僕は夢を見た(76) 特訓と軍の編成
仕事で散々な目に遭って凹みつつも布団の中に潜り込む。
今日も良い夢が見られるだろうか。
期待しつつ眠りにつく。
段々と僕の意識が遠退いていく…
エリーから借りている屋敷の自室のベッドの上で目覚める僕。
顔を横に向けて目覚める。
人肌の温かい感触が僕の頬に伝わってくる。
この感触は…レギオナだよな…
レギオナの太股に頬擦りしながら腰を抱き締め「レギオナ~、おはよう!」と挨拶をしたその時、目の端に肘が飛んでくるのが見えたような気がした。
僕の顔面にメリ込んだであろうその肘。
瞬間、上半身をガバッと起こし目が覚めた…
心臓がバクバク言ってる。
よしひろう:「!?!?!?」
よしひろう:「へ?な、何事?」
困惑しつつも再び横になり、心が落ち着くにつれ眠りに落ちていく…
また人肌の感触が僕の頬に感じる。
恐る恐る目を開けてみる。
上を見上げるとレギオナの顔がそこにあった。
よしひろう:「お、おはよう…」
レギオナ:「おはようございます。」
にっこりと笑顔で挨拶を返してくれるレギオナ。
よしひろう:「あのさ…」
レギオナ:「ん?」
よしひろう:「さっきの、何?」
クスリと笑い、向かい側を指差すレギオナ。
その指し示した先にはエルマがいた。
腕を組んで仁王立ちのエルマ。
よしひろう:「あの…何事でしょうか?エルマ様?」
エルマが押し黙って僕を睨みつける。
それを見てクスクスと笑うレギオナ。
やっとエルマが口を開いてくれた。
一言。
エルマ:「変態!」
怒りの表情から軽蔑の表情に変わったような気がした。
よしひろう:「もしかして、さっきのってエルマだったのか!?」
ゆっくりだが威圧感のある口調でエルマが僕に問いかける。
エルマ:「貴様という奴は!レギオナ相手にいつもあんな事をしているのか?」
ベッドから起き、エルマの前で土下座して釈明する僕。
ちょっとだけ嘘をついた。
よしひろう:「いつもではありません。今日だけです(棒)」
ひたすら土下座して御免なさいを繰り返す。
繰り返していると、段々と怒りが収まってきたのか、口調が少し柔らかくなった。
エルマ:「朝食。準備できてるわよ。」
よしひろう:「ありがとうございます。」
よしひろう:「すぐに伺います。」
僕に聞こえないような小さな声でエルマが呟いた。
エルマ:「(するならレギオナじゃなく、私にしなさいよ)」
よしひろう:「何か言った?」
エルマ:「何でもない!」
エルマの家で朝食を頂く。
機嫌の直ったエルマが話しかけてくる。
エルマ:「昨日、ジア様と訓練したらしいけど、どうだったの?」
よしひろう:「ジア様とじゃないよ。ジア様は見てただけ。」
エルマ:「じゃ、誰と特訓したのよ?」
よしひろう:「レンジャー。」
「レンジャー」と聞いたエルマが目を輝かせながら席を立ちあがり興奮気味に叫んだ、口の中の物を飛び散らせながら。
エルマ:「最高の栄誉じゃない!!」
僕はエルマの声に驚き、口の中のパンを思わず飲み込んでしまう。
よしひろう:「そ、そうなのか?」
エルマ:「それはそうよ。このアークランド最強の戦闘集団よ?」
エルマ:「王家直属の九人の戦鬼。どんな任務も必ずやり遂げると言われている。」
よしひろう:「ま、まぁ、1勝9敗だったんだけどね(苦笑)」
エルマ:「1勝でも出来たのならそれは素晴らしいことだと思うわ。」
エルマの誉め言葉に少し照れる。
よしひろう:「レギオナとも特訓したから、その成果を後でお披露目するよ。」
エルマ:「レギオナとどんな訓練をしたのか興味が有るわね…」
エルマ:「楽しみにしているわ。(ニヤリ)」
朝食後、庭に出る僕とエルマとレギオナ。
庭の中程でレギオナと向かい合った。
両掌を胸の前で開き身構える僕。
よしひろう:「さあ!どっからでも来い!」
レギオナ:「では、参ります!!」
物凄いスピードで拳が飛んできた。
掌で受け止められるハズだったのだが…
僕のお腹の真ん中辺りにめり込むレギオナの拳!
