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続・夢の中だけ勇者さま?  作者: 菅原よしひろう
夢から夢へ
32/34

僕は夢を見た(88) 夢と現実の狭間で

僕は夢を見た。


…というか夢から目覚めた。

見慣れぬ天井。

横を見ると、見たことも無い機械が置いてあり、ピー…ピー…と小さな音を鳴らしている。

頭を持ち上げて体を見るとそこには白いシーツが被せてあり、両サイドに転落防止器具の付いたベッド。

僕は夢を思い出した。

「ああ、そうか、僕は死霊に取り憑かれて死ぬ寸前だったんだっけ…」

深いため息。

僕はいつもこんなんだよな。

注意力散漫。空気を読めないヤツ。同じミスを何度も繰り返す。

情けなくて、情けなくて、涙が溢れて来る。

こんな僕がなんで「選ばれた」んだろう。

正直言って荷が重すぎる。

再び深いため息をつく。

僕が倒れてから何日くらい経っているのだろう?

脳裏を過ったのが「治療費」の事。

給料の半分を家計の助けになるようにと親に渡していたため貯金が出来ずにいた。

払えるだろうか?

次に心配になったのが仕事の事。

治療とはいえ、数日も休職してしまったので首にならないだろうか?

夢の世界の僕と、現実の僕。

ギャップがありすぎて自虐的な笑いが込み上げて来る。

「こんな俺が勇者だって?そんな訳あるか!」

個人部屋に嗚咽する音だけが響く。


しばらくすると、扉が開かれた。

見るとナースが驚いた表情で僕を見ていた。

僕は慌てて涙と鼻水を袖で拭う。

しばし見つめ合う二人。


ナース:「ちょっと!…え?」


僕も首を傾げた。


よしひろう:「…え?」


ナースは扉を閉め、急ぎ足でどこかに向かった。

待つこと数分。

次に扉が開いた時には医師であろう男が現れた。


医師:「菅原さん、体調はいかがですか?痛いとか、苦しいとかありませんか?」


ベッドに横になったまま自分の体の現状確認をする。

指は動くし足も大丈夫。深呼吸しても大丈夫だし、頭痛も無い。


よしひろう:「えっと…どこも悪くないみたいです。」


医師は「ちょっとごめんね」といいつつ僕の胸に聴診器を当てた。


医師:「やっぱりどこも異常はないみたい。」


横でうんうんと心配そうに頷くナース


ナース:「そうですか。ですよね。」

医師:「菅原さん?」

よしひろう:「はい?」

医師:「家で倒れたのを覚えてる?」

よしひろう「……いえ、まったく覚えてないです。」


医師は「うーむ」と考え込むような仕草をし、何があったのかを僕に話した。


医師:「ご家族の話だとね、君、玄関先で倒れていたんだよ。」

医師:「救急車で運ばれて来た時には顔が真っ青でね、CTとか色々調べたんだけど、原因が分からずじまいでね。」

医師:「いわゆる昏睡状態っていうんだけど。」

よしひろう:「…はい。(ははあ、現世ではこういう事になっていたのか。)」

医師:「いやいや、意識が戻って本当に良かった。」


僕を見る先生の目がとても優しくて、本当に心配してくれていたんだという事が伝わってくる。


医師:「ご家族に連絡するからね。」

医師:「もう一回ちょっと検診させてもらって、異常が無ければ退院できるから。」

よしひろう:「はい。ありがとうございます。」


医師とナースが部屋から出て行った。


よしひろう:「家族に連絡か…」


ほどなくして僕に繋がれていた機械や点滴や、尿道に差し込まれていた管が外された。

久しぶり起き上がったせいか、足がふらつく。


ナース:「危ないからそこに座って!」


強い口調で注意された。

大人しくベッドの縁に座る僕。

すぐに車いすが用意されて、僕はそれに座り医師の診察を受ける。

先生は僕の目を見たり、舌を見たり、聴診器を当てて聞いたりと、一通りの診察を終えるとニッコリと笑った。


医師:「原因は分からないけど、僕の見立てでは問題ナッシング。健康そのものだよ。」

医師:「もし、また何かあったらここに電話してくれるかな?」


と電話番号の書いたメモを渡してくれた。


医師:「これ、僕の携帯電話の番号だから。気兼ねしなくていいからね。」

よしひろう:「はい。ありがとうございます。」


正直、僕は嬉しかった。こんなに心配されたのって何時ぶりだろうか。


ナース;「下でご家族が待っていますので、そこまでお連れしますね。」


僕は先生にお礼を言い、診察室を後にした。

病院一階の待合室に来ていたのは継母だった。

僕を見るやため息をつく。

僕はそれを見て見ぬふりをした。

全ての感情のスイッチをオフにする。

会計を終えると僕の所まで来て、「帰るよ」と一言。

僕も無言で頷く。

車椅子から立ち上がり、ふらつきながら継母の後を歩く。


ナース:「菅原さん、車椅子使わないんですか?」


と継母に聞こえるように、たぶんワザと大きめに声をかけてくれたナース。

継母は「チッ」と舌打ちして


継母:「私が支えますから大丈夫です。」


と上っ面だけの心のない笑顔を見せる。

そして、全く力を込めずに支えるふりをした。

そう。僕の継母はそういう人。

病院の玄関を出ると、サッと手を離し、ゴミをみるような目で言った。


継母:「大丈夫なん?」

よしひろう:「うん。」


僕は黙って頷く。


継母:「車、あっちじゃけん。」


と顎で方向を示す。

車に乗った後は無言。

気遣いの言葉は無い。

運転中もしきりにため息をつく。

僕の何が気に食わないのだろう。

僕は家計を支えているという自負がある。

それなのに何が気に食わない?

