蔡少尉:「私は蔡美玲。台湾国出身よ。」
よしひろう:「中国の人かと思ってました。」
蔡少尉:「近いようでかなり遠い答えね。大外れってとこかしら(笑)」
腕を組んで椅子のひじ掛けに腰を落とす蔡少尉。
蔡少尉:「もしかして、機兵を見るのは初めて?」
よしひろう:「あ、はい。初めてです。」
蔡少尉:「そっか…本当に遠くから来たのね…君は。」
蔡少尉:「分かったわ。あらためてお願いするわ。私の部下として働いてくれないかしら。」
僕はじっと蔡少尉を見た。
決して悪そうな女性ではない…かな?
女性を見る目が無いからなあ…俺。
今回も現世の巫女に言われて来てみたら、厄介事に巻き込まれた感じだし。
蔡少尉:「ん?どうかした?」
よしひろう:「いやいや、どうもしてませんよ!もちろん契約します。働きます!」
蔡少尉:「ん。現状を把握した上での的確な判断ね。好きよ、そういう人。」
バン!!
と、扉を激しく開けて基地司令が部屋に入って来た。
蔡少尉:「何事です?司令。」
基地司令:「せ…せ……(ハァハァ)」
息を整えながら基地司令が言い直した。
基地司令:「戦争が…始まった!!」
ギョッとした様相の蔡少尉。
蔡少尉:「敵は?どこの国ですか?」
基地司令:「ソビエト社会主義共和国連邦。」
蔡少尉:「で、では今日会敵した相手は…」
基地司令:「ソ連邦の特殊部隊だ。間違いない。アホーチニチヤ・サバーカだ!」
基地司令:「TVのどのチャンネルもこの話題で持ちきりだ!」
蔡少尉:「……」
基地司令:「グアム、台湾、沖縄が奇襲攻撃を受けた。」
蔡少尉:「台湾が!?」
基地司令:「グアムは壊滅。沖縄も。台湾は反撃して現在反転攻勢中との事だ。」
基地司令:「第七空母打撃軍も相当やられたらしい。」
蔡少尉:「航空機動艦隊は?」
基地司令:「無事だ。しかし、地上での戦闘から徐々に宇宙へと戦域が広がりつつある!」
基地司令:「コロニーに停泊していた軽巡洋艦マディソンとミルウォーキーとの連絡が途絶えていてな。」
基地司令:「たぶん駄目だろう。無いものと考えねばな…」
蔡少尉:「では我々を護衛する艦は一隻も無いと?!」
基地司令:「そうだ。救援要請は出してはいるが、この混乱のさなかだ。いつ到着するか分からん!」
よしひろう:「えーっと…」
蔡少尉:「あ…司令?この子の前でそんな重要な事を話して良かったのですか?」
基地司令:「あー……」
頭を抱える基地司令。
この日、世界戦争が始まった。




