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続・夢の中だけ勇者さま?  作者: 菅原よしひろう
夢から夢へ
31/34

僕は夢を見た(87) 決戦の時

僕は夢を見た。


僕は怨霊の最下層から救い出した女性を眺めていた。

黒く長い髪の毛。

布団に全裸で横たわっている。


よしひろう:「綺麗…」


ガラッと障子が開き、最果ての巫女達が部屋へ入ってきた。


よしひろう:「お帰りなさい。」

最果ての巫女:「ただいま。」


巫女の後ろにはお毬が静かに立っていた。


お毬:「姫様、私は用事を済ませてきますね。」


巫女は振り返り「頼む」と一言言葉をかける。

一礼をして屋敷の入り口の方へと向かうお毬。


巫女はよしひろうの方へ向き、じーっとその顔を見る。


最果ての巫女:「このスケベ。」


思いも寄らぬ言葉に僕は動揺した。


よしひろう:「な、な、なんで!?」

最果ての巫女:「それはな…」


といいつつ布団に横たわる女性を指さした。


最果ての巫女:「布団に寝かせるのは良し。」

よしひろう:「はい。」

最果ての巫女:「だが、なんで掛布団を掛けてやらぬのじゃ?」

よしひろう:「あ!!」


僕は掛布団の上から女性を寝かせていたのだった。

巫女は別の部屋から掛布団を一枚持ってきて、全裸の女性に掛ける。


最果ての巫女:「お主も年頃の男の子じゃ。見たいのは分かる。」

最果ての巫女:「じゃが、それをこの女子は望まぬじゃろうからな。」


黙って頷く僕。


最果ての巫女:「ワシのを見せてやろうか?」


突然の提案に首を横に振る僕。

いや、見たく無かった訳ではない。

出来れば見たかった。

だけど、寸での所で僕の理性が邪魔をした。


よひひろう:「はぁ…(正直に首を縦に振りたかった…)」


そんな僕の様子から心の中の欲求に気付いていたのだろう。

最果ての巫女が僕の方へ体を寄せて来る。


最果ての巫女:「せっかく、見せてやろうと言ったのに。」


猫のように上目使いで僕を見つめる巫女。

そのあまりの可愛さにドキッとする僕。


最果ての巫女:「こんなチャンスは二度とないぞ?(微笑)」


僕は顔がみるみる赤くなっていくのが自分でも分かった。


最果ての巫女:「あはははは。」

最果ての巫女:「お主は正直じゃのう。」


僕は何も言わずにただただ聞いていた。


最果ての巫女:「平凡で取柄も無く、カリスマも無いのに何故か人を魅了してやまない。」

最果ての巫女:「己の正義を他人に押し付ける訳でもなく、他人の正義は素直に受け止める。」

最果ての巫女:「だからといって、それに染まる訳でもなく、自身の考え、軸になるものを持っている。」

よひひろう:「…」

最果ての巫女:「これがワシがお主から感じた全てじゃ。」

よしひろう:「褒めてくれてるんですか?(苦笑)」


最果ての巫女は頭を僕の体に押し付けながら、黙って頷く。


最果ての巫女:「現世(うつしよ)のヤツがお主を軸とした理由が分かったような気がする。」

最果ての巫女:「ワシの感はよく当たるからな(笑)」


僕も穏やかな気持ちになって来た。

巫女の言葉に僕も頷く。


最果ての巫女:「はぁ~。心地よいのお、お主の傍に居るのは。

最果ての巫女:「まるで陽だまりの中に居るようじゃ。」


最果ての巫女は僕に寄りかかったまま目を閉じた。

巫女は、自身に与えられた刻を、この瞬間をとても大切なものに感じていた。


最果ての巫女:「お主とこうして出会えたのも、刻のいたずらではなく、運命の必然だったのだろうよ。」

よしひろう:「はい。」

最果ての巫女:「ワシはそれが嬉しゅうてのお…」

最果ての巫女:「ここは生を終えし者が辿り着く場所。」

最果ての巫女:「ワシはここを守りし巫女…」

最果ての巫女:「「最果ての巫女」と偽ってすまんかった。」

最果ての巫女:「ワシは本当は「常世(とこよ)の巫女」と呼ばれておる。」

よしひろう:「常世の巫女?」

常世の巫女:「そう、常世の巫女。」


巫女を見ると、うっとりとした表情をしていた。


よしひろう:「(そんなにも心地が良いのだろうか?)」

常世の巫女:「ああ、最高に心地よい。」

よしひろう:「え?心が読めるのですか!?」

常世の巫女:「こうして繋がっておればの。多少はの。」

よしひろう:「僕は…死ぬところだったのですか?」

常世の巫女:「うむ。あの怨霊にな。憑り殺されるところじゃった。」

よしひろう:「だから僕はここへ来た?」


常世の巫女は黙って頷く。


よしひろう:「ありがとうございました。救ってくれて。」

常世ての巫女:「現世(うつしよ)のヤツが選んだ者。放っておくわけにもいくまいが(笑)」


僕は「ありがとう」と呟きながら頬を常世の巫女の頭に寄せてスリスリした。

常世の巫女:「ほんと可愛いヤツよ、お主は。それに温かい。」

常世の巫女:「ここを出たら二度と戻って来るなよ?」

よしひろう:「ダメなのですか?」

常世の巫女:「ここは死者の国ぞ?」

よしひろう:「川を渡らなければ大丈夫とか?」

常世の巫女:「この地に来るのは命を終えし者たちばかり。」

常世の巫女:「生者を見るとやっかみも生まれるというもの。」


常世の巫女は迷っていた。

よしひろうの命が終わるまで会わぬ方が良いのかどうか。

常世の巫女はよしひろうに聞こえぬ声で呟いた。


常世の巫女:「(寂しいな…)」

よしひろう:「ん?」


巫女は顔を横に振り「何でもない」と意思表示する。

巫女の柔らかな髪の毛が僕の頬に当たり、それが心地よい。

遠くから足音が聞こえる。

摺り足でこちらに向かってきた。

直感で「お毬」だとよしひろうも常世の巫女も理解した。

ゆっくりと、僕から離れる常世の巫女。

「もう少し二人きりでいたかった」と思ってくれていたのだろうか。

僕はその一点が気になって仕方がなかった。

巫女は少し離れた場所に座り直した。


お毬:「只今戻りました。」

常世の巫女:「うむ。入れ。」


障子が音もなく開き、中腰のお毬の姿が。

その傍らには「入道」が失神した状態で横たわっている。

かじられた腕は元に戻っており、肩口にはお札が一枚ヒラヒラしていた。


常世の巫女:「すまんな。手間をかけて。」

お毬:「姫さま、何を仰いますか。」


深く頭を下げるお毬。


常世の巫女:「「入道」もこの女子の横に寝かせてやってくれ。」

お毬:「はい。」


そういうと、お毬は「入道」を軽々と持ち上げ、謎の女子の横に寝かせる。