そんな事を思いながら僕にはそれを無視する事しかできない。

家に到着し、玄関で靴を脱ぐのに手間取っていると、ダイニング部屋の方から車のカギを放り投げた音がした。


よしひろう;「(言いたい事があるならハッキリ言えよ。このクズが!!)」


怒りが込み上げて来るが、あらためて感情のスイッチをオフにした。

黙って二階の自分の部屋へと入り、ベッドに横たわる。

少しだけホッとした。

部屋にいると全ての嫌な事から解放されたような気がする。

そう、ここは僕だけの王国。

僕だけしかいない心の王国。

その後、少し眠ってしまっていたようだ。

夕飯時。

「ご飯よー」と継母が僕の妹、弟を呼ぶ声がした。

そこに僕の名は無い。

そこには僕の夕飯は無い。

僕は部屋に買い置きしていたスナック菓子を食べる。

常温のぬるい缶コーヒーを飲む。

いつからだろう。こんな生活を始めたのは。

明日からは念のため仕事を休もう。

感情のスイッチをオフにしたはずなのに涙がとめどなく出て来る。


よしひろう:「あれ?おかしいな…」


また自虐的な笑顔になる僕。

そして眠りについた。


フッと目を開けるとエアリスの街の入り口に立っていた。

懐かしい…。

たった数日しか離れていなかったのに、随分と離れていたような気がする。

エアリスの平原の方を見ると、陣屋の撤収作業が終わろうとしていた。

ジアやエナ、エルマの姿はそこには無く、エアリスの街の男衆が働いているようだ。

突然、背後から声がした。

ビクッとする僕。


レギオナ:「主殿、お待ちしておりました。」


僕を前に片膝を着き礼をするレギオナ。


よしひろう:「ただいま、レギオナ。あー…レナの方が良かったんだっけ?」

レギオナ:「どちらでも構いませんわ。」


と笑顔を見せるレギオナ。

僕はある事に気付いて腰を弄る。


よしひろう:「あー…よかった!有った、有った!」


僕が探していたのは神様からいただいた宝剣「風」。

あらためて自分の姿を確認すると、いつものレンジャー風の黒いフードがカラス口の冒険者服。

うんうん、やっぱりコレだよな。僕に似合うのは。


レギオナが何かを差し出してきた。

見るとそれは外套だった。


よしひろう:「あ?あー……ありがとう。(あれ?なんでレギオナがこれを?)」


レギオナ:「主殿。」

よしひろう:「はい!なんでしょう!」

レギオナ:「主殿がお助けになったダークエルフの女ですが。」


僕はその事を完全に忘れてしまっていた。


よしひろう;「はい…」

レギオナ:「王都の屋敷にて匿っております。」


僕はレギオナの肩に手を置き


よしひろう:「さすが我が最高の(しもべ)!ほんと頼りになるよ~」

レギオナ:「フッ、当然ですわ。」

よしひろう:「で、あの娘は今どうしてるの?」

レギオナ:「屋敷からは出ないよう警告しておきました。」

レギオナ:「食事の方はエルマ様に頼んでおきましたし、身の安全の方はフリージア様に保証いただくよう重ねて願い奉っておきました。」

よしひろう:「ふむふむ。で、ジア様は何と言ってた?」

レギオナ:「安全は保証する。心配するなと。」


僕はレギオナをギューっと抱きしめて感謝の言葉をさらに重ねた。


よしひろう:「神は天にいまし、世は全て事も無し!ありがとう!レギオナ」

レギオナ:「ちょ、主殿!」


赤面するレギオナ。

街の入り口のいつも腰掛ける大きな石に二人して座り、これまでの事を振り返って思い出していた。


よしひろう:「なあ、レギオナ。あの戦、どうだった?」

レギオナ:「どうだった?とはどのような意味ででしょうか?」

よしひろう:「うーん。なんて言えばいいんだろうか。僕の代わりとして戦場に立ったときはどんな気がした?とか?」


レギオナは聞くまでもないといった口調で


レギオナ:「主殿の名代とあらば、これ以上ないくらいの誉れです。」

よしひろう:「辛くなかった?」


レギオナは少し考え、言葉を選んで言った。


レギオナ:「寂しかった。」

よしひろう:「ん?」

レギオナ:「主殿がいなくて寂しかった。ただただ寂しかった。」


そう言いながら頭を僕の肩に寄せ当てるレギオナ。


よしひろう:「そうか…、ごめん。」

レギオナ:「我が主なのですから、誤りますな。」

よしひろう:「うん。」


空を見上げた。

青い空に冬の高い雲。

吹く風が冷たくも心地よい。

レギオナの体温が服を通して伝わって来る。

レギオナも同じように感じたようだ。


レギオナ:「あたたかい…」

よしひろう:「ねぇ、レナ?」

レギオナ:「?」

よしひろう:「少しだけ、このままでいいかな?」

レギオナ:「仰せのままに。」

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