よしひろう:「ゴフッ!!」
余りの痛さと苦しさで、その場にた折れ込み悶絶し…
朝食で食った全ての物を吐き出す僕。
レギオナ:「キャア!主殿!!」
レギオナが慌てて僕の体を支え介抱する。
その様子を呆れたような顔で見つめるエルマ。
エルマ:「………何がしたかったの?」
僕はやっとの思いで「待て」と言わんばかりに右手をエルマに向けた。
よしひろう:「(ゲロゲロゲロ)ハァハァ…」
レギオナに背中を擦ってもらいながらなんとか立ち上がる。
よしひろう:「フゥ…。油断したぜ。」
エルマ:「何が油断よ!(爆笑)」
腹を抱えて笑うエルマ。
レギオナ:「申し訳ありません。まさか昨日の今日で技を忘れているとは…」
レギオナの言葉が効いたのかエルマの笑いが止まらない。
エルマ:「アハハハハ。可笑しすぎて涙が出ちゃったじゃない!」
よしひろう:「今度こそ成功させてやる!」
気を取り直してレギオナと向き合う。
笑うのを止め、真剣な眼差しを僕たちに向けるエルマ。
よしひろう:「最初はゆっくりから始めてくれ。」
レギオナ:「御意。」
レギオナの放つ拳を掌で受け止める。
その速度が徐々に上がってきた。
僕は自身に言い聞かせる。
「もっとだ!もっと速く動けるハズだ!」
拳を受け止める際の音が「シュタタタタタ」から「シャーーーーー」に変わるくらいに速くなった。
エルマが生唾を飲む。
エルマ:「そ、そんなに速く動けるものなの!?」
よしひろう:「レギオナ、ストップだ。」
レギオナ:「御意。」
拳を繰り出すのを止めるレギオナ。
僕はエルマの方を向き、問いかけた。
よしひろう:「どうだった?」
関心した表情でその問いに拍手で答えるエルマ。
エルマ:「すごいじゃない!!」
エルマ:「ただ…」
よしひろう:「ただ?」
顎に手を当てて考えるようなポーズをとり、一言。
エルマ:「掃除しといてね。」
よしひろう:「え?」
僕が吐き出した汚物を指差すエルマ。
よしひろう:「は、はい…」
「俺は朝から何やってるんだろ…」とため息をつきながら掃除を終えた。
今日も王城での特訓がある。
エルマの家に向かって大声でエルマを呼ぶ。
よしひろう:「おーい!エルマーー、エリーんとこ行くぞー!」
家の中から「はーい」と返事が返って来る。
身支度を整えたエルマが玄関から現れる。
薄黄色のドレス姿。
よしひろう:「レギオナも行くか?」
レギオナ:「もちろんです。」
僕はエルマを抱っこし、空へと舞い上がる。
レギオナも人の姿のまま僕の後に続く。
よしひろう:「レギオナ?」
レギオナ:「はい?」
よしひろう:「今さら聞くのも何だけど…」
レギオナ:「はい。」
よしひろう:「変身しなくても飛べたんだね?…」
レギオナ:「あー…はい。言ってませんでした?」
よしひろう:「今気がついた。」
エルマ:「空を飛べるってほんと羨ましいわ。」
エルマ:「話変わるけど。」
よしひろう:「何?」
エルマ:「ヒロ、少しゲロ臭くない?」
今から姫様達と会う僕としては、エルマの言葉に動揺してしまう。
よしひろう:「え?マジ!?何度も口の中濯いだんだけどな。」
少し冷や汗が出てきた。
エルマ:「冗談よ(笑)」
よしひろう:「(コ、コイツだけは…からかいやがって。)」
そうこうしているうちに王城の前にたどり着いた。
守衛と話をし、エリーの部屋の前の待合室に通してもらう。
その部屋にはエリー付きの騎士、セナがいた。
いつもながらの美しいその姿に見とれてしまう。
鼻の下を伸ばしながらセナに手を振る。
セナも軽く手を振って応えてくれる。
ちょっとだけ幸せになる瞬間だ。
部屋の扉が開き、エリーが現れた。
エリー:「おはよう、ヒロ、エルマ。」
エリー:「それから、レギオナ。」
恭しくエリーに挨拶をするレギオナ。