常世の巫女がハッと何かに気付いた素振りを見せ、よしひろうに声をかけた。


常世の巫女:「お主、自分の世界が危ないとか言うてなかったか?」

よしひろう:「あ!!」


僕もすっかり忘れてしまっていた。


よしひろう:「そうです!それです!!」


僕が立ち上がろうとするのを巫女が静止した。


常世の巫女:「まだじゃ。お主はまだ動いてはならぬ!!」

よしひろう:「なぜ!?」

常世の巫女:「怨霊は退けた。」

よしひろう:「はい。」

常世の巫女:「じゃが、お主の魂の力がまだ戻ってはおらぬ。」

よしひろう:「!?」

常世の巫女:「消えかかった蝋燭のようにか細い。」

よしひろう:「う…」

常世の巫女:「まだ動いてはならぬ。」


常世の巫女は少し考え、提案をした。


常世の巫女:「我が配下の者に、お主の世界の様子を見に行かせよう。」

常世の巫女:「場合によっては手助けもする。どうじゃ?」

よしひろう:「本当ですか!?ありがとう!!」


あまりの嬉しさに巫女を抱きしめてしまう僕。


お毬:「無礼だぞ!」

常世の巫女:「まあ良いではないか。」


巫女が僕の肩を掴みゆっくりと引き離す。

そして、額を合わせて来た。

目を開けたままだった僕は、顔の余りの近さにドキドキが止まらない。

顔が火照ってくる。


常世の巫女:「こら、盛るでない。」

よしひろう:「すいません!つい!」

常世の巫女:「深呼吸して心を落ち着かせよ。」

よしひろう:「はい。(スーハー、スーハー。)」

常世の巫女:「今からお主の世界を探し出す。お主はお主の世界の事だけを考えよ。」

よしひろう:「はい…」


僕は思い出した。エアリスの事、エリーの事、エルマの事、レギオナの事、戦いの事。


巫女の脳内で世界が次々と現れ、ニューロンが繋がるように数多の光がそれらの世界をサーチしていく。


常世の巫女:「……どこじゃ?……どこじゃ?」


よしひろうの世界を見つけるのはかなりの難題であった。

それだけ多くの世界がこの世には存在するという事だ。

日がそろそろ暮れようかという時に姫が一言呟いた。


常世の巫女:「見つけた…」


お毬が行灯に火を点ける。

僕の額から頭を離すと、墨を擦り、筆を手に取る巫女。

次に半紙を取り出し、理解不能な絵を描き始めた。

それを僕は興味深々で眺めていた。

突然「ギャー」っという叫び声とともに横になっていた「入道」が体を起こした。

お毬が「五月蠅い!」と入道の頭をハリセンでぶん殴る。

ハリセンがモロに目元に当たり痛みに悶える入道。


入道:「お毬の姉さん、勘弁してくださいよ!」

入道:「俺、頑張ったでしょ?(涙)」

お毬:「だから何?」

入道:「うぅぅ…」

常世の巫女:「うむ。入道は頑張ってくれた!褒美はわらび餅で良いか?」


入道は正座し、深々と頭を下げる。


入道:「ははっ!ありがたき幸せ。」

よしひろう:「(ご褒美がわらび餅!?マジ!?それでいいの!!?)」


日が完全に暮れた頃、巫女の書き物が終わった。

また例の如く書いた半紙を折っていき、ツバメの折り紙を完成させる。

お毬が先を読んで障子を少し開けると、その隙間目掛けて巫女がツバメを飛ばす。

手から離れた瞬間に折り紙がツバメそのものとなりピーィと鳴きながら飛んで行く。


常世の巫女:「頼んだぞ…」


巫女が一回胸の辺りでパン!と手を叩く。


常世の巫女:「皆も腹が減ったであろう?夕餉(ゆうげ)にいたそう!」

お毬:「はい。すぐに準備させます。」


夕餉(ゆうげ)の一言に反応して、今まで寝ていた謎の女がガバッと上半身を起こした。


急な反応に体を反らしておもいっきりビックリする三人。


謎の女:「夕餉(ゆうげ)!!」



少し時間を巻き戻して、現世の朝。



天:「さてさて、どうなることかと思ったが…」

天:「さすが姫様、怨霊との(えにし)を完全に断ち切られたようじゃ。」

目:「確かに。もう赤い縁が完全に消えましたな。」

鼻:「獣の臭いも、腐敗の臭いも無くなった。」

口:「あの(よしひろう)はいかがなりますか?」

天:「完全に呪から解き放たれたからな。」

耳:「後は回復を待つのみですね。」

天:「うむ。」

天:「これであの娘(静)も安心するであろう。」


五人揃って腕組みをし、うんうんと頷いた。


天:「我らの用は済んだ。後は帰るだけだが、如何致そうか。」

目:「静殿と合う約束をしましたからな。」

口:「別れも言わずに帰るのは情が無さすぎるし。」

耳:「久しぶりの現世。少しだけ見物してはいかがでしょうか?」

天:「ワシもそう思っていたところじゃ。」

鼻:「朝餉(あさげ)の良い匂いがし始めましたな…」


一同:「(ゴクリ)」


天:「皆の衆、良いな!見るだけだぞ!!手は出すなよ!!」


頷く「目」以下四名。

「天」達は一番栄えていそうな駅前まで空を飛びやって来た。


天:「幸い、我らは人の目にも見えず、触れる事もない。」

目:「久しぶりの現世ですな。」

耳:「今までは里にやって来る人々の話を聞くばかりでしたものね。」

口:「念願の実物を見ることが出来るなんて、嬉しくてたまりません。」

鼻:「人々の往来が混雑してきましたな。」

天:「朝だからの。世界が動き始めたか。」


上空から下を見下ろすと天満屋の「天」の字が見えた。


天:「おぉ!?、我が称号を与えられし、なんとも雅な店じゃのう。」

天:「皆の衆、この店を自由に見て回るというのはどうじゃ?」

目:「私は依存ありませんが…」


目が振り返ると、他の者も皆一同に頷いていた。



天:「では、日没が合図じゃ。それまでは、自由行動と致す。」


「目」以下四名:「ハハッ!」


皆、各々が思い思いの方向へと散っていった。



「天」の場合…


上空から下を見下ろすと天満屋の「天」の字が見えた。


天:「おぉ、我が称号を与えられし看板!なんとも雅な店じゃのう。」

天:「まずはここから。」


地上の入り口に降り立ち、中を伺う。

シャッターがまだ開いておらず、中を伺う事はできない。


天:「ふむ。仕方がない。出直すとするか…」


駅の方を見ると、人の出入りが多く混雑してきていた。


天:「あっちに行ってみるか。」


人ごみを気にせず、まっすぐに駅へと向かう。

駅の中は人の往来で混み合っている。

「天」は誰も座っていないベンチに腰掛けて前を過ぎゆく人々の様子を観察することにした。


天:「ワシの知る日本とは随分と違うな…」

天:「服装は…まぁ、ワシの知る範疇だが…」

