僕は夢を見た(83) 誘う者
仕事、仕事の毎日で、バグを見つけては修正をする日々。デスクワークも楽じゃないですよ。
プログラマーは頭脳土方です。
と、デスクワークを夢見る若者に伝えておきたいです。
久方振りの投稿で申し訳ございません。
そんな僕の紡ぐ物語を一人でも楽しみに待って下さっている方々に感謝申し上げます。
心より「ありがとう」と。
僕は夢を見た。
目を開けると障子や襖で区切られた部屋に一人寝かされていた。
純和室の部屋。
夕日が射しているのか部屋全体が赤みを帯びていた。
微睡んだ意識のまま天井の模様を見つめる。
ここはどこだろうか?
記憶を辿るがどうもイマイチはっきりしない。
夢の中?現実の世界?
ただただ心地よい布団の中。
微かにお香の匂いがする。
このまま二度寝しようかな?なんて考える。
スゥーっと意識が遠のきそうになった時、
微かに子供たちの歌声が聞こえてきた。
声:「かーごーめ、かーごーめー」
声:「かーごのなーかの鳥はー」
遠のきそうになった意識を取り戻し、体を横向きにする。
声:「いーつー、いーつー、でーやあるー」
体を起こす僕。まだ少しボーっとしているのが自分でも分かる。
立ち上がり、少しよろけながら障子を開けてみた。
日本庭園。
庭の木々が夕日で真っ赤に染まっていた。
声:「よーあーけーの、晩に。」
歌声がまだ続いている。
庭の端に勝手口が有り、その戸が少しだけ開かれている。
その隙間からこちらを伺うような素振りの女性が一人。
僕に気が付くと、ゆっくりとした動きで手招きをする。
声:「つーるとかーめがすぅべった。」
その女と目が合った。間違いなく僕を手招いている。
庭に下り、素足のままその女のいる方角へと歩き始めた。
抵抗などしない。
何故だろうか、招かれるまま無意識に足が動くのだ。
夕日が眩しい。
手で夕日を遮る。
勝手口を開けると、そこには誰もいない。
あれ?と周りを見渡すと、二十メートルほど離れた場所に
先ほど手招いていた女が背を向けて立っていた。
振り返ると女は再び手招きをし、前へと歩き始める。
ついて来いという意味か。
そう納得した僕は、その女の後を着いていった。
勝手口を跨いだ瞬間、「シャン!」と鈴の音が聞こえたような気がした。
そういう事すら気に留めない事に、僕自身が不思議に思う。
よしひろう:「あれ?どうしたんだろう?まぁ、いいか…」
翻って、ここは最果ての巫女の寝間。
鈴が鳴った瞬間、ハッと目を開ける巫女。
そして睨むような鋭い眼差しに変わる。
最果ての巫女:「誰かおるか?」
お毬:「お毬、お傍に。」
最果ての巫女:「誰かが結界を越えたようじゃ。」
お毬:「まさか?」
僕は女の後を着かず離れず歩いていた。
屋敷から離れ、2、30分位は歩いただろうか。
村を外れて、木々も開けたその先には小川が流れていた。
だんだんと近づくにつれ、川の大きさが分かってくる。
川幅は10メートルくらいだろうか。
透き通るような美しい水が夕日で黄金色に輝きながら流れる川。
そこには朱色に塗られた綺麗な橋が架かっている。
女はその橋を半分ほど渡り、そこから僕を手招いていた。
何の警戒もなく、女に従って橋を渡りかけた瞬間。
目の前に回し蹴りした足の踵部分が飛び込んで来る。
顔面にもろに当たり、踵がめり込んだ瞬間、僕の体が宙に浮く。
結構長い間、宙を舞ってたような気がする…
背中から地面に激突し、痛みが体中を走り巡った。
よしひろう:「うぎゃー!」
あまりの痛さに地面を転がり回る僕。
ふとした拍子に地面に転がる石を掴んだ。
その石は尖ったところのない丸い石。
よしひろう:「か、河原で助かった…」orz
顔を上げると黒ずくめの見知らぬ者が目の前に立っていた。
見知らぬ者:「よう、兄ちゃん、大丈夫か?」
よしひろう:「大丈夫じゃねー!!」
顔面を手で押さえ、叫ぶ僕。
見知らぬ者:「まあ、手っ取り早く起こすにゃこれが一番だったからな。」
笑いながらそういうと、男は手を差し伸べてきた。
その手を掴み、立ち上がる僕。
よしひろう:「何なんだよ!!痛ってぇなぁ!!」
見知らぬ男:「しー……。周りを見てみな…」
周囲を見渡すと、先ほどまでの真っ赤な夕日に彩られていた世界が急に
薄暗闇の世界に変わっていた。
美しく輝く小川はドス黒い大河に変わり、赤く塗られた美しい橋はどこかに消えていた。
見知らぬ男:「後ろの正面だーあれー?ってか?」
よしひろう:「その歌?!」
