僕は夢を見た(59) 清水洋子
真っ赤に染まるビルが立ち並ぶ現代の世界。
何もかもが夕日に照らされて不気味なほどに赤い。
そして周囲には人は誰もおらず、車も走っていない沈黙の世界。
以前も同じ光景を見た覚えがあるので、これが夢だということがすぐに理解できた。
行く宛もなく歩く僕。
交差点の真ん中に立ってみる。
ビルの谷間に沈み行く夕日が見えた。
立ち並ぶ街灯や電柱の影が長く伸びている。
その光景をじっと見つめる。
すると背後から突然声がした。
女:「調子はどうかしら?」
振り替えるとスーツを身に纏った女性が立っていた。
真っ赤な唇にはち切れんばかりの胸。
見覚えがある。
以前にも僕の夢の世界で会ったことがある女性だ。
よしひろう:「以前にもお会いしましたよね?」
よしひろう:「あなたは何者なんです?」
女:「そうか…そうだったわね…まだあなたには名乗ってなかったわね。」
女:「私は「現世の巫女」。」
よしひろう:「現世の巫女…」
現世の巫女:「今日はあなたに会わせたい人がいるの。」
よしひろう:「会わせたい人?」
現世の巫女:「付いてきてくれるかしら?」
よしひろう:「はい。」
現世の巫女が歩き始めたのでその後を付いていく。
立ち並ぶビルの一つに入っていく巫女。
自動ドアが開く。
外の赤とはうって変わって薄暗い雰囲気になった。
誰もいない受け付けを見ると少し恐ろしい気持ちになる。
巫女は階段を下り地下へと進んで行った。
そしてある扉を開く。
扉の先は長い廊下になっていた。
天井には蛍光灯が点いており、所々点滅している。
その長い長い廊下を巫女の後ろ姿を見ながら付いていく。
両サイドには扉は全く無かった。
かなりの距離を歩いただろうか、やっと突き当たりの扉に辿り着いた。
その扉を開ける巫女。
扉の外に出ると、そこはとあるビルの屋上だった。
透き通るような青い空、爽やかな風が吹いていた。
そして、そこには一人の少女が立っていた。
年の頃は16か17歳くらいだろうか。
セーラー服を着ていた。
屋上の風にスカーフとスカートがはためいていた。
僕を一瞥すると少女は巫女に跪いて挨拶をした。
少女:「巫女様、お待ちしておりました。」
現世の巫女:「洋子ちゃん、わざわざごめんなさいね。」
現世の巫女:「この子が前に話した子よ。」
と僕の方に目をやる。
現世の巫女:「色々、教えてあげてもらえるかしら?」
少女:「わかりました。」
少女が僕の前に立った。
少女:「私は「清水洋子」。」
洋子:「あなたは?」
よしひろう:「「菅原よしひろう」。」
洋子:「ふうん。」
と言いながら洋子は僕を上から下へと再度一瞥した。
洋子:「あなたはこの世界でどんな力を使えるの?」
よしひろう:「空を飛ぶことと、壁抜けをすること。」
指折り数えながら答える僕。
洋子:「他には?」
よしひろう:「それだけ。」
洋子の顔がアホを見るような顔に変わった。
そして現世の巫女の方へと向き直った。
洋子:「巫女様!本当にこんなのが選ばれた者なんですか?」
現世の巫女:「ええ。そうよ。」
現世の巫女:「神意は計り知れないわ。」
絶句する洋子。
洋子:「よしひろうさん、あなた、選ばれたという自覚はある?」
よしひろう:「あまり無いかな?」
洋子:「あなたはあなたの夢の中の世界では神にも等しい存在なのよ?」
洋子:「まずはそこを自覚してちょうだい。」
よしひろう:「はい…」
洋子:「あなたが望む力がそこには全て用意されているの。」
洋子:「まずは私がする事を見てて。」
そう言うと、洋子はビルの屋上から10mほど飛翔した。
左手で右手首を掴むと気合いを込めて右手を左から右へと払う。
洋子:「ハッ!」
その際、右手から赤いレーザーのようなものが放たれる。
「ドゴォォォォー!!」
そのレーザーの当たった場所に轟音と共に火柱が上がる。
次に両手の掌で円を作り再び気合いを込めて声をあげる。
洋子:「ハッ!」
遠くの山が大爆発と共に消え去った。
少し間を置いて地響きと爆風が押し寄せる。
「ゴォォォォォ!」
よしひろう:「す、凄い…」
その圧倒的な破壊力を目にして呆然とする僕。
そんな僕の側に洋子が舞い降りて言った。
洋子:「よしひろうさん?」
よしひろう:「は、はい!」
洋子:「このくらいは朝飯前なのよ。」
よしひろう:「え!?」
洋子:「選ばれた私たちはこの世界の全てを破壊する事だってできるの。」
洋子:「ここは私の夢の中の世界。」
洋子:「だから何だってできるの。」
洋子:「見てて。」
洋子は目を瞑り何かを念じるような仕草をし、右手を天に掲げて指を鳴らした。
途端に青空だった空に雲が広がり雷雨となる。
「ザーーーーー!」
その雨に打たれてビショ濡れになる僕と洋子。
ビショ濡れになったセーラー服から下着が透けて見える。
その姿に目が釘付けになる僕。
その僕の視線に気付いた洋子が前を隠しながら怒りを込めて言い放った。
洋子:「もう!最低っ!!!!」
洋子が再び指を鳴らすと青空が戻った。
洋子:「教えてあげた事、ちゃんと理解できたの!?」
よしひろう:「なんとなく…だけど…」
洋子:「そんな事じゃ隠世との…」
そこまで言いかけた洋子の言葉を現世の巫女が遮った。
現世の巫女:「洋子ちゃん、そこまで。」
巫女にそう言われて押し黙る洋子。
現世の巫女:「これで少しは理解できたかしら?」
そう言ってじっと僕を見つめる巫女。
よしひろう:「その力はどうやったら出せるのですか?」
現世の巫女:「それはあなた自身でないと分からないわ。」
現世の巫女:「だから、これだけは忘れないで。」
現世の巫女:「あなたは選ばれし者だということを。」
現世の巫女:「それじゃ、帰りましょうか?あなたの世界へ。」
よしひろう:「はい…」
洋子:「次に会うときを楽しみにしとくわ。」
と僕の肩を叩く洋子。
よしひろう:「洋子さん、ありがとう。」
洋子:「どういたしまして。」
洋子:「頑張ってね。」
と言ってウィンクする洋子。
出てきた扉に再び入り、長い長い廊下を歩く現世の巫女と僕。
現世の巫女が口を開いた。
現世の巫女:「あなたは所詮は夢と思っているかもしれないけれど…」
現世の巫女:「その世界は実際に存在する世界だと考えた事はある?」
よしひろう:「いいえ。」
現世の巫女:「夢なのに何故連続性があるのか考えてみた?」
よしひろう:「いいえ…」
現世の巫女:「その辺りをもう少し深く考えてみた方がいいかもしれないわね。」
話をしているうちに廊下の突き当たりまで着いた。
現世の巫女:「ここからは一人で帰れるでしょ?」
よしひろう:「はい。」
よしひろう:「今日はありがとうございました。」
現世の巫女:「いいのよ。また会いましょうね。」
そう言って突き当たりの扉で現世の巫女と別れた。
ビルの階段を上り地上へと出る僕。
その世界は相変わらず夕焼けに染まる真っ赤な世界だった。