天:「皆、何を見ておる?なんだ?あの四角い箱は…」


立ち止まって何かを見ているサラリーマン風の男がいたので、後ろよりそっと覗き込む。

画面には写真と字が整然と表示されていた。


天:「ん?これか!これがスマートフォンとかいうやつか!!!」


皆が思い思いに時間を過ごし、夕暮れが近づいてきた。


天:「皆揃ったようだな。」


一同が片膝をつき「ハッ!」と返事をする。


口:「静殿が来るには少し早かったでっしょうか?」

天:「まぁ、待てばいいだけだが。そのうち現れるであろう。」

耳:「そうですね。それにしても、楽しゅうございました。」


うっとりとした表情を浮かべる「耳」。


鼻:「現世の食べ物がここまで豪華になっているとは。」

鼻:「匂いを嗅ぐだけでは我慢できません。」

天:「いや、食べたいのは某も同じだが…金が無いから仕方が無かろう。」


と懐から巾着を取り出し、掌に中身を出して見せる。


一朱金が1枚、一分銀が2枚、4文銭が6枚、1文銭が5枚…

皆がそれを見て深いため息をつく。


口:「そもそも、現世ではその金子は使えぬようですし…」


当時ならそれなりの価値があるのだが、今は時代が違う。

皆がさらに落胆した。

その時、ちょうど声がした。


静:「どうかなさいましたか?」

天:「おお!静殿か。こんばんは!……でよかったかな?」

静:「おはようございます、かも?」


一同がクスリと笑う。


静:「では、あらためまして。」

静:「皆さま、こんばんは。」


ペコリとお辞儀する仕草がとても愛らしい。


静:「で、どうかなさいましたか?」


「天」達、黒狗衆が「う~ん」と顔を見合わせた。

言って良いものか考えているようだった。


「天」が代表して重い口を開いた。


神妙な顔つきで話始める「天」


天:「実は昼間に各々自由行動で街を探索してみたのだが…」

天:「久しぶりの現世。珍しい物、美しい物、美味しそうな物を見るにつれて…」

天:「欲しい物がな、有ってな…買おうにも先立つものが無くてな…」


静がニッコリと笑う。


静:「私が皆様に贈らせてください。」

静:「その欲しい物とは何でしょうか?」

静:「あ、値段が高い物はちょっと控えてくださいね。」

静:「あくまで、私の財布の許す限りです。」


「おぉ!」と一同の顔が明るくなった。


静:「じゃあ、私、起きてきますので、このデパートの入り口で待っててください。」

一同:「かたじけない。」

静:「一時間後に。」

一同:「承知!」


静は夢の世界から起きるべく、輝く光の粒となって消えた。


口:「やったぁ!」

鼻:「持つべきものは友達よね!!」

天:「ワシの面目は丸潰れじゃがの。」

耳:「よいではありませんか。静殿のご厚意に授かりましょう。」

目:「姫さまから怒られないか心配ですが…」

天:「なぁに、その時はワシが腹を切る!」

一同:「絶対に嘘だ。」


などとワイワイ言いながら、人通りの少ない路地裏に現界する一同。

それぞれ、思いのままの姿で。


天:「では、待ち合わせ場所に行くか。」

一同:「御意。」


静の部屋。

綺麗に整頓され、床にはゴミ一つない。

本棚には漫画の本が綺麗に並べられていた。

ベッドで寝ていた静が「うーん」と背伸びをする。

傍らには大きなクマのぬいぐるみ。


静:「さあ!気合を入れて!!」


静は夢から覚めると服を着替え、少しばかり化粧をした。

薄いピンクの紅を塗る。


静:「こんなものかな…」


部屋を出て隣の部屋をノックする静。


静:「お姉ちゃん、今いい?」

静の姉:「ん。」


扉を開けると姉に手を合わせて懇願する静。


静:「今から駅前に連れてって。」


頭を掻きながら仕方がないなぁと言わんばかりの姉。


静の姉:「はいはい。まかせとけ。」


ちょうど一時間後、静は福山市内の宮通りに着いた。

姉にお礼を言いながら車を降りる静。


静:「お姉ちゃん、ありがとう。」

静の姉:「ん。」

静:「二時間くらいで戻るから。」

静の姉:「あいよ。車を駐車場に入れたら、私もブラブラしてくるから。」

静:「はーい。」


姉にバイバイした後、デパートの前へと向かう。

待ち合わせの天満屋に近づくにつれ、人混みが多くなる。


静:「あれ?なんで?」


デパートの入り口が何やら賑わっていた。

通り過ぎる人々が奇異の目を向ける先には「天」達一同が居た。


人々:「アレ、何?」

人々:「TVか何かかな?」

人々:「アレ、ヤバくね?(笑)」


「天」達を見て恥ずかしくて顔が赤くなる静。


「天」は七部丈のパンツにアロハシャツ。シャツのボタンははめずに全開。

「目」は虚無僧姿。

「鼻」は和服。和服と言っても喪服。

「耳」はフーテンの寅さんっぽいパッチ姿。

「口」は…


静:「フリルいっぱいのメイド服ですか…」


静は目の前が真っ暗になるというか、頭が痛いというか。

卒倒しそうになる自分を何とか自制して留まっている。


静:「皆さん!付いてきてください!」


そういうと、デパートの入り口より中に入る。

目指すは「お手洗い」。

入り口入ってすぐの所に置いてあった広告を鷲掴みにすると、お手洗いの入り口で

「天」達を指導した。


静:「皆さん、いいですか?」

一同:「?」

静:「皆さんには、それぞれ私が指定した服装に変身してもらいます!!」

天:「な!?なぜじゃ!!?」

静:「いろいろと問題があるからです!!」

目:「なんと!?」

鼻:「この衣装ではダメだったのですか?」

静:「ダメです。ダメダメです!」

静:「言っておきますが、皆さん、現代の常識からかけ離れているんですよ!!」


ショックを受け、うなだれる「天」達一同。

「静」からそれぞれが変身すべき衣装を指定され、トイレの個室へと入っていった。

待つこと数秒。

「天」達が戻ってきた。


「天」はグレーのスーツ姿。

「目」は「しまむら」風のカジュアルな服装。

「耳」は黒い革ジャンのバイカー風。

「鼻」はOL風のスーツ姿。眼鏡がなかなか様になっている感じ。

「口」は短パン、黒タイツ、モコモコのセーターで、なかなかに可愛い。

それを見て安堵する「静」。


静:「はぁ…。これでちょっとはマシになったかな…」

天:「申し訳ない。」


「天」達は顔を見合わせ苦笑いしている。

「静」が手を合わせ、笑顔で言った。


静:「では、皆さんの欲しいものを買いに行きましょうか?」


うんと頷きながら笑顔に戻る「天」達。

