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続・夢の中だけ勇者さま?  作者: 菅原よしひろう
夢から夢へ
24/34

僕は夢を見た(80) 最果ての巫女

僕は夢を見た。


気が付くとそこは夕日が沈んだ直後の逢魔が時。

赤みがかった空が、徐々に藍色に染まっていく。

周囲を見渡すが遠くに山のシルエットが見える程度で、他には何も見えない。


よしひろう:「ここはどこだろう?」


風が吹くと、草の葉が擦れあうサワサワと音が聞こえる。


よしひろう:「!!」


我に返り焦りを感じる僕。


よしひろう:「(ここじゃない!!僕が居るべきところじゃない!!)」

よしひろう:「(エアリスに!ジアのいるエアリスに行かなきゃ!!)」


一旦夢から覚めればエアリスに行けるかもしれない。

そう思い、必死に目覚めようとするが、夢から目を覚ませず、ジタバタするだけで

何も起きる気配すらない。。


よしひろう:「どうしよう…」


周囲を更に見渡すも、ここがどこなのかすら分からないでいる。

どうしてよいのか分からず、不安でその場に座り込む。

藍色が濃くなるに従い空気が冷たくなっていく。

山から吹き降りてくる風のせいだろうか。

考えれば考えるほどエアリスの大戦(おおいくさ)の事を思ってしまう。

あれから、僕が目を覚ました後、どのような事になったのだろうか。


よしひろう:「みんな無事だろうか?…」


ふと気が付いた。

普段なら夢の世界は朝から始まる。

今いる場所は夜から始まった。


よしひろう:「いや…、夜から始まった事も有ったか…」


思考が振り出しに戻る。

三角座りをして物思いに深けっていたから気づくのが遅れたが

こちらに向かって歩いてくる人影?が一つ。

影の腰辺りにぶら下がったランタンの灯りがユラユラと揺れている。

目の前に来るまで分からなかったが、それは女性だった。

和装で銀色の髪を綺麗に束ねている。

歳は十五、六に見えるが、実際は二十代くらいだろうか。

腰には一振りの刀。


女:「お主、こんなところで何をしている?」

よしひろう:「み…道に迷ってしまったようです…」


咄嗟にそう答えた。

項垂れると泣きそうになってくる。

それを見ていた女が僕の頭を優しく撫でながら言った。


女:「可哀想に。」

女:「私と共に来い。今夜の寝床くらいは支度してやろうぞ。」

よしひろう:「え?えっと…あ、ありがとうございます。」

女:「さあ、立て。」

女:「で、名は何と言う?」

よしひろう:「「菅原よしひろう」です。」

女:「ほう、よしひろうとな。良い名じゃ。」


女が手を差し伸べる。その手を掴み立ち上がる僕。

女が顔をクイっと動かし付いて来いという仕草をした。

日は完全に暮れ、星が瞬いている。

足元に何があるのかが全く見えない。

が、女の腰に下げたランタンのおかげで、付いて行くには困らなかった。

女の背中を見ながら歩くこと数十分。

山の中を歩き、川の橋を渡る。

橋といっても木を並べただけのような質素な橋だが。

僕の心の動揺がだいぶ落ち着き、周囲を観察できるほどの余裕が生まれた。

耳を澄ませばリリリという虫の鳴き声が聞こえる。

山の匂いというのだろうか。

木々や草花の香りも感じる。

小屋の立ち並んだ村らしき場所の入り口に辿り着く。

今にも倒れそうな、村の入り口を指し示すような門をくぐる。

小屋の窓の隙間からオレンジ色の灯りが漏れていた。

住民達はまだ起きているのだろうか。

村の入り口より真っ直ぐ進み、そのまま村の外へと出てしまった。


よしひろう:「あれ?通り過ぎてしまいましたよ!」


僕の少し驚いた様子を見て女が反応した。


女:「どうした?」

よしひろう:「あの…村から出てしまいましたが?」

女:「ふふ、もう少しで着くから安心せい。」


女の言った通り、少し歩くと立派な鳥居の建つ神社へと辿り着いた。

見上げるような大鳥居。

夜だからか上の方がよく見えない。

どれ程大きいのだろうか。

想像もできない。

鳥居をくぐり、参道を進む。

今度は大きな境内、屋敷が表れた。

屋敷は雨戸が閉められているため中までは見えなかったが、たいそう立派な

屋敷である事が分かった。

境内は塞がれておらず、かなりの広さがあるようだ。

屋敷の扉をコンコンとノックをする女。

内側から留め具を外すような音がし、静かに扉が開いた。

提灯を持った女性が屋敷の中から現れ、僕らに頭を下げる。


よしひろう:「耳!?」


中から現れた女性は、頭頂部に二つ、狐の耳のような物を付けていた。

それにお尻からは尻尾ののよなものが。

獣人だろうか。

顔立ちはすっきりしていて、誰もが振り返るであろう美しさを感じた。

それを見て戸惑う僕。


女:「どうかしたのか?入らぬのか?」

よしひろう:「いや…、あの…この方は?」


女は僕の方に振り返り、ほくそ笑みながら答えた。


女:「我にかしづく者じゃ。危害は加えぬによって、安心せい。」


その笑顔の美しさに思考が停止してしまう。


よしひろう:「はい。」


獣人の女が足元を照らしながら僕らの行方を先導する。

長く暗い廊下を歩き、ある部屋へと案内される僕。

女が腰に掛けた刀を外しながら上座に座る。

その刀を黒子の格好をした使用人が素早く近づき恭しく受け取った。

お辞儀をし、退室する黒子。

上座をボンヤリと照らす蝋燭。


女:「着替えて来るによって、暫しゆるりといたせ。」


そういうと、女は上座の後ろの襖を開け、奥へと入っていった。

獣人の女も後を追うように付いて行く。

部屋には僕一人きり…

この屋敷は何なのだろうか?という好奇心が少し湧いてきて、周囲を見渡してみる。

畳張りの和室だということは分かったが、それ以上は全く見当もつかない。

入り口に鳥居が有ったから、神社なのだろうが。

ぼんやりと天井を見ながら物思いに深けっていると、襖が開き、僕を野原で拾ってくれた

女が着替えを済まして現れた。

白衣(はくえ)緋袴(ひばかま)