エリー:「さぁ、中へ。」
部屋へと通される僕たち三人。
部屋の中ではジアがお茶を飲みながら僕が来るのを待っていたらしく、部屋に入ると同時に腕を捕まれて闘技場へと連れ出された。
連れ去られる僕を手を振って見送るエリー、エルマ、セナ、レギオナ。
よしひろう:「ジ、ジア!?」
ジア:「なぁに?」
よしひろう:「僕にはお茶とか無しですか?」
ジア:「だってー、時間が勿体ないでしょ?(モジモジ)」
よしひろう:「確かにそうですが’(涙)」
闘技場に着くと、そこにはレンジャーの姿はなかった。
よしひろう:「あれ?今日はレンジャーはいないんですか?」
ジア付きの召し使いが現れ僕の質問に答える。
ジア付きの召し使い:「レンジャーは別の任務のため今日は不在です。」
ジア付きの召し使い:「なので、今日は私が練習相手として応対させていただきます。」
僕の傍らでジアが「うんうん」と頷く。
よしひろう:「あの…召し使いさんのお名前は?」
召し使い:「この訓練に私の名前が関係あるのですか?」
と冷たく一蹴される。
よしひろう:「「召し使いさん」だと呼び難くて…」
ジア:「「マリー」よ。」
召し使い:「姫様!」
名前を明かされ少し照れる召し使い。
ジア:「別にいいじゃない。減るものでも無いんだし(笑)」
諦めて自己紹介をする召し使い。
召し使い:「「マリアンヌ」と申します。以後、マリーとお呼びください。」
よしひろう:「はい!マリーさん、よろしくお願いします!」
闘技場の真ん中で対峙する僕とマリー。
マリー:「では、参ります!」
両手を下に向けて突き出すと袖の中からトンファーが現れた。
僕が持っているのは訓練用のショートソード(木剣)。
その木剣をマリーに向かって構え、攻撃に備える。
トンファーを巧みに使って僕の体に向かって打ち込んで来るマリー。
朝のエルマの所での練習のおかげでマリーの動きがスローモーションのように感じる。
トンファーの軌道を先読みし、その攻撃をステップを踏んで軽々とかわす。
マリー:「!?」
少し焦ったような表情を見せるマリー。
マリー:「昨日のよしひろう様とは別人のようです!」
僕もその動きの早さに段々と馴れて来た。
マリーが二激繰り出す間に僕は三激くりだしてやる!!
僕が優勢になったと思われた瞬間、マリーの足蹴りが僕の側頭部に当たった。
よしひろう:「ウグッ!」
まさか蹴りが来るとは…
僕の油断から生じたミスだ。
ただ、その時に一瞬、マリーの薄いピンクのパンツが見え、少し儲けたような気持ちになったのは皆には内緒だ。
マリー:「油断大敵ですよ。」
よしひろう:「了解!」
さらにマリーとの格闘戦を続ける。
トンファーの不規則な動きに翻弄されながらもなんとか避け切る僕。
僕の攻撃は全てトンファーで防がれてしまい、マリーに一撃も与える事が出来ないでいた。
が、マリーが再び蹴りを放つ動作に入った事に気づいた僕は身を屈め軸足に向かって足払いをした。
バランスを崩して倒れ込むマリーの首筋に木剣を当てる僕。
ジア:「あのー…勝負有りです。ヒロの勝ち(モジモジ)」
マリー:「今のは見事でした。」
ジア:「さぁどんどんいきましょう、次の試合を始めてください。」
再び向かい合う僕とマリー。
先手必勝と言わんばかりに攻撃を仕掛ける僕。
マリーは両手に持つトンファーを巧みに使い、全ての攻撃を受け流しつつ攻勢に転じる。
マリー:「よしひろう様、動きがワンパターンですよ!」
よしひろう:「はい!」
マリーの不意を打つように剣を下段から切り上げると、それを見越したかのように体を後ろに一回転して避けてみせるマリー。
そして四つん這いになったかと思うとダッシュして一気に間合いを詰めて来る。
よしひろう:「うぉ!?」
バックステップで逃げようとしたが、間に合わない!