各々が何を選び買ったのかは今はヒミツ。

ただ一つ言える事は、皆にとって、生涯の宝と思える物を買って貰ったということ。

大切な大切な、心の宝物。

「静」との心の絆。


天:「皆を代表してお礼を申し上げる。静殿、ありがとうございます。」


「天」達が深々と頭を下げた。


静:「いえいえ。私の方こそ助けていただいてありがとうございます。」

静:「皆さんのお陰で大切な人を守る事ができました。」


少し照れながら「静」は言葉を続ける。


静:「これまでに受けた御恩は一生忘れません。ありがとうございました。」

天:「ほほう、よしひろうが大切な人か…」


顔を真っ赤にして「天」の言葉をさえぎろうとする「静」。


静:「それは内緒ですからね!!!」


天:「相分かった。だが、その思いは伝えねば届かぬぞ?」

静:「……はい。分かってはいるんです。」

天:「ならば、良い。成就する事を我らも願うこととする。」


他の一同も頷いた。


静:「ふふっ」

天:「わはは」

一同:「あははは。」


なんとも言えぬ温かい雰囲気。

「静」が「はい!」と手を挙げて進言した。


静:「折角ですから、何か食べに行きませんか?」

天:「ん?何かありますか?」

静:「はい!ラーメンという食べ物ですが、皆さんご存知でしょうか?」

目:「あ、某は聞いた事がありますな。」

鼻:「私は知らないかな。」

静:「私、美味しい処を知ってますので、皆さんもいかがですか?」


つま先立ちするほど背伸びをして挙手をする「口」。


口:「賛成です!!」


夜の8時を越え、人通りが少なくなってきた。

一同が食事を終え、店から外へと出る。


「静」がため息をつく。


天:「いかがした?」

静:「皆さんとのお別れかと思うと、寂しくなってきました。」

天:「そなたが選ばれし者であれば、いずれ再会することとなろう。必ずまた会える。」

静:「本当ですか?」


黙って頷く「天」。

そこへ常世の巫女が放ったツバメが飛んできた。

「フィーヨ!フィーヨ!と鳴きながら「天」の頭上を舞う。


天:「ん!?何事か!?」


目前に手を差し出すと、その人差し指にツバメは舞い降り、手紙てと姿を変えた。

手紙の内容を見てニヤリと笑う「天」。


天:「静殿…」

静:「はい?」


キョトンとして「天」を見つめる「静」。


天:「そなたの大切な人と会わせてしんぜよう。」

静:「え!?えぇぇぇぇ!?」


静の顔がみるみる赤くなる。


天:「いや、そこまで反応されると言いにくいんだが…」

天:「よしひろう殿の世界の様子を見に行く気は無いか?」


ハッと我に返る「静」。


静:「興味、あるあるです!」

天:「ん。ならば、今夜夜半に城で落ち合おう。良いか?」

静:「はい!」


「天」達一同と別れる「静」。


目:「姫様からのご指示ですか?」

天:「おうとも。よしひろうの世界が今どうなっているのか、見てこいと書いてあった。」

天:「何やら戦が起こっているようじゃ。」


常世の巫女の手紙には「よしひろう」の世界へのゲートが描かれていた。


耳:「静殿を連れていくのは宜しいので?」

天:「ああ、情が移ってな。姫様もお許し下さるじゃろう。なに、何か有れば責任はワシがとる。」


「耳」は頷いてそれ以上は何も問いただしをしなかった。一同、考えが一致していたのだ。


福山城で「天」達と落ち合う「静」。

黒い甲冑姿で以前より露出度が上がっていた。


口:「(これは…勝負服ですか!?)」

耳:「(心の声が聞こえておりますぞ!!)」

静:「フッ」

一同:「(一笑に伏した!?)」

天:「うーむ。では、心の準備はよろしいか?」


頷く一同。

手紙の文様に触れると大きく眩い円形の入り口が開く。

「天」たちはその中へと入って行った。

一瞬躊躇うような顔をしたが、意を決して光の中へと消える「静」。

光のトンネルを抜けると、そこは驚くほど美しい世界だった。

真っ青な透き通るような空、少し雪を被った山々。

はく息は白い。


口:「寒っ」


と震え上がる口に向かって一括。


天:「修業が足りん!!」、


「口」は「あー、そうですかー」と言わんばかりの顔で「静」に言った。


口:「修業したって寒いものは寒いんだ。ねぇ、静っち。」

静:「えぇ。え?…」


とりあえず相づちをし、会話を合わせる。


静:「(「静っち」って今言ったよね?これって愛称?マブだち!?)」

天:「それにしても、美しい。これが「よしひろう」殿の世界か。」

静:「(そう、これが「よしひろう」様の世界…)本当に美しい…」


一人悦に入る「静」。

その冷たいながらも清涼な空気を胸いっぱいに大きく息を吸い込む。


静:「(これが愛しい方の世界、愛しい方の空気。)」


目:「「天」様、何やら不穏な動きがあるようですぞ。」

天:「ん?どうした?」


と、一同が目の体に触れ、視覚を共有する。

脳内で視覚がぶっ飛ぶような早さでズームした。

数キロ先にある森林と小さな街の間にある平原で、武器を手に対峙する二つの軍勢が見えた。


天:「むむぅ。これが姫様の文にあった戦争か。」




その頃、エアリスでは…


フリージアの陣屋内。


レンジャー:「姫様、よしひろう殿が消えて七日が経ちます。」

レンジャー:「あの赤い甲冑の娘のおかげで何とか持ちこたえていますが、如何せんこのままではじり貧。」

レンジャー:「後何日持ち堪えられるか…」

フリージア:「よしひろうは当てにはしていない。ここは我らが領土。我らが守らねば誰が守る?」


そういうフリージアの顔にも疲れが見て取れた。


フリージア:「(気を許すと倒れそうだ…。頼んだ物はいつ届くのだ?)」


剣の柄に頭を当てて少しだけ眠るフリージア。

これまでの事が脳裏を過る。

敵と呼ぶ怪物共はここ二日間攻めて来ていない。

フリージアの予想では次に攻めて来る時が総攻撃となるだろう。

これまではレギオナの勇猛果敢な攻撃とエルマの防御魔法で持ち堪えてきた。

が、エルマの魔封石はつい先日、砕け散った。

魔法を使い過ぎたのだ。

エルマ自身も倒れ、今は眠っている。

他の魔術師も披露困憊似たり寄ったりだ。

騎士団一同も負傷者で溢れかえっている。正直、戦える状態ではない。

次に総攻撃があるとすると、レギオナ一人ではどうしようもないだろう。

いくら強くても多勢に無勢。数で押し切られてしまう。

洋子、彼女さえいれば勝てる。のだが、ここ二日見ていない。

よしひろうが居ないって怒ってたっけ。はぁ…(ため息)