この女は巫女なのだろうか。

ただ、見慣れた巫女装束と違うところが一つ。

千早(ちはや)が黒かったのだ。

吸い込まれるような黒に金色の美しい刺繍がなされている。


女:「おや?何を驚いているのだ?」

よしひろう:「…」

女:「この姿を気にしておるようだの。」


女が右手を真横に挙げ、裾を見せるような仕草をしながら笑顔を見せる。


女:「どうじゃ?気に入ったか?」


その姿に見とれる僕。


よしひろう:「あなたは何者ですか?」

女:「ほほぅ。真を突いた質問じゃのう。」


女は少し困った顔をしながら微笑んだ。


女:「何と申せばよいのやら…」

女:「うーん………。」

女:「………」


額に両手の人差し指を立て、悩みまくる女。

そして両腕を組んで言った。


女:「「最果ての巫女」じゃ。」

よしひろう:「最果ての巫女…」

よしひろう:「なぜ俺を助けてくれたんですか?」


フフッと笑いながら巫女は答える。


最果ての巫女:「お主から知り合いの香りがしてのう。」

最果ての巫女:「この寒空に独りにしておくのが可哀想だと思ったからじゃ。」

最果ての巫女:「お主、現世(うつしよ)の巫女の手の者じゃろ?」

よしひろう:「なぜその名を!」


動揺する僕。手が知らず知らずに腰に付けたクナイを手にする。

跪座を組んでいた獣が咄嗟に最果ての巫女の前に駆け出して来た。


獣人の女:「無礼であろう!!」


僕はハッと我に返り謝罪した。正座をし、深々と頭を下げる。


よしひろう:「申し訳ございません。」

獣人の女:「誤って許される事ではないぞ!!」


獣人の女は腰に着けた懐刀の柄に手を掛ける。


最果ての巫女:「まぁまぁ、そう血気立つな。のう、お鞠。」

お鞠:「姫様…しかし…」

最果ての巫女:「ワシが良いと申しておるのじゃ。な?」

お鞠:「はい。」


そういうと獣人のお鞠という女は元の座っていた場所へと戻っていった。


最果ての巫女:「ところで、現世(うつしよ)の巫女は息才か?」

よしひろう:「はい。暫く会っていませんが。」


と、答えつつ僕は最果ての巫女をマジマジと見た。

長い髪を後ろで結び、薄化粧ながら目元には紅い紅を塗り隈取としている。


よしひろう:「(美しい。息を飲むような美しさだ。)」

最果ての巫女:「おい、お主、心の声が聞こえておるぞ。」


少し恥ずかしそうに笑う最果ての巫女。


最果ての巫女:「どうじゃ?もののついでじゃ、聞いておこう。

最果ての巫女:「お主から見た私の感想を一つ。」

最果ての巫女:「ワレの美しさで現世(うつしよ)の巫女に負けているところはあるか?」


僕は女の容姿を上から下へと流すように眺めてみた。

視線が女の胸の辺りで止め…


よしひろう:「む」


と発したところで目前に飛んでくる拳が見えた。

目の前が真っ暗になり、ボゴッという音が聞こえたような気がした。

激痛で顔面を押さえ床を転がり回る僕。


よしひろう:「つっっーーーーーー!」


顔を上げ、女の方を見ると、顔は笑顔だが頬の辺りをピクピクさせている。


最果ての巫女:「何か言うたかえ?」

よしひろう:「し、失礼しました!何も言うておりません!」


獣人の女が「ざまあみろ」という顔をしている。