思わず目を瞑る僕。
恐る恐る目を開けると、トンファーの先が僕のお腹に当たる手前で止められていた。
ジア:「マリーの勝ちー。」
マリー:「敵を目前に目を瞑るとは何事ですか!」
よしひろう:「は…はい。すいません…」
ジア:「さぁ、どんどん行きましょう~」
何度も繰り返しマリーと戦うことで自身が成長してきているのが自分でも分かってきた。
剣術だけでなく、体術を使うことの重要性も理解できてきたように思う。
その姿を両肘をついて笑顔で見守るジア。
その後も何度も試合を行い、勝ったり負けたりを繰り返した。
その様子を見ていたジアが鋭い目付きで口を開く。
ジア:「マリー?」
マリー:「はい、姫様?」
ジア:「本気でいきなさい。」
マリー:「よ、よろしいので?」
ジア:「構わないわ。」
マリー:「かしこまりました。」
「本気で」と言ったジアの言葉に緊張する僕。
身構えたマリーからすさまじい威圧感を感じる。
僕はマリーの動きに神経を集中した。
マリーが電光石火な動きで右手を突き出し、僕の顔目掛けてトンファーを回転させる。
避けようとするも間に合わない。
鼻先寸前を掠めるトンファー。
直後、脇腹に痛みが走った。
マリーの左のトンファーが脇腹を強打していたのだ。
一瞬の出来事に戸惑い踞る僕。
ジア:「油断するな!!」
ジアの喝が闘技場に響く。
マリーは構えたまま僕が立ち上がるのをまってくれていた。
マリー:「貴方は何を待っているのですか?」
よしひろう:「?」
マリー:「私に隙が出来るのを只待ち、防戦するというのなら、この特訓には何の意味もありませんよ?」
よしひろう:「!?」
図星を付かれて動揺してしまう。
マリー:「闇雲に攻めるだけの猪武者も愚かですが、今の貴方も十分愚かです。」
マリー:「貴方なりの戦い方というものがあったはずです。」
再び立ち上がる僕。
木剣を構え、マリーの言葉を自身に言い聞かせる。
そうだ、迷う事なんて無いんだ!
マリーに向け木剣を構えて深呼吸をする。
それまでの心の片隅にあった焦りや恐怖心が消えていく。
そして、闘争心に火が着いた時、僕の体が火に包まれ、赤備えの防具が全身に顕現した。
僕の姿を見ていたジアの口元がニヤリと笑った。
よしひろう:「ゆくぞ!」
マリー:「おぅ!!」
マリーとの間合いを詰め、剣を振り下ろす。
それを右手のトンファーで受け止めるマリー。
空かさず左手のトンファーが僕に迫るも、僕は避けずにマリーの右手を掴み、右足で腹に向けて蹴りを放った。
マリー:「グッ!?」
という籠った悲鳴を上げつつ片膝と片手を着くマリー。
立ち上がったマリーは笑顔だった。
マリー:「そうでなければ。」
マリー:「さぁ、次、行きますよ!」
よしひろう:「はい!」
戦っている最中、僕の心は波一つ無い湖面のように静かだった。
ただ、意識だけが闘争心に溢れ、マリーの一挙手一投足を捉え続ける。
五分五分の戦いを繰り広げること数回、ジアが満足そうに割って入ってきた。
ジア:「そこまで!!」
僕とマリーは戦いを止め、互いに一礼をする。
ジア:「ヒロ、見事だったぞ。」
笑顔で誉めてくれるジアに僕も笑顔で返事をする。
よしひろう:「ありがとうございます。」
ジア:「ただ…」
よしひろう:「ただ?」
ジア:「ヒロには足りないものがある。」
よしひろう:「足りないもの?」
ジアがマリーに目配せをすると、マリーが壁に掛かった木で出来た大剣を持ってきた。
そして大剣をジアに手渡す。
他の召し使いが甲冑を持って来てジアの体に装着させていく。
ジア:「上だけで構わぬぞ。」
召し使い:「はい。姫様。」
甲冑の装着が終わり、向かい合う僕とジア。
ジア:「今度は私が相手だ!遠慮はいらぬぞ!!」
よしひろう:「はい!」
片手で楽々と大剣を振り上げ、僕目掛けて振り下ろす。
大剣を避け、その隙に間合いを詰めてジアの懐に飛び込む。
それを読んでいたかのように大剣を逆手に持ち直し、柄で僕の腹目掛けて突き上げる。
咄嗟にその柄を左手で掴む事で直撃は避けられたが、勢いで大きく後退りした。
そこに再び大剣が振り下ろされる。
手をクロスさせて剣の鍔で大剣を受け止めた…
が、ズーンと来る剣圧が全身の骨を軋ませる。
よしひろう:「剣が…お、重い!!」
ジア:「ヒロ、これがお前に足りないものだ。」
この剣圧、どうやれば会得出来るのかさっぱり分からない。
よしひろう:「ジア、これはどうしたら会得できるのです?」
ジア:「それが分かれば苦労しないだろ(苦笑)」
よしひろう:「言われればそうですね…(笑)」
ジア:「今日はここまでとしよう。」
よしひろう:「はい。」