あぁ、アレさえ来れば。そう、アレさえ有れば私だけで何とかできる…かも…Zzzzz


別のレンジャーが陣屋に入って来た。

フリージアを起こさないようにと、しーっと人差し指を口に当て、次に、外に着いて来いという仕草をした。

無言で頷き外に出るレンジャー二人。


レンジャー:「どうした?」

レンジャー:「敵軍に明日動く気配がある。」

レンジャー:「総攻撃か?」

レンジャー:「多分な。ジア様の仰っていたとおりになりそうだ。」

レンジャー:「そうか…」

レンジャー:「姫様に伝えなくていいのか?」

レンジャー:「お起きになってからでも遅くはないだろう。」

レンジャー:「そうだな。明日の戦のためにも今はお休みになっていただこう。」


朝日が上る。

フリージアとレンジャーが陣の中央に出張り、敵の様子を伺っている。

敵軍が森から続々と現れ、隊列を組む。

森の奥からオーガが3匹現れた。

オーガにひれ伏し、道を開けるゴブリンやオーク、トロール。

オーガは最前列で腕組みをしながら人間たちの様子を見るとニヤリと笑った。

オーガが指さして命令を下す。

大狼の群れが左翼から突進を始めた。


フリージア:「狼ごときが先方とはな…舐められたものだ。我々はまだ動くな!レギオナに任せておけ。」


レギオナ:「私も見くびられたものだわ…」

風:「不服カ?」

レギオナ:「だって、ただの犬ころよ?」

風:「タシカニ。安クミラレタモノダ。」

レギオナ:「蹴散らすわよ。」

風:「承知。」


抜刀するや否や目にも止まらぬ速さで最初の三頭を仕留める。

続く五頭を仕留めた瞬間、誰かに見られているような感覚を味わう。


レギオナ:「(誰?)」


視線を感じたその先に焦点を合わす。レギオナの瞳が猫の目のように細くなる。


目:「おぉぉぉ~」

天:「うぉ!?目が合った!!あ、あの娘、こっちに気付きおったぞ!!」

静:「こ、この距離で!?ってか、あの赤備えは誰!?」

口:「うわ~、マジか!裕に一里以上は有るのに…」

耳:「あらら、コッソリ偵察の予定が…」


レギオナは「天」達を視認するも、目先の敵に集中する。


レギオナ:「(あれは敵?味方?)どちらでもいいわ。」


残り全ての大狼を切り伏せる。

敵の先方はあっさりと全滅した。


「天」は常世の巫女からの手紙に返事を書き、飛ばす。


天:「姫様とタイミングを合わせて助太刀するぞ!!」


「目」が驚いた様子で「天」を見る。


目:「良いので?」

天:「それが姫様のご意思だ。」

天:「あの軍勢が相手では人側にはまず勝ち目はあるまい。」

天:「我ら、そして「静」殿で加勢する。良いな?」


頷く「静」。




その頃「よしひろう」は夕食をいただいていた。


常世の巫女:「よしひろうは魚が嫌いか?」

よしひろう:「好きですよ?(モグモグ)」

常世の巫女:「ひとつも手を付けておらんではないか。」


と箸で僕のお膳の煮魚を指す。


常世の巫女:「いらんのならワシが食うぞ?」


と、僕の膳から魚を横取りしようとする。


よしひろう:「好きなものは後から食べる主義なんです!」


と、姫の魔の手からお膳を離す僕。

謎の女は自分には関係ないといった素振りでモリモリ食べている。


常世の巫女:「ところで、其方は何故死霊に囚われていたのじゃ?」

常世の巫女:「名は何という?」


謎の女は箸を膳に置き、常世の巫女へ平伏した。


謎の女:「私は早苗(さなえ)と申します。」

早苗:「よしひろう様、お助けいただき心より感謝いたします。」


僕の方に向かって丁寧にお礼を言う。


常世の巫女:「其方…もしかすると…」

早苗:「私は生前、雨乞いの巫女をしておりまして…当時は選ばれし者でもありました。」

常世の巫女:「どおりで。やはりな。死霊が其方に目を付けるはずじゃ。」


早苗は悲しそうな顔で常世の巫女に謝罪した。


早苗:「常世の巫女様、選ばれし者としての使命、まっとう出来ずに申し訳ありませんでした。」


一筋の涙が頬を伝う。


常世の巫女:「謝ることはない。精一杯がんばったのであろう?」

早苗:「はい。」


慈愛の籠った優しく温かな声で早苗に語り掛ける。


常世の巫女:「現世の巫女も其方を責めたりはせぬぞ。大丈夫。頑張った。よう頑張った。」

早苗:「はい。…はい!」


早苗は肩を震わせながら泣き続けた。


常世の巫女:「よしひろうよ。」

よしひろう:「はい。」

常世の巫女:「早苗に何があったのかは、ワシと早苗だけの秘密とする。」

よしひろう:「…はい。」

常世の巫女:「よしひろう、悪いな。早苗よ、この話は二人だけになった時に。な?」

早苗:「はい…」


常世の巫女は「よしひろう」に忠告する。