見知らぬ男:「まあ、待て。落ち着け。落ち着け。」
見知らぬ男:「ほら、奴さんのお出ましだ。」
そう言いながら顎で前を見ろという仕草をする男。
そこには…ボロボロの衣服を身に纏い、半身が腐り、蛆が蠢く正視できない
苦悶する女の姿があった。
女:「おおおぉぉぉー」
女:「おぉーのぉーれぇー…」
その姿を見て、その声を聞いて、僕は嘔吐した。
灰色の肌に青い血管、赤い血管が透けて見え、所々肉が削げ落ち骨が見えている。
何なんだ、この女は。
見知らぬ男:「兄さん、とんでもない野郎に魅入られちまって…」
見知らぬ男:「いやはや、モテる男は辛いねぇ{苦笑}」
よしひろう:「魅入られてた?」
見知らぬ男:「かいつまんで言うと、取り憑かれてたって事っすよ。」
よしひろう:「……」
女の手が宙を泳ぎ、よろよろと前に歩き始めた。
見知らぬ男:「おっと、そこまでだ。」
見知らぬ男:「それともお嬢さん、俺と殺り合う気かい?」
JOJO立ちをし、中指を立てて女を睨みつける男。
女は未練がましく手を伸ばす仕草をする。
女:「おおおぉぉぉー」
女:「おおおぉぉぉー」
女:「おおおぉぉぉー」
女は嗚咽しながら霧状になり、その場を去っていった。
時を同じくして聞き慣れた声がした。
最果ての巫女:「おーい!!」
最果ての巫女:「大丈夫かー!?」
着衣を乱しながら駆けてくる最果ての巫女。
その後ろには整然と巫女に着いて走るお毬の姿も。
よしひろうの元に息も絶え絶えで駆け寄る最果ての巫女。
乱れた寝間着の胸元から見える光景は正に極楽浄土だった事は
言うまでもない。
最果ての巫女:「はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ 〇※△@×Qze□※¥$△…」
少し困ったような仕草をしながら男が話かける。
見知らぬ男:「姫様、落ち着いて喋らないと何が何だかあっしには分かりませんぜ。」
息を飲み、あらためて言を発する最果ての巫女。
最果ての巫女:「ようやった!よう守ってくれた!!見直したぞ、入道!」
入道と呼ばれる男をあらためて見てみる。
黒装束に顔を覆う黒い布に縦に白い文字で「入道」と書いてある。
優男風で背も高く、さぞかしもてるのだろうなという雰囲気を醸し出している。
僕から言わせてもらうならば、「羨ましい」の一言で語れる男。
さぞかしファンが沢山いることだろう。
悔しいが、それを認めるのも俺の良いところだな。うむうむ。
ただ…巫女の「見直したぞ」の一言が妙に気になるのだが……
入道:「あらためて自己紹介を。」
入道:「あっしは黒狗衆が一人、「入道」や。お見知りおきを。」
よしひろう:「あ、よしひろうです。えーっと、この世界では無職です。」
入道:「「あ、よしひろう」さんっすか?」
揚げ足をとるかのようなこの言動に多少イラつく僕だった。
最果ての巫女:「もう隠すことは無いじゃろ。のう?選ばれし者よ。」
最果ての巫女が僕の背中をバンバン叩きながら言った。
よしひろう:「!?」
よしひろう:「え?ご存知だったのですか?」
最果ての巫女:「当たり前じゃろ~。ワレを誰じゃと心得る。」
入道:「ほほぉ。選ばれし者。納得、納得。」
最果ての巫女:「まあ、其方が此方に来ているのが一番問題なんじゃがの。」
よしひろう:「えっと……?」
最果ての巫女:「立ち話も何じゃ、屋敷へ戻るぞ。」
「はい。」と答え、深々とお辞儀をするお毬と入道。
僕も少し遅れ気味に「はい。」と答えた。
屋敷に戻ると入道と僕は最初に通された部屋に案内された。
入道:「兄さん(よしひろう)よぉ、選ばれるってどんな感じなんっす?」
よしひろう:「特にどうという事もなくって。」
よしひろう:「僕の自由にできる事、出来ない事。その辺りのコツが掴めなくって…」
よしひろう:「なんだか疲れてきた?みたいな?」
入道:「あっしは自分の力じゃどうにもならない世界を歩いて来たんでね。」
入道:「兄さんの辛さは理解できませんが。」
入道:「あっしはね、悩む事なんて無いんじゃないかって思うんですわ。」
入道:「悩んだってどうにもならないっしょ?」
入道:「選ばれた事を幸運と思うか不運と思うか。」
入道:「同じ生きるにしても、楽しい方がいいっしょ。ポジティブに生きましょうや。」
僕は黙って頷いた。
しばらく待っていると、着替えた巫女とお毬が現れた。
最果ての巫女:「さて、風呂に入ってサッパリした事じゃし!」