その時、武道場の外からラッパが鳴らされていた。
よしひろう:「ジア?あの音は?」
ジア:「あ?ああ、あの音か。」
付いて来いと僕を顎を使って指図をするジア。
武道場からテラスへと出て、下を見下ろす
と、多くの武装した兵士が南に向かって移動していた。
槍兵、弓兵、弩兵とそれぞれ隊列を作り粛々と進んで行く。
ジア:「募集兵の第一陣、2000人だ。」
よしひろう:「2000も!?」
ジア:「エアリスに向けて今出発する所だ。」
ジア:「一応、秘密なのだが第四陣まであってな、騎士団と合わせると8000 人を超える規模になる予定だ。」
厳しい表情で兵士達を見守るジア。
ジア:「彼らの為にも強くならなくてはな、ヒロ。」
よしひろう:「はい…」
犠牲を出さない為にも頑張らなくては。
思いを強くして再びジアに目をやると…
スイッチが切れていた…
ジア:「ふぇ~。重いよう(泣)」
マリーと他の召し使いが慌ててジアの元に駆け寄ってきて、甲冑を外しにかかる。
僕も赤備えの装具を外す。
ジアは全ての防具を外し終わると付いて来いと言わんばかりに僕の腕を引っ張った。
よしひろう:「どこに行くの?」
ジア:「エリーの所よ。さぁ、早く(笑)」
エリーの部屋に着くと午後のお茶会が始まっていた。
エルマ:「あ、来た来た。」
エリー:「ヒロの為に席を空けておいたのじゃ。」
自分の横に座れと空いた席を叩くエリー。
促されるままにエリーの横に座る僕。
ジアも空いてる席に座る。
エリーの召し使いが紅茶とケーキを配膳していく。
ホッとする瞬間だ。
エリー:「ヒロも毎日大変じゃの。ジア姉に付き合わされて。」
よしひろう:「おかげで少し強くなったような気がします。」
エリー:「ほぅ!私も見てみたい。」
エリー:「ジア姉様、今度、見学してもよろしいですか?」
ジア:「え~っと…いいですわよ。」
エルマ:「私も、私も!」
ジア:「構いませんわ。」
エリー:「おぉ!」
エルマ:「やったー」
会話に入らずに黙って目の前のケーキと紅茶を頂くレギオナ。
エルマ:「ところで、決戦はいつ頃になるのでしょう?」
ジアが召し使いのマリーの方を見る。
応えるようにマリーが口を開いた。
マリー:「今のところは何とも言えません。」
マリー:「ただ、レンジャーが調べているところなので早晩判明するかと。」
ジア:「その時がくれば助けてくださいね、エルマ。」
エルマ:「はい!ありがたき幸せです。」
エリー:「私も何か手伝えたらいいのじゃが…」
エナ:「あんたはただ城にいるだけでいいの。」
エリー:「エナ姉も補給隊や救護隊を率いて参戦なさるのでしょ?」
エナ:「それはそうだけど…」
エナ:「私達に何か有ったら、その時はエリーが父様、母様とで国を守らなきゃ。ね?」
黙って頷くエリー。
あれこれ話をしていると夕刻を告げる鐘の音が鳴った。
お茶会閉会の知らせでもある。
エルマ:「エリー、また明日ね。」
エリー:「うん、おやすみエルマ。」
エリー達に向かって恭しく深々とお辞儀をするレギオナ。
エリー:「レギオナもおやすみ。また明日。」
ジアが少し恥ずかしそうに口を開いた。
ジア:「ヒロ、明日も頑張りましょう(モジモジ)」
よしひろう:「はい!よろしくお願いします。」
王城を出て、エルマを抱っこして家路につく。
空を飛んでいるせいか、風が冷たく感じる。
よしひろう:「エルマ、寒いだろ?」
エルマ:「ええ、ほんとに寒い…」
エルマが震えているのが手から伝わってくる。
エルマ:「明日からは暖かい格好をしなきゃ。」
エルマを家に送り届け、屋敷の自室に入る。
夢の世界もリアルと同じように季節がある事を実感した。
よしひろう:「レギオナは寒くないのか?」
レギオナ:「あまり寒いとか感じませんが…」
肌が薄っすらと透けて見えるレギオナの格好をマジマジと見る僕。
目の保養にはなるのだが…
よしひろう:「いや、その格好を見ていると俺が寒くなってくるんだよ。」
よしひろう:「明日にでも暖かい服を買いに行くか?」
レギオナ:「主殿からいただけるのならば、それは何よりも変えがたい幸せですわ。」
そう言うと僕に抱きついてくるレギオナ。
レギオナの温かな体温が僕を包み込む。
レギオナも同じ事を考えていたようだ。
レギオナ:「主殿、温かい…」
僕もレギオナをギュッと抱き締めた。
心地よい人肌の感触に意識が薄れていく…
レギオナ:「おやすみなさい、主殿…」
レギオナの優しい言葉を耳に残しつつ目が覚めた。
スマートフォンのアラームが鳴る一分前だった。
階下では両親の罵り合う声が聞こえて来る。
今日もか…最悪だ…