常世の巫女:「あの死霊は消滅しておらぬ。」

よしひろう:「え!?」

常世の巫女:「いつか必ずお主の前に立ちはだかるだろう。」


僕は思わず唾を呑んだ。


常世の巫女:「負けるなよ?」

よしひろう:「はい…」


沈黙の時が暫く続いた。

早苗の鼻をすする音だけが部屋を満たす。


常世の巫女:「…」

よしひろう:「…」

早苗:「スン、スン」


部屋の外から「ピヨー」とツバメの鳴き声がした。


常世の巫女:「!!」


常世の巫女は突然立ち上がり障子を開ける。

巫女の差し出した指に留まるツバメ。

ツバメは折り紙へと変わり、その紙を解き文に目をやる巫女。


常世の巫女:「よしひろう!」

よしひろう:「はい!」

常世の巫女:「行くぞ!其方の世界へ!!」


僕はあまりに突然の事だったので声が上ずってしまった。


よしひろう:「は?はい!?」


僕の目をじっと見つめながら巫女は言った。


常世の巫女:「其方が帰るための舞台は整った。」

常世の巫女:「さあ、帰るぞ、選ばれし者よ。」


僕は巫女へ頷いた。


オーガの視線がフリージアに集中する。


オーガ:「あの細腕の女がこの軍勢の長か(ニタリ)」


その言葉に合わせて化け物共の軍勢が一斉に下卑たる声であざ笑う。


オーガ:「女共は全て生かして捕らえよ!男は全て殺せ!!」


化け物共の軍勢:「ウォーー!!」


雄叫びが地鳴りのように鳴り響く。


不明:「…ま。…さま!」


フリージアは後ろからの声に気付かない。


不明:「姫様!!」


ビクッとして振り返るフリージア。

その視線の先に、荷車に積まれた箱が見えた。


フリージア:「間に合ったか!!」


慌てて箱に詰め寄り、封印を剥ぎ箱を開けようとするフリージア。

それを見たレンジャー達も加勢する。


レンジャー:「姫、この箱の中身は何でしょうか?」

フリージア:「我が国の宝!封印されし剣だ!」

レンジャー:「そのような物がありましたでしょうか?」

フリージア:「…」


箱が開いた。

中には藁が敷き詰められ、真ん中に黒い剣が収められている。


レンジャー:「これは……まさか!?」


動揺を見せるレンジャー達。


レンジャー:「なりませぬ!姫様!それは、それだけはお止め下さい!!」


必死に止めようとするレンジャーを振りほどき、剣に手をかけるフリージア。


フリージア:「今使わねばいつ使うというのか!!」

レンジャー:「しかし!その後は如何なさいますか!!」

フリージア:「エナがいる!エリーがいる!!十分ではないか!!!」

レンジャー:「妹君がどれだけ悲しまれるか!国民がどれだけ悲しまれるか!お分かり下さい!!」


フリージアはレンジャーの言葉を無視し、戦場の真ん中で剣を地面に立たせ、柄を手で覆うようにして身構えた。

騎士達はフリージアの行動の意味が分からず傍観していた。


騎士A:「おい!姫様は何をしている?」

騎士B:「分からん!分からんがただ事ではないぞ!」


レギオナも場の空気が一変した事に気付き、フリージアを見る。


レギオナ:「ん?あの禍々しい剣は何?」

風:「人ガ使ウニハ過ギタル物ダ。」

レギオナ:「(止めるべき?それとも…)」


フリージアは剣に意識を集中した。

剣から黒く腐ったような気が自身に沁み込んで来るのを感じる。


フリージア:「これが貴様か…深淵より(きた)りて漆黒にて染め()きし暗黒の魔剣。腐敗の女王(Queen of Decay)!」


自身の魂を吸われ、代わりに腐った汚物を流し込まれる。

自分が自分で無くなっていく事への恐怖と、そのような道を選んだ自身への嫌悪感とで心が満たされていく。


フリージア:「私の魂と引き換えに、眼前の敵を!!」


レンジャー:「姫様!お止めください!!私が!私にお申し付けください!!」


レンジャーの声は既にフリージアには届かない。

フリージアの持つ剣より暗黒の炎が吹き上がった。

それを見たオーガの足が一歩後ずさりする。


オーガ:「おぉぉ…なんと(おぞ)ましい。ワ、ワレが恐怖するなど…あり得ぬ!!」


化け物の軍勢が皆、及び腰になっている。

戦場全体が恐怖で覆われた。


騎士:「おい!レンジャー!!」

レンジャー:「なんだ?」

騎士:「あ、あれは…我々も巻き込まれるのではないか?」

レンジャー:「分からぬ!だが姫様を置いては行けぬ!!」


フリージアは微かに残った自身の心に向き合っていた。


フリージア:「(うん。これで良かったのだ。私にしか出来ない事だし。)」

フリージア:「(うん。後はエナとエリーに任せよう)」

フリージア:「(でも…最後にもう一度、会いたかったな。ねえヒロ?)」


フリージアの閉じた瞳から涙が一滴(しずく)