最果ての巫女は笑いながら言った。


最果ての巫女:「それにしても面白い。」

最果ての巫女:「彼方から此方へ、まさかお主とここで出会えるとは思わなんだ。」


最果ての巫女は顔を近づけ僕の顔をマジマジと見た。


最果ての巫女:「70点かの?」

よしひろう:「は?」

最果ての巫女:「いや、何でもないぞ。何でもな。」


最果ての巫女は袖を口に当てがい、クスリと笑う。

その場の雰囲気が一気に和やかになった。

獣人の女、お鞠も笑っていた。


最果ての巫女:「ところでお主、体に異常は無いか?」

よしひろう:「先ほど殴られた所以外は何ともありませんが?」


腕を組み、ジーっと僕を眺める巫女。

そして何やら考え始めた。

正座を崩し、横座りになると、僕に手招きをする。


最果ての巫女:「ここに頭を置け。膝枕じゃ。」

お鞠:「姫様!?」


最果ての巫女は手出し無用だと言わんばかりの仕草をした。

押し黙るお鞠。


僕は言われるがまま、巫女の膝に頭を置く。

とても良い香りがする。


最果ての巫女:「さあ、目を閉じて。リラックスじゃ。」


僕が目を閉じると、丁度目の辺りに掌を重ねてきた。

温かい巫女の体温が伝わってくる。


最果ての巫女:「何も心配するでない。案ずる事は何もない。」


瞼越しに皆既日食のような太陽が見えて来た。

それを眺めながら意識が暗い深淵へと落ちていく。

僕は完全な眠りについた。


最果ての巫女:「………」


巫女の瞳に涙が溢れていた。


お鞠:「いかがなさいました?」


心配して巫女に駆け寄るお鞠。


最果ての巫女:「この者がここへ来るにはまだ早すぎる。」

お鞠:「……」

最果ての巫女:「この者の内から違和感を感じた。良くない気配じゃ。」

お鞠:「な!?」


最果ての巫女の顔が曇る。

そして、今までの優しい顔は失せ、鋭い眼光で目前を睨みつける。


最果ての巫女:「お鞠。」

お鞠:「はい。」

最果ての巫女:「黒狗衆を呼べ。」

お鞠:「はい!」


丁寧な作法で障子を開け、そしてそっと部屋から出て行った。

お鞠がいなくなると、巫女は再びよしひろうの顔を見つめる。

穏やかで優しい顔、慈しむようによしひろうの頭を撫でる。


最果ての巫女:「必ず救って差し上げますわ。」


一刻と経たぬうちにお鞠が戻ってきた。


お鞠:「直ぐに参上いたします。」


頷く巫女。


最果ての巫女:「この者を客間に寝かせよ。」

お鞠:「はい。」

最果ての巫女:「見張を付け、大切にな。」

お鞠:「はい。」


そおっとよしひろうを抱き上げ、巫女の部屋から退室するお鞠。


お鞠が部屋を出て間もなく、巫女の部屋へと向かう影が一つ。

廊下をミシミシという音を立てながら歩く姿は威風堂々としていた。


巫女の部屋の障子をそっと開け、中に入ると胡坐を組み、深々と頭を下げる。

その姿は黒子そのものではあるが、顔には黒い狐の面を被っている。

仮面を取り、男が名乗りを上げる。


男:「黒狗衆が長、「天」仰せにより参上仕りました。」


男の頭巾の顔を覆う布には大きな金色の字で「天」と書かれていた。

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