フリージア:「さようなら、私の愛する人たち。さようなら、私を愛してくれた人たち。」

フリージア:「さようなら、私が愛した人、よしひろう…さようなら…」


地に刺した剣を抜き、身構えるフリージア。


フリージア:「喰らえ!我が最大にして最後の一太刀を!!」


悪魔の形相となった目を見開き、フリージアは叫んだ。


謎の声:「待てぇぇ!!!」


大地を揺るがし、魂を揺さぶる声が戦場に響き渡る。

その瞬間、フリージアの動きが止まった。

フリージアの目の前に光の空間が現れていたのだ。

その光の中から身に覚えのある者が現れた。


フリージア:「ヒロ…?」


いつもの姿の「よしひろう」。

黒いレンジャーの服とよく似た戦闘服。

口ばしのようなヘルメット。

金の刺繍が施された美しい衣装。

両脇にはクナイが5本ずつ。

それを覆い隠す黒い外套。


フリージアの瞳から涙が溢れ出てくる。


フリージア:「ヒロ…、ヒロ…、私、大変な事をしちゃった。ゴメンね。」


構えた剣を振り下ろすフリージア。

既に剣との契約は成されていた。


謎の女:「はい、はい。」


と振り下ろされる剣を途中で止め、清浄の錫杖でフリージアを清める常世の巫女。

暗黒の炎は一瞬で消し飛んだ。


常世の巫女:「遅くなってゴメンだね。君もほんと大胆な娘だ。」

常世の巫女:「だが、命をかけるには役不足だ。今じゃあない。」


倒れ込むフリージアの体を受け止める巫女。

そして、魔剣に封印を施す。


常世の巫女:「ちょっと悪ふざけが過ぎたんじゃないかな?」

常世の巫女:「君には枷を付けさせてもらうよ。二度と奪わせない。」


戦場の中央最前面で仁王立ちする「よしひろう」。


常世の巫女:「おっと、よしひろう?君は何もするな。いいね?何もするな。」

よしひろう:「はい!…けど、敵の目の前ですよ?」

常世の巫女:「大丈夫。助っ人を呼んでるからね。」

常世の巫女:「ぶっちゃけ、今の君には戦うだけの力が無いんだよ。」

常世の巫女:「だから勉強がてら見物しててくれ。」


よしひろうの目の前を悠然と歩き、よしひろうを背に敵の方を向く黒き鎧の女が一人。

ちらりと「よしひろう」に目配せをしてウインクして見せた。

兜の下から覗く赤い紅を差した口がニヤリとほくそ笑む。


静:「我が名は源静(みなもとのしずか)!!、ここに参上!」

静:「よしひろう様、万事私にお任せを。ここは独りで十分によって。」、


騎士達の前にも見たこともない黒装束姿の男が現れた。


天:「我が名は「天」!黒狗衆が長なり!由あって助太刀いたーす!!」


後方から僕を呼ぶ声が聞こえた。


洋子:「こらー!!ヒローー!!今までどこ行ってたんだ!」

洋子:「勝手に盛り上がってるんじゃないよ!!まったく!」

洋子:「私もいるんだから大船に乗った気でいろー!!」


休憩用のテントで寝ていた疲労困憊なエルマも「ヒロ」と叫ぶ声で目が覚めた。


女:「ちょっと!アンタ!寝てなきゃダメじゃないの!!」


と体を押さえつける救護兵の手を振りほどき、這いつくばって外へと出る。

そして、「よしひろう」の後ろ姿を見るとその場に倒れ込み、か細い声で呟いた。


エルマ:「遅いじゃない…」


満面の笑みを浮かべながらエルマは意識を失う。


静:「さあ!!死にたい奴からかかって来い!!」


地面を蹴って一気に間合いを詰める。


静:「一の太刀!!」


抜刀しながらの一太刀で敵先方がほぼ壊滅した。


天:「ほほう、好きな男の子の前じゃし、気合が違うのう。」

天:「ならば、ワシの相手は…アレじゃな。」


顎髭を触りながら嬉しそうにオーガを見つめる「天」。

視線を感じたオーガが「天」の方へと視線を移した瞬間、「天」が手にした錫杖がオーガの頭頂部を叩き潰す。


オーガ:「ゴハァッ!?」

天:「よそ見をしていた貴様が悪い。成仏しとけ。」


周囲のゴブリンを巻き込みながら倒れ込むオーガ。


天:「ひとーつ!!」

天:「次の相手は誰じゃー!!!???」


総崩れとなり、森へと引き返そうとしている化け物たち。

それを見た洋子が必殺必中の一撃を浴びせる。


洋子:「舞い踊れ、舞い踊れ、一糸乱れぬ蒼き矢の、穿つ姿は星の瞬き!!」


洋子が弓を引き絞ると、青い光が矢の部分に収束した。そして、矢が放たれる。


洋子:「エイトヘックスバーニング!!」


無数の青い閃光が敵の軍勢の真上まで飛び、その後鋭角に曲がりながら敵を貫いていった。

悲鳴を上げる暇さえ与えず、矢が次々と命中し、無数の命を一瞬で断つ。

退路を断たれた化け物が散り散りに逃げようとする。

もはや誰もコントロールできない只の狩猟場。

レギオナと「静」が数を競うように、お互いの成果を見せ合うように化け物を狩っていった。

機を逃さず騎士団とレンジャー、エアリスの騎士たちがそれに加勢する。


人間側の絶対有利のまま戦局が推移し、化け物共の絶叫が戦場に響き渡る。

僕はただそれを見ていた。

すると戦場から離れ、走って僕に向かってくる人が一人…

思わず僕は腰に手を当て、クナイに手を掛けた。


常世の巫女:「まあ、待て。お主は戦うでない。ワシが相手を致そう。」


身構える巫女。

しかし、少し首を傾げ、「お主に任せる」と警戒を解いた。



僕の足元で跪き、命乞いをした。

見ると、それは人間ではなくダークエルフの女だった。


ダークエルフ:「どうか、私達の命をお救いください。あなたに忠誠を誓います。命をお預けします!」

ダークエルフ:「どうか、どうか、お願いします。」

ダークエルフ:「私共の神に誓って忠誠を誓います!」

よしひろう:「えっと…君の神が何かは知らんけどさ…裏切るって事?」

ダークエルフ:「はい…。裏切っておいて、忠誠を誓うなど、信じられないでしょうが。」

ダークエルフ:「何卒!」


人が良すぎるのも考え物だなと考えながらも、そのダークエルフの願いを受け入れた。


よしひろう:「僕の後ろに控えてたら大丈夫だから。」

ダークエルフ:「あ、ありがとうございます。」


女の涙には弱いんだよな、と考えながら僕は纏っていた外套を跪くダークエルフに掛けてやった。

フードを被れば褐色の肌も、尖がった耳も隠せる。

これで、敵だとは思われないだろう。

眺めること小一時間。

戦場の喧騒が静まり、人間側の勝利が決まったようだ。


常世の巫女:「終わったな。」

よしひろう:「はい。」


黒い鎧の女が僕の前にゆっくりと現れ、片膝を着く。


静:「よしひろう様。お久しぶりです。」

よしひろう:「は?」

静:「覚えてらっしゃらないかもしれませんが…源静です。」

よしひろう:「みなも…みー…あ!?(みなもと)さん!?」

静:「はい!源です!!覚えてくれていたんですね!!」

よしひろう:「高二の時に隣に座っていたよね!」


嬉しそうに静は頷く。


静:「はい!そうです!その源です!!」

よしひろう:「おー!ビックリだよ。もしかして、源さんも選ばれたの?」

静:「はい!選ばれました!あの宴席でご一緒してたのを覚えてないのですか?」


後頭部をポリポリ?きながら「ゴメン」と一言。


よしひろう:「懐かしなぁ。」

静:「えぇ。再会できて嬉しいです!」


「静」は立ち上がると、僕の手をギューっと握る。


そこへレギオナが割って入る。

「静」の握っていた手が離れた。


レギオナ:「主様、無事なご帰還おめでとうございます。」

レギオナ:「主殿から預かりしこの刀、お返しいたします。」


片膝を着き、刀を僕に掲げる。


よしひろう:「レギオナ、ありがとう。」


僕はレギオナの頭を撫でた。

その横で静がレギオナを睨めつけていた事には気付かないまま。

僕はハッと気づいて倒れたフリージアの元へと詰め寄る。

抱きかかえ声をかけてみた。


よしひろう:「ジア?ジア?」

フリージア:「ん…うーん…」


傍にいたレンジャーがよしひろうに語りかける。


レンジャー:「よしひろう殿。」

よしひろう:「はい。」

レンジャー:「フリージア様はここ数日眠らずに戦っていました。」


僕はフリージアの顔をじっと見つめる。


レンジャー:「今日はこのまま寝させてくれないか。」

よしひろう:「はい…。僕が来るのが遅くなってしまったのも、ジア様に無理をさせた原因ですから。」

レンジャー:「それは違います。あなたを頼りにはしていたでしょう。」

レンジャー:「しかし、最後は自分自身の力で切り抜ける。そういうお方です。」

よしひろう:「…」

レンジャー:「おっと、その話はこれくらいにして…。」

レンジャー:「フリージア様の身を呈した最後の攻撃を止めていただいた、あの方のお名前は何と仰るのでしょうか?」

よしひろう:「常世の巫女様と呼ばれています。」

レンジャー:「ありがとう。礼を言わねばなるまい。フリージア様の事をよろしくお願いする。」

よしひろう:「はい!」


レンジャーはフリージアをよしひろうに委ね、常世の巫女のところへ向かった。


よしひろう:「ジア、君は頑張りすぎだよ。勝てたとして、ジアがいないんじゃ誰が喜ぶっての?」

フリージア:「そうだな…。浅はかだったようだ。」

よしひろう:「起きてたの?」

フリージア:「今な。」

よしひろう:「もうあんな無茶しちゃダメだぞ。」

フリージア:「うん。分かった。」


にっこりとほほ笑む僕にフリージアも笑顔で答える。


フリージア:「お帰り、ヒロ。」

よしひろう:「ただいま、ジア。」


レンジャーが常世の巫女に話しかける。


レンジャー:「常世の巫女様。」

常世の巫女:「おぉ!なんじゃ?この世界きっての剛の者よ。」

レンジャー:「先ほどは我が姫君をお助けいただき心より感謝申し上げます。」


片膝を着き、深く礼をするレンジャー。


常世の巫女:「大した事ではない。礼はいただいておくがの。」


フフっと笑う常世の巫女。


常世の巫女:「汝には言うておくが、アレは其方の姫君の思っているような代物ではないぞ。」

レンジャー:「と言いますと?」

常世の巫女:「アレは姫君の命を喰らい、この世に顕現する。そして、その場にいる全ての魂を喰らう悪魔じゃ。」

レンジャー:「まさか!?では、あのまま発動していたら…」


常世の巫女が扇子を口に当てながら言った。


常世の巫女:「皆死んでおったな…」


顔が真っ青になるレンジャー。


常世の巫女:「そなたの姫君がヤツを目覚めさせた。が…」

レンジャー:「…」

常世の巫女:「ワシが封じた。というより、滅ぼしたと言った方が正しいか…」

レンジャー:「では、あの剣は…」

常世の巫女:「あはは。今はただの鉄屑の剣じゃ。」


扇子で自分を扇ぎながら笑う常世の巫女。


レンジャー:「ありがとうございます。これで二度とあの宝具は…」


レンジャーは心からホッとしていた。

もう二度とあのような無茶をフリージア姫にさせずに済むと。


静:「ところで、あなた、よしひろう様の何なんです!?」

レギオナ:「身も心も捧げた掛け替えのない(あるじ)様です。」


静の顔が赤くなる。


静:「身も…身を捧げたのですか!!」


レギオナは黙って頷く。


静:「何というハレンチな!!」

レギオナ:「?」

レギオナ:「主に従う者はすべからくそうではなくて?」

静:「で、で、で、でも!あなた、まだ十代でしょ!?」

レギオナ:「数百代。」

静:「へ???」


なにやらボタンの掛け違いのような会話が続いていた。


天:「よしひろう殿、お久しぶりですな」

よしひろう:「はい?」

天:「おっと、あの時は寝ておらしたな。お初にお目にかかる。拙者、「天」と申す。」

よしひろう:「天様、助太刀ありがとうございます。」

天:「ワシも久々に暴れたんで嬉しくて楽しくて。このような機会をいただけたので感謝しておりますぞ。あとな、様は要らぬ。」


「天」と僕は共に笑った。


天:「そうそう、このような品を拾ったんじゃが…」


見れば真っ赤な魔封石を手の上で転がしていた。


よしひろう:「魔封石!!」

天:「これが入り用か?」

よしひろう:「はい!是非下さい!」


にっこりと笑って僕の手に魔封石を「はいよ」と置いてくれた。

これは何かと役に立つので嬉しいかぎりだ。

売れば金になるしー…


天:「よしひろう。」

よしひろう:「はい。」

天:「また縁があれば会うこともあるだろう。その時を楽しみにしておるからな。」

よしひろう:「はい!!」


「天」は「静」の方へと歩いて行った。


見ると静はレギオナとの?み合わない会話に疲れていた。


天:「おーい。静殿」


突然名前を呼ばれてびくっとする「静」。


静:「はい。なんでしょうか?」

天:「お主にな、内緒でこれをやろうと思う。」


そういうと、「天」は「静」の手を取り、小さく折りたたんだ紙切れを渡した。


静:「?」


キョトンとした表情の「静」。


「天」が「静」の耳元で囁く。


天:「ヒソヒソ(これが有れば、よしひろう殿の世界へ自由に行ける。)」


「静」は飛び上がって喜んだ。


静:「ヒソヒソ(ありがとうございます!!)」


常世の巫女はその様子を見て見ぬふりをしていた。


常世の巫女:「なんと心地の良い所じゃ。美しくて、優しくて、温かい。」


「天」が常世の巫女の傍に片膝を着いて指示を待っている。

「天」の後ろには「目」や「口」たち4人も控えている。


常世の巫女:「天。」

天:「ははっ」


常世の巫女は沈みゆく夕日を見ながら言った。


常世の巫女:「ワシはこの世界に介入する。」


天:「!?」


突然の言葉に驚きを隠せぬ「天」。


天:「そ、それは約定に反するのではありませぬか!?」


その言葉を鼻で笑う巫女。


常世の巫女:「自制していただけのこと。約定などどこにもあらぬわ。」


赤く染まる頭上の雲に目をやり言葉を続ける。


常世の巫女:「ワシはな、ワシは見とうなった。あの者達のこれからを。この世界の行く末を。」

常世の巫女:「天よ、お前はどうじゃ?」


「天」はニヤリと笑う。


天:「我ら黒狗衆、どこまでもお供つかまりまする!」


つづく…


いやはや、人生いろいろって事で。

メンタル的に自分自身が何者であるかを知った今。

それを受け入れて生きていく事を由とするか。

いろいろな夢を見て、いろいろな夢を持つ。

人の生き方は千差万別。

読んでくださる皆さまへの心から感謝申し上げます。

そういえば、先日ですが、「氷菓」のえるタソとデートする夢を見ました。

目が覚めた時の幸福感といったら…もう最高です!

病んでますか?(^_^;)


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